著者
斎藤 修 草野 英二 戸澤 亮子 伊澤 佐世子 斎藤 孝子 武藤 重明 村山 直樹 目黒 輝雄 奥田 康輔 下山 博身 四宮 俊彦 金 成洙 廣瀬 悟 黒川 仁
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.507-514, 2009-06-28 (Released:2009-09-15)
参考文献数
24

血液透析患者における皮膚掻痒症は患者のQOL(quality of life)を低下させる合併症の一つであり,現在のところ主として抗ヒスタミン薬が皮膚掻痒症の治療に用いられている.今回,われわれは塩酸フェキソフェナジンを血液透析患者に投与し,透析患者の皮膚掻痒症に対する有効性を自覚症状に加えてQOLならびに睡眠の面からも併せて検討した.VAS(visual analogue scale)スコアで40以上の掻痒を訴える80例の維持血液透析患者が登録され,77例を解析対象とした.塩酸フェキソフェナジン60 mgを1日2回朝夕食後8週間経口投与し,自覚症状,QOL,睡眠障害ならびに日中の眠気の評価を2,4,8週間後に実施した.かゆみの自覚症状はVASを用いて評価し,QOLはSkindex 29を用いて評価した.塩酸フェキソフェナジンの投与開始2週間後には,かゆみの強さ,範囲,頻度のいずれも投与開始前に比して有意に改善軽快し(p<0.001),8週まで連続して有意な改善を認めた.また,Skindex 29のいずれのスコアも投与開始後には投与開始前に比して有意に低下し(p<0.001),QOLの改善がみられた.夜間の睡眠障害は塩酸フェキソフェナジンの投与により有意に改善され(p<0.001),その結果,日中の眠気も有意に改善された(p<0.001).また重篤な有害事象は認められなかった.以上の結果より塩酸フェキソフェナジンは2週間の投与でも掻痒症状・QOLおよび睡眠障害の有意な改善効果を認め,その効果は継続投与でさらに8週まで改善がみられた.塩酸フェキソフェナジンは安全性も高く,血液透析患者の皮膚掻痒症に有用であることが示唆された.
著者
佐々木 信博 上野 幸司 白石 武 久野 宗寛 中澤 英子 石井 恵理子 安藤 康宏 草野 英二
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.581-588, 2007-07-28 (Released:2008-11-07)
参考文献数
17
被引用文献数
3 5 2

生体電気インピーダンス法 (BIA法) は, 生体に微弱な電流を流して, 身体の体水分量 (TBW), 細胞外水分量 (ECW), 細胞内水分量 (ICW), 体脂肪量 (BFM) などを測定することが可能であり, 透析患者のドライウェイト (DW) の指標になり得ると考えられる. 高精度体成分分析装置であるInBody S20は, 多周波数分析, 8点接触型電極, 部位別測定, 仰臥位測定といった特徴を有し, 高い精度と再現性が立証されており, 近年, その臨床報告が相次いでいる.今回われわれは, 本装置を用い各種体液量を測定し, DWの指標となり得るか検討した. 対象は当院で維持透析を施行している41名で, 透析前後でInBody S20による各体液量と一般血液検査, hANPを測定し, 透析後に胸部X線による心胸比 (CTR) と超音波断層法による下大静脈径 (IVC) を測定した. その結果, 1) hANPは, CTR, IVCe (安静呼気時最大径) とそれぞれ有意相関 (p<0.01, p<0.05) を認めた. 2) 各種体水分量 (TBW, ECW, ICW) は, 透析後に有意に低下し, IVCeと有意相関 (p<0.001) を認めた. 3) 体水分量変化率 (%TBW) は, 循環血液量変化率 (%BV) や循環血漿量変化率 (%CPV) と有意相関 (p<0.001) を認めた. 4) 浮腫値 (ECW/TBW) は, 透析後に有意に低下し (p<0.001), hANPと有意相関を認めた (p<0.001). 5) InBodyで測定した透析後DW (BIA-DW ; 浮腫値0.38のBW) と臨床でのDW (cDW) は, 強い正相関を示した (r=0.99, p<0.001).InBody S20は, 簡便性, 非侵襲性, 即時性に優れ, 血液透析患者の体液量・体組成の定量的評価が可能で, 浮腫値や透析後BIA-DWは, 実際のDWの指標として有用と考えられた.
著者
草野 英二
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.184-185, 2018-04-20 (Released:2019-04-01)
参考文献数
8

水の三態は我々の身の回りに日常的に存在し,かつ我々の生活に密接に結びついている。しかしながら,密接に結びついているからこそ,わかったつもりになって,誤って理解していることも多い。本稿では,誤解されやすい事例を示し,より良い理解および学習について考えていく。
著者
石井 恵理子 安藤 康宏 山本 尚史 小藤田 敬介 浅野 泰 草野 英二
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.1417-1422, 2004-06-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
14
被引用文献数
6 3

