著者
小泉 諒 西山 弘泰 久保 倫子 久木元 美琴 川口 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.592-609, 2011-11-01 (Released:2016-09-29)
参考文献数
30
被引用文献数
4 8

本研究では,1990年代後半以降における東京都心部での人口増加の受け皿と考えられる超高層マンションを対象にアンケート調査を行い,その居住者特性を明らかにするとともに,今日における住宅取得の新たな展開を考察した.その結果,居住者像として,これまで都心居住者層とされてきた小規模世帯だけでなく,子育て期のファミリー世帯や,郊外の持ち家を売却して転居した中高年層といった多様な世帯がみられた.それぞれの居住地選択には,ライフステージごとに特有の要因が存在するものの,その背景には共通した行動原理として社会的リスクの最小化が意識されていることが推察された.社会構造が大きく変化し雇用や収入の不安定性が増大している中で,持ち家の取得は,機会の平等が前提された「住宅双六」の形態から,個々の世帯や個人の資源と合理的選択に応じた「梯子」を登る形態へと変化したと考えられる.
著者
中澤 高志 川口 太郎 佐藤 英人
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.181-197, 2012-09-30 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
6

本稿では,ある大学の卒業生に対するアンケート調査に基づき,東京圏に居住する団塊ジュニア世代の居住地移動について分析する.団塊ジュニア世代を含む少産少死世代は大都市圏出身者の比率が高い.そのため結婚までは親と同居する例が多く,特に給与住宅への入居機会が少ない女性においてその傾向が強い.結婚後,持家の取得に向かう居住経歴を辿ることは,多産少死世代と共通していた.夫婦のみの世帯や子どもが1人の世帯が結婚後の比較的早い段階で集合持家を取得する傾向にあるのに対し,子どもが2人以上の世帯では第2子が誕生した後に戸建持家を取得する傾向にある.大学卒業以降の対象者の居住地の分布変動は少ない.これは,居住経歴の出発点が東京圏内に散在している上に居住地移動の大半が短距離であり,外向的な移動と内向的な移動が相殺しあっているためである.都心周辺に値頃感のあるマンションが供給されている状況でも,郊外に居住する対象者は多い.郊外に勤務先を持つ対象者は,通勤利便性を重視して勤務地と同一セクターに居住地を選択する傾向にある.少産少死世代は親も同じ大都市圏に居住している場合が多いため,親との近居を実現できる可能性が高い.対象者でも結婚後に親と近居する傾向が明瞭にみられた.
著者
西山 弘泰 小泉 諒 川口 太郎
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.35-35, 2009

