著者
諸角 誠人 小川 由英
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.86, no.5, pp.1022-1027, 1995-05-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

蓚酸前駆物質であるグリコール酸およびグリオキシル酸を Wistar 系雄性ラットに急性単回投与あるいは慢性投与することにより, 蓚酸排泄および結石形成に及ぼす影響について検討を加えた. グリコール酸200mgあるいはグリオキシル酸200mgの急性投与後, 尿中蓚酸濃度は上昇し8時間以内に最高値に達していた. また, 3%グリコール酸添加食あるいは3%グリオキシル酸添加食により飼育されたラットは全実験期間を通して過蓚酸尿症を呈し, 実験開始1週後において組織学的に腎尿細管内に好酸性物質の沈着が認められた. グリコール酸およびグリオキシル酸投与群ともに投与2週後より結晶形成を尿細管内に認め, 時間の経過とともに数, 大きさとも増していた.以上より, グリコール酸あるいはグリオキシル酸の経口投与により数時間以内に尿中蓚酸濃度は上昇し, 2~3週のうちに尿細管内に結晶形成が認められることから, グリコール酸およびグリオキシル酸は蓚酸カルシウム結石症の発生機序に深く関与していることが示唆された.
著者
小川 由英 外間 実裕 諸角 誠人 秦野 直
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

尿路結石の約80%はシュウ酸カルシウムが成分であり、その傾向は沖縄でも同様であった。シュウ酸カルシウム結石の原因は特発性がほとんどで、過シュウ酸尿症は約1/3、過カルシウム尿症が1/3に認められた。尿中シュウ酸排泄が増加する原因は、食事性が多いとされ、シュウ酸含有食物摂取、脂肪の過剰摂取、シュウ酸分解菌の減少などでシュウ酸自体の吸収が増加する。ヒト腸管内のシュウ酸分解菌は、偏性嫌気性菌であり、Oxalobacter formigenesが結石形成の主たる阻害因子とされている。文献上で報告されているシュウ酸分解菌は、すべて偏性嫌気性菌であった。我々はヒトの腸内からシュウ酸分解菌、すなわちEnteococcus fecalis、Providencia rettgeriiを同定し報告した。これらの菌は、酸素の存在下でも発育できる通性嫌気性菌であり、ヒトの腸に常在させた場合、シュウ酸吸収を減らし、尿中シュウ酸排泄を減少させ、シュウ酸カルシウム結石形成予防効果が期待される。しかし、実際にこれらの菌をヒトに感染させるのは困難である。わが国で用いられている生菌製剤の25製剤のシュウ酸分解能について検討したが、現在のところシュウ酸分解能は確認できていない。また、シュウ酸吸収のラットでのモデルを考案し、上部消化管と結腸が重要な吸収部位であることを証明し、消化管内にカルシウムとマグネシウムがシュウ酸と同時に存在すると、その吸収を阻止することを示した。消化管内のシュウ酸吸収機構に関しては、脂肪酸と胆汁酸などの影響に関しは検討中である。さらに、ヒトの腎不全の際にシュウ酸は尿毒症物質であり、高シュウ酸血症が長期持続すると組織にシュウ酸カルシウムが沈着する。その腎不全の際のシュウ酸代謝では、アスコルビン酸が重要な役割を果たすことを発見したが、その機序が消化管内でシュウ酸に分解され、シュウ酸が吸収されるのであれば、シュウ酸分解菌が応用できる可能性も考えられ、これからの検討課題である。
著者
竹下 英毅 川上 理 立花 康次郎 平沼 俊亮 杉山 博紀 張 英軒 矢野 晶大 岡田 洋平 永松 秀樹 諸角 誠人 山田 拓己
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.107, no.4, pp.233-238, 2016-10-20 (Released:2017-10-24)
参考文献数
21

