著者
福江 佑子 岸元 良輔
出版者
長野県環境保全研究所
雑誌
長野県環境保全研究所研究報告 (ISSN:1880179X)
巻号頁・発行日
no.6, pp.35-43, 2010-03

「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が2005年に施行されて以降、現在96種類が特定外来生物に指定されている。アメリカミンクについては、2006年2月に第二次指定され、長野県内に生息する特定外来哺乳類は、アライグマに次いで2種類目となった。20世紀初頭、多くの国々でゲームハンティングのために、膨大な数のミンクが野外に放獣された。さらに毛皮養殖場からの逸出が、野生化とその後の分布拡大を引き起こしてきた。アメリカミンクは国際自然保護連合(IUCN)が指定する外来種ワースト100にリストされており、世界的にみても影響の大きな侵略的外来種である。その外来種としての問題は、(1)野生化している食肉目の中で、在来種との競争によるインパクトが最も大きいこと、(2)捕食による在来種への影響が大きいこと、(3)感染症(ミンクアリューシャン病等)の媒介者であること、(4)養殖魚や家禽への被害があること、などである。長野県では、1983-1991年の川上村でのアメリカミンク(以下、ミンク)の毛皮養殖場が野生化の原因となった。現在、千曲川に沿って分布の拡大が進行し、放流魚や養殖魚の食害をはじめ、在来種への影響が懸念され、2004年度より捕獲が開始された。2004-2008年度にかけて捕獲されたミンクの外部計測を行ったので、本報告では、その計測値について報告する。哺乳類における外部計測値等の個体情報の集積は、繁殖状況、成長、栄養状態、性判別、地理的変異など様々な指標に用いることができる。特に今回の報告では、主に雌雄間での差について検討する。
著者
樋口 澄男 北野 聡 近藤 洋一
出版者
長野県環境保全研究所
巻号頁・発行日
no.1, pp.29-37, 2005 (Released:2011-12-08)

ソウギョCtenopharyngodon idellsの放流により1980年代後半に水草帯が全滅した木崎湖において、2001〜2002年に潜水調査を主体にして、車軸藻類および大型水生植物の分布調査を行った。抽水・浮葉植物は主に北岸で回復が始まっていた。沈水植物はセキショウモVallisneria asiatica Miki、コカナダモElodea nuttallii(Planch.)St. Jhon、ヒメフラスコモNitella flexilis(Linnaeus)Agardh var. flexilisが主要種として多くの調査地点で観察された。ヒメフラスコモは西岸の広い面積において車軸藻帯を形成していた。過去に広く分布していたシャジクモChara braunii Gmelinは観察されなかった。絶滅した固有種車軸藻キザキフラスコモNitella minispora Imahoriの埋没卵胞子の回収のため、木崎湖底質を採取し、発芽試験を試みたが、発芽は認められなかった。
著者
北野 聡 田崎 伸一 美馬 純一 柳生 将之 古賀 和人 山形 哲也 小林 収 小西 繭
出版者
長野県環境保全研究所
巻号頁・発行日
no.7, pp.75-78, 2011 (Released:2012-12-06)

長野県の生物多様性基礎調査の一環として千曲川下流域における魚類の分布状況を調査した.アブラハヤやウグイ等の在来コイ科魚類が主体であったが,国内外来種ギギや国外来種のコクチバスなども確認された.
著者
畔上 由佳 内山 友里恵 笠原 ひとみ 上田 ひろみ 吉田 徹也 宮坂 たつ子 長瀬 博 藤田 暁
出版者
長野県環境保全研究所
雑誌
長野県環境保全研究所研究報告 (ISSN:1880179X)
巻号頁・発行日
no.7, pp.57-61, 2011

1992年から2010年までの間,長野市におけるスギ・ヒノキ科花粉の飛散状況調査を継続して実施した.その結果,長野市でのスギ花粉飛散開始は,前年11月の日最高気温が平年よりも高いシーズンでは1月1日からの日最高気温積算値が295℃から388℃を超えるころに確認された.一方,前年11月の日最高気温が平年並みから平年より低かったシーズンでは,229℃から317℃で飛散開始が確認された.スギ花粉最高飛散日の平均は3月27日であった.飛散開始から最高飛散日までの日数は,平均23日であった.スギ花粉総数の中央値は1988.4個/cm2であった.スギ花粉総数が1000個/cm2を超える年では「環境省花粉観測システム(はなこさん)」のデータと,ダーラム型花粉捕集器によるデータは高い相関が認められた.
著者
栗林 正俊 大塚 孝一
出版者
長野県環境保全研究所
雑誌
長野県環境保全研究所研究報告 (ISSN:1880179X)
巻号頁・発行日
no.15, pp.55-60, 2019