本発表では,1970年以降東京都心から25~30km圏に立地するアパートに着目し,その居住者の実態を明らかにすることを目的としている.本研究の対象地域は東京都心から25km,埼玉県南西部に位置する東武東上線鶴瀬駅半径1kmを範囲とした住宅地である(図2).当地域は埼玉県富士見市,三芳町の一部で,小規模な戸建住宅や共同住宅,商店などが混在している.都市計画法による用途地域は,第1種中高層住居専用地域(建蔽率60%,容積率200%)が主ある.東武東上線鶴瀬駅から池袋駅までの所要時間は約30分と比較的都心へのアクセスは良い.鶴瀬駅周辺の住宅地開発は,1957年の公団鶴瀬第一団地,1962年の公団鶴瀬第二団地の開発に端を発し,その後地元や東武東上線沿線の中小ディベロッパーを中心とした小規模な戸建住宅地開発,農家や地主のアパート建設が中心である.アパートの建設は1970年以降増加し,1980年代から1990年代前半にかけて増加が著しい.これは鶴瀬駅の南隣にあるみずほ台駅の土地区画整理事業が完了し,そこに地権者がアパートを建設したことや,農家や地主が地価の上昇によって不動産収入が必要になったこと,共同住宅建設に住宅金融公庫の融資を受けられるようになったことなどが要因と考えられる.2005年の国勢調査によると対象地域においてアパートに居住する世帯は3,266世帯である.本研究では2009年3月,対象地域に立地するアパート3,000戸にポスティングによるアンケート調査を実施し,135票(回収率4.5%)の郵送回答を得た.対象者の世帯の種類は,単身世帯が72世帯,夫婦のみの世帯17世帯,夫婦と子からなる世帯が26世帯,片親と子からなる世帯が13世帯,その他の世帯が7世であった.単身世帯が半数以上を占めているものの,世帯構成以外に,年齢,職業,学歴,出身地などは多様で一括りにすることは困難である.単身者は40歳未満が40世帯,40歳以上が32世帯で平均年齢41.8歳であった.住居の間取りは1Kや1DKで,一戸当たりの平均延べ床面積は27.0_m2_であった.また築年数は10~19年,駅から徒歩10分のアパートを4万円以上6万円未満で居住するというのが平均的である.単身者の仕事は,37人が正規の職に就いており,17人がアルバイト・パート,派遣・嘱託といった非正規労働に従事している.その他,学生が6人,無職・家事が12人であった.40歳未満の若年単身者の居住期間が約3年と短いのに対して,40歳以上の単身者は7年と永い.夫婦のみの世帯は,40歳未満の比較的若い層が17世帯中11世帯と多かった.住居の間取りは,2DKや2LDKで,一戸当たりの平均延べ床面積は46.5_m2_,家賃は6万円以上8万円未満が最も多かった.転居の意向をみてみると,40歳未満の世帯で転居予定の世帯が多かったのに対して,40歳以上の世帯で不明確な回答が多かった.夫婦と子からなる世帯も夫婦のみの世帯同様40歳未満の比較的若い世帯が大半を占めていて,第一子も小学校就学前が多くなっている.間取りや延べ床面積,家賃については,夫婦のみの世帯と類似している.40歳以下の世帯では転居志向が強く,転居先は近隣の戸建住宅を購入することを希望している.一方,夫が40歳以上の世帯では居住年数が平均12年と長くなっていて,転居意思が低いのが特徴である.最後に,片親と子からなる世帯では,1世帯を除いた12世帯が母子世帯であった.家賃は6万円以上8万円未満と6万円未満が同数であった.築年数をみてみると他のグループと比べ築年数が経過しているアパートに居住する世帯が多いのも特徴である.明確な転居意思を持った世帯は皆無であり,滞留傾向が強くなっている.以上のように,若年の単身者やファミリー世帯においては,転居意思や居住年などから従来のようにアパートが仮の住まいとして認識されていることがわかる.一方で,比較的年齢の高い層や片親世帯などはアパートに滞留する傾向がみられることが指摘できる.
著者
中澤 高志 佐藤 英人 川口 太郎
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.144-162, 2008 (Released:2018-01-06)
参考文献数
27
被引用文献数
8 6

This paper examines the process of generational transition in two suburban neighborhoods in the Tokyo metropolitan area, focusing on the inter-generational reproduction of social status in their residents. One neighborhood is the Kamariya District located in the southwestern sector of the Tokyo metropolitan area. The other is the Yotsukaido District in the eastern sector. Both neighborhoods were developed in the 1970s as residential districts for commuters to the downtown, and are situated 40 kilometers away from Tokyo Station, the center of the Tokyo metropolitan area. The two neighborhoods are similar in the ages, educational attainments, and occupational class of the first generation residents: Husbands who are now in their 60s or 70s were typically white collar workers employed by major companies or the public sector and once commuted to the central business district by train and bus in relay, while wives stayed at home devoting most of their time to housekeeping and childrearing. The first generation residents of both neighborhoods think it ideal to keep independent of, but in close relationships with, their adult children.The broad similarity between the two neighborhoods seems to verify a prevailing recognition that the suburbs are a homogeneous space not only physically but also socially; however, comparison of the social status of the second generation demands re-investigation. The male second generation of the Kamariya District have well succeeded to the high social status of the first generation. On the contrary, the process of inter-generational reproduction of social status does not seem to function well in the case of the Yotsukaido District. More of the Yotsukaido second generation are in non-permanent positions or unemployed in the labor market and live with their parents than the Kamariya second generation.It is also interesting that the two groups of the second generation who are already married are distributed differently within the Tokyo metropolitan area. The residences of the Kamariya second generation are concentrated around the Kamariya District. The married second generation of the Yotsukaido District live also mainly within the eastern sector where the Yotsukaido District is located, however, the pattern of the distribution shows more expansion to the opposite side of the metropolitan area than that of the Kamariya second generation. Both Kamariya and Yotsukaido districts were once thought of as appropriate residential neighborhoods for downtown white collar workers. The difference in the distribution of the married second generation implies that the Kamariya District is still recognized as a commuter’s neighborhood by the second generation, but Yotsukaido no longer is.Along with the generational transition, some suburban neighborhoods will remain residential areas of commuters to the downtown who have high social status, whereas some neighborhoods are changing into self-contained territories which include both home and workplace, experiencing fluctuations in the attributes of residents.
著者
小泉 諒 西山 弘泰 久保 倫子 久木元 美琴 川口 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 = Geographical review of Japan (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.592-609, 2011-11-01
参考文献数
30
被引用文献数
8

