著者
野 徹雄 平松 孝晋 佐藤 壮 三浦 誠一 千葉 達朗 上山 沙恵子 壱岐 信二 小平 秀一
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.13-29, 2016-03-01 (Released:2016-03-30)
参考文献数
41
被引用文献数
5

近年,海洋研究開発機構は多くの地震探査航海を日本海で実施し,その探査中マルチビームによる高品質な海底地形データを同時に取得している.海底地形はその海域におけるテクトニクスや構造発達史を解明する手かがりの1つであり,地震研究においても,例えば震源断層のパラメータの検討の観点から重要である.したがって,高品質な海底地形データを活用することができれば,断層の長さに関する検討の精度が上がり,震源断層の大きさの議論の進展にもつながる.その結果,日本海における地震活動・活構造と地殻構造の関係をより統合的に研究を推進することができる.本報告では,地震探査時に取得された海底地形データを加えた日本海全域及びその周辺の地形データを用いて,それらを統合したDEM(数値標高モデル:Digital Elevation Model)データを作り,さらにそのデータを用いて方向依存性のない立体感が得られる赤色立体地図を作製した結果について記す.
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.21-22, 2017 (Released:2017-03-31)

2017年3月「JAMSTEC Report of Research and Development (JAMSTEC-R)」では2017年4月から,投稿原稿の新たな種類として「データ論文」を設ける。データ論文とは,観測データ,測定データ,分析データ,計算シミュレーション結果等の公開データに関して,データの内容・取得方法・データ形式・アクセス情報等を記述したものであり,そのデータの分析,解釈,科学的結論を含まない論文と定義される.「JAMSTEC-R」では,海洋研究開発機構において研究・技術開発に携わる者が取得・作成した電子データ,または当機構の調査機器・研究設備等を利用して取得・作成した電子データに関するデータ論文を掲載する.同時に対象データのメタデータをJAMSTEC-Rデータリポジトリで公開する.読者はデータ論文を入り口にして対象データへアクセスすることができる仕組みとなっている.データ論文種類の新設にあたって,編集プロセスの課題を洗い出し,読者にデータ論文がどんなものかを示して執筆の助けにするため,JAMSTECの吉光淳子さん・大林政行さんに試行的なデータ論文の執筆・寄稿を依頼した.本号の「JAMSTEC-R」には,査読を経て採択されたデータ論文が掲載されている.今後のデータ論文執筆の参考にしてくだされば幸いである.2017年4月からのデータ論文の新設が,データ公開の促進やデータを生み出す研究者・技術者に対するインセンティブにつながり,オープンサイエンスに貢献することを期待している.末次 大輔JAMSTEC-R編集委員会委員長国立研究開発法人海洋研究開発機構
著者
Tomohiro Toki Kiichiro Kawamura Urumu Tsunogai Toshitaka Gamo
出版者
Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1-12, 2017-09-01 (Released:2017-09-28)
参考文献数
39

We describe in detail the pore water chemistry in the sediments below a white mat around a bunch of bananas at a water depth of 2,200 m in the Tenryu Submarine Canyon. We infer the metabolism of microbes in the sediments around the bananas based on the chemical and isotopic compositions of the pore water. On the basis of the relation between ammonia and total carbonate (ΣCO2) concentrations in the pore water, we identified that an excess ΣCO2 was distributed around the bananas that cannot be explained by the decomposition of organic matter derived from marine organisms, indicating that the bananas decomposed to generate the excess ΣCO2. We conclude that the bananas built a local organic-rich environment, stimulating the activity of organotrophic bacteria.
著者
伊勢戸 徹 齋藤 暢之 一柳 麻里香 森岡 美樹 細野 隆史 土田 真二 北山 智暁 佐々木 朋樹 齋藤 秀亮 久積 正具 佐藤 孝子 藤倉 克則 園田 朗 華房 康憲
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.43-53, 2019-04-01 (Released:2019-04-03)
参考文献数
18