長野県環境保全研究所(飯綱庁舎)において,2012~2018年に聞かれたセミの鳴き声をカレンダーに記録し,各種セミの鳴き声の聞き始めと聞き終わりについてまとめた。この結果,(1)エゾハルゼミ,アブラゼミ,エゾゼミおよびコエゾゼミ,ヒグラシは,聞き始めの日が早期化している可能性があること,(2)エゾハルゼミとアブラゼミは聞き終わりの日が早期化している可能性があること,(3)エゾゼミおよびコエゾゼミは聞き終わりの日が晩期化している可能性があること,が示された。また,2012年以前に飯綱庁舎で聞かれていなかったセミとして,ハルゼミが2014年,ツクツクボウシが2015年に初めて鳴き声が確認され,これらのセミは2018年にも鳴き声が確認された。
著者
栗林 正俊 富樫 均 浜田 崇 尾関 雅章 大和 広明 陸 斉 畑中 健一郎
出版者
長野県環境保全研究所
巻号頁・発行日
no.13, pp.47-53, 2017 (Released:2018-03-23)

長野県環境保全研究所では,気候変動影響調査と市民への環境学習の機会の提供を兼ねた講座とし,毎年8月に長野県内の6箇所(長野,上田,飯田,松本,伊那,大町)で,セミの抜け殻調査を1回ずつ実施している。本研究では,2012~2016年の5年間のデータから,セミの分布状況や年次変化を示し,各種セミの抜け殻数と気候条件の相関関係を基に年次変化の要因を考察した。この結果,エゾゼミは標高700m以上の涼しい調査地点で確認され,ニイニイゼミは標高700m未満の暖かい調査地点で確認された。松本会場ではエゾゼミが,長野会場ではニイニイゼミが,それぞれ減少傾向にあるが,長野,上田,松本の3会場ではミンミンゼミが増加傾向にあった。この3会場全てで,ミンミンゼミの抜け殻数は5月の月平均気温と有意な正の相関があった。今後も各地点での調査を継続すると共に,定点で時期を変えて複数回の調査を行い,調査のタイミングによるセミの抜け殻の種類の違いを評価することが課題である。
著者
石田 祐子
出版者
長野県環境保全研究所
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-12, 2017 (Released:2018-03-23)

希少種の保全対策の1つとして,自生地における保全(生息域内保全)が行われてきた。しかし,急速な環境の変化や,個体数が減少してしまった種への対策のため,希少種を人の管理下で栽培・管理する生息域外保全が注目されるようになってきた。また,近年は気候変動の適応策のひとつの選択肢としても注目されつつある。植物の生息域外保全には栽培技術の確立が必要である。また,種子保存の必要性もある。栽培・増殖・種子保存方法には種ごとに特性があり,目的に合わせた方法の選択と同時に対象種の地道な研究が必要である。また研究を進めるにあたり,情報共有,危険分散,コスト面など課題が浮かび上がってきている。生息域外保全には未だ課題も多いが,今後,保全手法の1つとしてその選択が検討されていくだろう。
著者
須賀 丈
出版者
長野県環境保全研究所
巻号頁・発行日
no.6, pp.45-50, 2010 (Released:2011-07-20)

高山の生物は地球温暖化の影響を受けやすいと考えられている。その実態をモニタリングするため、気象観測拠点のある北アルプス八方尾根の亜高山帯の自然草原で、「モニタリングサイト1000里地調査」に準ずる方法をもちいたチョウ類のトランセクト調査を開始した。2009年の6月から9月にかけて行った調査の結果、11種のチョウが確認され、このうち4種がレッドデータブック掲載種であった。調査時に晴天でない場合もあったが、そのようなデータも記録する価値があると考えられた。広域分布種も含め、記録されたチョウ類は現在の八方尾根と周辺の環境条件をよく反映していると考えられた。
著者
北野 聡 四方 圭一郎
出版者
長野県環境保全研究所
雑誌
長野県環境保全研究所研究報告 (ISSN:1880179X)
巻号頁・発行日
no.5, pp.113-115, 2009

アカイシサンショウウオは2004年に新種記載された日本産小型サンショウウオで、本州中部の静岡県と長野県にのみ分布することが知られている。本種は一見、ヒダサンショウウオに類似しており、新種として認められる以前はヒダサンショウウオの無斑型個体として扱われていた。しかし、アカイシサンショウウオの全長は150mm以下とヒダサンショウウオより小型で、背面は紫褐色で黄色斑点を持たない。また鋤骨歯列についてはヒダサンショウウオが深いU字型であるのに対してアカイシサンショウウオは深いV字型である等、明瞭な特徴を有しており、遺伝的にも両種は明瞭に区分される。既知の主要分布地は赤石山脈南部の標高500-1000m程度の森林地帯で、静岡県では大井川流域、長野県では天竜川水系遠山川流域が知られるが、本種の分布や生態については未だ情報が少ないのが現状である。一方、本種は分布域が局限されることから種の存続は危機的な状況にあると考えられており、環境省レッドリストでは絶滅危惧IB類、長野県レッドデータブックで絶滅危惧IA類、静岡県レッドデータブックでは絶滅危惧IB類とされる。そこで、本研究では長野県内におけるアカイシサンショウウオの分布及び生息状況の把握を目的として調査をおこなった。
著者
北野 聡 武居 薫 川之辺 素一 柳生 将之 古賀 和人 山形 哲也 小林 収 小西 繭
出版者
長野県環境保全研究所
雑誌
長野県環境保全研究所研究報告 (ISSN:1880179X)
巻号頁・発行日
no.7, pp.75-78, 2011

