著者
相原 隆貴 小林 慧人 髙野(竹中) 宏平 平田 晶子 尾関 雅章 松井 哲哉
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.286-294, 2022-10-01 (Released:2022-11-29)
参考文献数
85

近年,周辺の土地への竹林の拡大が日本各地で問題となっている。竹林の適切な管理計画立案のためには,その成立を規定する地形条件の解明が必要である。先行研究において,比較的限定された地域における地形条件の解明がなされてきた一方で,広域で竹林の成立可能な気候条件(潜在生育域)下を対象とし,地形条件を解明した事例はない。本研究は長野県を対象とし,竹林の位置情報を航空写真および現地踏査によって把握し,潜在生育域と竹林の成立する土地の地形条件を県全域で比較した。その結果,竹林の潜在生育域は斜面傾斜度0°付近と30°付近に二つのピークを持ち,全方位に一様に分布するのに対し,竹林(10,523カ所,総面積1,449.0 ha)は斜面傾斜度5~20°の緩傾斜地に55.7%が,南東,南,南西向き斜面に53.5%が成立していた。この竹林の地形条件の傾向は,県内5地域(北信地域,中信地域,東信地域,南信地域,木曽地域)いずれにおいても共通であった。これらの結果から長野県内の竹林は,南向きの緩斜面の条件に多く生育しているという傾向が明らかとなり,土地利用や竹林経営の観点から現在の地形条件に植栽され残存してきたと推察された。
著者
平田 晶子 髙野(竹中) 宏平 相原 隆貴 中尾 勝洋 津山 幾太郎 唐 勤 松井 哲哉 肱岡 靖明
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.34(2020年度 環境情報科学研究発表大会)
巻号頁・発行日
pp.210-215, 2020-12-07 (Released:2020-12-07)
参考文献数
20

気候変動にともない,西日本を中心に問題となっている竹林の拡大が,より高緯度,高標高域でも深刻化することが懸念されている。本研究では,日本と中国におけるマダケ属の分布情報と気候データを用い,マダケ属の潜在生育域を日本全土で推定する統計モデルを構築した。さらに現在と将来の潜在生育域の変化から,気候変動によって竹林の拡大リスクが増大する地域を推定した。その結果,東北地方から北海道の低地を中心に生育確率の上昇が予測された。西日本でも,広い範囲で現在より生育確率が上昇する傾向がみられた。気候変動による拡大リスクの変化を考慮しつつ,竹林の新規植栽や管理のあり方を検討する必要がある。
著者
髙野(竹中) 宏平 中尾 勝洋 尾関 雅章 堀田 昌伸 浜田 崇 須賀 丈 大橋 春香 平田 晶子 石郷岡 康史 松井 哲哉
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.33(2019年度 環境情報科学研究発表大会)
巻号頁・発行日
pp.49-54, 2019-11-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
14

Velocity of Climate Change (VoCC)とは,気候変動影響評価指標の一つで,生育や産業に適した気候条件を得るために生物や人間活動が移動しなければならない速度を示す。本研究では,基準地域メッシュ(約1 km2)の日本陸域37 万7981 メッシュを対象に,1981?2010 年(現在気候値)と2076?2100 年(将来予測値)の年平均気温を用い,6 気候モデル×3 排出シナリオ×3 つの閾値=54 通りのVoCC を計算した結果,VoCC は36.8?308.6 m/year と推定された。更に,APLAT(環境省の気候変動適応情報プラットフォーム)への実装を想定し,VoCC に加えて位置情報を出力することで,自治体等の様々な主体が地域気候変動適応に利活用する方法を考案した。
著者
平田 晶子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.290-310, 2017 (Released:2018-05-16)
参考文献数
47
被引用文献数
1

