著者
溝口 優司 中橋 孝博 安達 登 近藤 恵 米田 穣 松浦 秀治 馬場 悠男 篠田 謙一 諏訪 元 馬場 悠男 篠田 謙一 海部 陽介 河野 礼子 諏訪 元
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2005

旧石器時代から縄文~弥生移行期まで、日本列島住民の身体的特徴がいかに変化したか、という問題を形態とDNAデータに基づいて再検討し、日本人形成過程の新シナリオを構築しようと試みた。結果、北海道縄文時代人の北東アジア由来の可能性や、縄文時代人の祖先探索には広くオーストラリアまでも調査すべきこと、また、港川人と縄文時代人の系譜的連続性見直しの必要性などが指摘された。シナリオ再構築への新たな1歩である。
著者
海部 陽介 篠田 謙一 河野 礼子 米田 穣 後藤 明 小野 林太郎 野林 厚志 菅 浩伸 久保田 好美 國府方 吾郎 井原 泰雄
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、旧石器時代の琉球列島に現れた人々がどのように海を渡ってきたかについて、その理論的枠組みを定めるため、文理問わず多彩な分野の研究者が情報を共有して、総合的モデルをつくることを目指した。彼らは草・竹・木のいずれかを素材とした漕ぎ舟に乗り、男女を含む少なくとも10人程度の集団で、黒潮の流れる海を、漂流ではなく意図的に航海してきたと考えられる。このモデルを、現在進行中で連動して行なっている実験航海に反映して、当時の航海を再現してみれば、そのチャレンジがどれだけ困難なものであったのかが見えてくるであろう。
著者
海部 陽介 坂上 和弘 河野 礼子
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
pp.1705081, (Released:2017-06-07)
被引用文献数
1 1

長崎県佐世保市に所在する岩下洞穴からは,1960年代の発掘調査で大量の縄文早期人骨と,若干の縄文前期に属する人骨が出土し,1968年にその基礎情報を記した報告書が刊行された。しかしその後,学界で縄文早期人への関心が高まったにも関わらず,岩下洞穴の人骨資料についてその価値に見合った議論がなされてきたとは言い難い。今回,この人骨コレクションの再整理・修復を行い,新たに個体同定や年齢・性別を見直した。正確な数は特定できないが,本遺跡から出土した縄文早期人骨は約30個体,前期人骨は2個体で,国内有数の人類遺跡であることが再確認された。再整理の結果,以下を含む興味深い事項が浮かび上がってきた:①岩下洞穴の縄文早期人が全国の早期人と共通の華奢な骨格形態特徴を持つという先行知見が追認された;②早期の成人個体群(19体)は,確認できる範囲では若い成人のみで(8体),明らかな熟~老年個体が含まれない;③他地域の早期人骨と同様に激しい咬耗が認められたが,これらは咬耗の速度が非常に速いことの結果であり,年齢推定の指標にすべきでない。早期人が短命であった可能性を,彼らの華奢な骨格形態と合わせてどのように検討すべきかを考察する。
著者
久世 濃子 河野 礼子 蔦谷 匠 金森 朝子 井上 陽一 石和田 研二 坂上 和弘
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第34回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.52, 2018 (Released:2018-11-22)

オランウータン(Pongo属)は,大きな体(雄:80kg,雌40kg)で樹上から下りることがほとんどないので,他の霊長類に比べて捕食のリスクが小さいと考えられている(Wich et al. 2004)。本研究では,野生オランウータンの頭骨を対象に,法医学的手法を用いて,中大型哺乳類に攻撃された可能性を検証した。対象の頭骨(頭蓋冠のみ:顎骨と歯は消失)は,ボルネオ島北部マレーシア領サバ州のダナムバレイ保護区内の熱帯雨林の林床で,2016年発見された。頭骨には側頭部に複数の損傷(貫通穴)が見られ,動物による咬傷の可能性が考えられた。主要な2つの穴の穴間距離(A)および,アタッカー候補である4種の上顎犬歯間距離(B)を測定した。アタッカー候補として,同所的に生息している中大型の肉食もしくは雑食(動物性食物を摂取した報告がある種)の哺乳類,ウンピョウ(Neofelis diardii),ヒゲイノシシ(Sus barbatus),マレーグマ(Helarctos malayanus),ボルネオオランウータン(Pongo pygmaeus)の頭骨標本(博物館等に所蔵)を用いて,Bを測定した。穴間距離A:35mmに最も近似していたのはウンピョウ(B:27.9-33.0, n=3)だった。ヒゲイノシシ(74.5-163.5 n=13),マレーグマ(64.7-76.1, n=2),ボルネオオランウータン(69.1-74.2 n=3)はAに対して大きすぎ,犬歯2本で同時に噛むことで,陥没穴を形成する可能性は非常に低いと考えられた。さらに飼育下のウンピョウに,オランウータンの頭蓋とほぼ同じ大きさの樹脂性のボールを与えて,噛むことができるかを確認する実験を行った。また,損傷のあるオランウータン頭骨のサイズと,蝶後頭軟骨結合の状態を,他のオランウータンと比較し,性別と年齢クラスを推定した。その結果,高齢のオトナ雌である可能性が最も高いと考えられた。さらに他の調査地でも,オトナがウンピョウに襲われたと推定される事例が2例あることも判明した。今まで,ウンピョウはオランウータンの未成熟個体しか襲わないと考えられていたが,成熟個体も襲われる可能性があることが明らかになった。
著者
海部 陽介 坂上 和弘 河野 礼子
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.25-38, 2017 (Released:2017-06-27)
参考文献数
29
被引用文献数
1