本研究では,1990年代後半以降における東京都心部での人口増加の受け皿と考えられる超高層マンションを対象にアンケート調査を行い,その居住者特性を明らかにするとともに,今日における住宅取得の新たな展開を考察した.その結果,居住者像として,これまで都心居住者層とされてきた小規模世帯だけでなく,子育て期のファミリー世帯や,郊外の持ち家を売却して転居した中高年層といった多様な世帯がみられた.それぞれの居住地選択には,ライフステージごとに特有の要因が存在するものの,その背景には共通した行動原理として社会的リスクの最小化が意識されていることが推察された.社会構造が大きく変化し雇用や収入の不安定性が増大している中で,持ち家の取得は,機会の平等が前提された「住宅双六」の形態から,個々の世帯や個人の資源と合理的選択に応じた「梯子」を登る形態へと変化したと考えられる.
著者
戸所 隆 宇根 寛 山田 晴通 鈴木 厚志 長谷川 均 川口 太郎
出版者
高崎経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

パラダイム転換を必要とする時代には、地理学を伝統的な総合的基礎科学としてだけでなく、広範な応用科学・政策科学として発展させ、社会貢献しつつ学問的に発展できる地理学に変身させる必要がある。それには、研究者養成や地理教員養成以外にも通用する資格として地域調査士を創設し、その必要性を国民各層に広報・周知させなければならない。本企画調査は地域調査士の創設を目的検討してきた。本企画調査は(社)日本地理学会企画専門委員会のメンバーで東京・群馬を中心に月一回の研究会を開催した。また、地域調査士の創設の是非やそのあり方に関して、教育・研究者の立場から(社)日本地理学会会員に、需要者の立場から地理学および関連専攻学生にアンケート調査を実施し、地域調査士を採用する立場から国や都道府県・市町村関係者、コンサルタントや観光関係などの企業関係者に聞き取り調査を行った。さらに、資格制度を先行的に導入した社会調査士認定機構等にも訪問調査した。その結果、地理学の本質を社会化する新たな資格制度の創設は、次に示す理由から社会的に意義が大きいと判明した。すなわち、(1)分権化社会への転換に伴う地理的知識や技能に基づく地域調査需要の増大(2)地理学の有用性と社会貢献を社会にアピールする認知システムの確立(3)各種資格制度創設ラッシュにおける地理学独自の資格制度の必要性(4)現代社会に必要な幅広い地理的知識を提供できる専門的人材の育成システムの構築である。以上の結論に基づき、制度設計(調査士と専門調査士・認定制度・標準カリキュラム・継続教育・更新制・学会としての講習会)や事務体制・財政的見通し、倫理規程、関連他学会との協力体制、導入スケジュールの基本を検討した。その結果、今回の企画調査によって、制度導入の道筋をつけることができ、制度導入実現に向けての次のステップに進むことができた。
著者
中澤 高志 川口 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.12, pp.685-708, 2001-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
61
被引用文献数
2 4

本稿では長野県出身の東京大都市圏居住世帯に対して行ったアンケート調査に基づき,ライフコース概念を取り入れて,地方出身者世帯の大都市圏内での住居経歴を分析する.住居経歴は40歳世代, 50歳世代, 60歳世代の三つの世代について収集し,住居経歴の終点が特定の地域に収敏することのない発地分散的データであるという特徴を持つ.大都市圏内の住居移動に関する一般的特徴の多くは世代を超えて安定しており,結婚後の住居移動回数はおおむね1~2回で, 20歳代後半から30歳代前半の時期に住居移動の頻度がピークに達する.世帯が持家の取得を目標とすることは世代を通じて揺るぎないが,持家を取得する時期は住宅市場の動向に左右され,取得する持家の形態も戸建住宅から集合住宅へと世代を追って急速に変化した.住居移動の空間的特徴は,短距離移動,セクター移動,外向移動が卓越していることであり,これらは郊外に向かう跳躍的移動と従前の居住地の周辺で行われる短距離の移動に大別される.世帯の持家取得欲求は大都市圏の同心円的な地価水準の下で実現されるため,外向移動はとりわけ持家を取得する移動に典型的にみられ,結果として居住の郊外化が大きく進展する.すなわち家族段階の発達とそれに伴う住居形態の変化という住居経歴の時間的軌跡は,住宅市場の動向に代表される社会経済的背景と大都市圏の同心円構造を反映した空間的軌跡として現出するのであり,それ自身が大都市圏を外延化させる原動力となっていた.
著者
久木元 美琴 西山 弘泰 小泉 諒 久保 倫子 川口 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.23, 2011

