3 0 0 0 OA ペラグラの1例

著者
一ノ宮 愛 西本 勝太郎
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.477-482, 2016 (Released:2016-12-22)
参考文献数
29

80歳女.初診の1~2年前より逆流性食道炎による胸焼け症状のため摂食不良が続き,約10kgの体重が減少した.鶏肉以外の肉類や乳製品を摂取しない偏食もあった.数か月前から全身倦怠感とふらつき,下痢が出現.1ヶ月前より両手背紅斑を認め,近医でステロイド外用を行うも軽快しなかった.当科初診時,両手背に境界明瞭な赤褐色斑があり,鱗屑,痂皮,びらんを伴っていた.血中ニコチン酸は正常下限値であったが,病歴・症状よりペラグラと診断した.ニコチン酸アミド内服を開始したところ,約10日で皮疹は略治し,その他の症状も数日で軽快した.ペラグラの3主徴のうち,精神・神経症状,消化器症状は特異性に乏しく,ペラグラの診断には皮膚所見が極めて重要であった.栄養を十分に摂取できる現在,ペラグラは非常に稀な疾患であるが,アルコール多飲や摂食不良,消化管切除術の既往などがある患者が,露光部や摩擦部に左右対称性の赤褐色斑を呈した場合には鑑別疾患の一つにペラグラを挙げる必要がある.また,ペラグラの患者では他のビタミンや亜鉛等の欠乏を合併した低栄養状態であることが多く,原因検索を行った上で全体的な栄養状態を把握し,食生活の改善とニコチン酸に加え,総合的に蛋白,亜鉛,ビタミンなどを補充することも重要である.
著者
篠田 英和 関山 華子 西本 勝太郎
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 = The Nishinihon journal of dermatology (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.38-43, 2007-02-01
被引用文献数
6 8

高校生198名,中学生258名,幼稚園児と小学生(以下,園児・小学生と略す)187名,計643名の柔道部員について<I>Trichophyton tonsurans</I>(<I>T. tonsurans</I>)感染症の集団検診を行った。高校生198名(男170,女28)では培養陽性者50名(男46,女4)で,この中には,頭部白癬単独例9名(4.5%),体部白癬22名(単独例15,頭部白癬合併例3,hair brush<HB>法陽性合併例4),手白癬1名,無症候性保菌者18名(9%)を含んでいた。全体部白癬22名中7名(31%)が頭髪にも菌を有しており,高校生の露出部位の体部白癬を診た場合にはHB法を含む頭髪の入念な検索が必要である。また高校生の頭部白癬例と保菌者に対し,検診3~4カ月後,治療内容についてのアンケート調査と,同時に2回目のHB法を行った。頭部白癬では抗真菌剤内服期間が1.5カ月以上で菌は陰性化し,保菌者では初回HB法コロニー数3以下の症例では抗真菌剤内服治療を受けなくても抗真菌剤含有のシャンプーによる洗髪のみで菌は陰性化することがわかった。中学生では258名中14名(5.6%,HB法陽性例11名,頭部白癬2名,体部白癬3名,保菌者3名,重複あり),園児・小学生では187名中2名(1%,体部白癬2名)から<I>T. tonsurans</I>が見出され,園児・小学生への感染の拡大が確認された。本感染症では保菌者になりやすいことや,体部白癬の発疹が非定型疹を呈しやすく湿疹と誤診されることなどからKOH鏡検,培養,HB法を積極的に行なうことが重要である。
著者
渡辺 晋一 西本 勝太郎 浅沼 廣幸 楠 俊雄 東 禹彦 古賀 哲也 原田 昭太郎
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.111, no.14, pp.2101-2112, 2001-12-20
参考文献数
17
被引用文献数
29

