著者
木村 学 金川 久一 木下 正高 山田 泰広 荒木 英一郎 山口 飛鳥
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

本研究では、これまで紀伊半島沖熊野灘において実施されてきた南海トラフ地震発生帯掘削研究(超深度掘削は海底下約3,000mまで掘削済みでプレート境界断層まで残り約2,200m)の総仕上げとして、プレート境界断層貫通掘削までの掘削時孔内検層、孔内設置受振器による3次元鉛直地震探査、断層試料の摩擦実験、近傍からの繰り返し周回地震探査を実施する。もって断層上盤の応力場・主応力と間隙水圧、プレート境界断層の摩擦強度を解明し、それらを総合して地震・津波発生切迫度を定量的に評価することを目的とする。第2年度は、これまでの掘削によって得られたデータをまとめ上げ、モデル化し、上盤プレート上部の応力場、間隙水圧を解明した。概要は以下の通りである。1)3次元反射法データの最新技術による再解析。特に地震発生プレート境界断層から分岐断層にかけて実施。詳細な構造の実態解明、速度構造の変化が予測された。2)既存データの解析、実験的分析の蓄積、完了。海底下3,000m下までの摩擦特性計測実験を完了し、深度方向の変化が予察的に得られた。3)掘削孔内に設置してあった圧力計などの回収を実施した。10年間の記録の回収に成功した。2016年4月1日には70年ぶりに起こった南海プレート境界地震の世界初の孔内観測に成功、結果の迅速な公開を実施した。4)最終的な科学掘削目標達成のための慎重な技術的検討を掘削実施主体である海洋研究開発機構と適宜進めた。
著者
木村 恒久 荒木 英一郎 横引 貴史
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

DASテクノロジーは、2011年頃から石油・ガス産業において、パイプラインのモニタリングや侵入者を感知する目的で導入されている。近年では“heterodyne Distributed Vibration Sensing”(以下、hDVS)と呼ばれる位相差データを用いる最新の光ファイバーセンシング技術の適用により、Vertical Seismic Profile(以下、VSP)を含むサイスミックデータ取得ができるようになった1)。そのhDVS装置を使った自然地震に近いCross-well VSPのデータ、および波を観測したデータをJpGU-AGU2017にて紹介し、リアルタイムに地震と津波を同時に観測することができる可能性について述べた2)。2017年9月、海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)の協力の下、JAMSTEC所有の海底光ファイバーケーブルを使った地震観測の実証実験を行った。豊橋沖に敷設してある海底光ファイバーケーブルのうち、光学長が約17kmのシングルモードファイバーを実験に選んだ。そのファイバーに第三世代のhDVS取得装置をつなげ、バックグラウンドノイズを測定する目的でhDVSの連続測定を実施した。本稿では、その連続測定データを用い、自然地震波の観測が行えるか検証した結果を報告する。豊橋沖に敷設してあるJAMSTEC所有の海底光ファイバーケーブルは、本来、通信用のケーブルとして使われていたものである。一般的な通信用光ファイバー仕様のFC/PC型のコネクターが用いられていたが、このタイプのコネクターは、コネクターでの光パルスの反射が大きく、その反射がデータに影響を与える。それ故、ファイバーセンシングの分野では、その使用を極力避けるが、少なくとも2箇所にFC/PCが使われ、その一つを反射の少ないFC/APC型に交換し改善を図った。バックグラウンドノイズの連続測定は、9月25日夕方から26日朝にかけて、約14時間に渡り実施した。今回記録したデータを見ると海岸から水深の浅い5km近辺までのファイバーには、波の動きを示すデータが定常的に記録されていた。測定データを詳細に調べると、9月25日11:54:55 UTC(9月25日20:54:55 JST)に記録されたデータ、およびそれ以降のデータに自然地震波と思われる波形が確認できた。気象庁の震源リストのデータと参照したところ、駿河湾で発生した以下の地震記録と同一であると考えている。(2017年9月25日 20時54分49.7秒 緯度34°53.3'N 経度138°31.8'E 深さ215km M3.9 震央地名 駿河湾)今回記録された自然地震波を図1に示す。8.1kmより遠方のファイバーにノイズが目立つが、その原因は、FC/PC型のコネクターにおける強い反射とファイバーの末端での反射が原因と考えられる。測定パラメータは、ゲージ長40 m、空間サンプリング10 m、および、サンプリング周期が2 msであり、1ファイルのレコーディング時間を30秒とした。hDVS第三世代の装置を使って記録できる最大のファイバー長は16.5kmで、17km全てに渡っての記録はできなかった。観測されたデータから解析した海岸近辺においてのP波の到達時刻は9月25日20:55:21 JST、S波の到達時刻は20:55:44 JSTである。海底光ファイバーケーブルは、海岸線から真っ直ぐに太平洋を南に向かって敷設されているが、P波とS波の両者とも、16km先の沖に比べて海岸部の方にP波で0.4秒、S波で1.0秒早く到達したので、地震は海底光ファイバーケーブル対し、東西方向から若干北寄りで起きたことがうかがえる。つまり、震央が駿河湾であったことを裏付けることになる。防災科学技術研究所(以下、防災科研)が公開しているHi-netによる連続波形画像との比較も行った。愛知県には21の観測点が存在し、豊橋にも観測点があるが、その連続波形記録を参照したところ、hDVSの測定データとほぼ一致することを確認した。今回、海底光ファイバーケーブルで観測された海底地震の記録は、筆者が認知する限りでは、DASテクノロジーを使った世界で初めての事例である。本観測結果より、hDVSを用いた測定手法は、海底光ファイバーケーブルにつなげることによって、波のモニタリングを行いながら自然地震波の観測システムとしても利用できる可能性が示された。謝辞:リファレンスとなる地震情報は、気象庁、および防災科研のデータを用いました。これらの機関に対し感謝の意を表します。引用文献:1) Kimura, T., Lees, G., and Hartog, A. JpGU 2016 (RAEG 2016), Optical Fiber Vertical Seismic Profile using DAS Technology STT17-12, Extended Abstract.2) Kimura, T, JpGU-AGU 2017, Progress of Seismic Monitoring System using Optical Fiber and DAS Technology STT59-04, Potential for Real-Time Earthquake Monitoring using Optical Fiber Network and DAS Technology SCG72-P03, Potential for Real-Time Tsunami Monitoring using DAS Technology HDS16-P01.
著者
木村 学 木下 正高 金川 久一 金松 敏也 芦 寿一郎 斎藤 実篤 廣瀬 丈洋 山田 泰広 荒木 英一郎 江口 暢久 Sean Toczko
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.47-65, 2018-01-15 (Released:2018-05-30)
参考文献数
98
被引用文献数
1

