著者
泉田 温人 内山 庄一郎 須貝 俊彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<b>1.初めに</b> 平成27年9月関東・東北豪雨は鬼怒川流域に記録的な大雨をもたらし<sup>1)</sup>,10日12時50分に常総市三坂町地先(左岸21k付近;図1中の&times;)で鬼怒川の堤防が決壊した<sup>2)</sup>.鬼怒川水海道観測所においては同日13時に計画高水位(17.24m, Y.P.)を超過した<sup>3)</sup>.破堤箇所付近の鬼怒川は,風成層を載せる更新世段丘に挟まれた沖積低地の西端を流れ,河床勾配1/2500程度の砂床河川である.堤防の決壊区間から後背湿地に南流した洪水流による自然堤防上の地形及び洪水堆積物の特徴を報告する.<br><b>2.調査手法</b> トータルステーション測量とVRS方式のGNSS観測機による測量を実施し,洪水後の地形断面図を作成するとともに洪水前の5mメッシュDEM(国土地理院提供)と比較して洪水イベントによる地形変化を検討した.堆積物調査では現地での記載とレーザー回折式粒度分析装置による粒度分析を行った.<br><b>3.破堤地形の記載</b><br><b>地形の特徴</b><b>:</b>洪水流の中心では破堤堤防の付近に深さ2 m以上の落掘が形成され,その下流も150 m以上の距離の間,浸食作用が卓越し標高が30-40 cm低下したが,中心以外では侵食域は洪水流の根元に限られ標高変化の小さい領域が大きかった.この領域の途中には地形的な段差の下に比高30-40 cmの急崖を持つローブ状堆積地形が一部で形成された.また侵食を免れた道路などの洪水流下流側に砂が堆積する例が多く認められた.<br><b>堆積物の特徴</b><b>:</b>調査地のほぼ全域で地表から5-30 cmの深度まで洪水堆積物が分布し,その下部は上方粗粒化を示す泥質細砂-極細砂,上部は淘汰の良い細砂-中砂で主に構成されていた.前述のローブ状地形では層厚50-60 cmの泥を欠く中砂が地表まで堆積した.また,一部地点は泥が地表を被覆した.<br><b>4.まとめと今後の展望</b> 今回の破堤地形は過去に報告されたクレバス・スプレー<sup>4)</sup>と類似する特徴が多いが,地形の分布は人工物の影響を多少受けている.今後,UAVを用いた新たな地形調査法を含む地形と堆積物の詳細かつ広範な調査により,破堤箇所から遠方に至るまでの破堤地形の縦断的な地形変化のシーケンスが明らかにされ,過去の埋没破堤地形の同定に適用できる可能性がある.このことは,自然堤防の分布と共に勘案することで,クレバス・チャネルの出現に発する新河道の形成と本流路の争奪,そしてまた別の流路への河道変遷の過程を追跡し,氾濫原の地形発達の理解に繋がり得る.<br><br><b>参考文献</b>&nbsp; 1) 気象庁 (2015):平成27年報道発表資料,http://www.jma.go.jp/ jma/press/1509/18f/20150918_gouumeimei.html(2015年12月28日閲覧) 2) 国土交通省関東地方整備局 (2015):平成27年記者発表試料, http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/index00000080.html(2015年12月28日閲覧)3) 国土交通省:水文水質データベース, http://www1.river.go.jp/(2016年1月23日閲覧) 4) Bristow et. al. (1993) : Sedimentology, 46, 1029-1047
著者
齋藤 仁 内山 庄一郎 小花和 宏之 早川 裕弌
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.347-359, 2016-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
30
被引用文献数
2 3

近年,小型の無人航空機とSfM多視点ステレオ写真測量により解像度1m以下の高精細な空中写真と地形データの取得が可能になり,地理学の分野においてもそれらの利用が急速に進んでいる.本研究の目的は,これらの技術を表層崩壊地の地形解析に応用し,詳細な表層崩壊地の空間分布と土砂生産量を明らかにすることである.対象地域は,2012年7月九州北部豪雨に伴い多数の表層崩壊が発生した阿蘇カルデラ壁の妻子ヶ鼻地域と,中央火口丘の仙酔峡地域である.結果,空間解像度0.04mのオルソ画像,および0.10mと0.16mのDigital Surface Modelsが得られた.妻子ヶ鼻地域と仙酔峡地域における土砂生産量は,それぞれ4.84×105m3/km2と1.22×105m3/km2であった.これらの値は過去に報告された同地域の表層崩壊事例の土砂生産量よりも10倍程度大きい値であり,阿蘇火山の草地斜面における1回の豪雨に伴う潜在的な土砂生産量を示すと考えられる.
