著者
井上 裕子 松山 祐輔 伊角 彩 土井 理美 越智 真奈美 藤原 武男
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.283-294, 2020-04-15 (Released:2020-05-08)
参考文献数
37

目的 う蝕は進行性の疾患であり,う蝕と診断された場合には早期に受診し適切な管理を受けることが重要である。しかし,う蝕と診断されても歯科受診に至らない子どもの存在が問題となっている。本研究では,う蝕と診断された子どもの歯科受診に消極的な保護者の態度(消極的受診態度)に関連する要因を明らかにすることを目的とした。方法 東京都足立区で実施された「足立区子どもの健康・生活実態調査」の2016年の調査データを使用し横断研究を行った。区立小学4年生,6年生,中学2年生の保護者1,994人に調査票を配布し,1,652人から有効回答を得た(有効回答率83%)。子どものう蝕が指摘された場合に保護者がすぐに歯科医院に連れて行けるかを「すぐに行く」「すぐには行けない」の二択で回答を得た。また,すぐには行けないと回答した理由についても回答を求めた。受診態度が実際の受診行動を反映しているか検証するために,学校歯科健康診断の結果から得た未処置歯の有無とクロス集計し,指標の妥当性を確認した。受診態度および未処置歯の項目が欠損値でない1,613人を対象に,消極的受診態度と子どもの性別,学年,世帯収入,父母の最終学歴,家族構成,きょうだい人数,祖父母との同居,父母の就業形態,父母の帰宅時間,朝食の頻度,間食摂取の自由度,ジュースの摂取頻度,歯みがき回数,子どもとの関わりの関連をロジスティック回帰分析で検証した。結果 269人(16.7%)の保護者が消極的受診態度を示した。その理由として「歯科医院へ連れていく時間がないから」(172人,55.8%)がもっとも多かった。未処置歯のある子どもの保護者は消極的受診態度を示す者が有意に多かった(P<0.001)。母親の最終学歴が中学校または高校であること,子どもが朝食を食べないこと,歯磨き回数が少ないことが保護者の消極的受診態度に有意に関連した。小学生においては,母親が就業していること,母親の帰宅時間が遅いこと,保護者が子どもの勉強をみていないことも保護者の消極的受診態度に有意に関連した。結論 医療費助成のある地域であっても,子どもの歯科受診は母親の社会的背景および家庭要因の影響を受けることが明らかになった。消極的受診態度の改善には,医療費助成だけでなく,家庭の社会的背景にも配慮した支援を積極的に行っていくことが求められる。
著者
藤原 武男
出版者
独立行政法人国立成育医療研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、日本において養育者に乳児の泣きに関する正しい知識と適切な対応に関する教材を用いて介入することにより、虐待予防に必要な知識と行動の変容があるかどうかを、ランダム化比較試験により検証した。その結果、介入群は、泣きの知識および突発的な揺さぶりを防ぐと考えられる行動を有意に多くとっていた。日本においても、この教材により乳児の虐待を予防できることが示唆された。
著者
船山 理恵 小椋 千沙 清水 香織 国崎 玲子 藤原 武男 越智 真奈美 高橋 美惠子 松岡 朋子 清水 泰岳 新井 勝大
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.718-724, 2016 (Released:2016-04-26)
参考文献数
24

【目的】小児クローン病 (Crohn's Disease; 以下、CDと略) 患者における栄養療法・食事療法の QOLへの影響について検討する。【方法】小児 CD患者27名を対象に、栄養療法や食事療法に関するアンケート調査を行い、IBDQスコアを用いて QOLを評価した。栄養療法実施群と非実施群で IBDQスコアを比較し、重回帰分析により栄養療法・食事療法 と IBDQスコアの関連性を検討した。【結果】栄養療法実施群と非実施群の IBDQスコアに有意差は認めず、重回帰分析より「体調悪化を感じる」食品数が IBDQスコアに有意に関連し、一方で栄養療法は IBDQスコアに関連しないことが明らかとなった。栄養療法実施群では、実施の理由を「医師に言われたから」「病気の悪化を予防できる」と回答していた。【結論】栄養療法は患者の QOLに関連しないことが明らかとなった。栄養療法を行っている患者は、その意義と効果を理解していると思われた。
著者
三瓶 舞紀子 藤原 武男 伊角 彩
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.393-404, 2021-06-15 (Released:2021-06-25)
参考文献数
29

