著者
鳥居 祥二 槙野 文命
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.8-16, 2001-01-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
20

宇宙線の研究は,粒子の生成・消滅という素粒子物理学または原子核物理学と,粒子の加速・伝播という宇宙物理学の視点から行われている.観測される宇宙線の組成やスペクトルは両者が複雑に絡み合った現象である.広いエネルギー領域で多種類の粒子の識別とエネルギーの決定を行う必要があり,様々な検出器が考案されて,地上および気球,人工衛星による観測が実施されている.国際協力で建設が進められている宇宙ステーションは,各国が宇宙空間に露出した宇宙線観測に適したサイトを準備しており,特色ある観測装置の搭載が計画されている.本稿ではこれらの装置の概要とその観測計画について解説する.
著者
笠原 克昌 鳥居 祥二 小澤 俊介 清水 雄輝 増田 公明 さこ 隆志
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

LHCf実験はCERN LHC加速器を用いて,超高エネルギー宇宙線(UHECR)に匹敵するエネルギー領域で超前方に発生する粒子(ガンマ線=光子,中性子)のスペクトルを観測する.これにより宇宙線実験で使われているモンテカルロ(MC)シミュレーションで用いられる核相互作用モデルの検証を行い,UHECR の謎の解明に役立てるのが目的である.LHCfは2009年末に450GeV+450GeV衝突,2010年に3.5TeV+3.5TeV衝突の観測に成功した.これらは実験室系換算で4.3・10^<14>eVと2.6・10^<16>eVにそれぞれ相当する.MCのモデルとしてDPMJET(v3.04),PYTHIA(v8.145),QGSJET II(v03),SIBYLL(v2.1)およびEPOS(v1.99)を検証した.この全く未知の領域でのスペクトルは予想から全く外れている訳ではなかったものの,これらのどのモデルも実験結果を満足に再現するレベルには遠いことが判明した.光子のスペクトルは多くのMC モデルよりソフトな様相を呈し,ハドロンはハードな様相を呈している.また,LHCの他の実験(ATLAS,CMSなど)の中心領域での擬ラピディティ(η)分布の結果と合わせると,全てのモデルはLHC 領域で破綻すると言ってよい.DPMJETは低エネルギー領域では非常によいモデルであるが,LHCf での光子スペクトルはデータよりかなりハードである.η分布はLHC領域で突然データからずれる.PYTHIAはLHCのη分布を再現するように調整されたものを用いたが,光子についてはDPMJET と同じ様相を呈する.これらのことは,数年後に期待されるLHCの最高エネルギーでの実験を行い,破綻の傾向を調べ,モデルの検証行うことが重要なこと,新たなモデルの構築が必要なことを示している.
著者
鳥居 祥二 田村 忠久 吉田 健二 笠原 克昌 小澤 俊介 片寄 祐作 森 正樹 福家 英之 西村 純
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

高エネルギー電子・陽電子の直接観測による宇宙線近傍加速源と暗黒物質の探索を目的として、国際宇宙ステーション日本実験棟に搭載するCALorimetric Electron Telescope (CALET)の開発を実施した。CALETは当初予定の気球搭載型プロトタイプ(bCALET)による観測に対して、30倍以上の統計量が得られるだけなく、宇宙空間での高精度観測が可能である。bCALETによるCALETの観測性能実証と,熱構造モデルによるCERN-SPSでのビーム実験等により、搭載装置性能を確認した。その結果、世界に先駆けたTeV領域における電子観測を実現することが確証できている。
著者
立山 暢人 鳥居 祥二 白井 達也 平良 俊雄
出版者
神奈川大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

宇宙線中の一次反陽子の存在量の測定は、宇宙線の銀河中伝播及び、原始反物貭の存在を知る上で極めて重要である。特に100〜300MeVのエネルギ-領域の反陽子は運動学的理由により二次粒子としては殆んど生成されない為に、その観測結果が宇宙論のモデル等に与える意義は大きい。この低エネルギ-領域では、4つのグル-プにより結果が報告されているが、さらに今後の研究が待されている。本研究は原子核乾板を用い、原子核乳剤の中で静止した反陽子を観測する。この方法は(1)荷電粒子の飛跡を0.1μm精度で精密に測定できる(2)粒子の放出角・運動量等の精密の精密測定ができる(3)長期保存が可能で再現性がある。等の特長がある。本研究では(A)顕微鏡画像を画像解析システムにとり込み、反陽子相互作用を自動的に検出するシステムを開発すること。(B)一次反陽子の観測をすること、を目的とした。結果(A)250倍視野の顕微鏡画像を焦点探度を変え、一視野にフレ-ムをとり込む。この画像について背影雑音をとり除き、2値化画像にする。この画像を、ミニコンで荷電粒子飛跡のみの画像に再現する。荷電粒子飛跡を解析し相互作用を検出するシステムを開発した。 この方法は、背影雑音の除去の段でさらに検討してゆく必要がある。(B)一次反陽子の観測は1.18cm^3について完了し、二次粒子分布及び反陽子静止パタンに似たインベントの分布を得た。シミュレ-ションとの比較から、原子核乾板のスキャンが完了した時点での反陽子/陽子比の予想値を得た。この値は現存信用でき得る他の結果と同程度のフラックス値であり、精度はまさるものと考えられる。