長野県の生物多様性基礎調査の一環として千曲川下流域における魚類の分布状況を調査した.アブラハヤやウグイ等の在来コイ科魚類が主体であったが,国内外来種ギギや国外来種のコクチバスなども確認された.
著者
野溝 春子 薩摩林 光 内田 英夫
出版者
長野県環境保全研究所
雑誌
長野県環境保全研究所研究報告 (ISSN:1880179X)
巻号頁・発行日
no.2, pp.37-45, 2006

長野盆地で100ppbを超える高濃度オキシダントとなる要因を解明するため、1998年5月から7月にかけて長野盆地辺縁部の低山中腹及び群馬県境の四阿山中腹にオゾン計を設置し、測定結果を常時監視データと比較、検討した。調査期間中、長野盆地で光化学オキシダント濃度が100ppb以上となる状況が4回出現し、内2回は東京湾岸から汚染気塊が傾度風により短時間で流入したもの、他は輸送されてきた上層のオゾン濃度が高い状況下での盆地内の汚染物質の生成・蓄積と前日の東京湾岸からの汚染気塊流入・停滞によるものと推定された。
著者
尾関 雅章 岸元 良輔
出版者
長野県環境保全研究所
雑誌
長野県環境保全研究所研究報告 (ISSN:1880179X)
巻号頁・発行日
no.5, pp.21-25, 2009

本州中部の八ヶ岳・中信高原国定公園内に含まれる霧ヶ峰において、ニホンジカ(以下、シカ)によるキスゲ類(ニッコウキスゲ(ゼンテイカ)とユウスゲ)の被食状況を把握するため、両種の花茎の被食分布を調査した。霧ヶ峰の草原内でキスゲ類の生育する65地点のうち、シカによる花茎の被食は57地点(87.7%)で確認された。調査地点全体での花茎の平均被食率は、57.4%であったが、キスゲ類の花茎密度の高い地点のなかには、被食率が80%以上と非常に高い地域もみられた。こうした被食圧の地域差は、シカが人の集中利用地域を忌避してキスゲ類を採食したことにより生じた可能性が考えられた。
著者
岸元 良輔 逢沢 浩明 吉岡 麻美 石田 康之 三井 健一 須賀 聡
出版者
長野県環境保全研究所
雑誌
長野県環境保全研究所研究報告 (ISSN:1880179X)
巻号頁・発行日
no.6, pp.13-16, 2010-03 (Released:2011-07-20)

霧ヶ峰においてニホンジカCervus nipponによる草原や湿原の植生への採食影響が懸念されることから、個体数変動をモニタリングするために2004〜2009年に道路沿い(延べ26km)及び八島ヶ原湿原でライトセンサス調査を行った。延べ58日の調査で、道路沿いでは、2006年までの3年間は平均発見頭数が20頭前後で安定していたが、2007年春から増加する傾向がみられ、2009年秋には約3倍の65.0頭になった。これは、2007年より1日の平均発見回数が増えたこと、及び2009年より1回の平均発見頭数すなわち群れサイズが大きくなったことが要因である。八島ヶ原湿原でも58日の調査のうち少なくとも33日で1〜23頭の入り込みが確認された。これらのことから、霧ヶ峰ではニホンジカの生息密度が高くなり、個体数が増えていると考えられる。
著者
畔上 由佳 吉田 徹也 粕尾 しず子 内山 友里恵 薩摩林 一代 白石 崇
出版者
長野県環境保全研究所
雑誌
長野県環境保全研究所研究報告 (ISSN:1880179X)
巻号頁・発行日
no.5, pp.103-108, 2009

風疹は、感染から14〜21日(平均16〜18日)の潜伏期間の後、突然の全身性の斑状丘疹状の発疹、発熱、耳介後部・後頭下部・頸部のリンパ節腫脹を特徴とするウイルス感染症であり、通常は数日で治癒する予後良好な疾患である。しかし、妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎盤を介して胎児に感染し、先天性心疾患、白内障、難聴を特徴とする先天性風疹症候群を発生することがある。麻疹は、発熱、上気道のカタル症状、全身の発疹を主な特徴とする急性ウイルス感染症である。麻疹ウイルスの感染力は非常に強力で、いったん発症すると特異的な治療法はないのが現状である。2007年には、首都圏の大学生を中心としたいわゆる成人麻疹の流行が認められ、長野県内においても麻疹患者の発生により、休校・休園の措置を行った学校等も4施設存在した。