- 著者
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都築 建三
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
- 巻号頁・発行日
- vol.125, no.2, pp.112-120, 2022-02-20 (Released:2022-03-10)
- 参考文献数
- 100
- 被引用文献数
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1
超高齢社会の日本において, 加齢に伴う五感の低下は身体的および精神的に悪影響を及ぼすため, その対策は耳鼻咽喉科医に求められる大きな課題である. 五感の一つである嗅覚も加齢や基礎疾患の影響を受けて低下するが, それに気づかずに過ごしている高齢者は多い. 嗅覚障害のリスクファクターとして, 加齢, 男性, 鼻副鼻腔疾患, 動脈硬化, 飲酒, 喫煙などが挙げられる. 嗅覚系組織の基礎研究からも, 嗅上皮の再生能低下, 嗅上皮の面積の減少, 嗅覚中枢路組織の体積減少, 一次嗅覚野のにおいに対する活動性の低下など, 加齢に伴い嗅覚機能が低下することが示唆される. 2017年, 嗅覚障害診療ガイドラインが発刊され, 嗅覚障害患者の増加とともに, その診療の重要性は高まってきている. 嗅覚障害の診断は重症度と原因疾患が重要で, 詳細な問診, 鼻内視鏡を用いた嗅裂部の視診, 画像検査 (CT・MRI), 嗅覚検査から総合的に行う. 加齢性嗅覚障害は, 原因疾患を除外して十分な臨床経過を観察した上で診断する. この時, 嗅覚障害がアルツハイマー病, パーキンソン病, レビー小体型認知症に代表される神経変性疾患の前駆症状である可能性に留意する. いずれも嗅覚中枢路に神経病変が先行するために早期に嗅覚障害を呈する. 嗅覚機能評価は, 神経変性疾患の早期診断, パーキンソニズムの鑑別, 認知症発症の予知に高いエビデンスがある. 高齢者の嗅覚障害への対策には, 病態の把握, 危険の察知, 予防が重要である. 嗅覚障害のリスクファクターの回避と原因疾患の治療を行う. 適度な運動や生活習慣の改善は, 嗅覚低下への予防効果が期待できる. 現在, 加齢性嗅覚障害や中枢性嗅覚障害に奏功する治療法はないが, 意識してにおいを嗅ぐ行為である嗅覚刺激療法の効果が期待できる.