著者
福井 修
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.277-298, 2018-03

信託財産は受託者に帰属しているが,受託者の固有財産とは別扱いされる。これを信託財産の独立性といい,信託の特徴のうち中核的なものである。自己信託を除いて信託設定によって信託財産は委託者から受託者に移転しているが,信託財産の独立性から,受託者の債権者は信託財産に対して強制執行が認めらない。さらに,信託設定時点で委託者の責任財産からは切り離されるので,委託者の債権者も強制執行の対象とすることはできない。このように受託者の債権者も,委託者の債権者も信託財産に対して強制執行することは認められないが,信託においては強制執行と無縁というわけではない。すなわち,信託で利益を受けるのは受益者であり,受益者の債権者はこの利益を受ける権利,すなわち受益権に対して強制執行が認められる。ただ,英米では親族のうち財産管理がうまくできない者のために信託を設定して,生活を守りたいということも,信託を利用する動機の一つであった。その場合には受益者の債権者が受益権を差押えることを信託設定者が極力回避したいと考える場合もある。信託設定者の意思をどこまで尊重するかという論点があり,この点については従来必ずしも結論が一致しているとはいえない状況にある。本稿はこのような信託受益権に対する差押えについて,考察するものである。
著者
小倉 利丸
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.325-353, 1982-02

本稿ではマルクス主義ないしマルクス経済学と,全く異る理論的基礎をもつそれ以外の経済学諸潮流との聞の批判的相互交通を扱うことになる。これらの検討をつうじて,マルクス価値論の理論的有効性を確認しうる視座を確定しつつ,経済学批判としての批判の方法一異る理論への批判の有効性を保障するものは何か,批判による自らの理論の擁護か,批判の理論化か,ーを検討する素材を提供してみようとするものである。
著者
小島 満
出版者
富山大学経済学部, 富山大学経営短期大学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.480-499, 1978-03

本稿で取り上げる多属性態度モデルは,主に社会心理学で構築された態度理論に依拠しながら,消費者行動に特有な情況を反映すると共に,消費者の選好を伝統的方法とは異なり,そこに顕在化する認知構造から直接説明し,予測しようとするため,叙上の対照的な接近方法を総合化する契機を内包するといえよう。しかし,このモデルが夥しい数の実証的研究を誘発させるにしたがって,それら研究のあいだに用語法,測定法,分析方法などの多様化をもたらしているため,このモデルは現状で、は未だ十分な説明力をもつに到っていないと考えられる。本稿の課題は多属性態度モデルとして総称される幾つかの主要なモデルを取り上げ,そこに伏在する問題点を行動諸科学の成果から再検討して,モデルと購買状況との対応に関する仮説を提示することにある。
著者
森岡 裕
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.583-591, 2017-03

ロシアはエネルギー資源(石炭,石油,天然ガス)の有力な保有国であり輸出国であることは周知のとおりである。石油と天然ガスについては生産拠点が西部(チュメニ)にあることから,輸送インフラ(パイプライン)の整備も西部(ロシアのヨーロッパ地域,西シベリア)を中心に行われてきた。その結果,石油とガスの輸出先は伝統的にヨーロッパ市場が中心となっており,東部(アジア・太平洋地域)の役割は大きくなかった。だが輸出先の多様化と成長するアジア・太平洋地域への結合を実現するため,東方市場の開拓・強化が図られるようになった。「2030年までのロシアのエネルギー戦略」では,ロシアの石油とガスの輸出に占める東方市場(アジア・太平洋地域)の割合を以下のような水準に引き上げることが目標として示されている。石油・石油製品の輸出:8%(2008年実績)から22 ~ 25%(2030年)へガスの輸出:0%(2008年実績)から19 ~ 20%(2030年)へ実際,東方市場への輸出強化策は実行されており,2010年の実績値では,ロシアの石油・石油製品とガス輸出に占める東方市場の割合は,それぞれ12%と6%となっている。この傾向はこれからも続くものと予測される。なお東方シフトを検討する場合,2つの大きな要因をとらえておく必要がある。1つは,サハリンの石油・ガスプロジェクトの本格的稼働開始(2006年)であり,もう1つは,東部での石油輸送インフラの整備となった「東シベリア・太平洋パイプライン(ESPO)」の稼働開始(2009年:Ⅰ期工事完了 2012年:Ⅱ期工事完了)である。この2つの大きなプロジェクトの稼働によって,ロシアの石油とガスがアジア・太平洋地域へ供給されることとなった。そこで本稿では,サハリン・プロジェクトの本格的稼働前後(2005年,2007年)とESPOの稼働後(2013年)の時期を中心に,ロシアの石油・ガスの輸出先の多様化・東方シフトを検討していく。また生産拠点が東部(シベリア,極東)にある石炭の輸出先についてもみていく。そこでⅡ節では,ロシアのエネルギー資源(石炭,石油,天然ガス)の生産状況を確認する。それを踏まえて,Ⅲ節ではロシアのエネルギー資源の輸出先の変化と今後の動向について検討する。
著者
八百 章嘉
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.379-415, 2014-11

