著者
雪丸 武彦
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.48-64, 2015

2014年は安倍晋三内閣により教育改革が牽引され、多数の改革案や変化が生み出された年であった。1月24日の第186回国会における施政方針演説において安倍首相は「若者を伸ばす教育再生」として①教育委員会制度改革、②道徳を特別の教科として位置づけること、③幼児教育の段階的無償化、④教科書の改善、⑤英語教育の強化、⑥外国人留学生の受入拡大、外国人教員倍増、⑦グローバル化に向けた改革を断行する大学への支援、⑧海外留学の倍増、を掲げた。これらの改革は2014年中に検討され、一部は法制化された。 2014年の改革案、変化は上記以外にも目立ったものがいくつかある。上記を含め、その内容を筆者なりに吟味すると、大きく4つに区分される。第1に、戦後から継続されてきた教育制度を変えるものである。これに該当するものとして「大学のガバナンス改革」(4月)が挙げられる。学長のリーダーシップが制度的に強化され、同時に教授会のプレゼンスは後退した。また、教育再生実行会議の提言(7月)、中教審答申(12月)で示された「小中一貫教育学校(仮称)」もこの区分に位置づけられよう。教育の機会均等の理念のもと、戦後から小学校6年間、中学校3年間の区切り及び単線型の教育制度は維持されてきたが、それらを変える内容が提案された。 第2に、55年体制を契機に作られた仕組みを変えるものである。これには法律改正を伴った「教育委員会制度改革」(6月)が該当する。この改革により自治体の首長の教育行政に対する関与は大きく強まるものと予想される。また、中教審答申(10月)で示された「特別な教科 道徳」(仮称)も、教育課程の領域である「道徳」の位置づけを変化させるものである。 第3に、「第3の教育改革」の修正を図るものである。これには「土曜授業の実施」が該当する。学校週5日制の導入は前回の学習指導要領改訂時における目玉であったが、国の事業(7月)、鹿児島県の方針(12月)のように少しずつ見直しが図られている。また、「大学入試改革」が着手され、中教審答申(12月)において大学入試センター試験の廃止及び、新たなテストの導入が示された。 第4に、将来的な国家的・社会的変化や危機に対応するものである。日本史必修化、新教科「公共」(1月)、小学校英語の教科化(9月)といった「安倍カラー」の強い改革案もあれば、地方創生の「総合戦略」(12月)では「放課後児童クラブ」「放課後子供教室」の拡大といった少子化対策、子育て支援の文脈からの改革案も提案されている。また、フリースクールへの公的支援の検討(10月)のように、興味深い改革も着手されている。 これら以外に2014年は国と地方との対立も目立った。教科書採択をめぐり国による市町村への是正要求が初めてなされたケース(3月)、文科省の方針に沿わない学力テスト結果の公表を行い問題となったケース(9月)は、国と地方との関係の変化を示すものとして記憶にとどめておくべき事項である。 2014年は様々な方位から、また様々な方位へ改革がなされた。今後これらの改革がいかに結実するのか、あるいは終わりのない改革を続けるのか。その動向をさらに注目していく必要があろう。
著者
雪丸 武彦
出版者
長崎県立大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究は市町村において導入が進められている少人数学級政策に焦点を当て、特に福岡県下市町村の実施状況から教育分野における分権改革の影響を明らかにするものである。この研究の成果として、1福岡県では県教育委員会からの市町村独自の少人数学級政策に対する関与は弱く、市町村の自主性に委ねており、これに従い 16 市町村が独自に教員雇用や学級編制基準に関する条例等を定めていること、2少人数学級政策の導入自治体(16市町)は、非導入自治体(44 市町村)と比較し財政力が高いわけではなく、統計的にその差はないこと、3財政力の低い自治体の政策導入は、全国学力テストによって判明した低学力の課題とその解決を目指す首長による主導が影響していることが判明した。
著者
雪丸 武彦
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.48-64, 2015 (Released:2016-05-19)
被引用文献数
1

