著者
岡田 涼 解良 優基
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.376-388, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
62

本研究では,「学級の目標構造の知覚は児童・生徒にどの程度共有されているか」という問いについて,級内相関係数に対するメタ分析によって検討した。系統的な文献検索によって,34論文から38研究を収集した(N=44,807)。得られた級内相関係数は120個(熟達目標構造89個,遂行目標構造31個)であった。メタ分析によって推定された級内相関係数の値は,熟達目標構造の知覚が.14,遂行目標構造の知覚が.09であった。それぞれの目標構造の下位側面については,熟達目標構造が.13―.20,遂行目標構造が.05―.14であった。調整変数として,評定の対象(学級,教師)と平均クラスサイズの効果を検討したが,効果はみられなかった。本研究で推定された級内相関係数の値について,マルチレベル分析の適用,他の学級風土研究での級内相関,個人の目標志向性の級内相関,の3点から検討し,最後に目標構造の知覚から教育実践に対する示唆について論じた。
著者
三和 秀平 青山 拓実 解良 優基 山本 大貴
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S46013, (Released:2022-12-14)
参考文献数
7

「どうして勉強しなきゃいけないの?」という勉強する理由についての哲学的な対話が学習動機づけに与える効果を検証した.研究1では大学生を対象に対話を行った結果,参加者の勉強に対する動機づけが向上する傾向がみられた.また,児童の動機づけを高めることができると思うか予想を求めたところ,概ね高めることができると考える傾向にあるものの,否定的な意見もみられた.そこで研究2では小学生を対象に対話を行った.その結果,日常生活における価値のみ向上がみられた.一方で,他の価値の側面や興味,努力の意図などの向上はみられなかった.
著者
三和 秀平 解良 優基 松本(朝倉) 理惠 濵野 裕希
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.260-275, 2022-09-30 (Released:2022-10-20)
参考文献数
33

子どもが教科に対して認知する利用価値や興味の変化および分化を検討するために,学習塾に通う小学校4年生から中学校3年生を対象に調査を行った。その結果,実践的利用価値では,英語のみ中学校1年生で高くなるが,他の教科では学年が上がるにつれて低下する傾向がみられた。制度的利用価値では,英語では学年が上がると増加する傾向が,理科と社会では学年が上がると低下する傾向がみられた。興味では数学と英語を除き学年が上がるにつれて低下する傾向がみられた。このように,利用価値の認知や興味の変化は,教科や価値・興味の側面ごとに異なることが示された。また,教科間の相関関係を見ていくと,数学-理科のような距離の近い科目の興味は学年が上がっても,一定の相関係数を維持していた。一方で,数学-国語のような距離の遠い科目の興味は学年が上がるにつれて相関が弱くなり,中学校3年次には相関がみられなくなっていた。このことより,学年が上がるにつれて距離の遠い科目の興味が分化することが示唆された。一方で,利用価値では相関係数は低下する傾向にはあるものの,一定の値を保っていた。また,英語に関しては他の教科とは異なった傾向を示していた。
著者
解良 優基
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.32-34, 2022-06-03 (Released:2022-06-03)
参考文献数
8

This study examined the patterns of positive task value and cost combinations among elementary school students by cluster analysis. A questionnaire survey was conducted among 140 students. The cluster analysis suggested three patterns: (a) the high motivation cluster reported high positive value and low cost regarding science; (b) the low motivation cluster reported low positive value and high cost regarding science; and (c) the motivational conflict cluster reported high levels of both. Further, one-way ANOVA revealed that the motivational conflict cluster had lower persistence in learning than the high motivation cluster.
著者
解良 優基 中谷 素之
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.61-71, 2014-05-20 (Released:2016-08-11)
被引用文献数
12