著者
熊原 康博 谷口 薫 内山 庄一郎 中田 高 井上 公 杉田 暁 井筒 潤 後藤 秀昭 福井 弘道 鈴木 比奈子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

はじめに 近年のラジコン技術の進歩によって,非軍事用のUAV(Unmanned Aerial Vehicle)の小型化と低価格化が進み,機材を自ら操作して低空空撮を行うことが可能となりつつある.日本でも,これらの機材を災害発生後の被害把握に活用する動きはあった(井上ほか,2012など)が,従来,専門業者にデータ取得を依頼することが多く,誰でも,どこでも,いつでも容易に利用できる状況ではなかった.最近,安価なホビー用ヘリコプターの高性能化が進み,これを利用して斜めあるいは垂直画像の低空空撮を容易に行うことが可能となった.本発表では根尾谷断層水鳥地震断層崖周辺で,ホビー用GPSマルチロータ-ヘリ(DJI社製Phantom)を用いた低空空撮の結果を紹介する. さらに,得られた空撮写真からSfm(Structure from Motion)ソフトを用いることで, DSM(Digital Surface Model)を作成する事も容易になった.SfMとは,コンピュータビジョンの分野ではメジャーな要素技術であり,リアルな立体CG作成などの映像産業やロボットや自動車制御における三次元的な自己位置認識などで用いられている.自然科学の分野では大量の写真画像から地形などの三次元モデルやオルソ画像を生成する用途で使われ始めている.今回は,断層変位地形の三次元モデルの再現を企図してSfMソフトウェアの一つであるAgiSoft社のPhotoScanを使用した. &nbsp; 調査対象範囲 濃尾地震(1891)は歴史時代に発生した我が国最大の内陸地震(M 8.0)で,本巣市根尾水鳥では縦ずれ最大6m,横ずれ2mの断層変位によって明瞭な地震断層崖が出現し,国指定の天然記念物に指定されている.このため,地震発生後120年以上経過するが,断層変位地形の保存状態がよい.空撮実験はこの断層崖を中心に南北約400m,東西約150mの範囲で行った. &nbsp; &nbsp;UAVによる写真画像の取得 Phantomは電動4ローターを持つラジコン機で,長さと幅約50㎝,重量約700g,ペイロードは最大約400gであり,最長7分程度の飛行が可能である.GPSとジャイロによって,初心者でも安定した飛行が可能である.使用した機材は.機体とインターバル撮影が可能なデジタルカメラを含め10万円以下である. 地表画像は,Phantomにデジタルカメラ(Ricoh GRⅢ:重量約200g)を機体下部に下向きに取り付け,高度約50-100mから5秒間隔で撮影した.低空でからの空撮であるために地上の物体を鮮明にとらえており,地震断層崖の地形も詳細に把握することができる.機体が傾いても,カメラの向きを常に一定に保つジンバルを用いれば,立体視可能なステレオ画像を容易に得ることが可能となる. &nbsp; Sfmソフトを用いたDSMの作成 撮影した約80枚の画像を,PhotoScanに取り込み,ワークフローにしたがって処理を行った.今回は,特に飛行ルートを設定して撮影をしたものではなく,カメラポジションはバラバラである.それでも,高解像度の3D画像が生成され,任意の角度や縮尺で断層変位地形を観察することができる.ソフトへの画像の取り込みから3D画像の完成までに要する時間は1時間弱である.正確な画像を作成するためには,カメラのレンズ特性や,地理院地図などから緯度・経度・標高を読み取り,地表のコントロールポイントを設定する必要がある. &nbsp;PhotoScanを活用すれば,GeoTIFF形式の書き出しもでき,他のソフトでも読み込むことが可能となる.本研究では, GeoTIFF形式で出力したDSMをGlobal Mapperで処理し作成した水鳥断層崖周辺の1 mコンターの3 D等高線図や断面測量を行った. &nbsp; おわりに 今回紹介した小型UAVとSfmソフトを利用した手法は,今後,活断層研究をはじめとする各種の地形研究や災害後の調査など多くの研究に活用が期待される.特に数100 m x 数100 m程度の比較的狭い範囲の地形を詳細に把握するには,多いに利用できると考えられる.この手法を用いれば,活断層や地震断層沿いの変位量を効率的に行うことが可能となり,地震の予測精度の向上に重要な震源断層面上のアスペリティー位置の推定などに貢献できる.
