著者
西川 洋史
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.139-145, 2022 (Released:2022-12-20)
参考文献数
13

透明骨格標本は製作過程で微細な骨を紛失することはなく,立体構造も本来の状態で保存されるため骨格の観察をするのに適している.しかし,その製作には法律上毒物や劇物の指定を受けている薬品を必要とする.また脱脂で使うキシレンや組織固定用の酢酸は臭気が強く,生徒が気分を悪くすることも多いため,換気を十分に行わなければならない.このような安心安全に関する配慮や手間は透明骨格標本の作製を現場で実施する上で障壁となる.そこで本研究では劇物・毒物を使用せずに,透明骨格標本を作製する方法を検討した.その結果,70%アルコール固定後のキンギョを30°Cの洗濯洗剤に10日間浸漬し,30 μg/mLアリザリンレッドS水溶液で2時間染色後,グリセリンに移し替えるだけで脊椎骨や肋骨をはじめとする内部の細かな硬骨を観察できる標本ができることが分かった.授業実践ではキンギョ以外の十数種類の魚の標本を生徒に作らせることができ,多くの魚種で本手法が適用できることが示された.アリザリンレッドS以外に必要となる洗濯洗剤とグリセリンは,市販品であることから容易に入手することができる.本研究の成果は,授業や探究活動での透明骨格標本の導入を加速するだろう.
著者
西川 洋史
出版者
教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:18802621)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.62-70, 2021 (Released:2021-05-20)
参考文献数
9
被引用文献数
2

透明骨格標本の作製では,骨格染色後に筋肉を透明化するため,微細な骨やそれらの立体配置は適切に保存される。特に小型魚は全身の骨格を観察が可能なので,骨の役割を学習するのに適している。現在,理科教材会社より透明骨格標本や標本作製キットを入手することが可能であり,授業での活用も広がっていることが伺える。しかし,透明骨格標本は高価であり生徒一人一人が観察をする分を準備することは難しい。標本の透明化にはタンパク質や脂質除去が重要である。本論では,食器用洗剤への長時間浸漬による透明化を試み,脊椎骨の観察が可能なレベルまで透明化するものを見出したのでこれを報告する。また,本実践では,生徒ごとに異なる実験条件に取り組ませ,その結果を互いに評価しあい,考察をさせた。この実践プロセスから,多数の仮説設定を生徒あるいはグループごとに分担させ,それを持ち寄って結論を導くという協働型探究学習を提案する。
著者
西川 洋史
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.675-680, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
8

生物分類や発生生物学領域の研究で作製される透明骨格標本は,生体標本にアリザリンレッドSやアルシアンブルーなどの染色液を浸透させ,硬骨及び軟骨を染色後に内臓・筋肉の組織を透明にした標本である。透明骨格標本の作製方法は様々であるが,一般的にホルマリンや水酸化カリウムなどの危険な化学薬品を使うことが多い。脂質除去に用いるキシレンやアセトンなどの有機溶剤は,臭気が強いため,生徒によっては気分が悪くなることがある。このような安全性や快適性の問題から,授業において生徒に透明骨格標本を作製させることは難しい。タンパク質分解で用いるトリプシンや透徹に使う高純度グリセリンは高価であり,中高等学校における生徒実験としてルーチン化するにはコスト面で問題がある。また,透徹処理で使用する水酸化カリウムは,強アルカリのため生徒が扱う際には注意喚起と皮膚接触時の対応が必要であり,安全性に気をつける必要がある。しかし,透明骨格標本の製作過程では,生体をほとんど解体する必要がないため,微細な骨を紛失することがなく,骨の立体配置やバランスもほぼ完全に保存されている。従って,骨と内臓の位置関係や運動機能,発生を考えるのに適した教材と言える。例えば海洋環境教育や理科教育における持続的発展教育ESD(Education for Sustainable Development)での活用事例がある。そこで本研究では,安全性向上のために透徹用試薬を検討した。具体的にはトリプシンの代わりにパパインを使用した。また,水酸化カリウムとグリセリンの代わりに各種弱アルカリ物質と洗剤を検討した。その結果,リン酸水素ニナトリウム飽和溶液が透徹に効果的であることがわかった。
著者
西川 洋史
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.23-28, 2020 (Released:2021-04-21)
参考文献数
11
被引用文献数
2