血中ANPはDWの指標として用いられているが, DW設定のための体液量の定量的な基準値, 特にhypovolemiaに関しては明確ではない. 今回われわれは, HD患者のANPとDWの関係について検討し, DWの適否判断のためのANP基準値を設定した. 主に心胸比によってDWが設定されている維持HD患者58名のHD後でのANP値 (RIA固相法) を測定し (n=110), その時点のDWの適否を自他覚所見に基づいてDW過小群・適正群・過大群の3群に分類し, ANPとの関係を検討した. その結果, 3群間においてHD後ANP値は有意差を認めた (DW過小群: 35.5±6.0pg/mL, DW適正群: 57.4±4.4pg/mL, DW過大群: 137.8±22.8pg/mL). 適正DW群の透析後ANP値の10-90パーセンタイルは25-100pg/mLに分布しており, ANP値が25-100pg/mLの間にあれば, DWが適正である確率は69.4%であった. さらに適正群のANP中央値付近 (40-60pg/mL) であれば, DWが適正である確率は95.8%と極めて高くなった. また, ANP 25pg/mL以下, あるいは100pg/mL以上ではそのDWが適正である可能性は低く, 25pg/mL以下では57.1%の症例でDWは過小であり, 100pg/mL以上では70.8%の症例で過大であった. ANPをDWの指標とする場合, 40-60pg/mLを至適DW目標とし, 25pg/mL以下, 100pg/mLはそれぞれDW過小・過大の可能性を考えるべきと思われた.
著者
望月 隆弘 衣笠 えり子 草野 英二 大和田 滋 久野 勉 兒島 憲一郎 小林 修三 佐藤 稔 島田 憲明 中尾 一志 中澤 了一 西村 英樹 野入 英世 重松 隆 友 雅司 佐中 孜 前田 貞亮
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.853-862, 2012-09-28 (Released:2012-10-05)
参考文献数
23

【目的】ビタミンE固定化ポリスルフォン膜ダイアライザ(VPS-HA)が,血液透析患者の貧血や,貧血治療薬(ESA)の投与量に影響を与えるか否かを検討した.【方法】主要なエントリー基準は,機能分類IV型ポリスルフォン(PS)膜を3か月以上使用し,直近3か月はTSAT 20%以上で,ESA製剤の変更がなく,ヘモグロビン(Hb)値は10.0g/dL以上12.0g/dL未満を満たす患者とした.研究参加は48施設で,305症例がエントリーされた.エントリー患者を,VPS-HAに変更する群(151名)と,従来のIV型PS膜を継続する群(154名)の2群に分け(中央登録方式),研究開始時のHb値を維持(10.0≦Hb<11.0g/dLおよび11.0≦Hb<12.0g/dL)するESA投与量を主要評価項目とした.その評価指標としてエリスロポエチン抵抗性指数(erythropoietic resistance index:ERI)を用いた.【結果】研究は1年間実施された.目標Hb値10.0≦Hb<11.0g/dLの範囲では差はなかったが,目標Hb値11.0≦Hb<12.0g/dLの範囲で,VPS-HA群はIV型PS膜群に比して良好なESA反応性を示した.とくにVPS-HA群のDarbepoetin alfa(DA)投与例では,8か月以降で開始時と比較して統計的有意差をもってERIが減少していた.またIV型PS膜群のrHuEPO投与症例では,統計的に5,7,10か月で,開始時と比較してERIが増加していた.VPS-HAとIV型PS膜の群間比較では,11か月目でVPS-HA群のDA投与例でIV型PS膜群に比して,ERIが有意に減少していた.【結語】目標Hb値11.0≦Hb<12.0g/dLの範囲で,ビタミンE固定化膜は,IV型PS膜に比べてDA投与量が減少しており,ESA投与量軽減効果が期待できる(UMIN試験ID:UMIN000001285).
著者
佐々木 信博 安藤 康弘 大友 貴史 石原島 繁彦 草野 英二 浅野 泰
出版者
社団法人 日本腎臓学会
雑誌
日本腎臓学会誌 (ISSN:03852385)
巻号頁・発行日
vol.41, no.8, pp.818-824, 1999 (Released:2010-07-05)
参考文献数
14

We report a case whose renal failure was due to malignant hypertension and in whom steroid facilitated the recovery of renal function. The patient, a 41-year-old man, was admitted to our hospital because of malaise and macrohematuria. On admission, his blood pressure was 270/160 mmHg. The plasma renin activity (PRA) and aldosterone were markedly elevated. Chest X-ray, echo cardiography and electrocardiogram revealed marked hypertrophy. Hypertensive retinopathy and arteriosclerotic change were noted on ophthalmoscopy. Because of renal dysfunction (blood urea nitrogen 45.6 mg/dl, serum creatinine 4.9 mg/dl with massive proteinuria and increased FENa, renal biopsy was performed on the 8th clinical day. The specimens showed slight proliferation of mesangial cells with mesangiolysis and inter stitial cell infiltration, in addition to marked arteriosclerosis and partial collapse of the glomerular tuft. After the administration of a Ca antagonist and angiotensin converting enzyme inhibitor (ACE-I), his mean blood pressure decreased to 100-130 mmHg, and urinary protein decreased as well. Nevertheless, renal dysfunction remained unchanged during the following 3 weeks. Thus, prednisolone (PSL, 30 mg/day) was administered on the 22nd clinical day and renal function improved thereafter without a significant change in blood pressure. The improved renal function was maintained after PSL tapered off on the 184th clinical day. It is suggested that PSL might be the therapy of choice in malignant hypertension, when the renalfunction has not been improved by anti-hypertensive treatment alone.
著者
吉田 泉 駒田 敬則 森 穂波 安藤 勝信 安藤 康宏 草野 英二 大河原 晋 鈴木 正幸 古谷 裕章 飯村 修 小原 功裕 高田 大輔 梶谷 雅春 田部井 薫 NIKKNAVI研究会
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.909-917, 2010-11-28
被引用文献数
1

