著者
鈴木 比奈子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.250-255, 2019-06-01 (Released:2019-06-01)

「災害年表マップ」は歴史時代から1600年分,約6万件の日本全国の過去の自然災害事例を災害発生年ごとにWeb地図上で閲覧するアプリケーションである。簡便に過去の災害事例の閲覧を可能にするために取り組んだ。本マップは防災科研が整備する災害事例データベースを利用している。本データベースは日本全国の地域防災計画の過去の災害事例を抽出し,災害の概要が把握できることを目的としたものであり,GISデータとして整備をしている。APIを用いて,他のアプリケーションとのマッシュアップが可能である。災害年表マップを通して,災害事例が掲載される資料へのアクセスや地域の災害発生状況の把握による防災力の向上を目指している。
著者
熊原 康博 谷口 薫 内山 庄一郎 中田 高 井上 公 杉田 暁 井筒 潤 後藤 秀昭 福井 弘道 鈴木 比奈子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

はじめに 近年のラジコン技術の進歩によって,非軍事用のUAV(Unmanned Aerial Vehicle)の小型化と低価格化が進み,機材を自ら操作して低空空撮を行うことが可能となりつつある.日本でも,これらの機材を災害発生後の被害把握に活用する動きはあった(井上ほか,2012など)が,従来,専門業者にデータ取得を依頼することが多く,誰でも,どこでも,いつでも容易に利用できる状況ではなかった.最近,安価なホビー用ヘリコプターの高性能化が進み,これを利用して斜めあるいは垂直画像の低空空撮を容易に行うことが可能となった.本発表では根尾谷断層水鳥地震断層崖周辺で,ホビー用GPSマルチロータ-ヘリ(DJI社製Phantom)を用いた低空空撮の結果を紹介する. さらに,得られた空撮写真からSfm(Structure from Motion)ソフトを用いることで, DSM(Digital Surface Model)を作成する事も容易になった.SfMとは,コンピュータビジョンの分野ではメジャーな要素技術であり,リアルな立体CG作成などの映像産業やロボットや自動車制御における三次元的な自己位置認識などで用いられている.自然科学の分野では大量の写真画像から地形などの三次元モデルやオルソ画像を生成する用途で使われ始めている.今回は,断層変位地形の三次元モデルの再現を企図してSfMソフトウェアの一つであるAgiSoft社のPhotoScanを使用した.   調査対象範囲 濃尾地震(1891)は歴史時代に発生した我が国最大の内陸地震(M 8.0)で,本巣市根尾水鳥では縦ずれ最大6m,横ずれ2mの断層変位によって明瞭な地震断層崖が出現し,国指定の天然記念物に指定されている.このため,地震発生後120年以上経過するが,断層変位地形の保存状態がよい.空撮実験はこの断層崖を中心に南北約400m,東西約150mの範囲で行った.    UAVによる写真画像の取得 Phantomは電動4ローターを持つラジコン機で,長さと幅約50㎝,重量約700g,ペイロードは最大約400gであり,最長7分程度の飛行が可能である.GPSとジャイロによって,初心者でも安定した飛行が可能である.使用した機材は.機体とインターバル撮影が可能なデジタルカメラを含め10万円以下である. 地表画像は,Phantomにデジタルカメラ(Ricoh GRⅢ:重量約200g)を機体下部に下向きに取り付け,高度約50-100mから5秒間隔で撮影した.低空でからの空撮であるために地上の物体を鮮明にとらえており,地震断層崖の地形も詳細に把握することができる.機体が傾いても,カメラの向きを常に一定に保つジンバルを用いれば,立体視可能なステレオ画像を容易に得ることが可能となる.   Sfmソフトを用いたDSMの作成 撮影した約80枚の画像を,PhotoScanに取り込み,ワークフローにしたがって処理を行った.今回は,特に飛行ルートを設定して撮影をしたものではなく,カメラポジションはバラバラである.それでも,高解像度の3D画像が生成され,任意の角度や縮尺で断層変位地形を観察することができる.ソフトへの画像の取り込みから3D画像の完成までに要する時間は1時間弱である.正確な画像を作成するためには,カメラのレンズ特性や,地理院地図などから緯度・経度・標高を読み取り,地表のコントロールポイントを設定する必要がある.  PhotoScanを活用すれば,GeoTIFF形式の書き出しもでき,他のソフトでも読み込むことが可能となる.本研究では, GeoTIFF形式で出力したDSMをGlobal Mapperで処理し作成した水鳥断層崖周辺の1 mコンターの3 D等高線図や断面測量を行った.   おわりに 今回紹介した小型UAVとSfmソフトを利用した手法は,今後,活断層研究をはじめとする各種の地形研究や災害後の調査など多くの研究に活用が期待される.特に数100 m x 数100 m程度の比較的狭い範囲の地形を詳細に把握するには,多いに利用できると考えられる.この手法を用いれば,活断層や地震断層沿いの変位量を効率的に行うことが可能となり,地震の予測精度の向上に重要な震源断層面上のアスペリティー位置の推定などに貢献できる.