長崎県佐世保市に所在する下本山岩陰遺跡から,1970年に麻生優らによって発掘された人骨を整理したので報告する。この資料中には,縄文時代前期に属する比較的保存のよい2体と,弥生時代に属する合葬された男女2体,その他の人骨が確認された。縄文時代前期人骨について,少なくともほぼ完全な1体には縄文時代人的な形態特徴が色濃くみられた。弥生時代人骨は,1個体に高顔傾向が認められる点に留意しなければならないが,全体的に北部九州弥生時代人より縄文時代人と類似する。この形態特徴と遺跡の地理的位置の両面から,本人骨は,一般に縄文時代人の系譜を継ぐとみなされている,いわゆる西北九州タイプの弥生人集団(在来系の弥生人集団)に含めることができるだろう。これらの人骨にみられた高頻度の骨折,同地域内での咬耗ならびに口腔衛生状態の変化についても合わせて報告する。
著者
河野 礼子 土肥 直美
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.126, no.1, pp.63-78, 2018 (Released:2018-06-28)

ここに寄せる文章は,沖縄の新聞・琉球新報に,2016年2月17日から2017年5月31日にかけて計30回にわたり連載された『旧石器人研究最前線』の記事の後半部分である。沖縄には港川や山下町など人骨出土遺跡があり,さらにこの数年は白保竿根田原洞穴遺跡やサキタリ洞遺跡での成果が報道され,三万年前の航海再現プロジェクトがスタートして注目されるなど,沖縄の旧石器人研究がひときわ盛り上がりを見せていると言っても過言ではなかろう。そうした中で地元への啓発・還元の意味で開始した連載記事を,沖縄外の人類学会員や,広くは関心のある全国の読者にも読んでもらいたく,再発信するものである。もともとが新聞の連載記事である性質上,その時点で進行中の時事ネタが多分に盛り込まれているが,その時その時の「今」を記録する意味で,あえて改稿せずほぼ新聞掲載時のまま全文転載させていただくこととした(各記事の筆者の所属も掲載時点のものである)。今回の転載を快諾してくださった筆者の皆様と,連載の趣旨に賛同し牽引してくださった琉球新報社の米倉外昭氏に心より感謝する。本寄書のこれ以降の内容はすべて,琉球新報社の提供によるものである。(なお,連載17~19回の記事については,筆者の希望により掲載しない。)
著者
河野 礼子 土肥 直美
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.101-125, 2017

