著者
目黒 浩昭 山口 美佳 長岡 正範
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.59-61, 2022-06-20 (Released:2022-06-21)
参考文献数
7

鉄欠乏によりパニック症を発症したと考えられた1例を報告する.鉄はセロトニンを始め脳内モノアミンの産生において重要な役割を担っており,鉄欠乏と不安障害や抑うつ気分の合併が報告されパニック症の合併の報告も散見される.症例は30代の女性事務職員.頻繁なパニック発作で受診した.氷食症など鉄欠乏を疑うエピソードがあった.貧血はないが血清フェリチン値5.8 ng/mLと高度の鉄欠乏を認めた.鉄剤の補充とともに症状は改善した.血清フェリチン値の再低下の際に軽い発作を認めたが再補充による正常値の維持によりその後の発症を認めていない.若年女性にはかなりの割合で貧血を伴わない潜在的鉄欠乏が存在する.パニック症や抑うつ,不安障害を有する若年女性には抗うつ薬など一般的治療法とともに鉄欠乏も想起し検査を行い,鉄欠乏が存在するなら鉄補充により症状改善を期待することができるのではないだろうか.
著者
渡部 幸司 長岡 正範
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.29-36, 2010-02-28 (Released:2014-11-21)
参考文献数
34
被引用文献数
2 2

リハビリテーションの分野で電気刺激療法は, 従来, 鎮痛や筋力強化などの目的で使用されているが, 有効性がほとんど証明されていない. 今回, 電気刺激療法の有効性が認められない理由, さらに新しく開発された方法を紹介し, 今後の展望について検討した. 電気刺激療法は, 対象や刺激条件がさまざまであるため, 目標別の刺激条件を概説した. 従来は, 神経・筋に対する治療法がほとんどであったが, 近年, それ以外にも糖輸送体タンパク質増加, 血管新生や血流増加なども報告されている. 神経・筋に対する治療法では, 電気刺激による筋収縮が生理的な筋収縮とは違うという問題点がある. それに対し, 新しい方法であるハイブリッド訓練法と随意運動介助型電気刺激装置は, 随意運動と同時に行うことで, 生理的な筋収縮も得る方法である. 今後, 電気刺激療法を他の運動療法と併用することなどで, さらに発展が期待できる.
著者
長岡 正範
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.133-146, 2004-06-30 (Released:2014-11-12)
参考文献数
3

救急病院に入院した脳卒中患者を例に, リハビリテーションの進め方を説明した. リハビリテーションは, 個人に, 彼らの機能障害 (生理学的あるいは解剖学的な欠損や障害) および環境面の制約に対応して, 身体・精神・社会・職業・趣味・教育の諸側面の潜在能力 (可能性) を十分に発展させることと定義されている. 現在は, 工学や種々の新技術により失われたものを再獲得することも可能性として議論されるようになっている. しかし, 目の前の困難や不安をどのように解決するかという問題は, 今, 直ちに解決されなければならない事柄である. リハビリテーションでは, 種々の職種が広くかかわって, 困難を少しでも軽減するような集団的なアプローチが採られている. 医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・臨床心理士・医療ソーシャルワーカーなどは主に, 医療を中心に関与する. 一方, 病院から出た後の社会における専門家も多い. 特に, 高齢化社会に対応して, 医療と福祉の連携を図るべく創設された介護保険によってさらに多くの職種が関与するようになっている. このような現状の中で, 直接患者に接する医師に求められる知識は, 専門家としての医学的知識のほかに, 疾病や傷害が直接もたらす機能的障害, 一人の個人としての能力の障害, 社会の一員として役割を演ずる上での障害など, 社会における人間として患者にかかわる諸問題に眼を向ける必要がある. このようなリハビリテーション医学の知識は, 従来の肢体不自由だけでなく, 感覚器障害 (眼・耳など) ・精神障害, その他の内部障害など医学の広い分野で必要なものである. 特定機能病院の限られた条件の中では, 急性期 (順天堂医院) から慢性期 (社会) への〈連続した医療ネットワーク〉を構築することがリハビリテーションの観点から重要である.
著者
菅原 由美子 飯塚 千晶 土居 一哉 松﨑 研一郎 長岡 正範
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.88-97, 2021 (Released:2021-04-13)
参考文献数
15

【要旨】 症例は84歳男性で、心原性脳梗塞後に繰り返し他人を自分の家族・友人と誤認した。視力・聴力は正常、視野障害や半側空間無視を認めなかったが、担当のリハビリテーション職員の顔を覚えられず、他患者の面会者やリハビリテーション職員を自分の家族・友人と繰り返し誤認し、その誤りに気付かなかった。長谷川式認知症スケールは25/30点。視覚による物体失認を認めず相貌認知では、家族や有名人の熟知相貌識別に重度の障害、未知相貌の異同弁別・同時照合は中等度障害を認めたが、相貌の独自性の認識を求めない課題である表情の叙述、性別・老若の判断は比較的良好であった。家族・友人の人物意味記憶は保たれており、連合型相貌失認に似ているが、人声失認を合併している点が一般的な連合型相貌失認とは異なっていた。MRI病変は、右後頭・側頭葉でなく、視覚(顔)だけでなく聴覚(声)を含む多モダリティー人物認知障害(multimodal people recognition disorders)が生ずるとされる右前側頭葉を含む前頭・側頭葉に限局した。この相貌認知障害に加えて、右前頭葉が側頭葉に及ぼす探索(モニター)機能が障害されていることも本症例の誤認に関与している可能性がある。
著者
羽鳥 浩三 長岡 正範 赤居 正美 鈴木 康司 服部 信孝
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

パーキンソン病(PD)のリハビリテーション(リハ)の効果を明らかにするためには、PD の動作緩慢や無動などの運動障害を客観的に評価することが求められる。近年、 PD の疲労感、うつ状態などの非運動症状が運動症状に少なからず影響をおよぼすと考えられる。 私たちはこのような背景から非運動症状の影響を受けにくい運動障害を検討するため、随意運動と反射の複合運動である嚥下障害に着目した。口に入れた食塊は、口から咽頭を経由して食道に送り込まれる。私たちは嚥下造影検査を用いて咽頭期の嚥下運動に密接に関わる舌骨の運動を PD と健常対照(NC)で比較検討した。その結果、PD では NC に比し咽頭期での舌骨の運動範囲の狭小化と平均移動速度の遅延を認めた。また、この結果は PD の日常生活動作の指標となる Unified Parkinson's Disease Rating Scale(UPDRS)の動作緩慢に関する評価項目と正相関を示した。 本結果は、咽頭期の嚥下において PD では舌骨の運動障害が存在し、この運動障害は PD の動作緩慢と関連する可能性を示唆する。このことは、PD の嚥下障害に対する抗 PD薬の調整やリハの評価に対してさらに有用な情報を提供する可能性を指摘した。