2007年開始の南海トラフ地震発生帯掘削計画は,プレート境界で起こる地震発生,断層メカニズムの理解を目的に実施,掘削の結果,これまで以下の主要な成果が得られた.1)南海前弧域は,~6Ma以降の沈み込み,特に2Ma以降の付加体の急成長によって形成され,プレート境界の上盤を形成することとなった.2)プレート境界と分岐断層に沿うすべりは,海底面まで高速ですべり抜けたことがある.3)粘土鉱物に富む断層ガウジは静的にも動的にも,絶対的に弱い.4)掘削によって応力測定に成功した.多くの地点で最大水平圧縮方向はプレートの収束方向とほぼ平行であり,次の南海地震に向けての応力蓄積の進行が示唆される.5)掘削孔設置の観測計が,2016年4月1日に南海プレート境界で72年ぶりに発生した地震による圧力変動を観測した.海底観測網による微小津波観測と同期しており,上盤内の地震時体積収縮を世界で初めて観測した.
著者
後藤 忠徳 笠谷 貴史 荒木 英一郎 浅川 賢一 佐柳 敬造
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

H17年度には海底付近で人工電流を発生させた場合の地下構造探査の可能性を数値計算により確認した。2度の調査航海において深海曳航体へ搭載した人工電流源を用いて海底電気探査を実施した。またスマトラ地震の余震活動データなどを解析して海底地震観測の精度の議論を行った。これらの結果に基づき、豊橋沖海底ケーブル先端へ接続可能な海底磁力計や海底地震計などの開発や改良を行った。H18年度にはこれらの海底観測機器の水中動作試験を行った。またケーブル敷設船へ乗船し、豊橋沖海底ケーブルの引き上げ・ケーブル先端への分岐装置取り付け・ケーブル再敷設作業を行った。H19年度には新規に開発・改良を行った海底観測機器を豊橋沖海底ケーブル先端の分岐装置へ接続した。深海での接続作業にはJAMSTEC調査船および無人探査機を用いた。この結果、東海地震想定震源域の海底に地震・地殻変動・地下水流動などの総合観測ステーションを構築することができた。また海底ケーブルに流れている人工電流を用いた人工電磁探査モニタリングも開始することができた。観測成果の一例として、平成19年6月には掛川で発生したM4.3の地震波動に伴って海底電場が変動することが明らかとなった。一方、豊橋沖海底ケーブルを用いた海底下モニタリングに先立って、同海域の地殻電気伝導度構造を知る目的で、H18年度からH19年度にかけて自己浮上式の海底電位差磁力計(OBEM)など、のべ12台を東海沖海域へ設置した。これによって沈み込むフィリピン海プレートやその上の島弧地殻の電気伝導度構造を明らかにすることができた。以上の海底ケーブル観測システムの紹介、海底電気探査の成果および間隙水圧変動に伴う電磁場変動現象に関して、複数の研究成果として報告した。
著者
杉岡 裕子 荒木 英一郎 岡元 太郎 石原 靖 伊藤 亜妃
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

海溝近傍で発生する超低周波地震と呼ばれる破壊過程が異常に遅い地震は、古くから存在は指摘されていたものの(和達,1928)、陸上からの遠地観測では実態を把握するには限界があった。先行研究で実施した南海トラフでの広帯域海底地震観測では、超低周波地震を直近で捉え、観測地震波の近地項から地震に伴い生じた海底変動を初めて推定した(Sugioka et al., 2012)。本研究では、この上下変位を直接測定することを目的とし、高分解能水圧計である差圧計と広帯域地震計とを組み合わせた地動・水圧同時観測システムを開発した。本システムは固体・海洋の境界面である海底観測に有用な幅広い帯域をカバーするものである。