わが国における足疾患,特に足・爪白癬の頻度を知る目的で,1999年および2000年の5月第3週に受診した皮膚科外来患者を対象に,足疾患に関する無作為調査を行った.その結果,2年間で計21,820例が集積され,足にトラブルを持つ患者は,14,087例(64.6%)であった.このうち8,737例(40.0%)は足の真菌症で,ついで「うおのめ・たこ」2,826例(13.0%),「いぼ・ほくろ」1,259例(5.8%)の順であった.この成績は同様に行われたヨーロッパの調査結果とほぼ同じで,足の真菌症が多いことがわかった.そこで,2000年度の調査においては,受診理由を「真菌症の疑い」と「真菌症以外」に分けて別個に集計したところ,前者では3,231/3,420例(94.5%)に,後者では1,723/8,804例(19.6%)に真菌感染症を見いだした.この真菌感染症に関与する要因をさぐる目的で,得られた背景因子を多重ロジスティック回帰分析により解析したところ,「加齢」,「男性」,「高コレステロール血症」,「ゴルフ」,「同居家族に真菌症あり」などに有意に高いオッズ比が認められた.治療に関しては,外用剤による治療が主であり,爪白癬においても2/3が外用剤のみの治療であった.また美容上の問題点ばかりでなく,歩行困難などの支障を訴える患者も少なくなかった.今回の調査では,皮膚科外来患者のみを対象としたが,40%におよぶ足・爪白癬患者が存在することが明らかとなった.またその病変の多くが,患者自身が気付いていないか,あるいは気付いていても不充分な治療しか受けていない実態も明らかとなった.また白癬の感染リスク因子についても考察をおこなったが,今後感染予防を考える上で興味のある結果が得られた.これらの患者のQOLを高めるためにも,また家庭内感染を防ぐためにも,足・爪白癬患者を積極的に治療すべきだと考えられた.
著者
一ノ宮 愛 西本 勝太郎 田中 正和
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.265-270, 2018-03-01

要約 23歳,女性,看護師.初診の3年前より右足底疣贅に対しヨクイニンを内服したが効果なく,左足底にも拡大し2015年7月当科を紹介受診した.右母趾腹〜母趾球部,第1足趾間周囲,左母趾球部,踵,アキレス腱部に角化性局面を認め,右足底は癒合しモザイク疣贅の状態であった.削り処置と液体窒素凍結療法を行ったが足底はほとんど変化なく,35日後より夜間のみの活性型ビタミンD3密封外用療法を毎日患者自身で施行してもらった.外用16日後,明らかに軽快し,68日後・初診100日後治癒した.疣贅治療には絶対的に有効なものはなく,病型,重症度,年齢,部位,治療歴,治療へのコンプライアンス等を考慮して治療法を選択する必要がある.活性型ビタミンD3密封外用療法は治療に難渋することの多い足底疣贅に対して有効性を期待できる治療法の1つであると考える.
著者
西本 勝太郎 山本 憲嗣 塚崎 直子
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.348-351, 1989-04-01 (Released:2012-03-03)
参考文献数
4

副腎皮質ステロイド外用療法時における, 湿疹·皮膚炎病巣部のブドウ球菌数を, ガラス管, 小ブラシを用いた洗浄法によつて測定し, その変動を二薬剤(Difluprednate軟膏およびBetamethasone-17-valerate 0.1% Gentamicin軟膏)について比較した。結果は, 1) 病巣のブドウ球菌数は症状の改善度と並行して減少し, 皮疹が治療した状態では, ごくわずかの菌しか検出されない。 2) 病巣部のブドウ球菌数は, 外用剤に含まれる抗生剤よりはむしろ皮疹の湿潤度, いいかえれば外用ステロイドの治療効果に強く影響された。 以上より, 明らかな感染のない湿疹·皮膚炎病巣に対しては, 充分な強さの外用ステロイド剤の使用のみで良いことを確認した。
著者
芦田 美輪 藏岡 愛 西村 香織 芦塚 文美 牛島 信雄 本間 喜蔵 西本 勝太郎 岩田 貴子 竹中 基 佐藤 伸一
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 = The Nishinihon journal of dermatology (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.43-47, 2010-02-01
被引用文献数
1

15歳(中学生),地元相撲クラブの男子。体幹,四肢の鱗屑を伴う紅斑と左側頭部のBlackdot ringwormにて2007年3月に当科を受診した。<I>Trichophyton tonsurans</I>(<I>T. tonsurans</I>)を分離し,塩酸テルビナフィンの3ヵ月間内服にて治癒した。高校の相撲部に入部後も再発を繰り返し,その都度治療により治癒した。再発のたびに頭髪のhair brush法にてコロニー数を確認した。部内における皮膚の症状を認める部員は,試合や遠征合宿の後に増加する傾向にあった。アンケートによる調査で,顧問教官の指導がなく,<I>T. tonsurans</I>感染症の認識に乏しいことが分かり,再発を繰り返す原因として無症候性キャリアーの存在が考えられた。小・中学生の相撲クラブとの交流もあり,さらなる感染の拡大を防止するためにも,継続的な集団検診,指導者への啓発,治療の徹底が重要と考えた。
著者
西本 勝太郎 西本 勝太郎
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.103-111, 2006-04-30
被引用文献数
28 45

