著者
松井 哲哉 田中 信行 八木橋 勉
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.7-13, 2007 (Released:2008-07-10)
参考文献数
43
被引用文献数
7 7

温暖化した2100年における白神山地のブナ林の分布適域を,分類樹モデルと二つの気候変化シナリオ(RCM20とCCSR/NIES)によって予測し,ブナ林の将来変化について考察した。4気候変数と5土地変数を用いたブナ林の分布予測モデルENVIによると,白神山地地域のブナ林の分布は冬期降水量(PRW)と暖かさの指数(WI)で制限されている。二つの気候変化シナリオのPRWは将来も変化が少ないので,将来ブナ林分布へ影響を与える主要因はWIである。分布確率0.5以上の分布適域は,現在の気候下では世界遺産地域の95.4%を占めるが,2100年にはRCM20シナリオで0.6%に減少し,CCSR/NIESシナリオでは消滅する。ブナ優占林の分布下限のWI 85.3に相当する標高は,現在は43 mだが,RCM20シナリオでは588 m,CCSR/NIESシナリオでは909 mに上昇する。現地調査と文献情報にもとづいて求めたブナ林の垂直分布域は,標高260~1,070 mであった。施業管理計画図によると自然遺産地域の約8割が林齢150~200年生であるので,2100年には多くのブナが壮齢期から老齢期を迎える。温度上昇により,ブナ林下限域から,ブナの死亡後にミズナラやコナラなどの落葉広葉樹が成長し,ブナの分布密度の低下が進行する可能性がある。
著者
相原 隆貴 小林 慧人 髙野(竹中) 宏平 深澤 圭太 中園 悦子 尾関 雅章 松井 哲哉
出版者
日本景観生態学会
雑誌
景観生態学 (ISSN:18800092)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.137-146, 2020 (Released:2021-09-15)
参考文献数
51
被引用文献数
1

マダケ属のタケ(Phyllostachys spp.)は産業管理外来種に指定され,放置竹林の拡大は日本の里地里山管理で最大の問題点とも言われるが,人口減少や温暖化によって今後さらに加速する恐れがある.本研究では,長野県生坂村で無居住化した集落の一つを対象に,無居住化前後の1977年と2014年の空中写真から植生や土地利用を判読し,その変化を解析した.2017年,2018年,2020年には現地を調査した.その結果,1977年から2014年にかけて集落全体の竹林面積は1977年の3林分0.26 haから2014年の17林分3.52 haへと13.54倍に増加し,年間拡大率は1.073 ha·ha-1·year-1と推定された.現地調査の結果,2014年の空中写真で判読できた17林分はハチクP. nigra var. henonis(14林分)とマダケP. bambusoides(3林分)だった.1977年と2014年で比較可能な3林分の個別の年間拡大率はハチク2林分がそれぞれ1.016,1.056,マダケ1林分が1.036 ha·ha-1·year-1だった.これらの推定値は,西日本のモウソウチクを中心に報告されてきた値(平均1.03)に近く,年平均気温が11.2℃と比較的涼しい地域のマダケやハチクであっても,同程度の拡大リスクがある可能性を示している.
著者
松井 哲哉 飯田 滋生 河原 孝行 並川 寛司 平川 浩文
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.162-166, 2010
被引用文献数
1 1 1

ブナ自生北限域における, 鳥によるブナ種子散布の限界距離を推定する試みの一環として, 北海道黒松内町のブナ林内において, 晩秋期に捕獲したヤマガラ1羽に小型の電波発信機を装着し, ラジオテレメトリ法により5日間追跡した。交角法と最外郭法によりヤマガラの行動圏を推定した結果, 1日の行動圏は2.1 haから6.5 haと推定され, 全体では11.4 haであった。また, 1日の行動圏から推定したヤマガラによる種子散布の限界距離は, 163 mから529 mであった。追跡期間が本研究よりも1カ月以上長いが, 海外のカラ類の行動圏はカナダコガラで平均14.7 ha, コガラで12.6 haであり, 本研究の調査手法はある程度有効であると示唆された。ブナ自生北限域において, ブナの孤立林分は互いに水平距離で約2∼4 km離れているため, 行動範囲の狭いヤマガラが運んだブナの種子起源で成立したとは考えにくい。
著者
福嶋 司 高砂 裕之 松井 哲哉 西尾 孝佳 喜屋武 豊 常富 豊
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.79-98, 1995
被引用文献数
46