海洋研究開発機構(JAMSTEC)は2007年に策定した「データ・サンプルの取り扱いに関する基本方針」に基づき,JAMSTECに帰属するデータ・サンプルを管理,公開し,その幅広い利用を推進している.調査航海で採取された生物サンプルについては,その情報をJAMSTECの情報管理部署がデータベースに登録し一元的に管理しつつも,サンプル自体は採取した研究者らがJAMSTEC内外の各機関に持ち帰って利用しており分散的に管理されている.つまり,生物サンプルは情報管理部署とJAMSTEC内外の研究者らによる共同管理体制をとっている.この生物サンプルの共同管理体制は一見特殊にも見えるが,自機関に帰属するサンプルについて,その所在を把握し,管理していくためには必然的な仕組みだとも言える.また,データベースを公開しており,登録されたサンプルに対して他者が利用申請をする機会を提供している.JAMSTECのサンプルには,これまで博物館やバイオリソースセンター等に保存され提供されてきたサンプルのように永続的に保存されるサンプルも含まれるが,研究者らが日々利用し消費されていくサンプルが多い.このため,JAMSTECの生物サンプル管理と利用の仕組みは,これまで他機関が実施してきた仕組みよりも広範なサンプルの利用機会を拡大しているものであり,サンプルから最大限の科学的成果を生み出し,社会に役立てていくことを目指すものである.
著者
有吉 慶介 松澤 暢 矢部 康男 加藤 尚之 日野 亮太 長谷川 昭 金田 義行
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.17-33, 2011 (Released:2011-11-30)
参考文献数
48

同じプレート境界面上にある複数の断層セグメントが連動して地震が発生した場合,一般にはスケーリング則に従うと考えられている.しかし,スマトラ島沖地震のような超巨大地震となると,走行方向に長い形状となり,アスペクト比一定の前提条件が破綻するため,活断層調査などからは諸説に分かれているのが現状である.そこで本稿では,摩擦構成則に基づく地震サイクルの数値シミュレーション結果について,単独地震と連動型地震のすべり量を比較するという新たな観点から,特徴を見出すことにした.その結果分かったことは以下の通りである.断層セグメント間の距離と破壊遅れの時間差が共に短い場合には,地震時すべりが断層サイズに比例して大きくなるが,プレスリップは単独地震とほぼ変わらない.一方,断層セグメント間の距離と破壊遅れの時間差が共に長い場合には,地震時すべりは数割程度しか増幅しないため,マグニチュードに換算するとほぼ変わらないが,プレスリップは単独地震に比べて数倍程度増幅することが分かった.これらの知見を活かして,スマトラ島地震でみられた短期的・長期的の連動型地震を考察し,東北地方太平洋沖地震に伴う長期的な時間遅れを伴う連動型地震の可能性について調べた.その結果,東北地方太平洋沖地震の周辺で後続する大規模地震の発生可能性を判断・予測するためには,三陸はるか沖地震・十勝沖地震の震源域や,太平洋沖でのフィリピン海プレート北限に沿った房総半島沖において,海底観測をする必要があることを指摘した.
著者
Chihiro Kodama Akira Kuwano-Yoshida Shingo Watanabe Takeshi Doi Hiroki Kashimura Tomoe Nasuno
出版者
Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.5-34, 2019-04-01 (Released:2019-04-03)
参考文献数
133

The JAMSTEC Model Intercomparison Project (JMIP) provides a first opportunity to systematically compare multiple global models developed and/or used in JAMSTEC with the aim of moving toward better weather and climate predictions. Here, we evaluate climate simulations obtained from atmospheric models (AFES and MIROC5), atmospheric model with slab ocean (NICAM.12), and fully coupled model (SINTEX-F1 and SINTEX-F2). In these simulations, the sea surface temperature is fixed (for AFES and MIROC5) or nudged (NICAM.12, SINTEX-F1, and SINTEX-F2) to the observed historical one. We focus on the climatology and variability of precipitation and its associated phenomena, including the basic state, the energy budget of the atmosphere, extratropical cyclones, teleconnection, and the Asian monsoon. We further discuss the possible causes of similarities and differences among the five JMIP models. Though some or most of the dynamical and physical packages in the JMIP models have been developed independently, common model biases are found among them. The AFES and MIROC5, and the SINTEX-F1 and SINTEX-F2, show strong similarities. In many respects, NICAM.12 shows unique characteristics, such as the distributions of precipitation, shortwave radiation, and explosive extratropical cyclones and the onset of the Asian summer monsoon. To some extent, the similarities and differences among the JMIP models overlap with those among the Coupled Model Intercomparison Project Phase-5 (CMIP5) models, suggesting that JMIP can be used as a simple and in-depth version of CMIP to investigate the mechanisms of model bias. We suggest that this JMIP framework could be expanded to an intercomparison of weekly-to-seasonal scale weather forecasting; here, more fruitful discussion is expected through intensive collaboration among modeling and observation groups.
著者
松岡 大祐 荒木 文明
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.35-63, 2011 (Released:2011-11-30)
参考文献数
182
被引用文献数
2