本研究は,生徒により認知された教師の教授する課題価値と,生徒の課題価値評定との関連を検討し,また生徒の課題価値の内容によって,学習行動への影響が異なるかについて検討を行った.中学生256名を対象に理科の授業について,認知された課題価値の教授,生徒の課題価値を測定し,学習行動の指標として測定した持続性の欠如,エンゲージメント,興味の追求との関連をパス解析により検討した.その結果,認知された課題価値の教授から生徒の課題価値へと影響し,さらに生徒の課題価値の下位尺度により学習行動へと異なる影響がみられることが示唆された.特に,教師が学習内容の日常生活での実用性を教授することは,興味価値,獲得価値,実践的利用価値の3つの価値に促進的に影響し,学習行動によりポジティブな影響を及ぼす可能性が示され,その重要性が示唆された.
著者
解良 優基
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.24-35, 2023-05-30 (Released:2023-05-30)
参考文献数
23

本研究は,親子間における知能観の伝達過程について,両親の間の知能観の一致度が調整する可能性について検討した。中学生の子をもつ父親と母親,そしてその子ども211世帯を対象に,両親および子どもの知能観を測定したほか,子どもには両親がどのような知能観をもつかという認知についても尋ねた。調整媒介分析の結果,父親では,両親の間で知能観が一致しているとき,父親の知能観は子どもが認知する父親の知能観を媒介し,子ども自身の知能観に影響を及ぼした。一方,両親の知能観の一致度が低いとき,父親がもつ知能観は,子どもが認知する父親の知能観を予測しなかった。母親においては,父親との知能観の一致度にかかわらず,母親の知能観は子どもが認知する母親の知能観を媒介し,子ども自身の知能観に影響した。なお,それぞれ親の知能観から子どもの知能観への直接効果は一致度にかかわらず有意であった。子どもの増大的知能観への支援のために,両親の知能観へと介入する必要性が示された。
著者
徳岡 大 解良 優基
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.186-198, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
23

2×2達成目標モデルにおいて,課題要求の達成を目指す習得接近目標と,課題要求の達成失敗の回避を目指す習得回避目標は,行動指標のどのような側面に影響がみられるか明確でなかった。本研究の目的は,ウィスコンシンカード分類課題を用いて,習得回避目標の影響が,誤答後試行にのみ反応時間の遅延がみられるか明らかにすることであった。大学生および大学院生140名を対象に実験が実施された。達成目標は,教示によって習得回避目標,習得接近目標,遂行回避目標,統制の4条件が操作された。反応時間を従属変数とし,ex-Gaussian分布を仮定した一般化線形混合モデルによって,操作された達成目標と1試行前の正誤反応の及ぼす影響を検討した。その結果,習得回避目標条件においてのみ,1試行前が誤答だった場合に反応時間の遅れがみられ,習得接近目標条件,遂行目標条件および統制条件においてはこのような反応時間の遅れはみられなかった。
著者
解良 優基 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.285-295, 2016-09-30 (Released:2016-10-31)
参考文献数
41
被引用文献数
5 7

本研究は, 課題価値概念におけるポジティブな価値とコストが学習行動に及ぼす影響について, それぞれの主効果に加えて交互作用効果がみられる可能性について検討した。4年制大学の大学生と短大生計434名を対象に, 心理学の授業について課題価値評定および持続性の欠如について測定した。重回帰分析の結果, 努力コストにおいてのみポジティブな価値とコストの交互作用効果が有意であった。単純傾斜の検定を行った結果, 努力コストを高く認知している者にとって, ポジティブな価値の認知はより強い影響をもつことが明らかとなった。また, 機会コスト, 心理コストについては, それぞれポジティブな価値とコストの主効果のみが有意であり, ポジティブな価値は学習の持続性に正の影響を, コストは負の影響を及ぼしていた。興味価値・実践的利用価値の2つのポジティブな価値の間では概ね共通した結果がみられ, 学習者のもつポジティブな価値のみでなく, コスト認知についても考慮する必要性が示唆された。
著者
三和 秀平 解良 優基
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.91-93, 2020-09-09 (Released:2020-09-09)
参考文献数
5

This study investigated the relationship between the evaluating usefulness strategies for a specific subject and the usefulness value for another subject. University students (n=76) participated in a questionnaire survey. The results showed that when participants evaluated usefulness of the knowledge gained from an educational psychology class, they felt not only the utility value of educational psychology but also of the near subject which was similar to educational psychology. On the other hand, participants did not feel the utility value of a subject which was distantly related to educational psychology. This study implied that the evaluating usefulness strategies of a specific subject transfers to another closely related subject.
著者
解良 優基 三和 秀平
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.175-183, 2019-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
27