本論文では、ラオス人民民主共和国の民族楽器である笙(khaen、以下ケーン)の事例から、音楽芸能をめぐる性言説と実践を通じて「男らしさ」が、男性による女性の支配構造、権威性、カリスマ、強靭さとつながりながら再生産されていく状況に注目する。この作業を通じて、研究対象であるカップ・ラム歌謡における一定の性別役割分業が、楽器の創作や吹奏の行為をめぐる言説や近代国家の建設過程で打ちだされる男性指導者のカリスマのイメージと一体化されながら、一種の「男らしさ」の意匠をまとうようになってきたことが明らかとなる。第1章では、男らしさの人類学の学説史を振り返りながら、東南アジアやラオスにみるタイ系(Tai)の人びとの男らしさに関する先行研究を整理する。タイ系民族の中でも、男性側の視点から論じられてこなかった民族と音楽の関係をつなぐ章として第2章を設け、ケーンの吹奏者のジェンダー表象について宗教社会的な環境決定論や意味論から考える。第3章では、ケーンをめぐる伝承を取り上げ、ケーンが自然との共生の中から創られてきた楽器から、ある集団組織を統一するために必要な権威性に結びけられて語り直されるまでの言説を分析する。第4章では、ケーンの形状や構造について概説した上で、カリスマ的存在によってケーン吹奏がラオ人の男らしい男性像となる状況を考察する。現地社会で語られるケーン吹奏に関わる伝承や男らしさの性言説を相対化する作業として、第5章を設け、現地社会におけるケーン吹奏と女性性の位置づけを理解しながら、男性の領域と女性の領域の交差で生じるジェンダーバイアスの問題を徹底的に検討する。第6章は、ケーン吹奏の性別役割分業をめぐるジェンダーバイアスに対して寄せられる声をまとめ、教育活動を通じて性差を乗り越えようとする新たな動きを考察する。
著者
田中 延亮 南光 一樹 加藤 弘亮 平田 晶子 恩田 裕一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

林地における豪雨時の表面流発生プロセスを理解する上で,豪雨時の林内雨量の空間分布の把握は重要であるが,既往研究では,その点について十分に調べられていない.我々は,愛知県内のヒノキ人工林で2010年7月に発生した豪雨イベントを対象にして,同林内17地点において30分間隔で観測された林内雨量の空間分布を調べた.具体的には,上記イベント中の豪雨前(最大30分間降雨強度9.0 mm),豪雨中(同57.0 mm),豪雨後(同5.5 mm)の各時間帯について,林内雨量の空間分布を調べた.豪雨前の時間帯から起算した各地点の積算林内雨量の変動係数は,豪雨のタイミングでほとんど変化せず,林内雨量の空間分布の変動の度合いについては,豪雨の影響をあまり受けないことがわかった.各地点の林内雨量の順位が時間帯の間で相関があるかどうかについて, Spearmanの順位相関係数(r)を用いて調べたところ,豪雨前と後の時間帯は高い相関(r=0.92)を示したが,両時間帯ともに,豪雨中とは比較的低い相関(r=0.79,0.67)を示した.これは,豪雨時には,通常の降雨時とは異なる地点に林内雨が集中することを示唆する.
著者
平田 晶子
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は、東北タイおよびラオス両国に居住するラオ族に歌い継がれてきた謡い手とラオ族の民族楽器である笙の伴奏から構成されるモーラム芸と呼ばれる地域芸能を対象とした芸能研究である。1.グローバル化に直面する東北タイおよびラオスにみるモーラム芸(ラオスではラム歌謡)と、その芸能実践者たちの越境横断的な移動現象を文化的、政治的、経済的、歴史的コンテクストから理解することを目的としている。2.2年間のフィールド・ワークで収集した民間治療儀礼、祖先供養儀礼、精霊供養祭の記録を文字化することに専念し、録画・録音した音声資料を利用して、宗教実践(仏教・アニミズム)の場で歌い継がれるラム歌謡から、多民族から成る調査村の宗教的世界観を民族誌として書き上げる。上記の目的と照合させ、以下の通り、平成24年度に実施した研究成果の3点を報告する。(1)ラオス人民民主共和国での長期調査(平成21年4月~平成23年3月)で収集したデータを用いて、平成24年度は国内の学会・研究会でこれまでの研究成果をまとめて発表し、投稿論文に仕上げ、日本タイ学会の学会誌に投稿した。成果物としての投稿論文は、「The Representation of Ethnicity as a Resource-An Understanding of Luk Thung Molam and Traditional Molam Music in Northeastern Thailand in a Globalization Epoch-」(2013年2月受理、4月下旬再提出後、委員会から受理済)で『年報タイ研究』第13号に掲載されることになっている。(2)映像、音声資料等を文字化する作業に徹し、芸能公演や宗教儀礼で用いられる歌のテキストをディクテーションし、不明な語彙の意味を確認した。(1年目と同様)(3)博士論文の構成を完成させて、執筆を進めた。