シミュレーションデータや観測データを画像に変換する科学的可視化は,データに含まれる科学的な特徴や意味を直感的に理解するための効率的な手法の一つである.本論文では,可視化パイプラインにおけるプロセスの効率化,時系列データ可視化,遠隔可視化,および最先端の環境を用いた大規模データの可視化研究について調査を行い,報告する.大規模シミュレーションによって生成される大量のデータの可視化処理には膨大な時間がかかり,一台の計算機で行うのは容易ではない.そのようなデータを効率的に可視化するための典型的な手法として,可視化パイプライン中のプロセスの並列化およびデータ構造の最適化が用いられている.また,時系列データの可視化においては,データI/O処理がステップ毎に生じる.そのため,時系列データ可視化のための効率的なデータI/O手法として,プリフェッチングや並列I/O,およびパイプライン並列処理が開発されている.特に,パイプライン並列処理は,I/Oのボトルネックを除去し,高フレームレイトを実現するための手法として広く用いられている.ネットワーク環境を用いた遠隔可視化は,遠隔環境にある使用可能な計算資源を利用するための手法である.とりわけ,地理的に分散した複数のデータを取り扱うために,遠隔可視化の一形態である分散可視化が提案されている.同じく遠隔可視化の一手法である協調的可視化は,様々なレベルの可視化プロセスにおいて複数の解析者が参加できるものである.最後に,最先端の環境を用いた可視化について述べる.より大規模なデータをより高速に可視化するためには,スーパーコンピュータおよびマルチGPUシステムの利用は有効な手法である.また,大規模シミュレーションの結果をより直感的に理解するための,高度なインタラクティブ性を持つバーチャルリアリティシステムを用いた可視化についても報告する.
著者
三浦 誠一
出版者
Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.81-87, 2009
被引用文献数
4

海洋研究開発機構 (JAMSTEC) では, 海底下深部構造を求め地震や津波の発生メカニズムを解明するため, 1995年より制御震源による構造探査を開始した. 1997年からは海溝型巨大地震発生過程解明をめざして「かいれい」に構造探査システムを艤装, 1999年にエアガン大容量化とOBS100台化および「かいれい」「かいよう」2船体制となった. 2004年に伊豆小笠原海域等での集中的探査に対応するため, ストリーマーケーブル延長やOBS台数追加という増強を実施した. これらにより海溝型巨大地震発生過程や島弧成長過程の解明に関する重要な知見が得られた. しかし今後構造研究と掘削等による物質科学との統合をめざすため, 構造探査システムの高精度化をはかる必要がある. このような観点から, 2008年に「かいれい」のエアガンアレイチューンドアレイ化, ストリーマーケーブルの高分解能化を行い, 想定した性能を確認した. 今後も科学的要求にこたえるべく技術的更新や増強をはかる必要があると考えられる.
著者
小栗 一将 山本 正浩 豊福 高志 北里 洋
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.7-15, 2015-09-01 (Released:2015-10-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