Phytosociological classifications were carried out in order to revise and coordinate data on beech forest in Japan. Reports from different authors as well as our investigations using the BRAUN-BLANQUET method resulted in a total of 2,717 releves. These were used for constructing a vegetation table that produced five beech forest associations. These associations are 1. Sapio Japonici-Fagetum crenatae, 2. Corno-Fagetum crenatae, 3. Sasamorpho-Fagetum crenatae, 4. Lindero umbellatae-Fagetum crenatae and 5. Saso kurilensis-Fagetum crenatae. Associations 1,2,and 3 belong to the alliance, Sasamorpho-Fagion crenatae, which is distributed along the Pacific coast of Japan, whereas 4 and 5 belong to the alliance Saso-Fagion crenatae, which is distributed along the Japan Sea side. These alliances are of the order Saso-Fagetalia and of the class Fagetea crenatae. On the Pacific side, there are more floristic variations because there are many independent mountains with their own characteristic floras. Association 1 is distributed mainly on Kyushu, Shikoku and Kii peninsula. It is characterized by the Sohayaki elements which are historically related to that of East Asia. Association 2 is distributed mainly in the Fuji Volcanic Area whose characteristic features are the Fossa Magna elements. Association 3 is distributed mainly from the Chubu to Kanto regions inland with an extension into the middlepart of Tohoku. Its floristic composition represents the typical Pacific side beech forests. Along the Japan Sea side, there are fewer floristic variations because the covered area is more extensive and has a wider altitudinal range, with heavy snow deposition. Association 4 is distributed from Chugoku up to the low altitudinal areas of Hokuriku. Its floristic composition is basically made up of the Japan Sea elements with some Pacific side flora. Association 5 is distributed from Hokuriku through Tohoku, up to southwest Hokkaido, and floristically this is typical of the Japan Sea side.
著者
相原 隆貴 小林 慧人 髙野(竹中) 宏平 平田 晶子 尾関 雅章 松井 哲哉
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.286-294, 2022-10-01 (Released:2022-11-29)
参考文献数
85

近年,周辺の土地への竹林の拡大が日本各地で問題となっている。竹林の適切な管理計画立案のためには,その成立を規定する地形条件の解明が必要である。先行研究において,比較的限定された地域における地形条件の解明がなされてきた一方で,広域で竹林の成立可能な気候条件(潜在生育域)下を対象とし,地形条件を解明した事例はない。本研究は長野県を対象とし,竹林の位置情報を航空写真および現地踏査によって把握し,潜在生育域と竹林の成立する土地の地形条件を県全域で比較した。その結果,竹林の潜在生育域は斜面傾斜度0°付近と30°付近に二つのピークを持ち,全方位に一様に分布するのに対し,竹林(10,523カ所,総面積1,449.0 ha)は斜面傾斜度5~20°の緩傾斜地に55.7%が,南東,南,南西向き斜面に53.5%が成立していた。この竹林の地形条件の傾向は,県内5地域(北信地域,中信地域,東信地域,南信地域,木曽地域)いずれにおいても共通であった。これらの結果から長野県内の竹林は,南向きの緩斜面の条件に多く生育しているという傾向が明らかとなり,土地利用や竹林経営の観点から現在の地形条件に植栽され残存してきたと推察された。
著者
高薮 出 花崎 直太 塩竈 秀夫 石川 洋一 江守 正多 嶋田 知英 杉崎 宏哉 高橋 潔 仲江川 敏之 中北 英一 西森 基貴 橋爪 真弘 初鹿 宏壮 松井 哲哉 山野 博哉 横木 裕宗 渡部 雅浩
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.377-385, 2021-11-05 (Released:2021-11-20)
参考文献数
11
被引用文献数
2

