著者
清水 圭介 椙村 憲之
出版者
山梨大学教育人間科学部附属教育実践研究指導センター
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:13454161)
巻号頁・発行日
no.6, pp.101-111, 2000

近年"遊び"を動機とした未成年者による凶悪な事件があいつぎ,その増加はTV ゲームの普及率と著しく一致していることが認められており,凶悪犯罪の影にあるTV ゲームの存在は否めない。しかし,今日これほどまでに家庭に普及したTV ゲームをただ単に「犯罪の温床になるから」という理由だけで完全に抹殺してしまって良いものであろうか? 本研究は,TV ゲームが子供たちに与える心理的影響を検討しつつ,今後の課題としてTV ゲームの持つ魅力を教育あるいは心理療法へ生かす道を探る。子供のゲーム感覚には,両親のTV ゲームに対する意識がかなり大きく左右する。ゲーム自体に慣れた子供では,短時間でもかなり優れたリラクゼーション効果を示す反面,内容が残酷でゲーム設定のかなり細かい箇所まで現実性を追求したソフトでは,使用後に抑鬱感や怒り感情を高める傾向がある。また反復使用により暴力に対する感覚や感受性を麻痺させるソフトもあった。
著者
太田 絵梨子
出版者
日本教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:1344946X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.27-39, 2019 (Released:2021-05-08)
参考文献数
44
被引用文献数
1

Homework can have both positive and negative effects on student learning. To overcome the negative effects and facilitate the positive ones, it is important for teachers to understand the underlying mechanisms of homework and how it relates to learning so that they can use the most effective methods of instruction and guidance. To provide a useful guide, this paper reviewed previous research studies and considered the roles of homework and effective instructional strategies from three psychological perspectives: behavioral, information-processing, and social constructivism. From a behavioral perspective, homework can be viewed as increasing opportunities for the repeated practice of knowledge and skills, whereas the information processing perspective places greater importance on the capacity of homework to promote deeper understanding and metacognition. Viewed from a social constructivist perspective, homework can promote the establishment of connections in the learning that occurs in school, at home, and in the wider community. Studies have shown that each of these roles of homework can contribute to the facilitation of meaningful learning and the support of students toward becoming self-initiated learners. However, there are some crucial challenges that remain in applying this knowledge to the actual school setting. This paper’s conclusion discusses possible directions for much-needed future research and suggests potential solutions.
著者
西川 洋史
出版者
教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:18802621)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.62-70, 2021 (Released:2021-05-20)
参考文献数
9
被引用文献数
2

透明骨格標本の作製では,骨格染色後に筋肉を透明化するため,微細な骨やそれらの立体配置は適切に保存される。特に小型魚は全身の骨格を観察が可能なので,骨の役割を学習するのに適している。現在,理科教材会社より透明骨格標本や標本作製キットを入手することが可能であり,授業での活用も広がっていることが伺える。しかし,透明骨格標本は高価であり生徒一人一人が観察をする分を準備することは難しい。標本の透明化にはタンパク質や脂質除去が重要である。本論では,食器用洗剤への長時間浸漬による透明化を試み,脊椎骨の観察が可能なレベルまで透明化するものを見出したのでこれを報告する。また,本実践では,生徒ごとに異なる実験条件に取り組ませ,その結果を互いに評価しあい,考察をさせた。この実践プロセスから,多数の仮説設定を生徒あるいはグループごとに分担させ,それを持ち寄って結論を導くという協働型探究学習を提案する。
著者
福田 麻莉
出版者
日本教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:1344946X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-14, 2019 (Released:2021-05-08)
参考文献数
28

本研究は,認知カウンセリングの事例分析を通じて,授業および家庭学習における中学生の教科書・ノートの活用を促す方法についての示唆を得ることを目的とした.本事例では,カウンセラーはカウンセリング中,数学の教科書を活用し,また,クライエントに学習内容についての説明を求めることで,教科書の内容や構成についての理解を促し,家庭学習中に分からないことがあった際に自発的に教科書を見返すようになることを狙った.カウンセリングを通じて,クライアントは家庭でも教科書を自発的に使用するようになり,また,数学の用語や概念の意味を重視する学習観を抱くようになった.さらに,授業中のノートテイキングにも変化が見られ,用語や概念の意味についてのメモを取ることができるようになった.分析を通じて,教科書やノートを活用できる,自立的な学習者を育成する上での効果的な介入方法についての示唆が得られた.
著者
河野辺 貴則
出版者
日本教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:1344946X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-16, 2020-09-30 (Released:2021-01-12)
参考文献数
20

