著者
樽野 博幸
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.31-55, 2022-03-31

淡路島北部東岸沖の大阪湾海底から,底曳き網漁に伴い,シカ類,イノシシ類,魚類,そして淡水貝類を含む,多くの種類の化石が引き上げられており,その年代は軟体動物の生層序,貝化石の母岩の花粉分析と,近接する陸地の地層の年代に基づき,後期鮮新世から前期更新世と推定される.それらの中のナマズ(Silurus)属の頭骨化石4点は極めて保存状態が良く,現在,琵琶湖淀川水系に固有のビワコオオナマズ( Silurus biwaensis)と同定された.この発見により,ビワコオオナマズは,過去には現在より広い分布域を持っていたことが明らかとなり,現在の分布は遺存的なものであるとする説(Kobayakawa and Okuyama, 1994)が追認された.またナマズ属の系統を明らかにするため,頭骨の各部分の形態(例えば矢状稜の形態,神経頭蓋を構成する各骨相互の隣接関係など)について,さらに詳細な比較形態学的研究が必要であることが示唆された.
著者
樽野 博幸 奥村 潔 石田 克
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History
巻号頁・発行日
vol.73, pp.37-58, 2019-03-31

ヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)は,オオツノジカ類の中でもアイルランド産のギガンテウスオオツノジカ(Megaloceros giganteus)と同等の体格を持つ大型種である.しかし,ヤベオオツノジカの完全な形をとどめた角化石は,これまでに1対しか発見されていない.この標本はオオツノジカ類としては小型のものであるが,それが本種の特徴と捉えられてきた.しかし,シカ類の角は年齢により大きくその形態を変えることはよく知られている.本稿では,現生のニホンジカとヘラジカでの研究例を参考に,日本各地から産出したヤベオオツノジカの成長に伴う角の形態変化について考察した.その結果,ヤベオオツノジカの角は,成長に伴い,眉枝や主幹掌状部が広く,主幹柱状部が太くなると共に,指状突起の本数が増え,最も体力が盛んな年齢では,かなり雄大な角を持つことが明らかになった.そして老齢の個体では,眉枝と主幹掌状部は狭くなり,指状突起は減少すること,主幹柱状部はやや細くなることが明らかになった.また,ヤベオオツノジカにおける主幹掌状部と眉枝の識別点についても論じた.そしてヤベオオツノジカの種の特徴を,角の形態に基づき再定義した.付録1および2では,大阪市立自然史博物館において復元・展示されている,熊石洞標本に基づく復元全身骨格と,生体復元像について,それらの基になった標本を示し,復元当時の見解に言及した.
著者
奥村 潔 石田 克 樽野 博幸 河村 善也
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.70, pp.1-82, 2016-03-31

熊石洞は日本の代表的な後期更新世の哺乳類化石産地の一つである.この洞窟の化石堆積物の発掘調査は主に1965年から1981年まで行われ,保存のよい大型シカ化石を含む多数の哺乳類化石を産出した.本報告では,大型シカ化石の詳細な記載を行うが,これによりほぼ同じ大きさのヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)とヘラジカ(Alces alces)という2種の大型シカの区別を明確にする.日本においてこの大型シカ2種はしばしば混同されてきたが,骨および歯の特徴からこの2種の識別を行う.また,主に角の形態的特徴に基づき,ヤベオオツノジカが中国産Sinomegacerosの種とは別個の日本固有の種であることを確認する.さらに,歯の萌出と咬耗の程度に基づいて2種の大型シカの年齢構成も明らかにする.
著者
奥村 潔 石田 克 樽野 博幸 河村 善也 Kiyoshi Okumura Shinogu Ishida Hiroyuki Taruno Yoshinari Kawamura 岐阜県博物館 大阪市立自然史博物館 愛知教育大学 Gifu Prefecture Museum Osaka Museum of Natural History Aichi University of Education
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.70, 2016-03-31