著者
内山 庄一郎 堀田 弥生 折中 新 半田 信之 田口 仁 鈴木 比奈子 臼田 裕一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

クライシスレスポンスWebサイトの目指すところは、自然災害発生時における、あらゆる災害情報の自動アーカイブと、これらのオンデマンドな災害情報・災害資料の提供である。しかしながら、技術的にも著作権的にも多数の課題があることは自明である。そこで、現在は多様で広範、かつ動きの早い災害情報のアーカイブに関する実証実験として実施している。具体的には、1)迅速対応の実践として、災害発生後ゼロ日以内に第一報を提供すること。また発災からしばらくの期間、継続的に更新を行うこと、2)情報の整理として、災害発生直後から泡のように現れては消えてゆく災害情報の検索と整理を行い、3)情報の提供として、それら災害情報への簡便な一元的アクセスの提供を目指している。並行して4)これらをドライブするシステム開発を推進している。
著者
宮城 豊彦 内山 庄一郎 渡辺 信
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

沖縄県西表島の大規模なマングローブ林を対象に新しい技術と分析手法を用いて、地生態系の形成過程を分析する可能性を検討した。
著者
谷川 亘 浦本 豪一郎 内山 庄一郎 折中 新 山品 匡史 岡本 桂典 原 忠
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

高知県内各地では、歴史南海地震の被害の様子が文字として刻まれた石碑が建てられている。宝永地震(1707年)から昭和南海地震(1946年)までの南海地震に関連した石碑が多く残されており、現在文献で確認できるだけで約25体ある。特に高知県内の地震津波碑は安政東海地震・安政南海地震(1854年)に関連した石碑が多い。地震津浪碑は供養・慰霊碑としての位置付けだけでなく、歴史資料としての価値も高い。しかし、雨風と植生による風化が進行し、石碑が傷み、解読不能な文字も見受けられる。また、高知県内の石碑は個人や寺社などが所有者であることが多いため、その保全は所有者に委ねられている。そのため、将来発生する南海地震をはじめとした自然災害により地震津浪碑喪失の危惧も否めない。そこで、本プロジェクトでは地震津浪碑から得られる歴史南海地震の情報を後世へと継承し、防災教育の教材として活用を促進するために、三次元デジタルイメージ化による地震碑の保存、および地震津浪碑と地図情報をリンクさせたウェブブラウザ上での情報提供を行う。石碑の研究といえば、これまで主に刻まれている碑文内容の解読に重点が置かれてきた。しかし、石碑の価値はそれだけでなく、石碑の岩石物理化学的な特徴(鉱物組成・色・帯磁率など)と形状も石碑が製作された当時の文化とその背景を示唆する情報を含んでいる可能性が高い。そのため本プロジェクトでは、石碑の三次元デジタル画像の構築および、石碑の岩石物理化学的なデータの測定を行い、これらの情報をウェブ上に掲載することを計画する。三次元デジタル画像の構築は、既存のソフトAgisoft社製Photoscanを使用して行っている。また画像構築に必要な写真撮影はRICOH社製のGRを用いた。3D画像を閲覧する方法として①ウェブでの閲覧、および②ウェブサイトから各々のPCへの転送、を検討している。石碑の三次元デジタル画像は、彫られた文字を明瞭に表示させるためにはメッシュ化した面の数を多くする必要がある。しかし、面数が多くなるとデータ容量が大きくなるためブラウザ表示に負担がかかる。そこで①の方法として、WebGL描写の3Dモデルをブラウザ上で表示・シェアできるプラットフォーム[Sketchfab (https://sketchfab.com/)]を採用している。また②の方法として、転送データ形式は3D-PDFとし、3D-PDF対応のソフトウェアで閲覧する方法を採用している。石碑の色測定は分光測色計(KONICA MINOLTA社製 CM-700d)を用いて、帯磁率測定はTerraplus社製のKT-10 S/Cを用いている。本発表では現在までのプロジェクトの進行状況およびこれまで得られた結果を報告する。