本稿では,Alleyne事件判決を紹介後,Apprendi準則の動向を探るため,当該事件判決に至るまでの系譜,合衆国憲法修正6条が保障する「陪審裁判を受ける権利」を検討する際に連邦最高裁が使用する方法論の特徴,および,そこから明らかになる連邦最高裁判事らの見解の対立を描写する。そして,以上の考察を踏まえて,Apprendi準則の問題点の1つでもある量刑における立法府と司法府の権限対立の問題を取り上げ,量刑裁判官が保持する巨大な裁量権を歴史的側面から照射し,Alleyne事件判決の意義と量刑を争うことの有意性について検討を加える。連邦最高裁が描き続ける物語の現在の到達点を垣間見ることによって,我が国の議論に若干の示唆を提示することが,本稿の目的である。
著者
木下 裕介 増田 拓真 中村 秀規 青木 一益
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富大経済論集 = The journal of economic studies, University of Toyama : 富山大学紀要 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.127-152, 2018-07

近年,持続可能な社会や都市への移行に向けて,日本の地方自治体(以下,自治体)においては,社会・経済の低炭素化や加速化する少子化・高齢化を含む,各種課題への対応が求められている。これは中長期にわたる包括・包摂的視座の下,既存施策・政策の再編を必須とする構造的変革(structural transformation) の可否を問うものであり,自治体にとっては,地域やコミュニティにおける集合的意思決定を如何にして行い課題解決をはかるのかという,ガバナンスにかかわる問題も含んでいる(Bulkeley et al. 2011; Hodson and Marvin 2010)。これらの点に関連する直近の政策動向としては,SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の達成をはかるため,2017年12月に国が打ち出した「地方公共団体における持続可能な開発目標(SDGs) の達成に向けた取組の推進」を挙げることができる。この施策は,「まち・ひと・しごと創生総合戦略2017改訂版」(2017(平成29)年12 月22 日・閣議決定)および「SDGsアクションプラン2018」(2017(平成29)年12月26日・持続可能な開発目標(SDGs) 推進本部決定)における,「『日本のSDGsモデル』の方向性」において取り決められたものである。このことは,SDGsの達成が,日本の都市・まちづくりを通じた地域・コミュニティの再興(すなわち,地方創生)に資するとの命題が,政府の政策体系に位置づけられたことを意味する。また,ここでの命題を具体化する事業として,国(内閣府地方創生推進事務局)は,2018年2月,自治体によるSDGsの達成に向けた取り組みを公募し,優れた取り組みを提案した最大30程度の都市を「SGDs未来都市」として選定の上,SDGs推進関係省庁タスクフォースによる支援提供を行うとした。上記政策展開において特筆すべきは,SDGsの達成に向けて,自治体が取り組むべき課題・対応策等をめぐり当事者・ステークホルダーが意思決定を行う際の手法として,「バックキャスティング(backcasting)」が明示的に採用された点である。将来シナリオの策定におけるバックキャスティングとは,予測を表すフォアキャスティング(forecasting) と対をなす用語として理解され,通常,あるべき将来を始点としてそこから現在を振り返る方法と定義される(Robinson 1990)。また,一般にバックキャスティングシナリオは,比較的遠い未来(例えば,2050年)のあるべき姿(ビジョン)を設定した後,その達成のために何をすればよいか(パス)を未来から現在まで時間的逆方向に考えるというプロセスで生成するものを指す(Kishita et al. 2016)。バックキャスティングを用いた将来シナリオの作成は,社会・経済を規定する制度・構造にまで踏み込んだ,イノベーションを伴う抜本的変革が求められる課題遂行において有効とされる。サステナビリティ・サイエンス(Sustainability Science)の分野では,2000年代以降,気候変動,エネルギー,SDGsといった政策課題への対応において,バックキャスティングを用いた将来シナリオがさかんに作成されるようになってきた(Kishita et al. 2016)。持続可能な社会への移行を企図したシナリオ作成に孕む困難な問題として,各自治体が目指すべき都市や地域に関する理想の将来像(ビジョン)が必ずしもステークホルダー間で共有されていない点が挙げられる。