本研究の目的は,道徳教科書における人権課題に関わる教材の掲載傾向を検討することを通して,人権教育と道徳教育の関連性を考察していくことにある.調査対象とする資料は,小学校と中学校の道徳教科書(72 冊)としている.調査結果として,道徳教科書には人権課題に関連している教材が数多く掲載されていることを確認した.人権教育と道徳教育は,それぞれが別の世界に位置づいているかのような認識を乗り越えて,児童生徒に人権課題について向き合う機会を提供し,人権課題の解消を前に進めていることに寄与している.本稿による分析結果から,道徳教科書には人権課題に対する理解や問題の解消に向けた取組として寄与しており,人権教育と道徳教育は統合的な関係へ向かっている傾向にあることが考察できる.一方で,相補的な関連性といえる部分もあることから,人権教育と道徳教育の関連性を意識しながら,計画的に教育活動を推進していくことが肝要であり,両者の関連性は益々密になっていくことだろう.
著者
関口洋美 阿子島茂美 吉村浩一 漆澤恭子 遊佐規子
出版者
教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:18802621)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1-11, 2022 (Released:2022-09-23)
参考文献数
12

本研究は,児童を対象に漢字二字で構成される熟語の読みを学習しやすくする要因について明らかにすることを目的とした。そこで,読みの組み合わせ(訓訓読みと音音読み),単語としてなじみがあるまたは知っているかどうか(なじみのある高親密熟語とあまりなじみのない低親密熟語),学習効果(2 巡目の正解率)及び学年(低学年・中学年・高学年)に関連させ 5 つの仮説を立てて実験を行った。その結果,音音読みよりも訓訓読みの方が成績は良く学習効果が高いという仮説,低親密熟語よりも高親密熟語の方が成績が良く,学習効果は低親密熟語の方が高いという仮説は部分的な支持にとどまった。学年による大きな違いは見いだせなかったが,学年が進むにつれ熟語の読みの成績における個人差が減少していくことが分かった。本結果から,低親密熟語においては訓訓読みの熟語の方が成績及び学習効果が高く,それは低学年から高学年まで一貫していることが明らかとなった。
著者
西川 洋史
出版者
教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:18802621)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.37-44, 2020 (Released:2021-04-30)

マニキュアは, プレパラート標本のカバーガラスのシーリングに用いられる。しかし, その乾燥には時間がかかるだけではなく, アセトンやブチル酢酸などの有機溶剤の刺激臭があるため, 学校の授業での使用は避けたほうがよい。紫外線硬化樹脂は, 表面コーティングや接着あるいはシーリングに使用される工業用素材であるが, ネイルアートではマニキュアの代わりに利用される。この液体状の樹脂はUVA波長(315~400 nm)の照射によって数分間で硬化するため, 作業時間が短縮できるだけではなく臭気も弱い。そこで本研究ではメチレンブルー水溶液を封入したプレパラート標本を用いて, 数種類の紫外線硬化樹脂の水分の蒸発抑制能について検討した。その結果, プレパラート標本を20℃2週間でインキュベートした場合, 紫外線硬化樹脂はマニキュアよりも有意に水分蒸発を抑制した。紫外線硬化樹脂によるシーリング法はその扱いやすさと保存率の高さから, マニキュアの代替になるだろう。
著者
奥田 順也
出版者
教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:18802621)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-21, 2019 (Released:2021-04-30)

現在,日本の小学校低学年の音楽科の器楽の学習では,鍵盤ハーモニカを扱うことが主流となっている。音楽の教科書や鍵盤ハーモニカに関する文献,先行研究を見ると,この楽器の演奏技能の1つである「タンギング」を小学校低学年に指導する捉え方を,「必要がある」と「必要がない」の2つに大きく分けることができる。しかし,奥田(2017)がこれらを分析したところ,この演奏技能の是非を問う記述は,低学年の子供が行った演奏などから得られたデータをもとに検証したようなものではなかった。 そこで本研究では,小学校低学年の鍵盤ハーモニカのタンギングの指導に関する基礎研究の1つとして,小学校2年生の子供たちの演奏を事例とした「息の流れ」を観点とする調査を行い,その結果を分類することで大きく3つのタイプを見出した。そして,タンギングを習得する前に「一息で吹く演奏」を定着させる,息の流れを優先するスモールステップによる段階的な指導を行うことを提案した。
著者
工藤 亘
出版者
教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:18802621)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.121-128, 2018 (Released:2021-04-30)