著者
内山 庄一郎 堀田 弥生 折中 新 半田 信之 田口 仁 鈴木 比奈子 臼田 裕一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

クライシスレスポンスWebサイトの目指すところは、自然災害発生時における、あらゆる災害情報の自動アーカイブと、これらのオンデマンドな災害情報・災害資料の提供である。しかしながら、技術的にも著作権的にも多数の課題があることは自明である。そこで、現在は多様で広範、かつ動きの早い災害情報のアーカイブに関する実証実験として実施している。具体的には、1)迅速対応の実践として、災害発生後ゼロ日以内に第一報を提供すること。また発災からしばらくの期間、継続的に更新を行うこと、2)情報の整理として、災害発生直後から泡のように現れては消えてゆく災害情報の検索と整理を行い、3)情報の提供として、それら災害情報への簡便な一元的アクセスの提供を目指している。並行して4)これらをドライブするシステム開発を推進している。
著者
佐野 浩彬 田口 仁 花島 誠人 伊勢 正 佐藤 良太 高橋 拓也 池田 真幸 鈴木 比奈子 李 泰榮 臼田 裕一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<b>報告の背景と目的</b> <br>2016年4月14日21時26分に発生した震度7の地震(Mj6.5)と,4月16日1時35分に発生した地震(Mj7.3)およびそれ以降に続く余震(2016年熊本地震)に対して,防災科学技術研究所(防災科研)では災害対応の一環として,地図情報の作成・集約・共有による情報支援を実施した.防災科研が独自に行っている地震や液状化,降雨,火山,土砂災害などの観測・予測データや,熊本県庁から提供された道路規制情報や避難所情報,通水復旧のインフラ情報などをWeb-GISに統合し,俯瞰的な被害状況を把握できる仕組みを構築した.各種情報が集約された地図は,防災科研が構築した熊本地震のクライシスレスポンスサイト(http://ecom-plat.jp/nied-cr/index.php?gid=10153)において公開したほか,避難所情報などの公開が難しい一部の情報については,熊本地震災害対応にあたる特定機関向け地図を構築して提供した. 本報告では,熊本地震における地図情報の作成・集約・共有における災害対応支援のなかで,熊本県庁をはじめとする各種機関が集約・発信する情報が,どのように地図情報として一つの地理空間情報基盤上に整理されたのかについて報告する. <b><br>熊本地震における地図情報支援</b> <br>4月14日に発生した震度7の地震を受けて,防災科研では地震による被害状況把握ならびに情報集約のためのWeb-GISを構築した.当初は防災科研が観測した震度分布や推定全壊棟数分布のデータをWeb-GISに統合した.また,地震発生翌日の4月15日には,熊本県庁に防災科研研究員が派遣され,熊本県や中央省庁などと連携し,各機関から提供される災害情報を,構築したWeb-GIS上に統合した.直接Web-GIS上に取り込める形で提供された情報には,国土地理院の「被災後空中写真」やITSジャパンの「通れた道マップ」,地震推進本部の「活断層図」などが挙げられる.また,熊本県庁から提供された道路被害情報や避難所情報などはテキスト形式やExcelで整理されたもの,独自の地図で描画されたものなど,Web-GISに直接地図情報として取り込むことができなかったものもあり,それらは住所情報などを頼りにして位置情報を付与することでWeb-GIS上に統合した.各機関から集約・整備したデータは約45種類,データ数として424を数える(6月27日時点).Web-GIS上で集約されたデータは,利用者がニーズに応じて必要な情報を適宜選択して表示することができる.例えば,通水復旧状況のレイヤと避難所情報のレイヤを組み合わせることで,給水支援が必要な避難所を分析できたり,避難所と推定全壊棟数分布,道路規制情報の3レイヤを重ね合わせることで,生活支援が必要な地域と,支援に向かうためにたどり着くための最適ルートを事前に検討することが可能となる. <b><br>地図情報作成・集約・共有における課題</b> <br>被害情報をWeb-GIS上に統合することで、災害対応支援への活用が可能となるが、情報の統合化においては様々な課題が明らかとなった。