著者
李 泰鎮 邊 英浩 小宮 秀陵 KOMIYA Hidetaka
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.175-202, 2014

本稿は李泰鎭(イ・テジン ソウル大学名誉教授)が「韓日両国知識人共同声明記念第3 次学術会議」(2014 年1 月27 日)で行った報告を論文としたものである。直前に安倍首相が靖国神社を参拝し、韓国と中国、米国などからの批判をよびおこしていたが、靖国参拝の思想的背景の解明が必要とされていた。思想的源流はまず征韓論にあることは周知の通りであるが、被害当事国である韓国では、征韓論に対する研究は意外なほど少なく、本論文はその研究上の空白を埋めるものである。本論文では、韓国併合にいたる過程は、通説的な理解である近代的な帝国主義による膨張ではなく、吉田松陰が唱えた封建的な膨張主義である征韓論が実現していく過程であり、実際にも松陰の門下生たちがその後韓国併合をなしとげていったことが明かにされている。また併合過程で言論機関の統制を担ったのが徳富蘇峰であったが、徳富も吉田松陰の信奉者であり、徳富が吉田松陰のイメージをつくりあげていくうえで大きな役割を果たしたことも明かにされている。本論文が、現在悪化している日韓関係を巨視的にみていくにおいてもつ意義は決して小さくはない。 日本語への翻訳は小宮秀陵(こみや ひでたか 啓明大学校招聘助教授)が草案を作成し、邊英浩(ピョン ヨンホ 都留文科大学教授)が点検した。なお以前の本研究紀要では、邊英浩を辺英浩、BYEON Yeong-ho をPYON Yongho と表記した論説があることを付記しておく。
著者
木名瀬 紀子
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.47-66, 2012

La critica più antica sul dipinto "La Nascita di Venere" di Botticelli ci è data nelle Vite de' più eccellenti pittori, scultori, e architettori del Vasari. In questo saggio secondo Concordanze di Vasari, a cura di Paola Barocchi AA. VV., ricercherò le descrizioni delle Vite del Vasari precisamente al possibile. Per quanto riguarda la rappresentazione e la raffigurazione di Venere accompagnata da Amore, Amori o Amorini, ci sono tante opere d'arte eseguite dal quattrocento al cinquecento in Italia. Queste opere sicuramente sono molto affascinanti e belle in vari modi.
著者
日向 良和
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.95-111, 2011

本稿は情報リテラシーを意識した図書館ガイダンスの実践例として、都留文科大学での実践例を報告している。主に大学図書館における情報リテラシーと図書館利用教育にかんする2000年以降の文献を踏まえながら情報リテラシー概念を検討した。情報リテラシー概念を検討するにあたり、文献にあるスキル志向アプローチと利用者志向アプローチについて、都留文科大学での図書館ガイダンスをそれぞれのアプローチに当てはめながら分析した。分析の結果都留文科大学では、情報リテラシー教育の必修化と、学生に一定の情報リテラシーを獲得させるためのカリキュラム作成が必要であると結論する。また、公共図書館での情報リテラシー向上サービスの必要性と、公立大学における地域貢献として、公立大学図書館と公共図書館の連携の必要性を認識した。今後の研究課題として地域住民の情報リテラシー能力の調査と、公共図書館における情報リテラシー基準の研究が必要である。
著者
周 非 ZHOU Fei
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.82, pp.1-15, 2015

本論は川端康成の『雪国』の「語り」の問題に焦点を当て、『雪国』の語り方と「詩的精神」および「『話』らしい話のない小説」をキーワードとする芥川の晩年の芸術観との相関関係を論じたものである。その関係が解明されることによって、『雪国』の「語り」に隠されている川端の言語観も浮上し、『雪国』の「美」の問題は実は作品の語り方と深く関係するということも見えてくるだろう。
著者
鈴木 由美 箭本 佳己
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.67-76, 2012