小学生がなりたい職業(2009年-2016年)は大きな変化がないこと、中学生がなりたい職業(2009年~2017年)は、男女とも情報通信技術に係わる職業に人気が移行しつつあることがわった。高校生がなりたい職業(2009年-2017年)は、男女の共通点として専門職や技術職に就きたい傾向が高く、情報通信技術に係わる職業に関心が高まってきている。大学生がなりたい職業(2014年)では、ヒューマンサービ、ス業、専門職・技術職、情報関連業、金融業に大別することができ、就職を希望する企業(2017年)では、大手の金融業や航空業・商社が上位を占めていることがわかった。社会のニーズや文明の発展に伴い、児童・生徒・学生がなりたい職業は数年で変化することが予想できるため、教師は児童・生徒・学生の職業観やなりたい職業を敏感に察知しながら発達段階に応じたキャリア教育をする必要がある。
著者
小倉 祐一
出版者
教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:18802621)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.53-67, 2001 (Released:2021-04-30)

本稿は,茨城県常総地方(県西地域の旧結城郡・旧真壁郡)に於いて「学び方教育」を推進した稲川三郎と「綴方教育」の実践家である増田実について, その人物の概略の紹介と国語教育を中心とした授業諭などについて考察したものである。主に稲川の著書『第三の授業』と増田の著書『宿題のない学校』について論じたものである。稲川は, 国語教育における読解指導について主体的な読みを追求し, 子供が自ら学ぶ授業を「第三の授業」 と定義した。「第三の授業」は学習の過程を大切にする授業であり,稲川は,そこに人間性の育成も展望しているのである。増田は, 綴方教育に留まらず, 聴き方教育や読み方教育等の国語教育全般における貴重な実践があるが, 校長として「宿題のない学校」 というリベラルな学校運営を推進したように,優れた指導力や時代の先を見る卓越した教育観を持っていた。彼らの実践は,現在の教育現場にも多くの示唆を与えるものである。
著者
安達 真由美 茅野 紫
出版者
山梨大学教育人間科学部附属教育実践研究指導センター
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:13454161)
巻号頁・発行日
no.6, pp.25-35, 2000

小学校最後の音楽づくりに取り組む第6学年児童を対象に「音楽づくりの材料紹介」という90分の特別授業を行った。授業では,鍵盤演奏が苦手な子どもでもオルガンを使って旋律を能率的に再生する方法,図形楽譜の使い方,変奏の方法などを指導し,即興生演奏を鑑賞させた。授業中の子どもたちの反応や授業後の音楽づくりの変化から,今後の初等音楽科教育の方向性について示唆する。
著者
長久 真理子 山口 豊一
出版者
教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:18802621)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.51-60, 2021

本稿は,被援助志向性研究の動向を概観し,これらの研究の課題を論じることによって被援助志向性の研究を展望し,研究・実践上の課題を示すことを目的とする。厚生労働省(2020)が2020年3月から5月に行った調査では,コロナ禍で抑うつ状態になる学生,人間関係に不安を感じている学生が増えている。また,文部科学省(2020)が行った「令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」では,いじめの認知件数が過去最多を更新した。このような状況を鑑みると,子ども達への支援の充実は喫緊の課題であると考えられる。子どもの身近な援助者には,養育者,友人,教師,心理教育的援助サービスを提供する専門家などがいる。子ども達が様々な援助者に援助を求めるかどうかという被援助志向性を知ることは重要である。そこで,本稿では,日本で発表された被援助志向性の研究動向を小学生,中学生,高校生と対象ごとに分類し展望した。
著者
西之園 晴夫
出版者
日本教育実践学会
雑誌
教育実践学研究 (ISSN:1344946X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.47-53, 2020-09-30 (Released:2021-01-12)
参考文献数
8

世界的なコロナウイルス感染によって経済的社会的活動が停滞しました. 教育もまたその例外ではなく全国的に休校となり,その後,多くの大学は Zoom などを採用して在宅授業を実施することで危機に対応しました. 他方,国によっては冷静に対応したところもありました. そこでフランス語圏のフランスとスイスの高等教育の最近の状況を紹介し,今回のような緊急事態で異なる背景をもつ教育制度と方法がどのような影響を及ぼしているかを考察して,事態が終息したのちの高等教育の在り方を検討するための資料を提供しています.