著者
中地 幸
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大学研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.67-81, 2006

Hurricane Katrina caused extensive damages to the Delta area including New Orleans. It was devastating for people who need special health care, especially pregnant women. They are considered one of the most vulnerable populations because they are susceptible to infections. It is no wonder that many writers are interested in pregnant women when they describe flood disasters in their novels. Both William Faulkner and Richard Wright wrote about pregnant women during the time of the Mississippi flood of 1927 in their works. In this paper, I would like to examine the descriptions of pregnant women by both writers, focusing on women's reproductive health issues in the 1920s and 1930s.
著者
李 泰鎮 邊 英浩 小宮 秀陵 KOMIYA Hidetaka
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.175-202, 2014

本稿は李泰鎭(イ・テジン ソウル大学名誉教授)が「韓日両国知識人共同声明記念第3 次学術会議」(2014 年1 月27 日)で行った報告を論文としたものである。直前に安倍首相が靖国神社を参拝し、韓国と中国、米国などからの批判をよびおこしていたが、靖国参拝の思想的背景の解明が必要とされていた。思想的源流はまず征韓論にあることは周知の通りであるが、被害当事国である韓国では、征韓論に対する研究は意外なほど少なく、本論文はその研究上の空白を埋めるものである。本論文では、韓国併合にいたる過程は、通説的な理解である近代的な帝国主義による膨張ではなく、吉田松陰が唱えた封建的な膨張主義である征韓論が実現していく過程であり、実際にも松陰の門下生たちがその後韓国併合をなしとげていったことが明かにされている。また併合過程で言論機関の統制を担ったのが徳富蘇峰であったが、徳富も吉田松陰の信奉者であり、徳富が吉田松陰のイメージをつくりあげていくうえで大きな役割を果たしたことも明かにされている。本論文が、現在悪化している日韓関係を巨視的にみていくにおいてもつ意義は決して小さくはない。 日本語への翻訳は小宮秀陵(こみや ひでたか 啓明大学校招聘助教授)が草案を作成し、邊英浩(ピョン ヨンホ 都留文科大学教授)が点検した。なお以前の本研究紀要では、邊英浩を辺英浩、BYEON Yeong-ho をPYON Yongho と表記した論説があることを付記しておく。
著者
モリネロ・ジェルボー ヨアン 上野 貴彦
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大学研究紀要 = 都留文科大学研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
no.97, pp.227-255, 2023-03-01

要旨 ここ数十年の間に、グローバルな「中核」で農作業を行う移住労働者が増加している。世界エコロジー論(世界=生態論)の提唱者たちは、この現象が食料価格を安定的に抑制するためのシステム戦略であり、資本主義の蓄積段階を支える柱としての食料生産のあり方を規定していると指摘する。そこで本稿は、この理論を米州・欧州・アジア太平洋地域の国際比較から検証する。公式統計に基づく分析の結果、20世紀半ばから顕在化した構造的変化としての農業労働の「移民化」が、不可逆的かつ全球的に進んでいることが明らかになった。訳者解題 本稿は、欧州における移民研究の主要拠点のひとつであるコミージャス教皇庁立大学移民研究所(スペイン・マドリード)のヨアン・モリネロ・ジェルボー常任研究員による、農業における外国人移住労働者の増加という先進国共通の趨勢に関するスペイン語論文(Molinero-Gerbeau, Y.( 2020). “La creciente dependencia de mano de obra migrante paratareas agrícolas en el centro global. Una perspectiva comparada.” Estudios Geográficos ,81(288).https://doi.org/10.3989/estgeogr.202046.026)の日本語訳である(日本語タイトルは訳者による)。農業分野は、日本における人口減少と少子高齢化を背景とした外国人労働者の受け入れをめぐる議論における主要領域をなす一方で、移住労働研究と農村・地域研究の接続は、日韓の比較研究(熊谷ほか 2022; 深川・水野編著 2022)が本格化してきたところであり、より広い視野に立った国際比較は今後の課題となっている。そのため、同テーマについて世界各国の公式統計を渉猟し、米州・欧州・アジア太平洋地域という広範な領域を見渡したグローバルな現状分析を行なっている本稿の学術的価値は高い。 加えて本稿は、資本主義と自然の関係をグローバルにとらえるためのパラダイムとして近年注目される「世界エコロジー(World-Ecology) 論(世界=生態論とも訳される)」の視角を導入している。世界エコロジー論は、グローバルな「不等価交換」に注目して世界的な資本主義の発展をとらえた I. ウォーラーステインの世界システム論を発展させつつ、その労働力への関心の偏りを自然への注目によって修正したものである。本稿はこれにのっとり、グローバルな「中心」に位置する国々がみな移住労働者への依存(農業労働の「移民化」)の度合いを高めていることを、食料価格を安定的に抑制するための政治闘争における戦略、そして資本蓄積を支える食料生産をめぐる重要な規定要因として、長期持続的な自然と資本主義の相互依存過程のなかにとらえている。20世紀半ばから顕在化した農業労働の「移民化」が、農業生産と人の移動の双方にとって周辺的な事例ではなく、むしろ農業と移民をめぐる不可逆的かつ全球的な構造的変化の核をなすという本稿の議論は、日本を含む東アジアにおける農業・移民・資本主義といったテーマについて考えるうえでも極めて示唆的である。 なお翻訳にあたり、日本語圏での議論の紹介に適さない原注をすべて取り除き、新たに補足すべき事項について訳注を加えている。この訳者解題と訳注の参考文献については、本稿末尾を参照されたい。
著者
木名瀬 紀子
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.47-66, 2012