谷島(2005)は、大学への適応困難な学生が増加しており、その原因として、学力面での困難と並んで、人間関係や社会関係において適応の困難な学生が見られることを指摘している。 大学生は対人関係を持つ能力が低下したのであろうか。最近グループ活動を中心とした授業の中でも、恥ずかしがって話せない学生・また遊びの中でも恥ずかしくて参加できない学生がいる。そこで最近の学生の行動をシャイネスの観点から調査してみようと考えた。対人関係ゲームの恥ずかしさは、シャイネスの認知(自分の行動、他者からの評価などに対する不合理な思考)・感情(情動的覚醒と身体・生理的徴候)・行動(社会的スキルの欠如、回避的行動など)に関係があるのではないだろうか。大学生259名を対象に質問紙調査を行った。その結果は、対人関係ゲーム実施後で39人(15%)が恥ずかしいと答えており、その内容は、初対面の人にお助けカードを渡すこと、走っている姿を見られること、人に触れること、なんとなく等であった。 恥ずかしくなかった群は、恥ずかしかった群よりシャイネス尺度の緊張因子・過敏因子・自信喪失の各因子において平均点が有意に低くなっていた。恥ずかしくない方が、緊張しないで人と話せ、人との関係で自信があることが明らかになった。恥ずかしがらない学生の理由を自由記述で聞いたところ、小さいころよくやっていたから・みんなで遊ぶのに慣れているからなどであった。対人関係ゲームを「楽しかった」「どちらでもない」「楽しくない」と感じた学生では、シャイネス尺度に違いがあるのかを明らかするために、一元配置の分散分析を行った。その結果、5 %水準ではあるが、「楽しい気持ち」があるとシャイネス尺度の緊張因子の得点が低いことが示唆された。
著者
佐藤 佑 SATO Yu
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.39-57, 2014

国語科のいわゆる「学校文法」は、日本語研究の分野ではことごとく否定され、大学の教師教育においてすら批判的に扱われることが多い。その結果、国語教師は教えるべき文法のあり方を十分に知らされないまま教壇に立つことになっている。本稿はこうした現状に一石を投じるべく、学校文法の枠組みの中でも特に難解な「連文節」の理論を整理し直すことで、国語教育に携わる人々の一助となることを期するものである。これに加え、学校文法の枠組みから外れる連文節以上・文未満の単位を処理するためのツールとして、橋本進吉が最晩年に整備しようとしていた「文節の群化」のシステム(橋本1944)を再評価し、その重層的で複雑な文構造の捉え方を教育現場に持ち込むための方法論を検討する。具体的には、述語・述部を核とした学校文法の「文の成分」観を肯定的に捉えつつ、その理解を助けるものとして橋本(1944)の理論を応用し、個々の文節間の関係を順序立てて確認する方法、またそれに基づいて、教育現場では構文を階層的・段階的に図解しながら教える手法を提案する。
著者
堤 英俊 TSUTSUMI Hidetoshi
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.33-54, 2015

本稿では、小・中学校段階の生徒たちが、通常学級からの転出後、本人たちに「異質」として認識される知的障害特別支援学級に転入し、そこに「居場所」を見出していく一連の過程を、彼(女)ら自身の「置かれた状況の中で状況をのりこえようとして働かされる様々な創意工夫や知恵」すなわち彼(女)らなりの<生活戦略>に着目しながら記述して考察した。 知的障害特別支援学級に転入した生徒たちの共通経緯としてあった通常学級における学力問題は、個人問題に矮小化されて基礎レベル以上の学力向上が不問に付されるとともに、二次的な「内面のつまずき」へと問題の焦点がずらされていた。そして、彼(女)らは、その学級で安全で安心できるアジール空間や友だち・教師・介助員といった信頼できる他者を獲得する一方で、ある意味で代償的に、「特別支援学級生徒」カテゴリーや「障害児」カテゴリーに依拠した、学級内での教師からの独特のまなざし、学級外での通常学級生徒からの独特のまなざしという、二重の「健常者」のまなざしが意識される状況に置かれることになった。こうした状況の中で、彼(女)らは、<ポジティブ解釈への転換><グレーゾーン・コミュニティへの参加><「運動」への没頭><「つるみ」相手の確保><まなざしの無視>といった戦略を働かせ、<グレーゾーン・アイデンティティ>を選択することを通して主体性を維持しながら、その学級の内部に「居場所」を見出していっていた。
著者
田中 里美
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.129-150, 2020