この問題の解決に向けたより民主的な政策立案の手法として,サステナビリティ・サイエンスの分野では参加型アプローチ(participatory approach) が注目を集めている(Lang et al. 2012; Kasemir et al. 2003)。その具体的な事例は欧州でさかんに見られるが,日本でもここ最近は行政や専門家が参画した市民ワークショップの開催という形態を中心として,さかんに実践されている(Kishita et al.2016; McLellan et al. 2016; 木下・渡辺 2015)。しかしながら,自治体や都市・地域の将来ビジョンを作成するための理論や方法論は,いまだ確立されていないのが現状である。また,ビジョン作成をどのように政策立案プロセスあるいは合意形成プロセスに反映させるべきかといったガバナンス問題に関する調査研究も,依然として萌芽段階である。そこで,本稿では,上記の研究課題の解決に向けたアプローチのひとつとして,市民ワークショップ(以下,WS)を用いたバックキャスティングシナリオ作成手法を提案する。本稿で提案する手法では,ロジックツリーと呼ばれるツールを用いて市民WSでの議論を因果関係に沿って構造化した上で,ビジョンに関する重要なキーワード(キーファクター)の抽出に基づいて複数のビジョンを作成する。さらに,シナリオの作成過程でWS参加者が議論した内容の論理構造を分析するため,持続可能社会シミュレータ(以下,3S シミュレータ)という計算機システムを用いる(Umeda et al. 2009)。このシステムは,持続可能社会シナリオの理解・作成・分析を統合的に支援することを目的として筆者らが開発してきたシステムであり,ビジョンとパスから構成されるシナリオの論理構造を可視化することができる(Umeda et al. 2009)。本研究では,以上の手法を,2064年の富山市における持続可能社会のシナリオを描くことを目的とした市民参加型WSに適用した。そこでは,年齢・性別・職業が多様になるように,10~70代の男女,合計16名を集めたWSを,全3回にわたって富山市で開催した。WSでは,参加市民を同様の人員構成となるよう2つのグループ(各8名)に分け,中立的ファシリテーションの下で対話・討議し,そこで示された様々なアイディアを記した文章と録音による発話データに基づいて,バックキャスティングシナリオを作成した。本稿の主たる目的は,市民WSを用いて得られた2本のシナリオのコンテンツおよびシナリオ作成のプロセスを通して,ビジョンの実現のために満足すべき目標と,とりうる政策オプションやその他の手段との関係性を分析することにある。さらに,本稿では,筆者らが提案したシナリオ作成プロセスが,ステークホルダー間の合意形成や自治体における政策立案に対してどのように資するのかという,ガバナンス問題についても考察を行う。
著者
戸川 成弘
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要. 富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.81-103, 1994-07

株式会社の定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めがある場合(商204条1項但書)に,取締役会の承認を得ないでなされた株式の譲渡は,会社に対する関係では効力が生じない,と解されており,後述する一部の学説1)を除いては,この点について異論を唱える学説はない。それでは,この場合に当該株式の譲渡人(株主名簿上の株主。以下同じ)はいかなる法的地位を有することになるのであろうか。すなわち,当該譲渡人は会社に対して株主としての地位を主張しうるのであろうか。取締役会の承認のない譲渡制限株式の譲渡をめぐる従来の学説の議論は,譲渡の当事者聞において譲渡の効力が生ずるか否かについての議論が中心であった。それに対し,この譲渡人の法的地位の問題は,この問題について最高裁判所が初めて判断を示した最高裁昭和63年3月15日判決2)以後論点として意識され,議論が行われるようになったものであり,比較的新しい問題であるといえる。本稿は,この問題について前稿後の議論を踏まえて再検討を加え,前稿の結論の論拠を補強するとともに,その作業の過程で,前稿では必ずしも明確にしていなかった筆者の考える相対説の見解を示すことにする。
著者
神山 智美
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.57-73, 2015-07