La critica più antica sul dipinto "La Nascita di Venere" di Botticelli ci è data nelle Vite de' più eccellenti pittori, scultori, e architettori del Vasari. In questo saggio secondo Concordanze di Vasari, a cura di Paola Barocchi AA. VV., ricercherò le descrizioni delle Vite del Vasari precisamente al possibile. Per quanto riguarda la rappresentazione e la raffigurazione di Venere accompagnata da Amore, Amori o Amorini, ci sono tante opere d'arte eseguite dal quattrocento al cinquecento in Italia. Queste opere sicuramente sono molto affascinanti e belle in vari modi.
著者
日向 良和
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.95-111, 2011

本稿は情報リテラシーを意識した図書館ガイダンスの実践例として、都留文科大学での実践例を報告している。主に大学図書館における情報リテラシーと図書館利用教育にかんする2000年以降の文献を踏まえながら情報リテラシー概念を検討した。情報リテラシー概念を検討するにあたり、文献にあるスキル志向アプローチと利用者志向アプローチについて、都留文科大学での図書館ガイダンスをそれぞれのアプローチに当てはめながら分析した。分析の結果都留文科大学では、情報リテラシー教育の必修化と、学生に一定の情報リテラシーを獲得させるためのカリキュラム作成が必要であると結論する。また、公共図書館での情報リテラシー向上サービスの必要性と、公立大学における地域貢献として、公立大学図書館と公共図書館の連携の必要性を認識した。今後の研究課題として地域住民の情報リテラシー能力の調査と、公共図書館における情報リテラシー基準の研究が必要である。
著者
周 非 ZHOU Fei
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.82, pp.1-15, 2015

本論は川端康成の『雪国』の「語り」の問題に焦点を当て、『雪国』の語り方と「詩的精神」および「『話』らしい話のない小説」をキーワードとする芥川の晩年の芸術観との相関関係を論じたものである。その関係が解明されることによって、『雪国』の「語り」に隠されている川端の言語観も浮上し、『雪国』の「美」の問題は実は作品の語り方と深く関係するということも見えてくるだろう。
著者
松浦 加奈子
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大学研究紀要 = 都留文科大学研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
no.87, pp.79-96, 2018-03-01

This paper examines how children regarded as having developmental disabilities become children with developmental disabilities by focusing on the practices for “special consideration” in the relationship between those special children and other children in the classroom. By studying learning scenes with teachers as the object of research, this paper clarifies the intended discipline in the classroom and observes mutual interaction for “special consideration” to be possibly performed. As a result of the analysis, the following three points are revealed. First of all, teachers perform “special consideration” by not cautioning a student for his or her problem behaviors such as running away from a classroom but approving “what he or she can do” in front of the class members; thus, such student can be eventually differentiated. Secondly, not all class members always expect practice of “supporting each other” based on teachers’ perspective on education. At last, when a class has more than one student with development disabilities, the relation with their parents as well as the characteristics of those children with special needs is necessarily for “special consideration” to be possibly performed. In addition, this study shows how “special consideration” especially for students with development disabilities becomes available in the classroom with other students with other problem behaviors; consequently, it also points out teachers’ struggle to practice their perspective on education and maintain classroom discipline.
著者
鈴木 由美 箭本 佳己
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.67-76, 2012