(目的) 精巣捻転症は,診断治療が遅れると精巣を喪失するため,臨床的社会的に重要な救急疾患である.近年,精巣捻転と外気温との関連が指摘されているが,その詳細は明らかでない.今回,急性陰囊症手術症例を後方視的に集計し,精巣捻転発症と外気温との関係について検討を行った. (対象と方法) 対象は2004年10月から2014年10月までに精巣捻転症が否定できず,手術が行われた急性陰囊症105例.患者病歴より年齢・居住地域・発症日時・手術検査所見等の情報を収集した.発症日の外気温は,気象庁ホームページより居住地域に最も近い気象台のデータを用いた.χ2乗検定,ウィルコクソンの順位和検定,ロジスティック回帰分析で解析を行った. (結果) 年齢中央値13(1~43)歳,患側は右側46例,左側58例,両側1例であった.術中所見で67例が精巣捻転症,38例が非精巣捻転症と診断された.発症日平均外気温は捻転群で中央値10.8℃(1.8~29.4℃),非捻転群で19.4℃(1.9~29.1℃)あり,捻転群で有意に低かった(p=0.006).精巣捻転症の割合は,発症日平均外気温が15℃未満の場合45/56(80%)で同15℃以上での22/49(45%)と比べ有意に高頻度であった(p<0.001).また平均外気温15℃以上でも,最高最低気温の差(日内気温差)が10℃以上の場合に13/21(62%)で,同10℃未満の9/28(32%)と比べ精巣捻転症が高頻度であった(p=0.037).多変量解析の結果,年齢・血清CRP値・発症日外気温が急性陰囊症手術症例中から精巣捻転症を予測する有意な因子であった. (結論) 低外気温または日内気温差が大きい日の急性陰囊症は,精巣捻転症の可能性が高く,注意すべきである.
著者
小川 由英 諸角 誠人 内田 厚 外間 実裕
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

シュウ酸は尿毒症物質であり、透析患者で高シュウ酸血症が長期持続すると臓器や組織にシュウ酸カルシウムが沈着する。透析患者は、動脈硬化も早く、高血圧、心疾患、脳血管障害などの危険も高い。高シュウ酸血症は血管の内皮傷害を惹起し、動脈硬化の原因となる。透析患者は尿毒症のため過酸化状態であり、ビタミンC投与は過酸化状態を改善し、発癌などの悪循環を断ち切るなど多大の恩恵をもたらす。しかし、ビタミンCを大量投与すると透析患者の血中シュウ酸値は高くなり、オキサローシスとなる。1 腎不全患者の血中シュウ酸をキャピラリー電気泳動で初めて測定し、約6年が経過する。約452名の腎不全患者を対象に血清中のシュウ酸前駆物質を測定し、血清シュウ酸とアスコルビン酸とは関連性が強く、ビタミンC投与が高シュウ酸血症の原因となることを示した。エリスロポエチン抵抗性の腎性貧血の際にビタミンCにより、鉄の利用度を増し、貧血を改善する。その際にビタミンC投与により、エリスロポエチン投与量を減少することを発見し、その最適の投与量は100mg/日と考えている。組織の石灰化に関しては、リン酸カルシウムの沈着がほとんどであるが、シュウ酸濃度が100μM以上であると不安定過飽和状態となり、シュウ酸カルシウム沈着の危険が高まる。常にこの値を超えるのは原発性過シュウ酸尿症の場合である。副甲状腺機能亢進症症例における腎性骨症に関して、経時的な組織の変化を報告したが、副甲状腺全摘前後の骨代謝パラメータとシュウ酸とは有意な相関は見られなかった。2 グリオキシル酸の解毒機構として、AGT(アラニングリオキシル酸アミノ転移酵素)が肝細胞のペルオキシゾームに局在し、グリコール酸より代謝されるグリオキシル酸をペルオキシゾームにおいて解毒する。また、肝細胞の細胞質と他の臓器にもグリオキシル酸還元酵素が存在し、シュウ酸産生を最小限に抑える。AGTの補酵素であるビタミンB6欠乏もオキサローシスの原因であり、透析患者では水溶性ビタミンが欠乏しがちである。ビタミンB6欠乏ラットで、グリオキシル酸、グリコール酸、ハイドロキシプロリン、ハイドロキシピルビン酸、キシリトールなどがシュウ酸産生を増加することを示した。これらの前駆物質の摂取を透析患者では制限する必要がある。この食事制限はオキサローシスの治療上非常に重要な示唆である。3 キャピラリー電気泳動に質量分析器を装着して、シュウ酸関連物質を測定し、測定感度を数倍上げることが可能となり、血清シュウ酸とグリコール酸の測定法を改良することが出来、また、従来の測定がそれぞれ正しいピークを測定していたことを確認できた。これは大きな収穫であり、シュウ酸に関しては更に数十倍の感度で測定できる方法に辿り着きそうである。
著者
吉永 敦史 諸角 誠人 吉田 宗一郎 大野 玲奈 石井 信行 寺尾 俊哉 鎌田 成芳 林 哲夫 山田 拓己
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.30-33, 2007-01-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
9

