- 著者
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高見 英樹
- 出版者
- 公益社団法人精密工学会
- 雑誌
- 精密工学会誌 (ISSN:09120289)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.8, pp.1091-1096, 1994-08-05
- 被引用文献数
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天文学用の補償光学は,実用段階に入りつつあり,すでにサイエンスデータが出始めている.特に赤外域では必須の装置と考えられるようになってきた.今後は,レーザガイド星を使った可視光用(多素子)補償光学の開発へと進んでいくであろう.そのためには,マルチプルレーザガイド星による波面の立体的測定等,解決すべき課題が多い.8mクラスの望遠鏡に組み込まれた補償光学系によって期待される天文学の成果は,数多くあるが,例えば太陽系外の惑星の探査がある.太陽系外にも地球や木星のような惑星があることは信じられてはいるが,まだ見つけられていない.その原理は,そのような惑星が星の非常に近傍にあり,かつ星と比べてはるかに暗いからである.補償光学と「コロナグラフ」という中心星の散乱光をおさえる装置を組み合わせれば,見つけることが可能になる.ほかに中心にブラックホールがあると考えられている活動銀河中心核の構造の解明に大きな役割を果たすであろう.また,宇宙の年齢を決めるためには遠方の銀河までの距離を知らねばならないが,補償光学を用いて,おとめ座銀河団内の銀河にあるセファイド(本当の明るさと変光周期との間に一定の関係がある)変光星が星として分解できるようになり,これによってこの銀河団までの距離が精密にわかるようになる.<BR>天文学に近い応用では,深宇宙光通信に用いる軌道上の大型軽量望遠鏡面精度をあげることに使われるであろう.また,軍用でない,人工衛星の監視にも使うことができる.工業的には,ウラン235同位元素の分離に,補償光学の応用の研究がされている,など徐々に広がりつつある.