- 著者
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深澤 秀夫
内堀 基光
杉本 星子
森山 工
菊澤 律子
飯田 卓
- 出版者
- 東京外国語大学
- 雑誌
- 基盤研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 2002
2002年から2006年に渡り、研究分担者それぞれが、マダガスカルを中心に、<マダガスカル人>と深い歴史的あるいは政治-経済的な繋がりを持つフランス、レユニオン、モーリシャス、マレーシアの各地域において実地調査を行い、資料を独自に収集した。2002年にマダガスカルにおいては、地方独立制を導入した大統領を選挙で破り、新大統領が就任した。しかしながら、新大統領も地方独立制政策を継承したのみならず、顕著な新自由主義的な経済政策を採用したため、マダガスカルに生活する人びとの間における貧富の格差はこの調査期間中にさらに増大し、生活のための資源の獲得をめぐる競争はますます激化する様相を呈している。このような生活をめぐる状況の中で、私たちが調査を行ってきたマダガスカルの人びとが資源の獲得と配分について共通に生み出しつつある生活戦略の特徴は、<アドホック>と<小規模性>の二語に集約されるであろう。経済学のようなマクロな視点から捉えるならば、このような単語には効率化や計画性の対極に位置されるべき否定的な属性だけが付与されるかもしれない。けれども、<生活者>としての個体に視点を据えるならば、経済学的な<資本>を持たない人びとにとって、自分の身近にあるありとあらゆる<物>を生存資源とし、さらには売買される<商品>と化すことの可能性を常に保持しておくことこそが、あたかも自己の手の届かないところから突然降ってくるような米をはじめとする物価の急上昇および法律と言う名で課せられるさまざまな拘束あるいは剥奪に対し、自己の生存を保障してくれる唯一と言ってよい生活戦略に他ならない。現在の政治・経済状況の中では、国家公務員でさえこのような生活戦略と無縁ではない。一つの生産活動や生活形態に依存しないこと、何時でも他の生産活動や生活形態に従事したり移行したりすること、余剰生産を目指すわけではないが余剰のある時はその物をすばやく<商品>として提供すること、このような生活様式は、農村であれ都市であれ現代マダガスカルの大半の人びとの中に、深くしみこんだものである。それゆえ現代マダガスカルの人びとの間では、めまぐるしく<資源>となる物が新しく登場しあるいは移り変わっている。本研究は、このような現象に対し一つの道筋をつけたと言えるが、人間の想像力が生み出す多彩な生活戦略の一端に触れたにすぎず、さらなる資料の蓄積と分析の深化が必要である。