海洋観測機器の製作コストやランニングコストを下げるため,プリント基板をエポキシ樹脂に直接固定し,水中や海底で使用するLED光源とチャージポンプを開発,それぞれ耐圧試験や実海域での作動を確認した.LED光源は水深約9200 mの海底に5回投入したが,物理的な破損もLEDの故障も生じなかった.この光源を基に製作したものをトンガ海溝,ホライゾン海淵(水深10800 m)の海底で使用,堆積物直上の様子や底生生物活動のハイビジョン撮影に成功した.チャージポンプには圧力に弱い電解コンデンサが必要なため,樹脂で固定する前にコンデンサをカプセルで覆い,人工的な気泡の中に配置することで圧力から保護する手法を開発した.この手法で樹脂固定して製作したチャージポンプと赤色LEDを,伊平屋北熱水フィールド(水深1053 m)内の人工熱水噴出孔における深海電池の発電実験に供した.結果,LEDの点灯により発電が確認された.エポキシ樹脂は海水,温度,圧力,光などによって劣化することが知られているが,深海環境における強度や透明度の変化についての知見はいまだ乏しいため,長期設置と強度試験による寿命の推定が今後の課題となろう.
著者
松本 和彦 藤木 徹一 本多 牧生 脇田 昌英 川上 創 喜多村 稔 才野 敏郎
出版者
Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.17-25, 2012
被引用文献数
1

海洋地球研究船「みらい」では,採水にニスキン−X採水器を取り付けたCTD採水システムを使用している. ニスキン−X採水器は蓋閉用のスプリングが採水器外側に配置され, ボトル内部へのゴムや微量金属による汚染を極力排除できる仕組みとなっている. 通常, 一次生産量測定用のサンプリングには海水サンプルへの微量金属等の汚染防止を徹底するため, 内部にテフロンコーティングを施し, ボトル内部及び部品各種を酸洗浄した採水器をクリーンニスキンとして使用している. クリーンニスキンとその他のノーマルニスキンで採水した場合に, 実際に一次生産量に差が生じるのかを確かめたところ, ノーマルニスキンで採水した場合に一次生産量測定値が激しく低下した. その差を生じる原因を把握するための追加実験を行うと, ノーマルニスキンで使用しているニトリルゴム製Oリングが一次生産を阻害していることが明らかとなった.
著者
新倉 淳也 山内 徳保 重竹 誠二 小椋 徹也 月岡 哲
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.39-46, 2012 (Released:2012-04-18)
参考文献数
3

「かいこう7000 II」は, 深度7000mまで潜航可能なRemotely Operated Vehicle (ROV) である. 「かいこう7000 II」はランチャーとビークルの2つで構成され, 母船とランチャーは1次ケーブル, ランチャーとビークルは2次ケーブルで繋がれている. 従来の構成では, 1次ケーブルにはシングルモード (SM : Single Mode) 光ファイバが採用され, 2次ケーブルにはマルチモード (GI : Graded Index) 光ファイバが採用されていた. このGIの伝送量は, ハイビジョン映像等の大容量データを伝送するには不十分で, 大容量通信に適したSMへの換装が求められていた. そこで, 海洋研究開発機構では2009年よりSMを採用した2次ケーブルへの換装を進め, 2011年2月の海域試験での通信試験において「かいこう7000 II」の光伝送経路のSM化を達成した. SM化により, 伝送容量が飛躍的に向上し, ハイビジョン映像等の大容量の通信が可能となった. 本報告では, 「かいこう7000 II」の光伝送経路の概要と, 2011年2月に行われた海域試験の結果について報告する.
著者
Takeshi Enomoto
出版者
Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.21-30, 2007-11-01 (Released:2020-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
8 11

The albedo of the ocean surface is of primary importance in the radiative energy balance of the Earth. It takes the smallest value of close to 0 over ocean water and the largest value of nearly 1 over snow-covered sea ice. The albedo of ocean water is determined by of the solar zenith angle, slope of the surface and optical properties of the atmosphere and ocean. The albedo of sea ice is significantly influenced by snow cover. During the warm season, ponds of melt water of snow and ice result in large reduction of albedo. Based on the knowledge from foregoing observational and modelling studies, the treatment of the ocean surface albedo in AFES (atmospheric general circulation model for the Earth Simulator) has been improved. Recent modifications to albedo parametrizations incorporated in AFES are described and optimum values for various parameters are adjusted to the observation data. The effects of albedo on global energy balance and atmospheric circulation are discussed.
著者
若木 重行 川合 達也 永石 一弥 石川 剛志
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.1-12, 2018-09-01 (Released:2018-11-06)
参考文献数
22
被引用文献数
2