われわれは,透析患者の除水による循環血液量の変化をモニターする機器(Blood Volume Monitoring system:BVM)を日機装社(静岡)と共同開発し,多施設共同研究において臨床的にドライウエイト(DW)が適正と判断された患者の循環血液量の変化(BV%)の予想範囲を設定し,すでに報告した(Ther. Apher. Dial. in press).本論文では,その予想範囲が適正な除水量設定に有用か否かを検討した.維持透析を行っている9施設の144名を対象とし,採血日を含む3回の透析日に,BVM搭載装置を用いて透析を行った.DWが適正と判断された患者のBV%予想範囲は,上限ライン:BV%/BW%後=-0.437t-0.005 下限ライン:BV%/BW%後=-0.245ln(t)-0.645t-0.810.BV%は循環血液量変化率,BW%後は透析による除水量の前体重に対する比率,tは透析時間(h).今回の検討では,DW適正の可否を問わずに144例を抽出し,430データを集積した.プロトコール違反の94データを除外した336データを解析対象症例とした.各施設の判断によりDW適正と判断された230データで,BVMでも適正と判断された適正合致率は167データ(72.6%)であった.臨床的にDWを上げる必要があると判断された45データで,BVMでもDWを上げる必要があると判断されたのは10データ,逆に臨床的にDWを下げる必要があると判断された61データで,BVMでも下げる必要があると判断されたのは37データであった.その結果,BVMによる判定と臨床的判定の適合率は63.7%であった.不適合の原因としては,バスキュラーアクセスの再循環率(VARR),体位変換,体重増加量が1.0kg以下などであった.PWI(Plasma water index)による判定との適正合致率は71.6%で,適合率は58.0%であった.hANPによる判定との適正合致率は68.8%で,適合率は48.7%であった.循環血液量のモニターは,透析患者の除水設定管理の一助になり,われわれが設定したBV%予想範囲は臨床的にも妥当性が高いと考えられた.
著者
佐々木 信博 上野 幸司 白石 武 吉村 章 久野 宗寛 武田 真一 斎藤 孝子 安藤 康宏 草野 英二
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.41, no.10, pp.723-730, 2008-10-28
被引用文献数
2 5

近年われわれは,高精度体成分分析装置(InBody S20)を用いた生体電気インピーダンス(BIA法)が血液透析患者の体液量評価に有用であることを報告し,特に浮腫値(細胞外水分量(ECW)/体水分量(TBW))やInBody S20でのDW(BIA-DW)が,臨床的DW(Cl-DW)の一つの指標となることを報告した.今回われわれは,糖尿病,心不全,低アルブミン血症,透析低血圧例,肥満患者,透析期間,尿量維持患者などの各種疾患や病態別に透析後の浮腫値を中心に具体的なDW設定基準について検討を行った.対象は当院で維持透析を施行している57名で,透析前後でInBody S20による各種体液量と血液一般検査,透析後にhANP,BNP,胸部X線による心胸郭比(CTR),心臓超音波検査による下大静脈(IVC)径,左室駆出率(EF)などを測定した.全ての病態で浮腫値は透析後に有意に低下した(p<0.0001).透析後浮腫値は,血清Alb値と負の相関を示し(r=-0.720,p<0.0001),糖尿病群では非糖尿病群にくらべ有意に高値を示した(p<0.0001).そこで,糖尿病と低Alb血症の有無による4群での検討を行った.透析後浮腫値は,I群(DM(-),低Alb(-)):0.384±0.005にくらべ,II群(DM(-),低Alb(+)):0.397±0.013,III群(DM(+),低Alb(-)):0.398±0.011で有意に高値を示し(p<0.001),IV群(DM(+),低Alb(+)):0.404±0.012で最も高値を示した(p<0.0001).InBody S20で求められる理想的なDW(BIA-DW;浮腫値0.380のBW)と実際の臨床的DW(Cl-DW)は,強い正相関(r=0.996,p<0.0001)を示し,I群においてはその値はほぼ一致し,II群,III群においてはBIA-DWよりも0.5~0.8kg程度上乗せした体重が,IV群では1kg程度上乗せした体重がCl-DWとなることが示された.一方,浮腫値は,血圧,心機能,透析期間,尿量とは相関を認めなかった.InBody S20で求められる透析後浮腫値は,原疾患の有無にかかわらず,透析患者のDWの一指標となりうると考えられた.