著者
興野 純
出版者
The Crystallographic Society of Japan
雑誌
日本結晶学会誌 (ISSN:03694585)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.321-327, 2007-12-25 (Released:2010-09-30)
参考文献数
25

Light-induced phase transformation from realgar to pararealgar has been studied by means of single-crystal X-ray diffraction and X-ray photoelectron spectroscopy. The photochemical degradation causes the increase of As4S4 intermolecular distances and the production of the As4S5 molecules. The results suggest the following cyclic process. 1st : an S atom in the As4S5 is released from one of the As-S-As linkages in As4S5 which becomes the As4S4 pararealgar molecule, 2nd : the free S atom is re-attached to another As4S4 realgar molecule and reproduces an As4S5 molecule, and 3rd : the As4S5 is again divided into an As4S4 pararealgar molecule and an S atom.
著者
田村 知也 菅谷 崚 興野 純
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Introduction: 1970年代, 中央海嶺の海底において, 化学合成生物を一次生産者とする特異な生態系を伴った海底熱水噴出孔の存在が報告され, 世界中を驚かせた(Lonsdale, 1977; Spiess et al., 1980). 海底熱水噴出孔は, 地殻中に浸透した海水がマグマの熱によって温められ, 周囲を構成する岩石との反応によりその組成が変化することで熱水となり, やがて上昇して海底面から噴出することで形成される. このような海底熱水噴出孔は, 中央海嶺や島弧, 背弧において発見されてきた. 2000年代に入ると, “Lost City型熱水噴出孔”とよばれる, 海水とカンラン岩や蛇紋岩の反応によって形成される新しい型の熱水噴出孔が報告された(Kelley et al., 2001). この熱水噴出孔は, それまで報告されてきた熱水噴出孔に比べて低温(~90℃)であり, アルカリ性かつ還元的な熱水を噴出する. Lost City型熱水噴出孔からは水素分子(H2)に富んだ熱水が噴出することが知られており(Kelley et al., 2001), 以下の反応式によって生成すると考えられている(Mayhew et al., 2013).2H2O + 2e- → H2 + 2OH- (1)また, Lost City型熱水噴出孔の周囲には, メタン(CH4)やH2を用いた化学合成によってエネルギーを獲得する生物が生息し, そのような生物から成る特異な生態系も存在している(Kelley et al., 2005). (1)式のようなH2発生反応が生じるためには, 電子を水分子に与える電子供与体の存在が必要である. これまでの研究から, 以下の反応式のように, カンラン岩や蛇紋岩に含まれるFe2+を含む鉱物が, 電子供与体として働くモデルが考えられている.Fe2+-bearing mineral → Fe3+-bearing mineral + e- (2)この反応はMayhew et al (2013)によって実験的に確かめられている. 彼らはカンラン岩や蛇紋岩に普遍的に含まれるmagnetite(Fe2+Fe3+2O4)を100℃の熱水に浸し, その表面をXANESで分析したところmagnetiteの表面にのみFe3+が濃集することを確認した. しかしながら, (1)式のH2発生反応に必要な(2)式の反応の具体的なプロセスについては明らかになっていない. 