熊石洞は日本の代表的な後期更新世の哺乳類化石産地の一つである.この洞窟の化石堆積物の発掘調査は主に1965年から1981年まで行われ,保存のよい大型シカ化石を含む多数の哺乳類化石を産出した.本報告では,大型シカ化石の詳細な記載を行うが,これによりほぼ同じ大きさのヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)とヘラジカ(Alces alces)という2種の大型シカの区別を明確にする.日本においてこの大型シカ2種はしばしば混同されてきたが,骨および歯の特徴からこの2種の識別を行う.また,主に角の形態的特徴に基づき,ヤベオオツノジカが中国産Sinomegacerosの種とは別個の日本固有の種であることを確認する.さらに,歯の萌出と咬耗の程度に基づいて2種の大型シカの年齢構成も明らかにする.
著者
河村 善也 吉川 周作 阿部 祥人 古瀬 清秀 樽野 博幸 金 昌柱 高 星 張 穎奇 張 鈞翔 松浦 秀治 中川 良平 河村 愛
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

東アジアのうち,北海道を除く日本本土では後期更新世~完新世に多くの種類の哺乳類が絶滅しているが,その絶滅期はMIS 3 からMIS 2 にかけてで,大型種だけでなく小型種も絶滅している.絶滅は短期間に急激に起こったのではなく,比較的長い期間に徐々に進行したようである.この地域ではずっと森林が維持され,環境変化が穏やかで,人類の影響もさほど強くなかったことが,そのようなパターンをもたらしたと考えられる.琉球列島では島ごとに絶滅のパターンが異なり,ここでは人類が絶滅に深くかかわっていると推定される.中国東北部では,ヨーロッパでのパターンに似た絶滅が起こったが,中国中・南部では絶滅はそれより限定されたものであったようである.台湾や韓国では,まだ研究が十分ではない.
著者
樽野 博幸 河村 善也 石田 克 奧村 潔
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
no.71, pp.17-142, 2017-03-31

中部日本に位置する熊石洞は,数多くの後期更新世の哺乳類化石を産出している.その中には,ヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)とヘラジカ(Alces alces)の2種の大型シカ化石が多量に含まれている.本稿では,体骨の詳細な記載と計測を行い,ヤベオオツノジカとヘラジカの体骨の識別点を初めて明確に示した.またヤベオオツノジカの肢骨を中国産のSinomegaceros 属の種,ならびにアイルランド産のMegaloceros giganteusの骨と比較した.その結果,ヤベオオツノジカは中国産のSinomegacerosよりもはるかに大きく,M. giganteus と同程度の大きさであることを明らかにした.
著者
樽野 博幸 石田 克 奥村 潔
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.81-151, 2018-03-31

熊石洞は日本の代表的な後期更新世の哺乳類化石産地の一つで,29種が知られている.本稿 ではこれらの中で,ヒグマ Ursus arctos,トラ Panthera tigris,ナウマンゾウ Palaeoloxodon naumanni, カズサジカCervus(Nipponicervus)kazusensis,ニホンカモシカ近似種Capricornis sp., cf. C. crispusの 記載を行った.トラとカモシカ属の化石は,熊石洞からは初めての報告である.その中で,以下の 点について議論し見解を明らかにした.1ヒグマUrsus arctosとツキノワグマU. thibetanusとの上顎 第4小臼歯における識別点,2ナウマンゾウ Palaeoloxodon naumanni の第3・第4乳臼歯と第1大臼歯の 咬板数,3中型シカ類ではカズサジカ Cervus(Nipponicervus)kazusensis のみが産出し,ニホンジカ Cervus(Sika)nipponの産出は確認できない,4ニキチンカモシカNaemorhedus nikitiniはゴーラル属 Naemorhedus ではなくカモシカ属 Capricornis に属する,5日本の更新世のカモシカ属は,現生のニ ホンカモシカより大型である.
著者
樽野 博幸 河村 善也 石田 克 奧村 潔
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.17-142, 2017-03-31