<p>ここに寄せる文章は,沖縄の新聞・琉球新報に,2016年2月17日から2017年5月31日にかけて計30回にわたり連載された『旧石器人研究最前線』の記事である。人類誌本号と次号の2回に分けて掲載していただくこととなった。石垣島・白保竿根田原洞穴遺跡の発掘調査と出土人骨の整理作業が進むかたわら,旧石器時代の遺跡から見つかる人骨資料の重要性を,とりわけ地元沖縄の人たちにもっとよく知ってもらいたい,との思いから,連載を開始した。沖縄には港川や山下町など人骨出土遺跡があり,またサキタリ洞遺跡からも近年目覚ましい成果があがっているなど,旧石器人の研究において重要であることは言うまでもない。特にこの数年は,白保やサキタリ洞での成果が報道され,三万年前の航海再現プロジェクトがスタートして注目されるなど,沖縄の旧石器人研究がひときわ盛り上がりを見せていると言っても過言ではなかろう。そうした中で地元への啓発・還元の意味で開始した連載であるが,回が進むうちに,この贅沢なラインナップの記事を地方紙への掲載にとどめておくには惜しい気がしてきた。そこで沖縄外の人類学会員や,広くは関心のある全国の読者にも読んでもらえる媒体での再発信を模索していたところに,今回の寄書の計画が持ち上がったというわけである。各記事の筆者の承諾を得た上で,連載を企画した土肥と河野でとりまとめて「寄書」として投稿したものであり,それぞれの記事の内容は各筆者によるものである。また,もともとが新聞の連載記事である性質上,その時点で進行中の時事ネタが多分に盛り込まれているが,どのように事態が動いていたかを記録する意味で,あえて改稿せずほぼ新聞掲載時のまま全文転載させていただくこととした(各記事の筆者の所属も掲載時点のものである)。この点ご理解の上,その時その時の「今」を感じて楽しんでいただければ幸いである。</p><p>これまで沖縄の旧石器時代研究に関わって来られた先達と,現在進行中のさまざまな研究プロジェクトに加わっておられるすべての関係者に,この機会に改めて敬意を表したい。また多忙ななかで原稿を執筆してくださり,また今回の転載を快諾してくださった筆者の皆様と,連載の趣旨に賛同し牽引してくださった琉球新報社の米倉外昭氏に心より感謝する。本寄書のこれ以降の内容はすべて,琉球新報社の提供によるものである。</p>
著者
河野 礼子 土肥 直美
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.126, no.1, pp.63-78, 2018

<p>ここに寄せる文章は,沖縄の新聞・琉球新報に,2016年2月17日から2017年5月31日にかけて計30回にわたり連載された『旧石器人研究最前線』の記事の後半部分である。沖縄には港川や山下町など人骨出土遺跡があり,さらにこの数年は白保竿根田原洞穴遺跡やサキタリ洞遺跡での成果が報道され,三万年前の航海再現プロジェクトがスタートして注目されるなど,沖縄の旧石器人研究がひときわ盛り上がりを見せていると言っても過言ではなかろう。そうした中で地元への啓発・還元の意味で開始した連載記事を,沖縄外の人類学会員や,広くは関心のある全国の読者にも読んでもらいたく,再発信するものである。もともとが新聞の連載記事である性質上,その時点で進行中の時事ネタが多分に盛り込まれているが,その時その時の「今」を記録する意味で,あえて改稿せずほぼ新聞掲載時のまま全文転載させていただくこととした(各記事の筆者の所属も掲載時点のものである)。</p><p>今回の転載を快諾してくださった筆者の皆様と,連載の趣旨に賛同し牽引してくださった琉球新報社の米倉外昭氏に心より感謝する。本寄書のこれ以降の内容はすべて,琉球新報社の提供によるものである。</p><p>(なお,連載17~19回の記事については,筆者の希望により掲載しない。)</p>
著者
高井 正成 河野 礼子 金 昌柱 張 穎奇
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;現在東アジア南部の大陸地域には,オランウータン,テナガザル(3属),コロブス亜科(6-7属)オナガザル亜科のマカク,メガネザル,そして原猿類のスローロリスなどが生息している.一方,中,国科学院古脊椎動物・古人類研究所の金昌柱教授が中心となって進めてきた広西壮族自治区崇左地域の更新世の洞窟堆積物の発掘調査では,これまで <i>Homo</i>,<i>Gigantopithecus</i>(ギガントピテクス), <i>Pongo</i>,<i>Hylobates</i>,<i>Macaca</i>,<i>Rhinopithecus</i>,<i>Trachypithecus</i>が確認されていた.その後更に霊長類化石の同定作業を進めた結果,大型オナガザル亜科である <i>Procynocephalus</i>と中型コロブス亜科の <i>Pygathrix</i>らしき化石が含まれていることが分かってきた.本発表では,こういった複数の洞窟から見つかっている霊長類化石の産出パターンの経時的な変化について報告する.<br>&nbsp;扱っている化石標本は 14の洞窟から発掘したものであるが,最も古い百孔洞が後期更新世(約 220万年前),新しいものは後期更新世(約 10万年前以降)と考えられている.霊長類化石の種類は,最古の百孔洞の時点ですでにヒト以外の属が全て出現している可能性が高い.巨大な化石類人猿であるギガントピテクスの標本は後期更新世以降の洞窟からは発見されていないので,おそらく同属は中期更新世の末期から後期更新世の初頭にかけて絶滅したらしい.一方,現生の大型類人猿であるオランウータンは全ての洞窟から化石標本が見つかっているので,中国南部では完新世まで生き残っていたらしい.テナガザル化石の標本比率は非常に少ないのであるが,百孔洞以降ほぼ全ての洞窟から出土していることから,他のホミノイド類(ギガントピテクスとオランウータン)の絶滅とは対照的に現生まで同地域で生き残ることができたらしい.