著者
片瀬 一男
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.476-491, 2008-03-31 (Released:2010-04-01)
参考文献数
60

戦後,日本社会の民主化をめざして導入された統計教育が,昨今の「ゆとり教育」のもとでのカリキュラム削減によって危機に瀕している.統計的リテラシーは,世論調査をはじめとする調査データを的確に読みとることによって適切な政治参加を促進するという点で,情報化社会における市民的教養教育にとって不可欠のものである.また,社会学教育においても,社会調査教育は,質的調査・量的調査を問わず,因果図式や仮説の構成を通じて,社会理論と社会的現実を架橋する社会学的想像力を涵養するという意味で枢要な位置を占める.ところが,実際の社会調査教育の現場では,たとえば社会調査士育成をめぐっても,大学間の格差が存在するだけでなく,量的調査では検定や多変量解析,質的調査ではフィールドノーツやドキュメントの分析技法の教授までは十分になされていないという問題点がある.今後はデータ収集の方法だけでなく,こうした分析技法の教育にさらに力をそそぐことが,社会調査教育の課題となる.これによって,メディアの流す多様な情報から,適切なものを読みとるリサーチ・リテラシーを育成することで,情報化社会における民主的な市民参加を促進することこそ,市民的教養教育としての社会調査教育に求められる使命である.
著者
片瀬 一男 阿部 晃士
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.163-183, 1997-10-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

The purpose of this paper is to show accumulativeness and complexity in causes of regional inequality in educational attainment. Although numbers of studies have been made on inequality in educational attainment, little is known about accumulativeness and complexity in causes of inequality. The main reason is that many of these studies neglect the effects of geographical determinants, regional history and regional culture on education. To solve this problem we examine the formation processes of parents' educational hopes for children and students' educational aspirations in the Sendai area and Kesennuma city, considering these factors.We conducted surveys on students at 13 high schools and their parents in the Sendai area (including Sendai, Tagajou and Natori City) in 1987 and on students at 10 high schools and their parents in three other cities in Miyagi Prefecture (Shiroishi, Furukawa and Kesennuma City) in 1988. The results may be summarized as follows:(1) in comparison with the Sendai area, parents' status (according to educational and occupational status) is lower in Kesennuma city;(2) in general, higher parental status promotes their educational hopes for children, but this effect is weaker in Kesennuma city.We used historical and statistical materials and conducted hearing from informants to clarify cultural and historical backgrounds to these results. Kessennuma is located on the south coast of the Tohoku area, and the main industries are fishing and marine product-processing, so before World War 2, educational credentialism permeated later in Kessennuma. Because educational attainment is not a beneficial strategy in a coastal area, parents attach greater importance to practical science. On the other hand, regional culture may cause changes in the meaning of modern education. We conclude that interaction between school education and regional society is needed to elucidate the social function of education.
著者
橋本 健二 佐藤 香 片瀬 一男 武田 尚子 浅川 達人 石田 光規 津田 好美 コン アラン
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

市区町村および地域メッシュ単位の統計と質問紙調査の結果から、以下の諸点が明らかとなった。(1)1990年から2010年の間に東京圏の階級・階層構造は、旧中間階級とマニュアル労働者が大幅に減少し、新中間階級とサービス産業の下層労働者が増加するという2極化の傾向を強めた。(2)この変化は、都心部で新中間階級と高所得世帯が増加し、周辺部では非正規労働者と低所得世帯が増加するという空間的分極化を伴っていた。(3)しかし、都心の南西方向では新中間階級比率と所得水準が高く、北東方向では低いという、東西方向の分極化傾向は維持された。(4)空間的な分極化は住民の政治意識の分極化を伴っていた。
著者
片瀬 一男
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-4, 2013-07-19 (Released:2014-08-31)
参考文献数
1
被引用文献数
1
著者
石川 由香里 加藤 秀一 片瀬 一男 林 雄亮 土田 陽子 永田 夏来 羽渕 一代 守 如子 苫米地 なつ帆 針原 素子
出版者
活水女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

今年度を総括して述べれば、来年度への調査実施に向けた準備を順調に進めることができた年度と言える。中学生と高校生向けの調査票は、昨年度においてすでに完成していたが、それに加え5月に実施した研究会において、大学生に対する調査票を確定することができた。過去7回の調査結果の分析に際しては、独立変数に設定できる質問項目が少ないことが反省材料であった。とくに家庭の社会経済的背景についてたずねることについて、学校側の抵抗感が大きく、最近ではとくに質問項目として盛り込むことが難しくなってきた。しかし、一昨年および昨年度に行われた大学生対象の予備調査において、大学生であれば親の学歴や職業についての質問項目に答えることへの抵抗はほとんど見られず、分析に耐えるだけの回答を得ることができていた。したがって本調査においても、大学生対象の調査票の項目には、親の学歴や生活状況を尋ねる質問を含めることとした。今年度のもう1つの大きな取り組みとしては、調査先の決定があった。そのために協同研究者はそれぞれ、調査候補となっている都道府県及び区市町村の教育委員会ならびに対象校へ調査の依頼のために手分けしてうかがった。その結果、年度末までには、かなり理想に近づく形での調査協力を取り付けることができた。年度内に3回実施された研究会においては、調査協力依頼のための文書を作成し、またそれぞれの調査先から調査実施の条件として示された個別の案件についても審議した。また実査に加わる調査員に対するインストラクションの内容、保険、旅費の配分など、調査に必要なすべての事柄について確認を行った。
著者
片瀬 一男 阿部 晃士
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.163-183, 1997
被引用文献数
1

