著者
日置 寛之 濱 裕 孫 在隣 黄 晶媛 並木 香奈 星田 哲志 黒川 裕 宮脇 敦史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.4, pp.173-179, 2017 (Released:2017-04-04)
参考文献数
32

脳が,認知・思考・記憶・感情といった高次機能を実現する仕組みを解き明かすには,その構造的基盤である神経回路網の理解が必要不可欠である.「構造無き機能は無い」からである.国内外で続々と開発されている脳透明化技術は,高速かつ大規模な三次元構造解析を可能にする革新的技術であり,神経回路解析に新たなブレイクスルーをもたらすと期待される.透明化技術を比較する上で重要なポイントが「clearing-preservation spectrum」である.透明化能力(clearing capability)の向上は散乱光の抑制につながり,深部まで安定して高精細な画像を取得するために大事である.一方で,透明化処理の影響によって組織の構築や標識シグナルの保持が悪くなるというトレードオフが厳存する.標識された構造物を再現よく定量的に観察するためには,構造や各種シグナルを適切に保存・維持する能力(preservation capability)が重要である.このトレードオフ問題に真正面から取り組み,両者を高い次元で両立することに成功したのが,筆者らが開発した透明化技術ScaleS法である.透明化能力の向上はもちろんのこと,①蛍光タンパク質の蛍光の保持,②抗原性の保持,③超微細構造の保持,など標識シグナルの保持に優れている.特に,超微細構造が保持されることで,光学顕微鏡と電子顕微鏡とを繋ぐ「ズームイン」技術の発展が期待される.「かたちをよくみる」バイオイメージングは,生命現象の真理を理解する上で非常に重要なステップであり,「標識」「観察」「解析」といった各要素において様々な技術が要求される.遺伝子工学技術等の発展により,「標識」技術は目覚ましい進展を遂げてきた.そして透明化技術の台頭により「観察」「解析」が大きく進展すると期待され,バイオイメージングは今まさに新たな時代を迎えようとしている.