本研究では,同位体分析を行うために単一の試料溶液からSr・Nd・Pbの3元素を分離する湿式化学分離法を開発した.新手法では,元素選択制の高い3種類の抽出樹脂(Sr樹脂・TRU樹脂・Ln樹脂)と陽イオン交換樹脂を用いた4段の小型カラムクロマトグラフィーを採用し,低ブランク・高時間効率のもとにこれら3元素を逐次分離することが可能になった.新手法においてTRU樹脂は,試料溶液から選択的にNdを含む希土類元素を分離するために用いられるが,TRU樹脂のNd保持率はカラムに導入された試料溶液中のFe量に依存して大きく変化することが明らかになった.本研究では,分析試料のタイプに応じて樹脂容量の異なる3種類のカラムを用意し,それぞれの樹脂容量ごとにNd保持率の低下を起こすFe量の上限値を明らかにした.適切なNd分離を行うためには,試料中のFe濃度をあらかじめ測定し,カラムに導入する試料量をコントロールすることが必要となる.新手法によって,単一試料溶液からの3元素逐次分離を低ブランク下で行うことが可能になったため,今後,掘削試料より分離した少量の有孔虫や,岩石薄片よりマイクロドリリングで分離した極微小量の珪酸塩試料などの微小量試料に対するマルチ同位体分析への応用が期待される.
著者
有吉 慶介 松澤 暢 矢部 康男 加藤 尚之 日野 亮太 長谷川 昭 金田 義行
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
no.13, pp.17-33, 2011

  同じプレート境界面上にある複数の断層セグメントが連動して地震が発生した場合,一般にはスケーリング則に従うと考えられている.しかし,スマトラ島沖地震のような超巨大地震となると,走行方向に長い形状となり,アスペクト比一定の前提条件が破綻するため,活断層調査などからは諸説に分かれているのが現状である.そこで本稿では,摩擦構成則に基づく地震サイクルの数値シミュレーション結果について,単独地震と連動型地震のすべり量を比較するという新たな観点から,特徴を見出すことにした.その結果分かったことは以下の通りである.断層セグメント間の距離と破壊遅れの時間差が共に短い場合には,地震時すべりが断層サイズに比例して大きくなるが,プレスリップは単独地震とほぼ変わらない.一方,断層セグメント間の距離と破壊遅れの時間差が共に長い場合には,地震時すべりは数割程度しか増幅しないため,マグニチュードに換算するとほぼ変わらないが,プレスリップは単独地震に比べて数倍程度増幅することが分かった.これらの知見を活かして,スマトラ島地震でみられた短期的・長期的の連動型地震を考察し,東北地方太平洋沖地震に伴う長期的な時間遅れを伴う連動型地震の可能性について調べた.その結果,東北地方太平洋沖地震の周辺で後続する大規模地震の発生可能性を判断・予測するためには,三陸はるか沖地震・十勝沖地震の震源域や,太平洋沖でのフィリピン海プレート北限に沿った房総半島沖において,海底観測をする必要があることを指摘した.
著者
Hayato Ueda
出版者
Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-15, 2012 (Released:2012-04-18)
参考文献数
8
被引用文献数
1

The top clinometer is a newly developed payload tool which enables a submersible vehicle to directly measure orientation of planar geological structures (e.g. bedding planes, faults) on seafloor outcrops. It consists of a disc and central vertical bar, both graduated at 1 cm scales, and a handle. On seafloor outcrops, the disc is placed on the geological surface of interest by a manipulator, and is captured by a still camera. The orientations are determined via simple onboard graphic analyses of the images obtained and the submersible log data. Strike and dip of the surface structures are routinely calculated by a macro program within a Microsoft Excel worksheet. Theoretical and laboratory tests suggest errors of the measurements in the same order as magnetic clinometer compasses commonly used for on-land geological surveys. Camera installation angles to the submersible Shinkai 6500 were also calibrated based on on-deck tests during R/V Yokosuka YK08-05 and YK10-13 Leg2 cruises. Results of three practical measurements suggested that speed of the operation depends heavily on the time spent looking for the target surfaces and the time for communication between operators and scientists. Besides these factors, a measurement can be taken in as little as five minutes. This simple and quick method improves the quality of structural measurements for submarine geology.
著者
野 徹雄 佐藤 壮 小平 秀一 高橋 成実 石山 達也 佐藤 比呂志 金田 義行
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.29-47, 2014
被引用文献数
8

