著者
三浦 宏子 苅安 誠
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.627-633, 2007 (Released:2007-11-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1 8

目的:虚弱高齢者の服薬状況についての報告は少なく,嚥下機能の低下と服薬との直接な関連性については十分に明らかになっていない.そこで,本研究では,虚弱高齢者に対して服薬模擬調査を行い,大きさの異なる各錠剤の服用時において,嚥下機能の低下が服薬行動に与える影響を調べた.併せて,錠剤サイズと取り扱い作業時間との関連性についても調べた.方法:被験者は,虚弱高齢者73名である.この被験者に対して,ADL20を用いた日常生活機能評価,反復唾液嚥下テスト(RSST)を用いた嚥下機能評価,ならびに服薬模擬場面を設定した実地調査を実施した.実地調査においては,直径が異なる5種のサンプル錠(6mm,7mm,8mm,9mm,10mm)を用いて,錠剤を口に含む手前までの動作を被験者にしてもらい,その際の飲み込みやすさと取り扱い性について主観的評価を行うとともに,取り扱い作業時間を計測した.結果:嚥下機能低下群と正常群において,各錠剤サイズ3錠のサンプル錠を用いて,服薬動作の比較を行ったところ,10mm以外の錠剤サイズにおいて,嚥下機能と服薬分割回数の間に有意な関連性が認められ(p<0.05),低下群では錠剤を複数回に分けて服用する傾向がみられた.また,すべての錠剤サイズにおいて,ADLと模擬動作における錠剤の取り扱いに要した時間との間に有意な関連性が認められた(p<0.01).次に,飲み込みやすさと取り扱い性の両者を考慮して,最も処方薬として至適であると感じた錠剤サイズとして7mmを選択した者が30.1%,8mmを選択した者が28.8%であった.また,最も好ましくないと感じた錠剤サイズとして,10mmを選択した者が61.6%,6mmを選択した者が28.8%であった.結論:虚弱高齢者の嚥下機能とADLの低下は,服薬行動と密接な関連性を示した.また,虚弱高齢者の服薬に適した錠剤サイズは7∼8mmであることが示唆された.
著者
苅安 誠
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.201-210, 2009 (Released:2010-04-06)
参考文献数
63
被引用文献数
1 1

音声生成 (発声発語) と嚥下は, 上部気道・消化管 (aero-digestive tract; ADT) を共用する感覚・運動機能で, 対象物と発声発語・嚥下条件に適応的である. ADT共用により, 根底にある構造あるいは感覚・運動の問題が発声発語と嚥下の異常を同時にもたらすことがある. また, 一方の異常とその回復が他方の問題とその改善を予測させる. さらに, 一方への訓練が他方の機能改善をもたらす可能性がある. ただし, 発声発語では高速かつ正確な運動が, 嚥下では比較的定型的で持続的な大きな力が要求されるため, 訓練方法の見直しが必要と考えられる. 本論文では, 上記の基本的事項と仮説に基づいて, 嚥下機能の改善のための発声発語訓練, 音声機能の改善のための嚥下訓練を, おのおのの方法 (原法と変法) , ねらい, 標的, 成果指標を示す. さらに, 運動 (再) 学習の原理と神経系可塑性の発想に基づいた治療プログラムの編成について説明を加える.
著者
苅安 誠
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.271-279, 1990-07-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
18
被引用文献数
2

吃音のブロック症状を音声産生の側面からとらえると, 呼気流の一時的な停止状態であり, とくに発声・構音ブロックは, 声門及び声道での閉鎖力が呼気力を上回ることによって起こると推定できる.そこで, 今回の研究の目的は, ブロックと挿入を主症状とする成人吃音者に対して, リズム発話法と運動制御アプローチを併用し, その効果を調べることである.症例は, 29歳の男性吃音者であった.訓練は, 流暢性の獲得とその保持の2段階であった.第1段階ではリズム発話法によって流暢に話すことのできる安全速度を獲得し, 同時に呼吸と発声に対する運動制御アプローチを行なった.第2段階では発声構音に対する運動制御アプローチを行なった.訓練前後及び訓練終了後2ヵ月・1年半経過観察時の音読・自発話の流暢性を比較した結果, ブロック症状だけでなく挿入の頻度も減少しその効果が1年半後も持続していた.
著者
宮田 恵里 苅安 誠 岩井 大
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.18-23, 2023 (Released:2023-02-23)
参考文献数
20

本邦の多言語話者は増加傾向にあり,言語聴覚士(以下,ST)が対応する機会も増加している.今回,英語と日本語を使用する小児の構音障害の評価と指導を行ったので報告する.症例は3歳11ヵ月の男児で構音以外に問題は認めなかった.耳鼻咽喉科医による診察後に,STによる日本語の構音検査とGoldman-Fristoe 2を用いた英語の構音検査および日本語と英語による自由会話で評価を行った.検査の結果,英語話者で最も多い子音連結に誤りを認めた(spoon:/spu:n/→[pu:n]).構音訓練では/s/の産生から始め,その後続けて/p/や/t/を発音させた.事情により頻回な通院が困難であったため,自主課題を作成し,自宅学習を中心に対応した.3ヵ月後の評価では子音連結も問題なく発音できた.多言語話者に介入する際は母語に対応した検査用具を準備する必要があり,さらに,対象言語の特性を理解することも不可欠である.
著者
苅安 誠
出版者
九州保健福祉大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

