著者
河村 善也 吉川 周作 阿部 祥人 古瀬 清秀 樽野 博幸 金 昌柱 高 星 張 穎奇 張 鈞翔 松浦 秀治 中川 良平 河村 愛
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

東アジアのうち,北海道を除く日本本土では後期更新世~完新世に多くの種類の哺乳類が絶滅しているが,その絶滅期はMIS 3 からMIS 2 にかけてで,大型種だけでなく小型種も絶滅している.絶滅は短期間に急激に起こったのではなく,比較的長い期間に徐々に進行したようである.この地域ではずっと森林が維持され,環境変化が穏やかで,人類の影響もさほど強くなかったことが,そのようなパターンをもたらしたと考えられる.琉球列島では島ごとに絶滅のパターンが異なり,ここでは人類が絶滅に深くかかわっていると推定される.中国東北部では,ヨーロッパでのパターンに似た絶滅が起こったが,中国中・南部では絶滅はそれより限定されたものであったようである.台湾や韓国では,まだ研究が十分ではない.
著者
高井 正成 河野 礼子 金 昌柱 張 穎奇
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;現在東アジア南部の大陸地域には,オランウータン,テナガザル(3属),コロブス亜科(6-7属)オナガザル亜科のマカク,メガネザル,そして原猿類のスローロリスなどが生息している.一方,中,国科学院古脊椎動物・古人類研究所の金昌柱教授が中心となって進めてきた広西壮族自治区崇左地域の更新世の洞窟堆積物の発掘調査では,これまで <i>Homo</i>,<i>Gigantopithecus</i>(ギガントピテクス), <i>Pongo</i>,<i>Hylobates</i>,<i>Macaca</i>,<i>Rhinopithecus</i>,<i>Trachypithecus</i>が確認されていた.その後更に霊長類化石の同定作業を進めた結果,大型オナガザル亜科である <i>Procynocephalus</i>と中型コロブス亜科の <i>Pygathrix</i>らしき化石が含まれていることが分かってきた.本発表では,こういった複数の洞窟から見つかっている霊長類化石の産出パターンの経時的な変化について報告する.<br>&nbsp;扱っている化石標本は 14の洞窟から発掘したものであるが,最も古い百孔洞が後期更新世(約 220万年前),新しいものは後期更新世(約 10万年前以降)と考えられている.霊長類化石の種類は,最古の百孔洞の時点ですでにヒト以外の属が全て出現している可能性が高い.巨大な化石類人猿であるギガントピテクスの標本は後期更新世以降の洞窟からは発見されていないので,おそらく同属は中期更新世の末期から後期更新世の初頭にかけて絶滅したらしい.一方,現生の大型類人猿であるオランウータンは全ての洞窟から化石標本が見つかっているので,中国南部では完新世まで生き残っていたらしい.テナガザル化石の標本比率は非常に少ないのであるが,百孔洞以降ほぼ全ての洞窟から出土していることから,他のホミノイド類(ギガントピテクスとオランウータン)の絶滅とは対照的に現生まで同地域で生き残ることができたらしい.
著者
金 昌柱 河村 善也
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.315-330, 1996-07-25
被引用文献数
4

この論文では中国東北部の後期更新世哺乳動物化石とその産出層に関する文献のデータをまとめて,この地域の後期更新世の動物相の特徴を明らかにした.この地域では,それらの化石にしばしば旧石器時代の人工遺物が伴い,後期更新世のユーラシア北部に栄えたマンモス動物群の典型的な要素であるマンモスとケサイが見られる.この地域の後期更新世の動物群には,(1)中期更新世の動物群より現生種が増え,絶滅種が減っている,(2)絶滅種の中には中期更新世やそれ以前の古型の要素はわずかしか含まれず,かわってユーラシアの寒冷地や乾燥地の要素が多い,(3)絶滅種には大型のものが多い,(4)現生種の中には現在の中国東北部に見られるものが多いほか,主にモンゴルやその西方の地域に分布する種も多い,(5)現在北方の寒冷地に分布する種が含まれている,といった特徴が見られる.この地域の動物群を,マンモス動物群としては典型的なシベリア東部の後期更新世動物群と比較すると,シベリア東部で代表的な種が中国東北部にも見られるが,シベリア東部の動物群の中で高度に寒冷地適応した種の中には,中国東北部で見られないものもある.中国北部の同時期の動物群と比較すると,中国東北部の動物群にはそれと共通する種が多いが,中国北部のものにはマンモス動物群の要素はほとんど見られない.日本で後期更新世の化石記録が豊富な本州・四国・九州地域の動物群と比較すると,本州・四国・九州地域のものでは固有種や森林要素が多いこと,マンモス動物群の要素が少ないことで中国東北部のものと明らかに異なっている.中国東北部の動物群は,後期更新世になってより現在のものに近づいた土着の動物群に寒冷地や乾燥地の要素が加わったものと考えられる.後期更新世以降の気候や植生の変化により,寒冷地や乾燥地の要素は,絶滅したり,北方や西方に分布域を移すことになったものと思われる.^<14>C年代の測定されている化石産地のデータにもとづいて,この地域でのマンモスやケサイの分布について考察した.マンモスやケサイはこの地域で21,000yrs.B.P.頃までは広く分布しており,マンモスは12,000yrs.B.P.頃,ケサイは10,000yrs.B.P.頃絶滅したようである.