- 著者
-
関 礼子
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.47, no.4, pp.461-475, 1997-03-30 (Released:2009-10-13)
- 参考文献数
- 28
- 被引用文献数
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本稿は, 自然を地域社会の「環境世界」と捉えるという視点から, 自然保護運動における運動行為者の「自然」の意味を考察するものである.ここで中心的に見てゆくのは, 地域住民の運動から, 世論を巻き込んだ全国的運動に展開した, 愛媛県今治市の織田が浜埋立反対運動である。この運動を通して, (1) 織田が浜という自然が, 客観的抽象概念としての自然ではなく, 地域社会の行為や文化, 歴史を映し出す具体的なものとして保護運動の対象となっていること, (2) 運動は世論喚起をするなかで新たな運動行為者をリクルートしてゆくのだが, 新たに運動に参与する人々にとっても, 織田が浜は単なる客体ではなく自分史を投影するものとなっていることを明らかにする。住民が自分の地域の自然を守るという態度は, 地域外部の人々にも開かれている。織田が浜を離れた人, 今治や愛媛を離れた人にとって, 織田が浜運動は思い出や郷里を守ることに繋がった。また, 海を汚染や埋立から守るという点で, 同じような経験を持つ人々とも繋がった。地域が自然と育んできた関係性を運動を通して考察することから, 自然保護運動が, 運動行為者の記憶を守る運動, 故郷への精神的紐帯を求める運動でもある点を論じる。そこから, 自然が持つ社会的な意味がより明確に浮かび上がってくると考えるからである。