著者
堤 英俊 TSUTSUMI Hidetoshi
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.33-54, 2015

本稿では、小・中学校段階の生徒たちが、通常学級からの転出後、本人たちに「異質」として認識される知的障害特別支援学級に転入し、そこに「居場所」を見出していく一連の過程を、彼(女)ら自身の「置かれた状況の中で状況をのりこえようとして働かされる様々な創意工夫や知恵」すなわち彼(女)らなりの<生活戦略>に着目しながら記述して考察した。 知的障害特別支援学級に転入した生徒たちの共通経緯としてあった通常学級における学力問題は、個人問題に矮小化されて基礎レベル以上の学力向上が不問に付されるとともに、二次的な「内面のつまずき」へと問題の焦点がずらされていた。そして、彼(女)らは、その学級で安全で安心できるアジール空間や友だち・教師・介助員といった信頼できる他者を獲得する一方で、ある意味で代償的に、「特別支援学級生徒」カテゴリーや「障害児」カテゴリーに依拠した、学級内での教師からの独特のまなざし、学級外での通常学級生徒からの独特のまなざしという、二重の「健常者」のまなざしが意識される状況に置かれることになった。こうした状況の中で、彼(女)らは、<ポジティブ解釈への転換><グレーゾーン・コミュニティへの参加><「運動」への没頭><「つるみ」相手の確保><まなざしの無視>といった戦略を働かせ、<グレーゾーン・アイデンティティ>を選択することを通して主体性を維持しながら、その学級の内部に「居場所」を見出していっていた。
著者
邊 英浩 BYEON Yeong-ho
雑誌
都留文科大学研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
no.74, pp.159-169, 2011-10-20

朝鮮王朝は朱子学によって建国され、その思惟様式と対外観は16世紀に登場した李退溪(名は滉、字は景浩、退溪は号1501~70年)、李栗谷(名は珥、字は叔獻、栗谷は号 1536~84年)によって代表される。しかし朝鮮王朝が末期に近代に遭遇したとき、その基本的な思惟様式と対外観は大きく変容していた。それは、夷狄の中華への上昇可能性の肯定、儒教文明化以外の文明化への視野の拡大、この2 点である。こうした思惟様式と対外観の変容が起きつつあったときに、朝鮮王朝は近代を迎えることとなった。そのため高宗政権は、自ら近代化を進めながら、これらの近代的な夷狄との外交交渉、同盟関係を適宜構築していく政策を推進し、一定の成果をあげていくことができたのである。これらは国際関係を単に力関係から見るという次元では理解できないものであった。
著者
田中 里美
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.129-150, 2020

福祉供給における公的責任の大きさによって特徴づけられてきた北欧型福祉国家におい ても、その成立を支えた条件の変化に伴い、市場化を含む制度改変が行われ、財政の健全 化と福祉供給の維持、効率化と平等の両立、さらには選択の自由の拡大が目指されている。 北欧型福祉国家に分類されるフィンランドでも、社会福祉、医療保健サービスの分野では、 民間、非営利組織の利用が進んでいる。一方、学校教育に関しては、私立学校は例外的な 扱いに留まり、自治体が財政、供給を担う公教育中心の体制が続いている。この体制の下、 1990年代の不況期以降、自治体による学校(とくに日本の小・中学校に相当する総合基 礎学校)統廃合の決定が相次いでいる。多くの地域で、私立学校化による学校の維持存続 の試みがとん挫する中、総理府の実験プログラムを利用し、公教育の枠組みの下で、地域 住民が社会的企業を立ち上げ、コミュニティ組織、地域の企業をつなぎつつ、自治体のパー トナーとして学校を維持する試みが、中央ポホヤンマーマークンタ、カンヌス市エスコラ 地区で行われている。この事例は、フィンランドの総合基礎学校が、1970年代の発足以来、 堅持してきた教育機会の平等の理念とともに、学校に対する地域ごとに多様なニーズに対 応する制度に変化するかを見る上で、重要な意味を持っている。
著者
関口 安義
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.29-50, 2012
著者
日向 良和 HINATA Yoshikazu
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.161-173, 2017

近年新設された公共図書館において、調理室や工作室、音楽スタジオ等を同一建物内に備えて、調理、3 D プリンタ等出力、バンド練習など、さまざまな体験活動をおこなうことができる図書館が出現している。これらの活動がおこなわれている図書館を訪問し、その共通する特徴として、「読む・調べる→考える→やってみる」という活動の特徴があることを認識した。この認識を基に、これまでの公共図書館でおこなわれてきた資料・情報提供サービス(読書含む)の他に、これらの体験活動をサービスとして提供することの是非を検討した。本稿では体験活動を公共図書館の役割を越えるものであるとし、生涯学習施設における図書館機能の提供と位置づけ、否定的なものでないと結論づけた。
著者
李 泰鎮 邊 英浩
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大學研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.151-174, 2011

本稿の草稿は、第6 回韓日歴史家会議『歴史家はいま、何をいかに語るべきか?』(2006年10月27~29日 東京)のために作成され、その際に日本語訳が鳥海豊・邊英浩によって一旦作成された。その後、訳者は本翻訳用に著者の李泰鎮氏(ソウル大学名誉教授)に韓国語論文の修正加筆をお願いし、2010年9 月に完成原稿を受領し、それを底本として、上記日本語訳を参照しつつ改めて翻訳を行った。なおこの論文の韓国語版は、今現在発表されていない。著者の李泰鎮氏は、近年高宗時代史の一次史料の検討を通じて精力的に論考を発表してきた。その中で、日本が植民地支配を正当化するためにこの時代が悪政であり、日本が善政をもたらしたとする歴史観が作り出され、韓国の近現代史認識が大きく歪曲されてしまったことを明らかにしてきた。この論文では、(1)日本帝国主義による意図的な歪曲を概観し、(2)それを主導した徳富蘇峰の分析に相当量が割かれている。さらに、(3)この歴史認識は解放後もそのまま放置されてきたが、それは解放後の韓国で大統領となった李承晩の歴史認識に大きな原因があったことを解明している。(4)最後に北朝鮮の歴史学界と韓国の学界との関連にも言及している。今までの自身の研究成果を踏まえ、韓国近現代史像を総体的に再検討しようとするスケールの大きな問題提起論文であるため、ここに訳出した。なお訳文中の( )[ ]などの補足は特に断らない限り、原著者によるものである。訳者が補った箇所は〈 〉としたが、その旨を注釈部分などは訳者註などとした箇所もある。引用文献は原則として日本語訳したが、一部原文を並記した。日本語文献との混同を避けるため、韓国での出版物は【韓国語】、北朝鮮のものは【朝鮮語】と記した。
著者
杉村 立男
出版者
都留文科大学
雑誌
都留文科大学研究紀要 (ISSN:02863774)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.153-166, 2003