- 著者
-
片瀬 一男
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.4, pp.476-491, 2008-03-31 (Released:2010-04-01)
- 参考文献数
- 60
戦後,日本社会の民主化をめざして導入された統計教育が,昨今の「ゆとり教育」のもとでのカリキュラム削減によって危機に瀕している.統計的リテラシーは,世論調査をはじめとする調査データを的確に読みとることによって適切な政治参加を促進するという点で,情報化社会における市民的教養教育にとって不可欠のものである.また,社会学教育においても,社会調査教育は,質的調査・量的調査を問わず,因果図式や仮説の構成を通じて,社会理論と社会的現実を架橋する社会学的想像力を涵養するという意味で枢要な位置を占める.ところが,実際の社会調査教育の現場では,たとえば社会調査士育成をめぐっても,大学間の格差が存在するだけでなく,量的調査では検定や多変量解析,質的調査ではフィールドノーツやドキュメントの分析技法の教授までは十分になされていないという問題点がある.今後はデータ収集の方法だけでなく,こうした分析技法の教育にさらに力をそそぐことが,社会調査教育の課題となる.これによって,メディアの流す多様な情報から,適切なものを読みとるリサーチ・リテラシーを育成することで,情報化社会における民主的な市民参加を促進することこそ,市民的教養教育としての社会調査教育に求められる使命である.