近年,大都市都心部での多様な世帯を対象としたマンション開発にともない,子育て世帯の都心居住や都心部での保育所待機児童問題が注目を集めている.都心居住は職住近接を可能にするため,女性の就業継続における時空間的制約を軽減する一方で,都心部では急増した保育ニーズへの対応が追い付いていない.そこで,本研究は,都心湾岸部に居住する子育て世帯の就業・保育の実態とそれを可能にする地域的条件を明らかにする.発表者はこれまで,豊洲地区における民間保育サービスの参入実態を明らかにしてきた.本発表では,共働き子育て世帯の属性や就業状況,保育サービス利用の実態を検討する.<BR>調査方法としては,豊洲地区の保育所に子どもを預ける保護者を対象に,2010年11月にアンケート調査を実施した.豊洲地区に立地する13保育所のうち,協力を得た7保育所(認可5施設,認証2施設)において,施設を通じて配布し郵送にて回収した.総配布数659,総回答数207(31.4%),有効回答数203(30.8%)であった.このうち,豊洲1~5丁目在住の170世帯を抽出し分析対象とした.<BR> 結果は以下のとおりである.全体の9割が2005年以降に現住居に入居した集合住宅(持家)の核家族世帯で,親族世帯は4世帯と少ない.世帯年収1000万円以上,夫の勤務先の従業員規模500人以上が7割程度と,世帯階層は総じて高い.また,夫婦ともに企業等の常勤や公務員といった比較的安定した雇用形態で(70.0%),ホワイトカラー職に就く世帯が全体の過半数を占める.さらに,夫婦の勤務先は都心3区が最も多く,それ以外の世帯の多くも山手線沿線の30分圏内と,職住近接を実現している.<BR> ただし,帰宅時間には夫婦で差がある.普段の妻の帰宅時間は19時以前が147回答中141で,残業時でも20時以前に帰宅する者が多い.他方,夫は残業時に20時以前に帰宅する者は少数で,23時以降が最も多い.残業頻度が週3日以上の妻は約2割である一方で,夫は半数近くが週3日以上の残業をしている.<BR>また,回答者の約6割が待機期間を経て現在の保育所に入所している.待機中の保育を両親等の親族サポートに頼った者は4世帯に過ぎず,妻の育児休業延長や,地域内外の認可外保育所や認証保育所などの民間サービスによって対応していた.予備的に行った聞き取り調査では「確実に認可保育所に入れるために,民間の保育所に入園した実績を作っておく」という共働き妻の「戦略」も聞かれた.さらに,妻の9割近くが育児休業を,約8割が短時間勤務を利用している.妻の過半数は従業員500人以上の企業に勤務しており,育児休業取得可能期間が長く短時間勤務の利用頻度も高い傾向にあるなど,充実した子育て支援制度の恩恵を享受している.<BR>以上のように,本調査対象の子育て世帯は,夫婦共に大企業に勤務するホワイトカラー正規職が多く,職住近接を実現している.特に,充実した子育て支援制度や,民間保育所を利用し認可保育所に確実に入所させるといった戦略によって,就業継続を可能にしている.ただし,妻の働き方は必ずしもキャリア志向ではないことが特徴的である.<BR>また,回答者の過半数が現在の保育所に入所する前に待機期間を経験し,待機期間には妻の育児休業の延期や民間サービスの利用で対応している.この背景には,当該地区における豊富なニーズを見越した民間サービスの参入があると同時に,これらの子育て世帯が認可保育所に比較して一般に高額な民間保育所の保育料を支払うことのできる高階層の世帯であることが示されている.
著者
川口 太郎 中澤 高志 佐藤 英人
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

高齢化がすすむ大都市圏の郊外住宅地の持続可能性を住民特性の面から検討し,内郊の「街なか化」する住宅地,外郊の「地元化」する住宅地,アッパーミドルの「孤立化」する住宅地を見出した。また,第二世代の居住地選択は,働き方や家族の在り方が多様化するなかで,単線的・画一的にとらえることが難しくなったものの,そのなかで実家との関係性が選択に際して大きな位置を占めていることが明らかになった。