日本海東縁では,1983年日本海中部地震(M<sub>J</sub>7.7)や1993年北海道南西沖地震(M<sub>J</sub>7.8)などのM7以上の被害地震,それらに起因する津波が繰り返し発生している.しかし,これらの地震の全体像を研究する上では地殻構造データが十分でなかった.そこで,「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」の一環として,2009年~2012年の4年にわたり,マルチチャンネル反射法地震探査と海底地震計による屈折法・広角反射法地震探査の地殻構造調査を実施し,地殻構造研究の側面から日本海東縁における地震発生帯の研究を進めた.調査は能登半島沖から西津軽沖にかけての沿岸域の大陸棚から大和海盆・日本海盆に至る海域にて行った.本報告では,本調査で実施された43測線のマルチチャンネル反射法地震探査によるデータ取得の概要とデータ処理の結果について記す.
著者
吉光 淳子
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.98-108, 2018-09-01 (Released:2018-11-06)
参考文献数
16

二観測点間のP波の相対走時を異なる周波数帯で測定する手法を開発した.この手法では観測点下の地殻多重反射波によって生じる分散効果が自動的に補正される.0.03Hzから0.77Hzの周波数帯の中で狭帯域の10帯域を設定し,地殻多重反射波補正したP波波形を他方の観測点の波形と波形相関をとることで相対走時を測定する.この手法をフレンチポリネシアおよび北西太平洋に設置された広帯域海底地震計のデータ,および周辺の陸上地震観測点のデータに適用した.得られたデータに有限波長理論に基づくインバージョンを適用することにより,これまで十分な解像度が得られなかった領域において高分解能のトモグラフィーモデルを得ることに成功している.
著者
三浦 亮 井和丸 光 野口 直人 伊藤 誠 山下 幹也 中村 恭之 三浦 誠一
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.84-95, 2018-03-01 (Released:2018-04-24)
参考文献数
7

2011年に海洋研究開発機構で導入された可搬式マルチチャンネル反射法地震探査(可搬式MCS)システムでは,運用を開始して以来,ストリーマーケーブルの複数のアクティブセクションに同時に現れるノイズ(等走時ノイズ)が発生している.この等走時ノイズは,スクリューの回転あるいは電源系に起因して周期的に現れる場合,およびランダムに発生する場合がある.ノイズの発生はストリーマーケーブルの電気的性質に起因すると推定されているが,現在のところ根本的な解決には至っていない.中でもランダム型の等走時ノイズは,反射波シグナルより強い振幅かつ反射波シグナルに近い周波数帯域で現れることが多いため,重合後データに対しての悪影響が大きい.可搬式MCSデータの処理においては等走時ノイズのみを抑制し,シグナルを残すようなデータ処理法を適用する必要がある.等走時ノイズの速度特質を利用し,速度フィルターの一種であるF-Kフィルター(周波数・波数領域フィルター)の適用を試みたところ,完全に除去することはできないものの,ノイズの影響を抑制することができた.
著者
小池 義和 森野 博章 栗原 邦彰 糸井 成夫 河上 達 清水 悦郎
出版者
Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology
雑誌
JAMSTEC Report of Research and Development (ISSN:18801153)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.49-58, 2014
被引用文献数
3

近年,深海探査の要求は高まっており,低コストで簡易な深海探査システムの実現が望まれている.江戸っ子1号プロジェクトは,東京下町の中小企業,大学,研究機関,金融機関,企業有志がフリーフォール型の簡易深海探査システム実現を目的として集まって実施したプロジェクトである.プロジェクトでは,深海7800 mでの3Dビデオ撮影に成功している.このプロジェクトに参加した筆者らは,江戸っ子1号プロジェクトで使用したフリーフォール型深海探査システムのガラス球内部に温度センサと気圧センサを設置し,深海の温度プロファイル,着底,離底の検知ができないかを検討した.その結果,センサ出力から得られる体積変化分から着底,離底の検出が可能となることを確認した.