著者
若木 重行 谷口 陽子 岡田 文男 大谷 育恵 南 雅代
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

本研究では、考古遺物としての漆工芸品の漆塗膜の理化学的分析より漆工芸品の製作地を推定するための方法論を提示することを目的とする。その実現のため、漆・下地・顔料などの漆塗膜の各成分の分離、ならびに分離した微少量の試料に対する多元素同位体分析を実現するための分析化学的手法開発を行う。漢代漆器・オホーツク文化期の直刀に対して、開発した手法による分析と蒔絵の種類・製作技術の解析などの情報を統合し、総合的に製作地の推定を試みる。
著者
若木 重行 川合 達也 永石 一弥 石川 剛志
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.1-12, 2018-09-01 (Released:2018-11-06)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本研究では,同位体分析を行うために単一の試料溶液からSr・Nd・Pbの3元素を分離する湿式化学分離法を開発した.新手法では,元素選択制の高い3種類の抽出樹脂(Sr樹脂・TRU樹脂・Ln樹脂)と陽イオン交換樹脂を用いた4段の小型カラムクロマトグラフィーを採用し,低ブランク・高時間効率のもとにこれら3元素を逐次分離することが可能になった.新手法においてTRU樹脂は,試料溶液から選択的にNdを含む希土類元素を分離するために用いられるが,TRU樹脂のNd保持率はカラムに導入された試料溶液中のFe量に依存して大きく変化することが明らかになった.本研究では,分析試料のタイプに応じて樹脂容量の異なる3種類のカラムを用意し,それぞれの樹脂容量ごとにNd保持率の低下を起こすFe量の上限値を明らかにした.適切なNd分離を行うためには,試料中のFe濃度をあらかじめ測定し,カラムに導入する試料量をコントロールすることが必要となる.新手法によって,単一試料溶液からの3元素逐次分離を低ブランク下で行うことが可能になったため,今後,掘削試料より分離した少量の有孔虫や,岩石薄片よりマイクロドリリングで分離した極微小量の珪酸塩試料などの微小量試料に対するマルチ同位体分析への応用が期待される.
著者
南 雅代 若木 重行 佐藤 亜聖 樫木 規秀
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集 2020年度日本地球化学会第67回年会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.168, 2020 (Released:2021-01-29)

大阪府松原市立部遺跡出土蔵骨器に納められている火葬骨の年代測定・同位体分析を行ない、被葬者の死没年、死没地、食性等を探った。蔵骨器内の骨片は、黒色から白色までさまざま存在し、焼成温度にかなりのムラがあったと考えられる。X線回折分析から、黒色骨片は600−700℃の被熱を受けたこと、白色骨片は750℃以上の高温の熱を被り、高いアパタイトの結晶度を有することがわかった。白色骨片と黒色骨片は異なる87Sr/86Sr値を示し、黒色骨片は埋没時に土壌間隙水とSr同位体交換反応を生じてSr同位体組成が変化していることが明らかになった。白色骨片4試料の14C較正暦年代は770−900 cal ADとなり、奈良時代後半という考古学知見と一致した。また、安定Sr同位体比 (δ88Sr)から、被葬者は比較的栄養段階の高い食性であったことが示唆された。
著者
椋本 ひかり 南 雅代 若木 重行 中村 俊夫 Mukumoto Hikari Minami Masayo Wakaki Shigeyuki Nakamura Toshio
出版者
名古屋大学宇宙地球環境研究所年代測定研究部
雑誌
名古屋大学年代測定研究
巻号頁・発行日
no.1, pp.102-107, 2017-03-31

Bones exposed to temperatures of more than 600℃ become to possess the high crystallinity of apatite, which protects them against easy contamination. This property now makes it possible to use the carbonate hydroxyapatite (CHa), an inorganic component of bone, for the 14C dating of cremated bones. Other chemical characteristics, such as Sr/Ca and δ88Sr, indicators of trophic levels and/or dietary preferences, are also expected to be preserved in cremated bones. This study was conducted to examine whether the CHa in cremated bones can provide accurate 14C dates and reliable information on diet. Cremated bone fragments from an urn at the Jisho-in Temple in Nara Prefecture, Japan were used as the sample. These bones are thought to be the remains of Jokei, a Buddhist monk (AD 1155–1213). The CHa in two fragments, which have high crystallinity, was determined to have a 14C date of 1040–1220 cal AD (±2σ), a date similar with the presumed age. The log(Sr/Ca) and δ88Sr values obtained from the bone CHa were –2.79 and from –0.140 to –0.125, respectively, values similar to those of herbivores (log(Sr/Ca)= –3.0~–2.5; Balter et al., 2002, δ88Sr =–0.30±0.17‰; Tütken et al., 2015). This finding is consistent with Jokei's dietary custom of not eating meat. The results of this study demonstrate the effectiveness of using CHa in cremated bones for the 14C dating of bones and dietary analysis.最近の研究により、火葬されて有機成分が残存していない骨に対し、骨の無機成分である炭酸ヒドロキシアパタイト(Carbonate Hydroxyapatite: CHa)を用いた14C年代測定の有効性が実証された(Lanting et al., 2001; Zazzo et al., 2011)。CHaは、高温(>600℃)で加熱されると結晶化が進み埋没後に続成作用の影響を受けにくくなることがその理由として挙げられる。そのため、結晶性の高いCHaを含む火葬骨は、生体由来の化学成分を保持でき、栄養段階の指標であるSr/Ca値やδ88Sr値などを分析することにより、14C年代だけでなく食性に関する情報も復元できることが期待できる。そこで、本研究では、仏教徒「貞慶」(AD1155-1213)の遺骨とされる火葬骨のSr/Ca値及びδ88Sr値の分析を行い、貞慶が菜食であったことを実証できるかどうかを検討した。結晶性の高い火葬骨のCHaから得られた14C年代値は貞慶の没年(1213年)と矛盾しない結果であった。さらに、log(Sr/Ca)値は-2.79、δ88Sr値は-0.14~-0.13であり、いずれも草食動物の値(log(Sr/Ca)=-3.0~-2.5; Balter et al., 2002、δ88Sr値=-0.47~-0.13; Tütken et al., 2015))の範囲であった。この結果は、貞慶が菜食主義であったことを示すものであり、考古学的な見解と一致している。これらの結果から、高温で加熱され、結晶性が高い火葬骨CHaは、生体由来のSr/Ca値及びδ88Sr値を保持しており、年代に関する情報だけでなく生前の食習慣を探るのにも有効であることが明らかになった。本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金挑戦的萌芽研究[骨の炭酸ヒドロキシアパタイトを用いた炭素14年代測定の試み」(代表者:南雅代、課題番号26560144)の助成を受けて行なわれました。