著者
酒井 敏 紀本 岳志 余田 成男
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

「科学技術離れ・理科離れ」の原因の一つは、子供達が未知の謎や、まだ解ってないことに接する機会が失われつつあり、その結果、自分が自然現象の謎を解決したいという欲求が失われてきたことであると考える。そこで研究者が解ったこと(知識)を伝えるのではなく、まだ解っていないことを伝え、共に研究するという新しいプロジェクトを実施することを目的として、この研究を行った。研究テーマとしては、京都のヒートアイランド現象を取り上げた。これは、身近な現象でありながら、未だにその実態が明らかになっておらず、気温の多点観測を行うことで、学問的にも貴重な知見が得られる可能性が高いからである。この観測を行うために、観測装置の自作キットを作成した。通常の気象観測装置では、1測点あたり10万円程度かかってしまい、多数の観測点を配置するのは不可能であるが、データーロガーをはじめ、それを収納する防水ケース、センサを収納するラディエーションシールドなど、すべてを自作することで1測点あたりのコストを約10分の1に抑え、教育現場でも導入しやすいシステムを構築した。これらの材料は、電子部品を除けば、すべて、ホームセンターで入手できるものであり、特殊な材料は用いていない。それにもかかわらず、このキットは市販の製品と比較しても、まったく遜色のない性能を有している。これらのキット製作を目的とした実習を15年度、16年度に高校生に対して行った。ハンダ付けなどの作業は、彼らにとって新鮮であり、非常に興味をもって製作し、ほとんどの生徒が完成にこぎつけた。さらに、これらの装置を使い、16年度秋と冬に京都市内の約30点で高密度連続観測を行った。その結果、京都の都市部と郊外で数度のヒートアイランド現象が観測された。また、よく晴れた日の夜明け前に最大になるといわれているヒートアイランド現象が、常に日没直後に最大となることなど、これまでの通説を覆す結果が得られた。さらに、このような研究を通して、生徒の興味関心を大きく引き出すことに成功した。