1.問題と目的:ヒトの音声は、音源が声道で共鳴を受けた産物である。この音声が家族で近似していることは知られ、遺伝的により近い形態をとる双生児では声道が類似するために、音声がより近似すると考えられる。これまで、双生児音声を知覚的に観察した報告は数多くあるが、それを定量化して遺伝で規定される音声の諸側面を調べた研究はあまりない。そこで、本年度は、双生児の音声の音響的特性について、一卵性と二卵性双生児ペアでの近似性を調べた。2.研究対象:日本全国の多胎児サークルに文書で研究の依頼を行った。研究期間内に協力可能であったサークルの集い(青森、山梨、神奈川、福岡、宮崎)で、音声の収録を行った。対象は、幼児から学童の双生児ペア27組で、分析対象とした音声資料が収集可能であったのは、21組(一卵性MZ8組、二卵性DZ13組)であった。双生児42名(男子20名、女子22名)の年齢は、2〜12歳(平均4.52歳)であった。3.方法:音声資料は、日本語5母音の持続発声とし、音響分析プログラムMulti-Speechを用いて解析を行った。母音の中央部を切りだし、音声基本周波数Foと共鳴周波数(F1,F2,F4)を測定した。さらに、音響理論に基づいて、F4値より声道長(声帯から唇までの距離)の推定値を求めた。統計処理として、MzとDzで別々に級内相関を求めた。4.結果と考察:母音Foは、202Hz〜514Hz(平均307.6Hz)であった。級内相関係数は、Mzで0.73、Dzで0.09、であった。一方、F4(3930〜5560Hz)より推定された声道長は、10.70〜15.14cm(平均11.76cm)であった。級内相関係数は、Mzで0.86、Dzで0.34、であった。この声道長の級内相関の違いより、かなりの部分が遺伝で規定されると考えられた。5.結論と展望:双生児の音声は、その基本周波数(声の高さとほぼ一致する)と推定された声道長において、近似しており、特に声道長が遺伝でかなりが規定されることが明らかになった。これは、声道が構造上個体に付随する管腔であり、その随意的変化が小さいものであることからも、支持される。一方、声の高さは意図的かつ場面への適応的行動として変化の可能性がより高いため、遺伝の影響が明確化されなかったのであろう。
著者
熊倉 真理 馬場 隆行 堂園 浩一朗 苅安 誠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.165-173, 2011-08-31 (Released:2020-06-25)
参考文献数
16

【目的】舌位置の咽頭期嚥下に対する関与を知るため,健常成人で舌位置変化による舌骨・喉頭運動と食道入口部PES 開大の違いを調べた.【方法】健常男性13 名に,① いつものように,② 舌尖を上顎前歯口蓋側面に押しあて(上方固定),③ 下顎前歯舌側面に押しあて,④ どこにもあてずに,トロミ水を嚥下させた.透視側面像をもとに舌骨・喉頭変位量(直線・水平垂直距離)とPES 開大距離・持続時間を測定した.【結果】舌骨変位量は,舌位置が上方固定2 条件のほうが非上方2 条件より大きく,非上方 2 条件で10 cc のほうが3 cc より大きかった.喉頭変位量は,舌位置と摂取量にかかわらず同程度であった.PES 開大距離は,上方固定2 条件のほうが他の2 条件よりも大きく,10 cc のほうが3 cc よりも大きかった.舌の上方固定では,PES 開大距離と舌骨・喉頭の水平変位量との間に中等度の正の相関があった.【結論】舌の上方固定で舌骨変位量は大きくなり,PES 開大も促進される.
著者
飯髙 玄 冨田 聡 荻野 智雄 関 道子 苅安 誠
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.327-333, 2018 (Released:2018-09-15)
参考文献数
27
被引用文献数
2

パーキンソン病(PD)患者の発話特徴の一つである単調子(monopitch)は,発話の明瞭さと自然さを低下させる.本研究では,日本語を母国語とするPD患者のmonopitchが,体系的訓練LSVT®LOUD(LOUD)により改善するかを調べることを目的とした.対象は,2011〜2016年にLOUDを実施したPD患者40例のうち35例(平均年齢66.0歳)と健常者29例(平均年齢68.0歳)とした.音読から選択したイントネーション句の話声域speaking pitch range(SPR),音読と独話でのmonopitchの聴取印象評定(4段階)をmonopitchの指標とした.音読と独話での平均音圧レベル,発話明瞭度(9段階)と発話自然度(5段階)も評価した.訓練前後で比較すると,音読でのSPRは,10.5半音から13.1半音と有意に大きくなり(p<0.01),健常対照群とほぼ同レベルまで改善した.monopitch,発話明瞭度,発話自 然度の聴取印象評定は,いずれも訓練後に有意に改善していた(p<0.05).平均音圧レベルは,音読・独話とも,訓練後に有意に増加した(p<0.01).LOUDは,日本語を母国語とするPD患者の小声だけでなく,monopitchにも有効であることが示された.
著者
苅安 誠 大平 芳則 柴本 勇
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.354-359, 1991-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
19

吃音 (発達性・後天性) , 失語症 (伝導・ブローカ) および健常成人の4コママンガの説明課題の発話サンプルをもとに, 発話流暢性を比較した.この結果, 非流暢率では脳損傷群, 吃音率は吃音群の方が高く, 健常群はいずれも低かった.主な非流暢性のタイプは, 後天性吃音で語句のくり返し, 発達性吃音で語の一部分のくり返しとブロック, 失語症群は語句のくり返しと挿入, 健常群は挿入であった.非流暢性の質的側面からみると, 後天性吃音は, 吃音の類型ではなく, 同じ脳損傷後遺症である失語症と発話の障害メカニズムが似ていると考えられる.