目的 欧米の研究では,妊娠期や出産後早期に泣きに関する知識やその対処に関する知識教育をすることで,乳幼児揺さぶられ症候群を予防できるといわれている。しかし本邦で妊娠期におけるこれらの教育の効果を検証した研究はない。本研究では,厚生労働省が作成した乳幼児揺さぶられ症候群予防のための教育的動画「赤ちゃんが泣きやまない」を妊娠期に視聴することによる知識向上に関して検証することを目的とした。方法 2013年4月1日~2014年3月31日の間に全国の46自治体で,妊娠中の両親学級の機会を利用して教育的動画の視聴と効果検証のための調査票の配布を行った。調査票の主な項目は,本人および家族の属性,妊娠がわかった時の状況,泣きおよび揺さぶりに関する知識であり,泣きおよび揺さぶりに関する知識についてはビデオ視聴後にも確認した。5,246人に調査票を配布し4,769人から回収し(回答率91%),泣きに関するおよび揺さぶりに関する知識について回答がある4,647人(有効回答率89%)を分析対象とした。 これまでの研究と同様に,泣きに関する知識については「赤ちゃんが泣いているときにいつもどこか具合が悪いサインだと思いますか」など計6問,揺さぶりに関する知識については「泣き止ませるために赤ちゃんを激しく揺さぶることは,良い方法だと思いますか」など計2問で測った。4件法による回答を0~3点とし,それぞれ動画視聴の前後で合計点を0-100点に換算し前後比較した。さらに属性に関して層別化および前後の増加分に対する回帰分析を行った。結果 泣きに関する知識については,視聴前後で17.5点(95%信頼区間;CI;17.1-17.9),揺さぶりに関する知識については,視聴前後で6.8点(95%CI;6.3-7.2)と,有意に知識の増加が認められた。これらは,属性等に関してそれぞれ層別化しても,同様の結果であった。さらに,知識の増加分に対する共変量の回帰分析の結果,泣きに関する知識では,回答者が男性,第1子,うつ傾向ではない者が知識の増加がより顕著であった。揺さぶりに関する知識では男性,第1子,妊娠時の気持ちに「予想外だがうれしかった」と回答した者が知識の増加がより顕著であった。結論 乳児の泣きおよび揺さぶりに関する教育的動画の妊娠期の視聴により,父親となる者を含むどの属性においても知識の向上が確認された。
著者
伊角 彩 藤原 武男 三瓶 舞紀子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.702-711, 2019-11-15 (Released:2019-11-26)
参考文献数
22

目的 本研究は,死亡率の高い乳幼児揺さぶられ症候群の予防のために厚生労働省が作成した乳児の泣きに関する教育的動画「赤ちゃんが泣き止まない」によって,乳児期の子どもをもつ親の泣きや揺さぶりに関する知識が向上するかについて効果検証を行うことを目的とした。方法 調査協力の得られた全国の29自治体が,2013年4月1日~2014年3月31日に3~4か月時の乳幼児健診などの機会を利用して1歳未満の子どもをもつ親を対象に教育的動画を視聴させ,その前後に配布した調査票データの2次解析を行った(N=1,444)。調査票を回収した1,354人(回収率93.8%)のうち,主たる変数の回答に欠損がない1,232人を分析対象とした。調査票では,泣きに関する知識を問う6項目(例:「赤ちゃんが泣いているときにいつもどこか具合が悪いサインだと思いますか」)と揺さぶりに関する知識を問う2項目(例:「泣き止ませるために赤ちゃんを激しく揺さぶることは,良い方法だと思いますか」)について4件法(0~3点)で親に回答を求めた。それぞれの知識に関して合計点(0~100点に換算)を求め,動画視聴の前後で比較した。また親・子ども・世帯の属性や妊娠・出産後の状況による層別化分析,さらに知識スコアの上昇分に関して回帰分析を行った。結果 動画視聴によって泣きに関する知識が12.4点(95%信頼区間:11.7-13.2),揺さぶりに関する知識が4.7点(95%信頼区間:3.9-5.6),有意に上昇した。親の年齢・性別,子の月齢・性別,第一子,婚姻状況,学歴,世帯収入,祖父母との同居,産後うつ,妊娠期からの家庭内暴力(DV),妊娠がわかったときの気持ち,居住地の規模に関してそれぞれ層別化した結果,既婚以外の群と身体的DV被害者群を除いたすべてのサブグループで,有意な知識の増加が確認された。また,動画視聴前後の知識上昇分をアウトカムとして重回帰分析を行ったところ,親の学歴が低い場合より高い方が泣きの知識の上昇分が高かった。揺さぶりに関しては,女性より男性の方が知識が増加し,また祖父母と同居している場合より同居していない方が知識が増加していた。結論 乳児の泣きに関する教育的動画の視聴は,3~4か月時の乳児をもつ親の属性や状況に関わらず,泣きや揺さぶりの知識を向上させる効果があることが確認された。
著者
藤原 武男 高松 育子
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.330-337, 2010-12

これまでにわかっている研究によれば,自閉症の環境要因と考えられたのは(1)妊娠初期の喫煙,(2)水銀,(3)有機リン酸系農薬,(4)ビタミン等の栄養素,(5)親の高齢,(6)妊娠週数,(7)出産時の状況(帝王切開等),(8)夏の妊娠,(9)生殖補助医療による妊娠,が考えられた.一方,関連がないと考えられる環境要因は(1)妊娠中のアルコール,(2)PCB,(3)鉛,(4)多環芳香族,(5)社会経済的地位,(6)ワクチン,(7)低出生体重,であった.これらは再現性のあるものもあればないものもあり,さらなる研究が必要である.その意味で,日本で実施される大規模な出生コホートであるエコチル調査に期待したい.