著者
都築 建三 橋本 健吾 池田 ゆうき 阪上 雅史
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.221-224, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
9

標準化スギ花粉エキス(シダトレン®)を用いた舌下免疫療法(sublingual immunotherapy: SLIT)の初回投与後に副反応を生じた症例を報告する。46歳女性。主訴は鼻汁,鼻閉。既往歴に食物アレルギー,気管支喘息(最近5年間発作なく呼吸機能正常),慢性副鼻腔炎(術後)があった。SLITの適応は,当院のリウマチ・膠原病内科および皮膚科コンサルトして慎重に決定した。スギ花粉非飛散期に入院して副反応に対する準備の上SLIT導入した。初回投与日の全身状態は良好であった。規定のプロトコール通り,シダトレン®(40 JAU/0.2 mL)を医師が初回投与した。アレルゲン曝露2~5分後に,皮膚・粘膜症状(頸部~頬部),消化器症状(口腔咽喉頭違和感),呼吸器症状(息苦しさ),循環器症状(血圧低下)を呈した。意識障害はなかった。過去に経験した食物アレルギーに伴うアナフィラキシーよりも軽度であったが,これらの反応はアナフィラキシー(グレード3)と考えられた。水うがい,β2受容体刺激薬吸入を行い,アレルゲン曝露の30分後にはこれらの症状は消失した。増量期は入院してプロトコール通りの投与量で行った。2日目以降は,アナフィラキシー反応は認めなかった。維持期となり退院した。SLIT開始から1年経過した現在,副反応を認めず維持療法を継続中である。アレルギー疾患合併症例においては,SLITの導入は慎重な判断と副反応に対する厳重な監督下で行う必要があると考えられた。
著者
都築 建三 深澤 啓二郎 竹林 宏記 岡 秀樹 三輪 高喜 黒野 祐一 丹生 健一 松根 彰志 内田 淳 小林 正佳 太田 康 志賀 英明 小早川 達 阪上 雅史
出版者
Japan Rhinologic Society
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-7, 2009 (Released:2009-12-18)
参考文献数
9
被引用文献数
12 14

We evaluated a 20-item self-administered odor questionnaire for assessing olfactory function, proposed in 2003 by the Japan Rhinologic Society committee on olfaction tests. The 20-items selected based on results of olfactory studies in Japan were steamed rice, miso, seaweed, soy sauce, baked bread, butter, curry, garlic, orange, strawberry, green tea, coffee, chocolate, household gas, garbage, timber, stercus (shit), sweat, flower, and perfume. Subjects were 302 people —179 men and 123 women (average age: 35.7 years)— having no history of nasal or paranasal disease and tested between December 2004 and December 2007. Subjects were asked to score items as follows: “always smelled” (2 points); “sometimes smelled” (1 point); “never smelled” (0 points); or “unknown or no recent experience” (no score). Scores were calculated and represented using a percentage. Response was 99.3% (300/302), with two subjects excluded for reporting more than 10 “unexplainable” items. The mean score was 95.2% (n=300). Of the 302, 281 (93.0%) agreed on the number and 252 (83.4%) on the content of items. Scores correlated statistically significantly with those of a visual analogue scale (rs=0.501, p<0.0001, n=300). We concluded that the self-administered odor questionnaire is useful in assessing olfactory function in normal subjects. The next step will be to administer the questionnaire to diseased or otherwise compromised subjects to determine whether it is useful for clinically diagnosing such olfactory dysfunction.
著者
都築 建三
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.112-120, 2022-02-20 (Released:2022-03-10)
参考文献数
100
被引用文献数
1

超高齢社会の日本において, 加齢に伴う五感の低下は身体的および精神的に悪影響を及ぼすため, その対策は耳鼻咽喉科医に求められる大きな課題である. 五感の一つである嗅覚も加齢や基礎疾患の影響を受けて低下するが, それに気づかずに過ごしている高齢者は多い. 嗅覚障害のリスクファクターとして, 加齢, 男性, 鼻副鼻腔疾患, 動脈硬化, 飲酒, 喫煙などが挙げられる. 嗅覚系組織の基礎研究からも, 嗅上皮の再生能低下, 嗅上皮の面積の減少, 嗅覚中枢路組織の体積減少, 一次嗅覚野のにおいに対する活動性の低下など, 加齢に伴い嗅覚機能が低下することが示唆される. 2017年, 嗅覚障害診療ガイドラインが発刊され, 嗅覚障害患者の増加とともに, その診療の重要性は高まってきている. 嗅覚障害の診断は重症度と原因疾患が重要で, 詳細な問診, 鼻内視鏡を用いた嗅裂部の視診, 画像検査 (CT・MRI), 嗅覚検査から総合的に行う. 加齢性嗅覚障害は, 原因疾患を除外して十分な臨床経過を観察した上で診断する. この時, 嗅覚障害がアルツハイマー病, パーキンソン病, レビー小体型認知症に代表される神経変性疾患の前駆症状である可能性に留意する. いずれも嗅覚中枢路に神経病変が先行するために早期に嗅覚障害を呈する. 嗅覚機能評価は, 神経変性疾患の早期診断, パーキンソニズムの鑑別, 認知症発症の予知に高いエビデンスがある. 高齢者の嗅覚障害への対策には, 病態の把握, 危険の察知, 予防が重要である. 嗅覚障害のリスクファクターの回避と原因疾患の治療を行う. 適度な運動や生活習慣の改善は, 嗅覚低下への予防効果が期待できる. 現在, 加齢性嗅覚障害や中枢性嗅覚障害に奏功する治療法はないが, 意識してにおいを嗅ぐ行為である嗅覚刺激療法の効果が期待できる.