症例は2歳男児. 子宮内胎児発育遅延にて当院母子周産期総合医療センターへ母体搬送され, 在胎39週3日, 帝王切開にて2200gで出生した. 生下時外性器異常を認めたが, 電解質は正常であった. 染色体検査では, 45X/46X, idic (Y) (q11.2) を呈していた. 腹部超音波検査において子宮及び卵巣は認められなかった. 当科紹介受診となり, 陰嚢型の尿道下裂及び右鼠径ヘルニア, 右非触知停留精巣の診断となった. また左陰嚢内容は触診上正常組織であった. 1歳時右鼠径ヘルニア修復術及び右停留精巣手術施行するも, 右精索及び精巣上体様の構造物は認められたが, 右精巣は認められなかった. さらに2歳時尿道形成術を施行したが, 術後瘻孔形成あり, 瘻孔閉鎖術を追加施行した. 現在, 瘻孔なく, 経過良好である.
著者
山口 千美 小川 由英 諸角 誠人 田中 徹 北川 龍一
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.311-318, 1987 (Released:2010-07-23)
参考文献数
27

ラットの実験的蓚酸カルシウム尿路結石症を用いて, クエン酸回路中間体のリンゴ酸, コハク酸およびそれらのナトリウム塩, 重炭酸ナトリウムの結石形成抑制におよぼす影響を比較検討した. リンゴ酸ナトリウム群, コハク酸ナトリウム群, 重炭酸ナトリウム群では, 尿中クエン酸排泄および尿中クエン酸濃度は増加したが, リンゴ酸群, コハク酸群では寧ろ減少した. リンゴ酸ナトリウム群, コハク酸ナトリウム群では, 著しい結石形成抑制作用を認めたが, 重炭酸ナトリウム群ではそれ程強くなかった. リンゴ酸群, コハク酸群では抑制作用は殆ど認められなかった. これらの物質の投与による尿中蓚酸, カルシウム, マグネシウムの各群間比較による有意差は認められなかった. 以上より, リンゴ酸ナトリウム, コハク酸ナトリウム投与により蓚酸結石形成は抑制され, その作用は尿中クエン酸濃度の増加が関与することが示唆された.
著者
諸角 誠人 小川 由英 田中 徹 山口 千美 北川 龍一
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.1025-1031, 1987-06-20
被引用文献数
2

尿中蓚酸の大部分はグリシンおよびアスコルビン酸からの内因性由来とされている.これに対し,グリコール酸やグリオキシル酸は,尿中蓚酸にとって重要な前駆体とはされていない.そこでウィスター系雄性ラットを用い,上記のグリシン,アスコルビン酸,蓚酸,グリコール酸およびグリオキシル酸をそれぞれ3%の濃度で食餌に添加したものを投与する5群と無添加のものを投与する対照群との計6群に分け,どの物質が過蓚酸尿症とそれに伴う尿路結石症を誘発するか実験を行なった.実験食開始より4週目ではグリシン投与群,アスコルビン酸投与群,蓚酸投与群および対照群において尿路結石症を認めなかった.しかし,グリコール酸投与群およびグリオキシル酸投与群において尿路結石症の作製に成功した.結石は赤外線分析にて蓚酸カルシウムより成っていることが同定された.蓚酸投与群,グリコール酸投与群およびグリオキシル酸投与群において尿中蓚酸濃度および1日排推量は他群に比し有意に上昇し,逆に尿中カルシウム濃度および1日排推量は他群に比し有意に低下した.3%グリコール酸添加食または3%グリオキシル酸添加食により,ラットに過蓚酸尿症が起こり,その結果蓚酸カルシウム結石症が発症し得た.一方,3%蓚酸添加食では尿路結石症を認めず,3%グリシン添加食および3%アスコルビン酸添加食では過蓚酸尿症も尿路結石症も認められなかった.
著者
冨田 京一 金村 三樹郎 黒岡 雄二 諸角 誠人 河村 毅 福島 範子
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.80, no.9, pp.1374-1377, 1989-09-20
被引用文献数
1

経過観察中,inverted typeのtransitional cell carcinomaの異所性再発がみられたinvertedpapillomaの症例を経験した.症例は24歳男性で1982年10月23日無症候性肉眼的血尿を主訴として当科受診.膀胱鏡検査にて内尿道口に表面平滑な小指頭大の腫瘍がみられ,全体像が膀胱鏡検査では把握できないため,膀胱高位切開にて腫瘍を切除した.組織学的検査にてinverted papillomaと診断された.その後19カ月,35カ月,43カ月,53カ月後に異所性再発を繰り返し,その度に経尿道的に切除した.組織学的検査にて大部分が内反構造を伴うtransitional cell carcinomaであった.inverted papillomaは一般的には良性疾患として扱われているが,悪性化および再発の可能性が存在することから他の膀胱腫瘍と同様に術後の経過観察が必要と考えられた.