2014年は安倍晋三内閣により教育改革が牽引され、多数の改革案や変化が生み出された年であった。1月24日の第186回国会における施政方針演説において安倍首相は「若者を伸ばす教育再生」として①教育委員会制度改革、②道徳を特別の教科として位置づけること、③幼児教育の段階的無償化、④教科書の改善、⑤英語教育の強化、⑥外国人留学生の受入拡大、外国人教員倍増、⑦グローバル化に向けた改革を断行する大学への支援、⑧海外留学の倍増、を掲げた。これらの改革は2014年中に検討され、一部は法制化された。 2014年の改革案、変化は上記以外にも目立ったものがいくつかある。上記を含め、その内容を筆者なりに吟味すると、大きく4つに区分される。第1に、戦後から継続されてきた教育制度を変えるものである。これに該当するものとして「大学のガバナンス改革」(4月)が挙げられる。学長のリーダーシップが制度的に強化され、同時に教授会のプレゼンスは後退した。また、教育再生実行会議の提言(7月)、中教審答申(12月)で示された「小中一貫教育学校(仮称)」もこの区分に位置づけられよう。教育の機会均等の理念のもと、戦後から小学校6年間、中学校3年間の区切り及び単線型の教育制度は維持されてきたが、それらを変える内容が提案された。 第2に、55年体制を契機に作られた仕組みを変えるものである。これには法律改正を伴った「教育委員会制度改革」(6月)が該当する。この改革により自治体の首長の教育行政に対する関与は大きく強まるものと予想される。また、中教審答申(10月)で示された「特別な教科 道徳」(仮称)も、教育課程の領域である「道徳」の位置づけを変化させるものである。 第3に、「第3の教育改革」の修正を図るものである。これには「土曜授業の実施」が該当する。学校週5日制の導入は前回の学習指導要領改訂時における目玉であったが、国の事業(7月)、鹿児島県の方針(12月)のように少しずつ見直しが図られている。また、「大学入試改革」が着手され、中教審答申(12月)において大学入試センター試験の廃止及び、新たなテストの導入が示された。 第4に、将来的な国家的・社会的変化や危機に対応するものである。日本史必修化、新教科「公共」(1月)、小学校英語の教科化(9月)といった「安倍カラー」の強い改革案もあれば、地方創生の「総合戦略」(12月)では「放課後児童クラブ」「放課後子供教室」の拡大といった少子化対策、子育て支援の文脈からの改革案も提案されている。また、フリースクールへの公的支援の検討(10月)のように、興味深い改革も着手されている。 これら以外に2014年は国と地方との対立も目立った。教科書採択をめぐり国による市町村への是正要求が初めてなされたケース(3月)、文科省の方針に沿わない学力テスト結果の公表を行い問題となったケース(9月)は、国と地方との関係の変化を示すものとして記憶にとどめておくべき事項である。 2014年は様々な方位から、また様々な方位へ改革がなされた。今後これらの改革がいかに結実するのか、あるいは終わりのない改革を続けるのか。その動向をさらに注目していく必要があろう。
著者
元兼 正浩 佐々木 正徳 楊 川 田中 光晴 大竹 晋吾 雪丸 武彦 山下 顕史 李 〓輝 波多江 俊介 金子 研太 畑中 大路 清水 良彦 呉 会利 前田 晴男 李 恵敬
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

我が国においても校長の養成システムには高い関心が寄せられるようになった。だが、校長人事研究は十分に進展しておらず、実務レベルでも行政が大学の諸資源を活用せずにシステム改革の方向を模索している状況にある。したがって、「大学と教育委員会の協働による校長人事・養成システム」をすすめている諸外国(たとえば大韓民国)の事例に学ぶとともに、日本でのシステム構築に資するような校長人事を実証するための研究方法について考察した。