著者
苫米地 なつ帆
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.103-114, 2012-07-14 (Released:2014-03-26)
参考文献数
15
被引用文献数
3

本稿では,教育達成を規定する要因としての家族およびきょうだい構成に着目し,教育達成に格差が生じるメカニズムの一端を明らかにするため,マルチレベルモデルを用いて分析を行った.分析の結果,家族属性変数を統制した状態でも女性は男性に比べて教育達成が低くなることが明らかとなり,きょうだい内におけるジェンダー格差の存在が確かめられた.出生順位に関しては負の効果がみとめられ,きょうだい内で遅く生まれると教育達成が下がることが明らかとなった.加えて出生間隔も負の効果を持っており,きょうだいと年齢が離れている場合には,高い教育達成を得やすくなる環境や,それを獲得するための情報資源が存在しないことが考えられる.また,長男・長女であること自体は教育達成に影響を与えないが,長男の場合はきょうだい内に男性が多いと教育達成が低くなる傾向があり,長女の場合には,次三女に比べて家庭の社会経済的地位の正の効果を受けやすいことがわかった.このように,きょうだい内における教育達成は,家族属性要因と個人属性要因の交互作用の影響も受けているのである.さらに,母親が主婦である場合に子どもの教育達成が高くなることが示されたが,これは母親が大卒以上の主婦である場合に顕著であり,高学歴の母親が子どもの教育達成を高めようとしている可能性が示唆される.
著者
苫米地 なつ帆
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.101-123, 2015-01-30 (Released:2022-02-06)
参考文献数
29

教育達成には男女間格差が存在し、特に高等教育進学においては「男性は四年制大学、女性は短期大学」という「ジェンダー・トラック」が存在していることが知られている。しかし、同じ家族の子ども、すなわちきょうだいの中でも「ジェンダー・トラック」の効果がみられるかどうかや、きょうだいの性別構成が教育達成における性別間格差とどのように関連しているかは明らかにされてこなかった。そこで本稿では、教育達成の性別間格差が生じるメカニズムについて、マルチレベル多項ロジスティック分析による再検討を試みた。分析の結果、教育達成の格差が生成されるそのメカニズムとして、性別の違いが大きな影響力をもち、同じ家族環境のもとで育った子どもであったとしても性別による教育達成格差がみられることが明らかとなった。また、自分以外のきょうだいを含めたきょうだいの性別構成はほとんど影響をもたないことが示されたが、男性のみで構成されるきょうだいは、他のきょうだいに比べて四年制大学に進学しにくい傾向がみられた。このことから、男性のみのきょうだいではそれぞれの子どもに家族の教育資源が平等に振り分けられ、男性と女性がいるきょうだいの場合には女性への配分を少なくすることで男性を四年制大学に進学させようとする家族の教育戦略があるのではないかということが、改めて示唆された。
著者
石川 由香里 加藤 秀一 片瀬 一男 林 雄亮 土田 陽子 永田 夏来 羽渕 一代 守 如子 苫米地 なつ帆 針原 素子
出版者
活水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

今年度を総括して述べれば、来年度への調査実施に向けた準備を順調に進めることができた年度と言える。中学生と高校生向けの調査票は、昨年度においてすでに完成していたが、それに加え5月に実施した研究会において、大学生に対する調査票を確定することができた。過去7回の調査結果の分析に際しては、独立変数に設定できる質問項目が少ないことが反省材料であった。とくに家庭の社会経済的背景についてたずねることについて、学校側の抵抗感が大きく、最近ではとくに質問項目として盛り込むことが難しくなってきた。しかし、一昨年および昨年度に行われた大学生対象の予備調査において、大学生であれば親の学歴や職業についての質問項目に答えることへの抵抗はほとんど見られず、分析に耐えるだけの回答を得ることができていた。したがって本調査においても、大学生対象の調査票の項目には、親の学歴や生活状況を尋ねる質問を含めることとした。今年度のもう1つの大きな取り組みとしては、調査先の決定があった。そのために協同研究者はそれぞれ、調査候補となっている都道府県及び区市町村の教育委員会ならびに対象校へ調査の依頼のために手分けしてうかがった。その結果、年度末までには、かなり理想に近づく形での調査協力を取り付けることができた。年度内に3回実施された研究会においては、調査協力依頼のための文書を作成し、またそれぞれの調査先から調査実施の条件として示された個別の案件についても審議した。また実査に加わる調査員に対するインストラクションの内容、保険、旅費の配分など、調査に必要なすべての事柄について確認を行った。
著者
苫米地 なつ帆
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.11-36, 2017-02-28 (Released:2021-12-18)
参考文献数
45

本研究の目的は、親から子どもへの資源分配に対する出生順位や性別の影響を検証することにある。これまで地位達成研究の文脈では、生得的要因である出生順位や性別によって格差が生じるメカニズムとして、家族内での親から子への不平等な資源分配を指摘するものが多かった。しかしながら、日本においては実証的研究の蓄積が少ない。そこで本研究では、経済的資源として教育投資を、関係的資源として相談の頻度をとりあげ、出生順位や性別によって金額や頻度の差がみられるかどうかを検証した。分析の結果、経済的資源の多寡についても相談の頻度についても、出生順位や性別による違いがみられた。加えて、教育投資の金額については出生順位の影響のあらわれ方が家族ごとに異なること、相談の頻度については性別の影響が家族ごとに異なることが示された。子どもが得ることのできる資源の量は、家族ごとの資源の総量による違いと、個人の生得的属性を反映した親の選択的な資源配分の双方によって規定されていると考えられる。とりわけ、出生順位の遅い子どもについては、家族が保有する資源を得にくい状況に置かれており、そのような状況は近年でも維持されていることが示唆される。
著者
苫米地 なつ帆
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.103-114, 2012

本稿では,教育達成を規定する要因としての家族およびきょうだい構成に着目し,教育達成に格差が生じるメカニズムの一端を明らかにするため,マルチレベルモデルを用いて分析を行った.分析の結果,家族属性変数を統制した状態でも女性は男性に比べて教育達成が低くなることが明らかとなり,きょうだい内におけるジェンダー格差の存在が確かめられた.出生順位に関しては負の効果がみとめられ,きょうだい内で遅く生まれると教育達成が下がることが明らかとなった.加えて出生間隔も負の効果を持っており,きょうだいと年齢が離れている場合には,高い教育達成を得やすくなる環境や,それを獲得するための情報資源が存在しないことが考えられる.また,長男・長女であること自体は教育達成に影響を与えないが,長男の場合はきょうだい内に男性が多いと教育達成が低くなる傾向があり,長女の場合には,次三女に比べて家庭の社会経済的地位の正の効果を受けやすいことがわかった.このように,きょうだい内における教育達成は,家族属性要因と個人属性要因の交互作用の影響も受けているのである.さらに,母親が主婦である場合に子どもの教育達成が高くなることが示されたが,これは母親が大卒以上の主婦である場合に顕著であり,高学歴の母親が子どもの教育達成を高めようとしている可能性が示唆される.