研究用高純度グリセロールは透明骨格標本作製時において透明化や保存のために必要である.しかし,学校教育現場では高いコストとなる.本研究ではグリセロールの代わりに家庭用食器洗剤を用いて透明骨格標本の作製を試みた.ミナミメダカ(Oryzais latipes)を10%ホルマリンに入れて室温下一晩の固定を行った後,各濃度の水酸化カリウムを溶解した5種類の食器洗剤に移し,35°Cで2週間インキュベートした.その結果,水酸化カリウムの濃度に応じて透明化が促進され,数種類の洗剤では脊椎骨を明確に観察することができた.次に,ホルマリン固定後にアリザリンレッドSで一晩染色した標本を同様に洗剤に漬けたところ,界面活性剤濃度が高い洗剤において硬骨染色を保った状態での透明化を確認した.食器用洗剤はグリセロールに比べると安価であり,ゆえに学校教育現場での透明骨格標本の活用が促されると思われる.
著者
西川 洋史
出版者
教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:18802621)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.37-44, 2020 (Released:2021-04-30)

マニキュアは, プレパラート標本のカバーガラスのシーリングに用いられる。しかし, その乾燥には時間がかかるだけではなく, アセトンやブチル酢酸などの有機溶剤の刺激臭があるため, 学校の授業での使用は避けたほうがよい。紫外線硬化樹脂は, 表面コーティングや接着あるいはシーリングに使用される工業用素材であるが, ネイルアートではマニキュアの代わりに利用される。この液体状の樹脂はUVA波長(315~400 nm)の照射によって数分間で硬化するため, 作業時間が短縮できるだけではなく臭気も弱い。そこで本研究ではメチレンブルー水溶液を封入したプレパラート標本を用いて, 数種類の紫外線硬化樹脂の水分の蒸発抑制能について検討した。その結果, プレパラート標本を20℃2週間でインキュベートした場合, 紫外線硬化樹脂はマニキュアよりも有意に水分蒸発を抑制した。紫外線硬化樹脂によるシーリング法はその扱いやすさと保存率の高さから, マニキュアの代替になるだろう。
著者
西川 洋史
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.110-116, 2019 (Released:2019-12-16)
参考文献数
11
被引用文献数
1

現在,生物の代謝産物を扱った生徒実験は呼気に含まれる二酸化炭素の検出など限られているが,魚類を小ケースで飼育すると比較的高いレベルのアンモニアが蓄積することが知られる.そこで市販の簡易検査キットを用いて魚類から排出されるアンモニア量を測定した.具体的には観賞魚として人気のあるキンギョCarassius auratus auratus,ミナミメダカOryzais latipes,エンゼルフィッシュPterophyllum scalare var.,コリドラスCoridoras aeneusを250 mlの飼育水に入れ,排出されたアンモニア濃度区分を求めた.その結果,キンギョ20個体またはコリドラス6個体を10分間室温で飼育したところ,数回の実験すべてにおいてのアンモニア濃度区分が1.5 mg/L以上に達した.これをもとに授業実践ではキンギョ10~20個体をビーカーに10分間入れて,排出されたアンモニア量を測定した.この一連の過程は50分間の授業内に終わり,かつすべての生徒が優位なアンモニア上昇を確認することができた.これまで水中のアンモニア検査キットは環境の観点から使われてきたが,本実験・教育実践では生理機能の観点から扱った.この展開は,生物代謝成分を直接扱って生物の主要構成元素の理解につなげていく教育実験系が網羅されたことを意味する.