著者
鈴木 比奈子 内山 庄一郎 堀田 弥生 臼田 裕一郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.234, 2013 (Released:2013-09-04)

1.背景と目的過去の自然災害の履歴は,その場所における現在の自然災害リスクに大きく関係するため,ハザード・リスク評価に必須の情報である.特に,地域等での防災の現場において,その場所で発生した過去の自然災害を知ることは,地域の脆弱性をより正確に把握し対策を立案していく上で欠かすことができない.一方で,国内の過去の災害事例は膨大であり,それらが記載された文献資料の種類や形態も様々である.そこで,日本国内における過去の自然災害事例を網羅的に収集し,一般にも公開可能な共通の知識データベースを構築することを目的として,全国の地方自治体が発行する地域防災計画に記述されている自然災害事例の抽出とそのデータベース化を開始した.データベースは現在試験段階であるが,将来的には相互運用可能なAPIを通して配信し,外部システムから動的に呼び出して使用可能となる予定である.2.自然災害事例のデータモデリング災害事例をデータベース化するためには,地域防災計画等の出典資料から,発生した災害の記述を読み取り入力する必要がある.しかし地域災害史の項目は説明的な記述が多く,統計データ的な取り扱いをすることが難しい.そのため,次の要件を満たすべくデータモデリングを行った.要件1:情報の取りこぼしを最小限に抑える要件2:できる限り簡易な作業で入力できる要件3:内容をベタ打ちする項目を作らないこの結果,データベースの内容を9つに大分類し,合計112の入力項目を設定した.データ項目を詳細に区分したこと,およびデータ入力の際に,文献に記載がない情報は原則として空欄とするルールを設定したことによって,出典資料の情報の取りこぼしを抑え,入力作業に必要な専門的な判断を最小限にした.また,分類項目のいずれにも格納できない例外的な情報の発生は許容することとし,例外情報を文章としてベタ打ちでデータベースに入力しないこととした.この理由は,入力作業の簡易化とデータベースとしての可用性向上である.また,歴史災害を対象とした自然災害事例の抽出を行うため,現在の災害種別と災害発生当時の災害種別とを対比させる必要がある.災害種別は大分類として5種類に分け,さらに小分類として23の災害種別を設定した.過去の文献における災害の呼称と,小分類の災害種別との対応を各種文献から調査し対応表を作成した.この他,災害名称は地域の自然災害のインパクトを推し量る上で重要な要素と考え,比較的詳細な入力仕様を設定した.3.今後の展開現在,約34,000件の災害事例を試行的に入力した.このペースでは,日本全国でおよそ10万件程度の災害事例が抽出されると推定している.まずは,このデータベースの充実を推進する.次のステップとして,このデータベースから自然災害が社会に与えたインパクト‐災害マグニチュード‐を求める手法を検討する.一定の災害マグニチュード以上の自然災害については調査・解析を行い,データベースの高度化を行いたい.このデータベースによって,地域の災害脆弱性とその影響範囲をより明確に提示し,地域の防災力向上に資するシステムを目指す.