本件は,亡Aが富山市内の側溝に転落して死亡した事故について,亡Aの相続人である原告ら(妻X1,子X2,X3)が,同側溝の水路部分を管理する被告市に対し,水路の設置又は管理に瑕疵があり,あるいは水路の安全を確保すべき義務に違反したとして,選択的に,国家賠償法2条1項又は同法1条1項に基づき,また,上記水路に隣接する土地を占有し,上記側溝の一方の側壁を構成する同土地の土盛部分を設置又は保存する被告コンビニエンスストアに対し,主位的に民法717条1項に基づき,予備的に同法709条に基づき,原告X1,Ⅹ2及びX3につき損害金及びこれに対する不法行為の日である平成24年3月31日から支払済みまで民法予定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求めた事案である。
著者
清家 彰敏 室木 通
出版者
富山大学
雑誌
富山大学紀要. 富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.135-159, 2000-07

企業の経済活動には収穫逓増と収穫逓減の二つの法則がある。この法則に従えば,製品は収穫逓増期を経て市場が熟した時点で収穫低減期に入る。この論文では,90年代の収穫逓増の事例を分析することで,21世紀に向けて製品や事業が収穫逓減期に入らないで,さらに収穫逓増を続けるための技術経営を模索している。本稿は収穫逓増の経営を理論化しようとする研究プロジェクトの一環である。特に技術経営に焦点をあて,定義してきた収穫逓増のモデルを体系化し,軸に分け,図上で位置づけを行うことを目的とする。収穫逓増は収穫逓減にならないように何かを変化させる必要があるが,このモデル化,図示では,何を変化させているかにより選別型,素材型,組立型,誘発型の4モデルに区分している。さらにこれらのモデルは戦略性,戦術性,クローズ性(グループ型),オープン性(市場型)を要素として持っており,これらの要素からクローズ戦術型,オープン戦略型,クローズ戦略型,オープン戦術型とそれぞれ再定義を行った。90年代の収穫逓増事例をもとに二つの分析を行っている。一つ目は,戦略ベースのプロダクト型とサービス型による分析である。この分析ではこの二つの要素とその要素のオープン性とクローズ性に着目して,オープン性プロダクト型をシリコンバレー型,クローズ性プロダクト型を旧日本型,クローズ性サービス型を新日本型,オープン性サービス型を脱日本型( World Wide型)という見方を提示した。またシリコンバレー型は素材型モデル旧日本型は選別型モデル,新日本型は組立型モデル,脱日本型は誘発型モデルと関連が深い。二つ日の分析は戦術ベースの市場参入のオープン性とクローズ性について分析している。製品とサーピスの二つの項目について市場参入が開放的か閉鎖的かを議論し,収穫逓増の事業がそれとどのように関わってくるか議論している。ここではさらに,製品とサーピスの市場参入のオープン性・クローズ性の組み合わせと企業関連携/開発体制との関わり合いについても分析を行って,最後に技術経営に必要な人材戦略を示唆している。本プロジェクトでは, 90年代に収穫逓増を続けている企業,製品についてその詳細を議論し事例研究をしている。ここでは日本の代表的企業であるトヨタ自動車,日清製油,エスエス製薬をはじめ,世界のトップ企業であるGE, 65円ハンバーグの日本マクドナルド,今話題のプレイステーション, ITベンチャのトレンドマイクロなど,幅広く11の企業あるいは製品を取り上げている。この中では従来のビジネスモデルと収穫逓増のビジネスモデルの対比,後述する収穫逓増モデルによる分析,プラットフォーム,サービス,オープン性,クローズ性といった分析を行っている。またこれらの収穫逓増の限界と21世紀に向けての技術経営の指針についても分析している。