日本医真菌学会・疫学調査委員会による2002年度の皮膚真菌症調査成績を報告した. 方法および調査項目は前2回 (1991~1992, 1996~1997) に準じ, 全国に分布した皮膚科外来14施設において, 調査用紙にしたがった検索をおこない, 結果を集計した.<br>1. 全施設をあわせた年間の総患者数 (その年における新患数) は72,660名であった.<br>2. 疾患別では皮膚糸状菌症 (全病型を合わせて7,994例) が最も多く, ついで皮膚カンジダ症, 癜風を含むその他の疾患群であった.<br>3. 皮膚糸状菌症の病型別では, 多い順に足白癬4,813例 (男2,439, 女2,374), ついで爪白癬2,123例 (男1,093, 女1,030), 体部白癬497例 (男281, 女216), 股部白癬299例 (男249, 女50), 手白癬248例 (男144, 女104), 頭部白癬・ケルスス禿瘡14例 (男6, 女8) の順であった.<br>4. 足白癬・爪白癬は夏期に, また人口比では主として高齢者に多くみられ, 特に爪白癬は年を追って増加する傾向が見られていた.<br>5. 原因菌別では<i>Trichophyton rubrum</i> が最も多く分離され, 病型別では, 足白癬で<i>T. rubrum</i> 1,431株対<i>Trichophyton mentagrophytes</i> 829株以外, 手白癬, 体部白癬, 股部白癬, 爪白癬で分離株数の約90%は<i>T. rubrum</i> によるものであった. <i>Microsporum canis</i> は16株と減少し, <i>Trichophyton tonsurans</i> が12株分離された.<br>6. 皮膚カンジダ症は755症例が見られ, 間擦疹が347例で最も多く, ついで指間びらん (103例), おむつ部カンジダ症 (102例) の順であった. いずれも高齢者に, 局所の日和見感染として発症した例が多かった.<br>7. 癜風・マラセチア感染症その他を含め220例が見られたが, 施設ごとの症例は少なくまた偏りがあり, 施設や性別などで特徴的な所見は出なかった.
著者
篠田 英和 西本 勝太郎 望月 隆
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 = Japanese journal of medical mycology (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.305-309, 2008-10-30
参考文献数
9
被引用文献数
5 7

2007年度に佐賀県で開催された全国高等学校総合体育大会における,柔道競技者の<I>Trichophyton tonsurans</I>(<I>T. tonsurans</I>)感染症を目的としたhair brush sampling法(HB法,スパイク90本)による検診を行った.競技参加者951名の中で検診希望者487名(男265名,女222名)を対象とした.陽性率の高い地域は九州21%(73名中15名),東北17%(77名中13名),近畿16%(89名中14名),中部13%(89名中12名)であった.さらにHB法でコロニー数30個以上の強陽性者は九州4名,東北4名,中部2名,近畿2名でありHB法陽性率の高い4地域と一致した.アンケート調査の回答では<I>T. tonsurans</I>感染の存在を90%は知っており,HB法検診の経験者は11%であった.37%(486名中178名)は検診結果の報告を不要と回答した.HB法検診の経験が少ない理由としては,皮膚科医によるHB法検診がまだ充分浸透していないことや,HB法などによって<I>T. tonsurans</I>感染者が判明し,試合への参加が制限されることを懸念するためHB法検診への参加に消極的であることなどが考えられた.したがって監督指導者に対する<I>T. tonsurans</I>感染症の啓発も重要であるが,我々皮膚科医も自主的に学校や団体に赴き,HB法などを用いた検診を積極的に行うべきである.検診結果報告不要の理由として,検診結果が監督や仲間に公表される危惧をあげる選手も多く,このことがHB法検診への不参加につながっていることが推測され,結果報告時の個人情報の取り扱いには充分なる配慮が必要と考えた.