本実験では, magnetiteの熱水反応実験と, 実験後の試料の透過電子顕微鏡(TEM)観察によって, magnetiteによるH2発生メカニズムを解明することを目的とした.Methods: Magnetiteの合成は,Sato et al. (2014)にならい, 水熱合成法で行った. 合成したmagnetiteは真空中で1200°C, 3日間加熱し, 最終的に粒径50-100 µm の単結晶magnetiteを得た. この単結晶magnetiteと超純水をテフロン容器に入れ, 窒素雰囲気下で封入後, 電気炉で100°C, 1ヶ月間加熱することで, 熱水反応実験を行った. 実験後, 試料を溶媒から抽出し, 自然乾燥させた. また, メチレンブルー比色法により反応前後の溶媒中のH2濃度変化を分析した. 実験後の試料は走査電子顕微鏡(SEM, JEOL: JSM-6330F)に供試し, 試料表面の観察と集束イオンビーム(FIB)装置による試料作製部位の決定を行った. その後, FIB装置(JEOL: JIB-4000, JEM-9320FIB)に供試し, 透過電子顕微鏡(TEM)用試料を作成した. TEMは物質材料研究機構(NIMS)の電子顕微鏡(JEOL: JEM-2100F)を用いた.Results and Discussion: メチレンブルー比色法の結果, 熱水反応実験による溶媒中のH2濃度の増加が確認された. これは, 熱水反応実験において(1)式の反応が進行したことを示唆する. 熱水反応実験後の結晶表面をSEMで観察したところ, (111)面では結晶面の縁からステップ状に溶解が進んでいる様子がみられ, 表面には約300 nm径で2種類(円盤状, 紡錘状)の形状を示す析出物が認められた. 一方, (100)面では, 紡錘状の析出物のみみられたがその量は(111)面と比較して少量であった. これら熱水反応実験後のmagnetite結晶の(111)面と(100)面について, それぞれの断面の薄膜試料をFIB装置により作成し, TEM観察した. (111)面上にみられた円盤状および紡錘状の析出物は, それぞれgoethiteおよびhematiteであった. 一方, (100)面に析出していた紡錘状の物質はすべてhematiteであった. (111)面の表面から深さ500 nmまでの範囲における制限視野電子回折(SAED)パターンは, magnetiteの晶帯軸[1 -2 1]の電子回折パターンに対応した. 一方, (100)面の表面から深さ500 nmまでの範囲のSAEDパターンは, magnetiteの晶帯軸[1 1 4]の電子回折パターンとよく一致したスポットを示したが, magnetiteの空間群Fd-3mでは消滅則により強度が0となるはずの位置にもスポットが小さく現れた. これらのスポットはmagnetiteの格子型に一部変化があったことを示す. Magnetiteと同じスピネル構造を持つmaghemite(γ-Fe2O3)は, magnetiteが酸化することで生成し, magnetiteとは異なり八面体席に空隙を伴った構造を有する. Tang et al. (2003) によると, magnetiteはFe2+が選択的に外部へ分散していくことでmaghemiteへと酸化される. また, Skomurski et al. (2010)のシミュレーションによるとmagnetiteの(100)面の表面では, 八面体席にFe2+が多く分布しているという結果が得られており,Fe2+が溶出しやすい状態であると考えられる. したがって, 上述の結果は, 主に(100)面で溶解が進み, Fe2+が主として溶出し空隙が生じたことで, 部分的にmaghemite化し格子型が変化したことを示唆する. 以上の結果から, 熱水反応実験によって, magnetiteの(100)面からFe2+が溶出し, Fe2+が(1)式の反応に対する電子供与体として働いたことでFe3+が生じ, その後結晶表面にhematiteやgoethiteの析出物が生成したと考えられる.
著者
興野 純 中本 有紀 坂田 雅文
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