過去20余年にわたり,気候変動とその社会への影響に関する膨大な予測情報や知見が創出されてきた.しかし,これらの予測情報や知見が国・地方公共団体や事業者などに広く利活用されるようになるまでにはまだ様々な課題が残っている.そこで,気候予測と影響評価に関する研究に長く携わってきた著者らが現在見られる各種の障害や,解決の糸口について議論した.その結果,気候予測・影響評価・利用者のコミュニティーにはそれぞれ業務の前提と他コミュニティーへの期待があり,それらの間にずれが生じていることが浮かび上がった.解決のためには,気候予測・影響評価・利用者のコミュニティー間の協働が重要である.具体的には,予測情報や知見が創出される前の段階での相互の情報交換やすり合わせによるギャップの解消や,その実現のための制度や設備の整備が必要であることが示された.
著者
平田 晶子 髙野(竹中) 宏平 相原 隆貴 中尾 勝洋 津山 幾太郎 唐 勤 松井 哲哉 肱岡 靖明
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.34(2020年度 環境情報科学研究発表大会)
巻号頁・発行日
pp.210-215, 2020-12-07 (Released:2020-12-07)
参考文献数
20

気候変動にともない,西日本を中心に問題となっている竹林の拡大が,より高緯度,高標高域でも深刻化することが懸念されている。本研究では,日本と中国におけるマダケ属の分布情報と気候データを用い,マダケ属の潜在生育域を日本全土で推定する統計モデルを構築した。さらに現在と将来の潜在生育域の変化から,気候変動によって竹林の拡大リスクが増大する地域を推定した。その結果,東北地方から北海道の低地を中心に生育確率の上昇が予測された。西日本でも,広い範囲で現在より生育確率が上昇する傾向がみられた。気候変動による拡大リスクの変化を考慮しつつ,竹林の新規植栽や管理のあり方を検討する必要がある。
著者
髙野(竹中) 宏平 中尾 勝洋 尾関 雅章 堀田 昌伸 浜田 崇 須賀 丈 大橋 春香 平田 晶子 石郷岡 康史 松井 哲哉
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.33(2019年度 環境情報科学研究発表大会)
巻号頁・発行日
pp.49-54, 2019-11-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
14

Velocity of Climate Change (VoCC)とは,気候変動影響評価指標の一つで,生育や産業に適した気候条件を得るために生物や人間活動が移動しなければならない速度を示す。本研究では,基準地域メッシュ(約1 km2)の日本陸域37 万7981 メッシュを対象に,1981?2010 年(現在気候値)と2076?2100 年(将来予測値)の年平均気温を用い,6 気候モデル×3 排出シナリオ×3 つの閾値=54 通りのVoCC を計算した結果,VoCC は36.8?308.6 m/year と推定された。更に,APLAT(環境省の気候変動適応情報プラットフォーム)への実装を想定し,VoCC に加えて位置情報を出力することで,自治体等の様々な主体が地域気候変動適応に利活用する方法を考案した。
著者
松井 哲哉 並川 寛司 板谷 明美 北村 系子 飯田 滋生 平川 浩文
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ブナ分布北限地域の最前線における正確な分布を調べるために、空中写真解析と現地調査を併用した結果、ブナの孤立林は最大約4km間隔で9箇所分布していることが判明した。これらの孤立林は、ブナの連続分布域から鳥などによって運ばれた種子が育ち、成立した可能性がある。遺伝的解析の結果、孤立ブナ林では孤立度が高く、多様度は低下する傾向がみられたものの、ブナの樹齢は120年以下の若い個体が多く、ブナは林冠のかく乱などを契機として今後もゆっくりと分布範囲を拡大すると考えられた。
著者
ハ木橋 勉 松井 哲哉 中谷 友樹 垰田 宏 田中 信行
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.85-94, 2003-08-25
被引用文献数
8

1.ブナ林とミズナラ林の分布の気候条件の関係を定量的に明らかにするために,日本全国の植生と気候値の3次(約1k?)メッシュデータを用いて分類樹による統計解析を行った。2.気候値には,それぞれの分布域の温度(暖かさの指数と最寒月最低気温)と降水量(暖候期降水量と寒候期降水量)を用いた。3.その結果,上記の気候値によってブナ林とミズナラ林の分布が約9割の確立で分類された。4.ブナ林は多雪地域に多く,最寒月最低気温が-12.45℃未満の冬の寒さの強い地域,暖候期降水量760.5mm未満の成長期の降水量の少ない地域,暖かさの指数73.95以上または,寒候期降水量が441.5mm未満n積雪が少ないと考えられる地域で分布が制限されていると考えられた。5.分類のための気候要因は,地域によって異なっており,従来から指摘されていた低温にかかわる要因,夏季の湿潤さ,積雪の寡多がかかわっていることを裏付けた。全国的には,これらが複合的に作用して分布が決定していることが明らかになった。