The purpose of this paper is to show accumulativeness and complexity in causes of regional inequality in educational attainment. Although numbers of studies have been made on inequality in educational attainment, little is known about accumulativeness and complexity in causes of inequality. The main reason is that many of these studies neglect the effects of geographical determinants, regional history and regional culture on education. To solve this problem we examine the formation processes of parents' educational hopes for children and students' educational aspirations in the Sendai area and Kesennuma city, considering these factors.<BR>We conducted surveys on students at 13 high schools and their parents in the Sendai area (including Sendai, Tagajou and Natori City) in 1987 and on students at 10 high schools and their parents in three other cities in Miyagi Prefecture (Shiroishi, Furukawa and Kesennuma City) in 1988. The results may be summarized as follows:(1) in comparison with the Sendai area, parents' status (according to educational and occupational status) is lower in Kesennuma city;(2) in general, higher parental status promotes their educational hopes for children, but this effect is weaker in Kesennuma city.<BR>We used historical and statistical materials and conducted hearing from informants to clarify cultural and historical backgrounds to these results. Kessennuma is located on the south coast of the Tohoku area, and the main industries are fishing and marine product-processing, so before World War 2, educational credentialism permeated later in Kessennuma. Because educational attainment is not a beneficial strategy in a coastal area, parents attach greater importance to practical science. On the other hand, regional culture may cause changes in the meaning of modern education. We conclude that interaction between school education and regional society is needed to elucidate the social function of education.
著者
原 純輔 秋永 雄一 片瀬 一男 木村 邦博 神林 博史
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

これまでの研究の過程で、社会調査データアーカイブに関する整備体制と利用実態の国際比較を通して、わが国の現状を検討するという課題が、浮上してきた。そこで、世界最初の国勢調査実施国であり、データの整備と公開が進んでいるアイスランド国立大学およびアイスランド国立博物館における聴取調査を実施した(秋永雄一・原純輔)。また、昨年度に引き続き、社会調査データアーカイブについてのケルン大学社会調査データ・アーカイヴ、マンハイム社会科学方法論研究所での再調査(木村邦博・秋永雄一)を実施するとともに、ケルン大学におけるセミナーに参加した。この結果についても研究会で検討を行った。その結果、「公共財」としての社会調査データという理念が、両国に共通に存在しており、わが国との大きな違いとなっていることが明らかになった。また、過去2年間の実績をふまえて、SSM調査(報告者・片瀬一男。以下同様)、国民性調査(海野道郎)、生活時間調査(三矢恵子)、青少年の性行動全国調査(原純輔)、宮城県高校生調査(神林博史)に対象を絞り、調査の概要・成果に加えて、とくにデータの保存およびデータの公開・利用可能性に焦点をあてながら研究会における再検討を行った。その結果、企画者側の調査データの公開に関する姿勢は多様であるが、とりわけ社会的評価の高い調査では、データのとりかたに独特の工夫がされていることが多く、他の研究者がそれを利用することには相当の困難が伴うことを、具体的に明らかにした。以上の成果は、現在報告論文集としてとりまとめ中である。
著者
片瀬 一男 秋永 雄一 古賀 正義 木村 邦博
出版者
東北学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

2003年11月から12月にかけて「教育と社会に対する高校生の意識:第5次調査」を実施した。そして、このデータをもとに分析を行い、2005年3月に報告書を作成した。報告書では、次のようなテーマをもとに、分析を行った。1.第1に、高校生の進路志望(教育・職業アスピレーション)や教育達成など教育をめぐる高校生の意識や実態をとりあげ、それがどのような要因に規定されているのか分析した。この分析においては、高校生の出身階層となる親の地位が、彼らの進路志望や教育達成に与える影響、さらには父母の結婚類型が子どもに及ぼす影響などが明らかになった。またフリーターの問題も、進路意識や規範意識(校則意識)との関連で扱った。くわえて、「アノミー型アスピレーション」という現代の高校生に特有の進路志望のあり方についても、それが形成されるメカニズムが明らかなった。2.第2に、高校生が現代社会をどのように認知し、また評価しているのかについて検討を加えた。ここでは、不公平感や学歴社会イメージ、性別役割意識といった高校生の社会意識が、家族や学校においてどのように形成されているのか分析を行った。3.第3に、この17年間の宮城県の高校教育の変容についても触れた。そして、いくつかの高校を事例として選んで、いわゆる「進路多様高」の成立経過や、仙台における女子教育の変容について時系列的な分析を行った。