学習した知識や技能の有用性を考える有用性思考方略を測定する尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討することを目的として,大学生108名に質問紙調査を行った.探索的因子分析の結果,日常生活における有用性を考える日常思考方略と職業上の有用性を考えるキャリア思考方略の2つの下位尺度が得られた.日常思考方略は日常的利用価値と,キャリア思考方略は制度的利用価値および実践的利用価値とそれぞれ高い相関が得られ,両者の弁別可能性が示された.また,有用性思考方略は自律的調整方略および精緻化方略と相関を示しており,学習内容を身近な物事と関連付けて考える方略と,動機づけを維持・促進する方略の両方の要素を含んだものであることが示唆された.さらに,有用性思考方略が利用価値認知を媒介し,興味に影響するプロセスも確認され,先行研究と整合する結果が得られた.以上より,尺度の信頼性と妥当性に関する証拠が複数の観点から確認された.
著者
解良 優基 中谷 素之 梅本 貴豊 中西 満悠 柳澤 香那子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.57-60, 2017

<p> 本研究は,大学生を対象として授業内容に対する利用価値認知に働きかける介入を行い,課題価値および自己効力感に与える影響について検討を行った.半期の授業内で3回の介入を受けた介入群は221名,対照群は144名であった.研究協力者には,半期の授業の開始時と終了時の2時点で質問紙に回答を求めた.プレ時点の各得点を共変量とした共分散分析の結果,興味価値と実践的利用価値において,介入群の方が対照群よりもそれぞれのポスト得点が高いことが示された.以上の結果に基づき,本研究における介入授業が大学生の学習動機づけに与える影響について考察した. </p>
著者
解良 優基 石井 僚 玉井 颯一
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.226-239, 2016-03-01 (Released:2017-01-07)
参考文献数
38
被引用文献数
4

本研究は,Conley (2012) の枠組みを参考に学習接近動機 (i.e., 利用価値) と学習回避動機 (i.e., 学習上の悩み) の2変数による組み合わせのパターンと,学業達成や精神的健康との関連を検討した。中学2年生1,723名を対象とし,ベネッセ教育総合研究所により実施された「第4回学習基本調査・学力実態調査」のデータを用いて二次分析を行った。クラスター分析の結果,利用価値を高く認知し,学習上の悩みを低く認知する高動機づけ群,逆に前者を低く認知し,後者を高く認知する低動機づけ群,そして,両方を高く認知する葛藤認知群の3群に分類されることが示された。また,各クラスターの特徴をみるため,学習への興味や学習行動,テスト成績,および健康指標を従属変数として分散分析を行った。その結果,高動機づけ群が最も得点が高く,その他の2群間には差がみられないというパターンが多くみられた。以上より,学習接近動機のみでなく,学習回避動機についても着目する必要性が示された。
著者
解良 優基 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.285-295, 2016
被引用文献数
7

本研究は, 課題価値概念におけるポジティブな価値とコストが学習行動に及ぼす影響について, それぞれの主効果に加えて交互作用効果がみられる可能性について検討した。4年制大学の大学生と短大生計434名を対象に, 心理学の授業について課題価値評定および持続性の欠如について測定した。重回帰分析の結果, 努力コストにおいてのみポジティブな価値とコストの交互作用効果が有意であった。単純傾斜の検定を行った結果, 努力コストを高く認知している者にとって, ポジティブな価値の認知はより強い影響をもつことが明らかとなった。また, 機会コスト, 心理コストについては, それぞれポジティブな価値とコストの主効果のみが有意であり, ポジティブな価値は学習の持続性に正の影響を, コストは負の影響を及ぼしていた。興味価値・実践的利用価値の2つのポジティブな価値の間では概ね共通した結果がみられ, 学習者のもつポジティブな価値のみでなく, コスト認知についても考慮する必要性が示唆された。