例えば、避難所情報については国土交通省があらかじめ国土数値情報のなかで整備している避難所情報もあれば、DMATが独自に収集し整理している広域災害救急医療情報システム(EMIS)の避難所情報、また熊本県庁で集約されたものや熊本市で集約されたものなど、災害発生直後に各種機関が独自に情報収集を始めてしまったため、一つの情報として集約することが困難な状態だった。また、避難所情報の統合にあたっては、各機関が整理する情報の避難所名称に差異があったり、本来は指定されていない避難所が開設されているなど、単純な統合化・集約化が難しいという課題があった。こうした各種機関が独自に情報を収集、集約すると、その後の情報統合化が難しくなるため、あらかじめ共有情報の標準化(COP,Common Operational Picture)を検討しておくことが重要となる。今後の課題としては、地図情報の作成・集約・共有における自動化や高度化、災害情報におけるCOP実現に向けた検討が挙げられる。 &nbsp; <br> <b>謝辞:</b>本報告の一部には、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(先着的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:科学技術振興機構)の予算を活用した。
著者
鈴木 比奈子 内山 庄一郎 堀田 弥生 臼田 裕一郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.234, 2013 (Released:2013-09-04)

1.背景と目的過去の自然災害の履歴は,その場所における現在の自然災害リスクに大きく関係するため,ハザード・リスク評価に必須の情報である.特に,地域等での防災の現場において,その場所で発生した過去の自然災害を知ることは,地域の脆弱性をより正確に把握し対策を立案していく上で欠かすことができない.一方で,国内の過去の災害事例は膨大であり,それらが記載された文献資料の種類や形態も様々である.そこで,日本国内における過去の自然災害事例を網羅的に収集し,一般にも公開可能な共通の知識データベースを構築することを目的として,全国の地方自治体が発行する地域防災計画に記述されている自然災害事例の抽出とそのデータベース化を開始した.データベースは現在試験段階であるが,将来的には相互運用可能なAPIを通して配信し,外部システムから動的に呼び出して使用可能となる予定である.2.自然災害事例のデータモデリング災害事例をデータベース化するためには,地域防災計画等の出典資料から,発生した災害の記述を読み取り入力する必要がある.しかし地域災害史の項目は説明的な記述が多く,統計データ的な取り扱いをすることが難しい.そのため,次の要件を満たすべくデータモデリングを行った.要件1:情報の取りこぼしを最小限に抑える要件2:できる限り簡易な作業で入力できる要件3:内容をベタ打ちする項目を作らないこの結果,データベースの内容を9つに大分類し,合計112の入力項目を設定した.データ項目を詳細に区分したこと,およびデータ入力の際に,文献に記載がない情報は原則として空欄とするルールを設定したことによって,出典資料の情報の取りこぼしを抑え,入力作業に必要な専門的な判断を最小限にした.また,分類項目のいずれにも格納できない例外的な情報の発生は許容することとし,例外情報を文章としてベタ打ちでデータベースに入力しないこととした.この理由は,入力作業の簡易化とデータベースとしての可用性向上である.また,歴史災害を対象とした自然災害事例の抽出を行うため,現在の災害種別と災害発生当時の災害種別とを対比させる必要がある.災害種別は大分類として5種類に分け,さらに小分類として23の災害種別を設定した.過去の文献における災害の呼称と,小分類の災害種別との対応を各種文献から調査し対応表を作成した.この他,災害名称は地域の自然災害のインパクトを推し量る上で重要な要素と考え,比較的詳細な入力仕様を設定した.3.今後の展開現在,約34,000件の災害事例を試行的に入力した.このペースでは,日本全国でおよそ10万件程度の災害事例が抽出されると推定している.まずは,このデータベースの充実を推進する.次のステップとして,このデータベースから自然災害が社会に与えたインパクト‐災害マグニチュード‐を求める手法を検討する.一定の災害マグニチュード以上の自然災害については調査・解析を行い,データベースの高度化を行いたい.このデータベースによって,地域の災害脆弱性とその影響範囲をより明確に提示し,地域の防災力向上に資するシステムを目指す.