著者
西川 克之
出版者
北海道大学観光学高等研究センター = Center for Advanced Tourism Studies, Hokkaido University
雑誌
観光創造研究
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-13, 2009-11-20

以下の小論においては、主に18 世紀後半から19 世紀前半にかけてのイギリス社会における社会統制のある断面を考察の対象とする。この時期、イギリスは社会や産業の近代化を達成することになるが、そのプロセスの中で労働の様態も根本的に変化し大規模化・規律化されていく。その結果、労働と余暇は時間的にも空間的にも分節化され、労働者にも余暇時間が拡大していく。一方でまたこの時代には、社会的にも文化的にも影響力を強め始めた中流市民層によって、祝祭性を伴うことも多かった民衆娯楽や伝統行事のいくつかが「野蛮」「非文明的」であるとして抑圧され、それに替わって「合理的な」レクリエーションが盛んに推奨されるようになる。大衆の余暇時間の過ごし方に対するこうした抑圧や誘導は、人道主義的な慈善に由来するように見えながら、暴動を起こすなどして社会秩序を乱しかねない労働者を馴致しようという意図に基づいた社会統制であったと考えられる。 This paper discusses how a form of social control was exercised in England in the late 18th and early 19th centuries. In the process of social and industrial modernization, the mode of work was also fundamentally transformed in the way work was more and more concentrated and disciplined. As a result, work and leisure were segmented both in temporal and spatial terms and leisure was extended to workers. In this period, meanwhile, some popular entertainments and traditional events which had often unleashed festivity were suppressed as "savage" and "uncivilized" and instead "rational" recreation was strongly recommended by the bourgeois middle class gaining more social and cultural influence. This regulation and induction of how spare time should be used seems, as alleged, to derive from humanitarian compassion but in fact can be regarded as a form of social control based on the intention to domesticate the working class who were feared to disturb the social order by uprisings.
著者
新井 潤美 西川 克之 松本 朗 小山 太一 佐々木 徹 丹治 愛 草光 俊雄 加藤 めぐみ 前 協子 安藤 和弘
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

① 1981年の『炎のランナー』以降、サッチャー政権下のイギリスは、のちにヘリテージ映画と呼ばれることになる多数の映画を生み出していく。代表的なヘリテージ映画を解釈しながら、それらの映画がどのような主題的、映像的、イデオロギー的特徴を共有しているのかを具体的に議論した。② その一方で、ヘリテージ映画にかんする代表的な批評論文(とくにアンドリュー・ヒグソンのもの)を読み、自分たちが進めてきた個々の映画の作品論に照らして、その一般的な定義を批判的に検証し、それがもつ問題点をあぶり出すとともに、ヘリテージ映画にかんする新たな定義にむけて議論を重ねた。
著者
西川 克之
出版者
Research Faculty of Media and Communication, Hokkaido University = 北海道大学メディアコミュニケーション研究院
雑誌
The Theory and Practice of Contents Tourism
巻号頁・発行日
pp.1-7, 2015-03-16

本報告書第1章で論じられているように、テレビドラマや映画あるいはアニメや漫画などのコンテン ツはいくつかの機能を果たしうる。大衆文化に根ざしたものの場合は特に、親しみやすさを駆動力とし て国家や地域の境界をやすやすと越えて行き、ソフト・パワーとして国や社会のイメージを肯定的なも のに転換する効果をもたらすことがあるだろう。そのようなコンテンツに直接的あるいは間接的に誘引 された観光客は、旅行の道程あるいは旅行先でさまざまな商品やサービスを消費し、もって目的地の社 会に一定の経済的利益をもたらす。経済産業省を中心として日本政府が昨今「クールジャパン」の売り 込みを成長戦略のひとつとして打ち出したのも、コンテンツがもつこうした社会的あるいは経済的波及 効果に照準を合わせてのことであるのは明らかである。 もちろんコンテンツ・ツーリズムについて論じようとする際に、そのような要素は重要な論点となり うるし、実際、本報告書のいくつかの章においても触れられている。しかしながら、このはしがきにお いては、そうした実利的な効果や影響については脇に置いて、コンテンツに誘発された観光客は目的地 でいったい何をまなざし経験しているのかという点について、文化学に近い立場から試論的に考えてみ たい。
著者
西川 克之
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

観光は社会の近代化によってもたらされた諸条件を前提としてはじめて成立したものである。多様な観光現象の分析を試みる際には、そうした諸条件への参照に常に立ち返る必要があると思われる。本研究課題では、近代社会が本格的に展開し始めた時代のイギリスにおいて、絵画というメディアによって誘発され、そこに描かれたイメージを手本として自然景観に美的感興を見出していこうとする観光行動に、近代観光のひとつの原型的なモデルがあるとの仮定に立ち、またそうしたあり方が観光の大衆化とそれへの反発というジレンマとも密接に関連していたという枠組みのもとで、実際の観光現象の分析に応用することを試みた。