中部日本に位置する熊石洞は,数多くの後期更新世の哺乳類化石を産出している.その中には,ヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)とヘラジカ(Alces alces)の2種の大型シカ化石が多量に含まれている.本稿では,体骨の詳細な記載と計測を行い,ヤベオオツノジカとヘラジカの体骨の識別点を初めて明確に示した.またヤベオオツノジカの肢骨を中国産のSinomegaceros 属の種,ならびにアイルランド産のMegaloceros giganteusの骨と比較した.その結果,ヤベオオツノジカは中国産のSinomegacerosよりもはるかに大きく,M. giganteus と同程度の大きさであることを明らかにした.
著者
河村 善也 樽野 博幸 稲田 孝司
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.399-411, 2007-10-01 (Released:2009-03-26)
参考文献数
28
被引用文献数
1 4

姫島から産出した1個のゾウ臼歯化石を系統分類学的に詳しく記載した.この化石は姫島の海岸のすぐそばの浅い海底から採取されたもので,おそらくそこに露出していた前期~中期更新世の堆積物から産出したものと思われる.この化石は,その形態の特徴から,マンモスゾウの祖先種の一つであるトロゴンテリゾウ(Mammuthus trogontherii)の右下顎第3大臼歯に同定できる.この化石の産出の意義を述べるとともに,日本や周辺の大陸から知られる古型マンモス類の化石と比較して,東アジアにおけるトロゴンテリゾウの時間的分布や移動についても議論した.
著者
河村 善也 亀井 節夫 樽野 博幸
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.317-326, 1989 (Released:2009-08-21)
参考文献数
48
被引用文献数
24 41

The Middle and Late Pleistocene mammalian faunas of Japan are described with new opinions on their succession and relation to the continental faunas. Although fossil materials assignable to early Middle Pleistocene are seemingly scarce in Japan, the fauna of that time is considered to have been transitional between the Early and Middle Pleistocene ones. On the other hand, fossil records which are younger than early Middle Pleistocene are abundant from the mainlands of Japan; viz. the Honshu-Shikoku-Kyushu area.In the middle Middle Pleistocene, the fauna of this area contained a considerable number of taxa which are extant today in the area (about 50%). It was also characterized by a high proportion of endemic species and the predominance of temperate forest elements. From this time to the late Middle Pleistocene, several species disappeared from the fauna; at the same time, immigrants from the continent were scarce. The faunal characters of the late Middle Pleistocene were basically identical with those of the preceding time.In the early Late Pleistocene, no mammal seems to have immigrated from the neighboring continent, and faunal composition was almost consistent with that of the late Middle Pleistocene. The elements of that fauna still persisted in the late Late Pleistocene, apart from the extinction of a few forms. In addition to the fact mentioned above, immigration from the northern part of the continent was recognized in the late Late Pleistocene, although it was restricted to a few large herbivore forms and to a short time duration.The introduction of the continental faunas to the mainlands of Japan during Middle and Late Pleistocene times was not so remarkable as previously inferred. Therefore it becomes doubtful that the faunas of the area were drastically replaced by the immigration of the Choukoutien, Wanhsien and Loess faunas of China during those times.
著者
樽野 博幸
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.258-264, 1999-07-25
被引用文献数
4

日本列島の中・下部更新統と鮮新統から産出する長鼻類化石の産出層準を,広域対比された火山灰層序に基づいて整理した.シンシュウゾウの出現は鮮新世の初期にさかのぽり,上限はガウス・クロンの下部におよぶ.標本数が少ないため,その産出層準は,地域によりずれているようにみえる.またこの層準では,火山灰層による地層の対比も不十分である.アケボノゾウ類似種はガウス・クロンの上部から松山クロンの下部の層準で産出している.アケボノゾウの産出層準は古琵琶湖層群産の1例をのぞいて,大阪層群の三ツ松火山灰層直下の層準からイエロー火山灰層層準で代表させることができる.ムカシマンモスの産出層準は,大阪層群のイエロー火山灰層層準からMa5海成粘土層層準で代表させることができるが,関東の上総層群では,より上位の層準からも産出している.しかし,この層準のものは誘導化石の疑いがある.トウヨウゾウの産出層準は,大阪層群のMa6海成粘土層直下からMa7海成粘土層の層準で代表される.