谷島(2005)は、大学への適応困難な学生が増加しており、その原因として、学力面での困難と並んで、人間関係や社会関係において適応の困難な学生が見られることを指摘している。 大学生は対人関係を持つ能力が低下したのであろうか。最近グループ活動を中心とした授業の中でも、恥ずかしがって話せない学生・また遊びの中でも恥ずかしくて参加できない学生がいる。そこで最近の学生の行動をシャイネスの観点から調査してみようと考えた。対人関係ゲームの恥ずかしさは、シャイネスの認知(自分の行動、他者からの評価などに対する不合理な思考)・感情(情動的覚醒と身体・生理的徴候)・行動(社会的スキルの欠如、回避的行動など)に関係があるのではないだろうか。大学生259名を対象に質問紙調査を行った。その結果は、対人関係ゲーム実施後で39人(15%)が恥ずかしいと答えており、その内容は、初対面の人にお助けカードを渡すこと、走っている姿を見られること、人に触れること、なんとなく等であった。 恥ずかしくなかった群は、恥ずかしかった群よりシャイネス尺度の緊張因子・過敏因子・自信喪失の各因子において平均点が有意に低くなっていた。恥ずかしくない方が、緊張しないで人と話せ、人との関係で自信があることが明らかになった。恥ずかしがらない学生の理由を自由記述で聞いたところ、小さいころよくやっていたから・みんなで遊ぶのに慣れているからなどであった。対人関係ゲームを「楽しかった」「どちらでもない」「楽しくない」と感じた学生では、シャイネス尺度に違いがあるのかを明らかするために、一元配置の分散分析を行った。その結果、5 %水準ではあるが、「楽しい気持ち」があるとシャイネス尺度の緊張因子の得点が低いことが示唆された。
著者
早野 慎吾
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大学研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
no.93, pp.1-10, 2021-03-01

Abstract The term shakoshin , literally the desire for happiness resulting from chance circumstances, is used in relation to the regulation of gambling, in reference to a psychological state in which an individual desires property benefits by chance. In this paper,gambling is divided into three types for the analysis of shakoshin . (1) Touji type: The parties have no involvement in the result at all; (2) Hakugi type: The parties cannot participate in the result, but they can participate in selecting the target for a winning bet;(3) Yuugi t ype: T he parties may be involved in t he result t o some extent or other. The factors contributing to the stimulation of shakoshin are classified as “reward expectation effects” based on the magnitude of property profits, “probability expectation effects” based on the probability of property being gained, and “internal control effects” related to the parties’ involvement. These three effects allowed us to identify differences in the nature of each form of gambling activity.【抄録】ギャンブル等の規制に使われる「射幸心」であるが、これは語義的には「偶然の幸せを頼む心」であるが、規制においては「偶然の財産的利益を欲する心理状況」の意味で使われる。本研究では、ギャンブルの性質を( 1 )賭事型:当事者が結果に全く関与できないもの( 2 )博戯型:当事者は結果には関与できが、当選対象を選択することに当事者が関与できるもの( 3 )遊技型:当事者が多少に関わらず結果に関与できるものに分類した。 また射幸性を誘発する要素を、財産的利益の大小を基準とする「報酬期待効果」と、得られる確率を基準とする「確率期待効果」、行為者の関与に関わる「内部統制効果」に分類して分析した。この3 つの効果により各ギャンブルの性質の違いを明らかにした。
著者
佐藤 佑 SATO Yu
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.39-57, 2014

国語科のいわゆる「学校文法」は、日本語研究の分野ではことごとく否定され、大学の教師教育においてすら批判的に扱われることが多い。その結果、国語教師は教えるべき文法のあり方を十分に知らされないまま教壇に立つことになっている。本稿はこうした現状に一石を投じるべく、学校文法の枠組みの中でも特に難解な「連文節」の理論を整理し直すことで、国語教育に携わる人々の一助となることを期するものである。これに加え、学校文法の枠組みから外れる連文節以上・文未満の単位を処理するためのツールとして、橋本進吉が最晩年に整備しようとしていた「文節の群化」のシステム(橋本1944)を再評価し、その重層的で複雑な文構造の捉え方を教育現場に持ち込むための方法論を検討する。具体的には、述語・述部を核とした学校文法の「文の成分」観を肯定的に捉えつつ、その理解を助けるものとして橋本(1944)の理論を応用し、個々の文節間の関係を順序立てて確認する方法、またそれに基づいて、教育現場では構文を階層的・段階的に図解しながら教える手法を提案する。