福祉供給における公的責任の大きさによって特徴づけられてきた北欧型福祉国家におい ても、その成立を支えた条件の変化に伴い、市場化を含む制度改変が行われ、財政の健全 化と福祉供給の維持、効率化と平等の両立、さらには選択の自由の拡大が目指されている。 北欧型福祉国家に分類されるフィンランドでも、社会福祉、医療保健サービスの分野では、 民間、非営利組織の利用が進んでいる。一方、学校教育に関しては、私立学校は例外的な 扱いに留まり、自治体が財政、供給を担う公教育中心の体制が続いている。この体制の下、 1990年代の不況期以降、自治体による学校(とくに日本の小・中学校に相当する総合基 礎学校)統廃合の決定が相次いでいる。多くの地域で、私立学校化による学校の維持存続 の試みがとん挫する中、総理府の実験プログラムを利用し、公教育の枠組みの下で、地域 住民が社会的企業を立ち上げ、コミュニティ組織、地域の企業をつなぎつつ、自治体のパー トナーとして学校を維持する試みが、中央ポホヤンマーマークンタ、カンヌス市エスコラ 地区で行われている。この事例は、フィンランドの総合基礎学校が、1970年代の発足以来、 堅持してきた教育機会の平等の理念とともに、学校に対する地域ごとに多様なニーズに対 応する制度に変化するかを見る上で、重要な意味を持っている。
著者
関口 安義
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.29-50, 2012
著者
日向 良和 HINATA Yoshikazu
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.161-173, 2017

近年新設された公共図書館において、調理室や工作室、音楽スタジオ等を同一建物内に備えて、調理、3 D プリンタ等出力、バンド練習など、さまざまな体験活動をおこなうことができる図書館が出現している。これらの活動がおこなわれている図書館を訪問し、その共通する特徴として、「読む・調べる→考える→やってみる」という活動の特徴があることを認識した。この認識を基に、これまでの公共図書館でおこなわれてきた資料・情報提供サービス(読書含む)の他に、これらの体験活動をサービスとして提供することの是非を検討した。本稿では体験活動を公共図書館の役割を越えるものであるとし、生涯学習施設における図書館機能の提供と位置づけ、否定的なものでないと結論づけた。
著者
李 泰鎮 邊 英浩
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.151-174, 2011

本稿の草稿は、第6 回韓日歴史家会議『歴史家はいま、何をいかに語るべきか?』(2006年10月27~29日 東京)のために作成され、その際に日本語訳が鳥海豊・邊英浩によって一旦作成された。その後、訳者は本翻訳用に著者の李泰鎮氏(ソウル大学名誉教授)に韓国語論文の修正加筆をお願いし、2010年9 月に完成原稿を受領し、それを底本として、上記日本語訳を参照しつつ改めて翻訳を行った。なおこの論文の韓国語版は、今現在発表されていない。著者の李泰鎮氏は、近年高宗時代史の一次史料の検討を通じて精力的に論考を発表してきた。その中で、日本が植民地支配を正当化するためにこの時代が悪政であり、日本が善政をもたらしたとする歴史観が作り出され、韓国の近現代史認識が大きく歪曲されてしまったことを明らかにしてきた。この論文では、(1)日本帝国主義による意図的な歪曲を概観し、(2)それを主導した徳富蘇峰の分析に相当量が割かれている。さらに、(3)この歴史認識は解放後もそのまま放置されてきたが、それは解放後の韓国で大統領となった李承晩の歴史認識に大きな原因があったことを解明している。(4)最後に北朝鮮の歴史学界と韓国の学界との関連にも言及している。今までの自身の研究成果を踏まえ、韓国近現代史像を総体的に再検討しようとするスケールの大きな問題提起論文であるため、ここに訳出した。なお訳文中の( )[ ]などの補足は特に断らない限り、原著者によるものである。訳者が補った箇所は〈 〉としたが、その旨を注釈部分などは訳者註などとした箇所もある。引用文献は原則として日本語訳したが、一部原文を並記した。日本語文献との混同を避けるため、韓国での出版物は【韓国語】、北朝鮮のものは【朝鮮語】と記した。