スピネル構造におけるCu<sup>2+</sup>のヤーン・テーラー効果の影響を調べるために,キュプロスピネル(CuFe<sub>2</sub>O<sub>4</sub>)の高圧単結晶XRD測定を実施した.実験の結果,圧力が4.6 GPaのところで体積変化曲線に明らかな不連続性が確認され,立方晶系から正方晶系への相転移が示唆された.Birch-Murnaghan状態方程式から求めた体積弾性率は,K<sub>0</sub> = 178 (3) GPaであった.これは,磁鉄鉱やウルボスピネル,クロマイトスピネルの体積弾性率よりもわずかに小さい値であった.キュプロスピネルの八面体席はすべてFe<sup>3+</sup>で占有されるのに対し,四面体席はCu<sup>+</sup>とCu<sup>2+</sup>,Fe<sup>3+</sup>で占有れていた.正方晶系に相転移後に四面体席内の結合角が108.6&deg;に減少する理由は,Cu<sup>2+</sup>のヤーン・テーラー効果による結合性軌道の形成であることが分子軌道計算から明らかになった.
著者
興野 純 一柳 光平
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

太陽系の初期段階では,小天体同士の衝突集積現象が多く生じていたことが知られており,惑星進化を理解するには衝突による高温高圧下における諸性質が重要となる.本課題では,衝撃圧縮下での構造変化過程をその場観察し,衝撃高温高圧下での物質の変化を結晶構造レベルで解明していくことを目指している.本課題では高強度レーザーによって発生させた衝撃圧縮下での構造変化ダイナミクスを観察する実験を進めているが,該当年度は共同研究者と協力して高エネルギー加速器研究機構の放射光施設PF-ARの衝撃波発生用レーザーの改善を大きく進めた.レーザーの空間プロファイルは発生する衝撃波の空間プロファイルに直接影響するため本実験を行なう上で大変重要となる.該当年度以前はレーザープロファイルが良くなく,衝撃波が分布をもってしまっていた.そのため,構造変化を平均して観察してしまう本手法では,単一現象として解析することが困難であり,衝撃下でのダイナミクスを時間軸に沿って理解することが出来なかった.しかし,上述のレーザーの空間プロファイル改善により,衝撃圧縮から解放まで連続的に現象を追いかけて観察することが出来るようになった.本レーザーを用いて衝撃下時間分解X線回折測定をアルミニウム,ジルコニアセラミックス試料に対して行なった.アルミニウム試料に対する実験からは,結晶格子面の圧縮率の変化,二次元X線回折像の同心円方向への回折強度分布の変化から見積もられる結晶方向の観察を行ない,衝撃下での多結晶体の応答例のデータを得た.ジルコニア試料に対する実験からは破壊過程におけるX線回折測定結果を得ることができ,これまで直接観察されることなく議論されてきた正方晶安定化ジルコニアの変態強化機構を初めて直接観察することに成功した.これらのデータを一つ一つの得ることで,衝撃下での構造ダイナミクスの理解を深められつつある.
著者
龍 徹 木股 三善 西田 憲正 興野 純 清水 雅浩
出版者
一般社団法人 日本鉱物科学会
雑誌
岩石鉱物科学 (ISSN:1345630X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.242-251, 2005 (Released:2005-10-18)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

Chemical evolution of ferrocolumbites from the Ishikawa-yama granitic pegmatites, Fukushima, Japan, has been revealed by electron microprobe analysis. The compositions of ferrocolumbites are different among sample locations, which are within about 1 km distant from each other. Three discernible trends in compositional variations in ferrocolumbites have been observed: (1) a homogeneous crystal trend, with low Ta/(Ta + Nb); (2) a trend with oscillatory zoning related to Ta and Nb; (3) a trend with patchy zoning related to Fe and Mn. Oscillatory zoning of ferrocolumbite is intimately related to crystal growth in magmatic process. Ferrocolumbite with patchy zoning shows parallel extinction and doesn’t appear to have the complementary distribution of octahedral cations due to some coupled substitutions on the plots of partition coefficient (each zone/the assumed average) against ionic radius. These facts and the curved boundaries of patchy zoning suggest that patchy zoning of ferrocolumbite has been produced by topotaxy in the open system.
著者
滝沢 茂 大槻 憲四郎 宮崎 修一 田中 秀実 西川 修 松井 智彰 八田 珠朗 興野 純 小澤 佳奈
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

地震断層を引き起こした地殻の歪みエネルギーは主に粉砕粒子の非晶質化に費やされると予測して、粉砕粒子内の非晶質化を示し溶解熱測定を行った。この溶解熱測定はフッカ水素酸液用の試料カプセの開発に成功した。このカプセルは国内外を通じて例がない。特殊なカプセルで溶解熱を測定した結果、石英結晶をアモルファス化するのに要した熱量は約2000J/gであり、これをエネルギー量に換算すると1011ergオーダーとなる。この新知見に基づくと地震断層時の破壊エネルギーは表面エネルギー、すべり摩擦熱エネルギーおよび波動エネルギーとして分配され、主に消費されるエネルギーはすべり摩擦熱エネルギーと波動エネルギーと考えらているが、本研究課題の結論は最も消費エネルギーの大きいのは、結晶内消費エネルギーで、この事は新知見で物質地震学の新展開となる。