著者
瀬尾 威久 松原 義雄
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.320-324, 1980-04-01

近年,航空機による海外との交通が頻繁となるにつれ,日本人も広く世界各地に進出するようになり,本来は日本に存在しないいくつかの感染症まで我が国に移入される機会が増えてきた.予防あるいは治療によい手段のある疾患に関しては比較的問題が少ない.例えば痘瘡には種痘,マラリアには予防内服をすることにより,ほぼ発病を防ぐことができる.しかしながら,よい予防・治療方法がなく,致命率の高い,本来はアフリカ原住民の疾患であると考えられるラッサ熱,マールブルグ病,エボラ出血熱などがヨーロッパ,アメリカなどに移入された事実から,いつこれらの疾患が日本に移入されるかしれない.既に我が国でも1976年2月接触者5人が発生した際に,政府はラッサ熱を指定伝染病とした.その後,東京都は,国の要請に基づき,国庫補助を受け,1979年7月に東京都立荏原病院に高度安全病棟を建設し,ラッサ熱を始めとする危険な感染症を収容することとなった.既にこのための診療班が結成され,患者入院に備え,定期的に研修が実施されている.
著者
堀 成美 松本 加代
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.170-173, 2021-02-01

本連載で先に紹介した2つの事例では,地域の医療機関がどのように新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)に備えたか,また専門家が不在の中でどのようにクラスター対応をしたのかを紹介した.連載第5・6回は,新型コロナの医療の特徴である,保健所を介在した調整とその連携について紹介する.新型コロナ診療が他の感染症の診療と大きく異なる点は,確定診断となった患者の入院調整に保健所が関わることである.結核やHIV感染症の場合,診断した医師がそのまま自分の施設で診るか,近隣の専門医療機関に紹介する.その場合,どのような現場・経緯の症例なのかは,医師同士で連絡を取り合い,事務的なことは医療連携部門のスタッフが調整するため,患者情報を得るのはそれほど難しいことではない.一方,新型コロナでは,発生届が保健所に送られ(FAXまたはHER-SYS),その後,保健所の職員が電話で患者に連絡し,体調の確認,行動歴の確認と濃厚接触者の把握をしながら,入院調整を行う.件数が少なく,地域の受け入れ医療機関のベッドに余裕があればそう難しいことではないが,急性呼吸器感染症は広がりやすく,無症状者や軽症者を含めて規模の大きな症例群への対応が必要になるのが特徴であり,「稀な少数の症例対応」モデルはすぐに破綻する.重症以外は自宅療養を基本とする国も多い中,日本は当初,「全例」入院対応だった.その後,報告事例が増加し,軽症者がベッドを埋めて新規症例の入院調整が困難になる中,軽症者や回復者は一定条件の下,自宅療養やホテルなどの宿泊施設での療養が選択できるようになった.さらに2020年10月24日からは,年齢(65歳以上),基礎疾患などにより優先的に入院する人たちと,無症状・軽症者を初期に整理して準備した病床が軽症者で埋まらないようにするための運用の変更が行われ,地域事情に合わせて調整できるよう,自治体の判断が尊重されている.連載第5・6回では,筆者がアドバイザーとして支援している東京都港区の経験から,医療機関と患者の間で調整している保健所の取り組み・課題を紹介する.
著者
堀 成美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.82-83, 2018-01-01

2017年1月6日の産経新聞に「国保悪用の外国人急増 留学と偽り入国,高額医療費逃れ 厚労省,制度・運用見直し検討」という記事が掲載された.2016年に筆者が参加した外国人患者受け入れ体制整備関連のセミナーでも,「健康保険証の不適切な使用事例がある」というフロアからの同様の指摘があった. 外国人に限らず,健康保険証の偽造や不適切な使用による診療報酬詐欺といった事件は,メディアでも何度も報じられている.外国人患者が増えると,このような問題が増えるのではないかという指摘は当初からあった.在留・訪日外国人が増えるなかで,今後,医療機関が経験するかもしれない健康保険証をめぐる問題のパターンとその対処について紹介したい.
著者
越本 幸彦 山崎 祥光
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.77, no.10, pp.812-815, 2018-10-01

■宿日直許可とは 連載第1回で記述した通り,「労働時間」とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であり注1,例えば,宿直の際に仮眠中の時間があっても,「労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである」とされ注2,実労働が発生していなくても,指示に従い,業務への即応が求められる場合には仮眠時間も労働時間と判断されることになる. そのため,宿日直の中で,軽微な業務であっても,労働からの解放が保障されていると言えなければ,それは労働時間であり,(仮眠時間も含めて)日勤時間帯と同じ賃金が発生し,宿直時間が時間外労働や深夜労働に該当する部分は,所定の割増賃金を支払わなければならない.
著者
副島 秀久
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.75, no.10, pp.789-792, 2016-10-01

熊本地震から4か月が経とうとしている.復興は徐々に進みつつあるが,主要インフラである幹線道路,特に国道57号線の再建は相当の時間を要すると思われ,このため市内の渋滞も激しく,さらに建築関係の資材高騰と人手不足が重なり,熊本人にとってはひときわ厳しく暑い夏となっている.こうした中で被害状況や災害対策の検証がさまざまな視点で進められつつあるが,現時点での経過と検証の一部を私見を交えて報告したい.
著者
原 實
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.848, 1983-10-01

容貌魁偉である.初対面の人は皆この大きな目玉に驚く.が内実は,心の優しい慈愛に満ちた人柄である. 本邦最初の無人戦車を製作した元砲兵工廠の新垣武久氏を父に,米本国移民の草分けであり,日系移民最初の米国市民権を取得し,後市民権運動に力を尽された弁護士仲村権五郎氏を母方の祖父に持つ毛並の良さ,進取の気性,不退転の意志を同時に享けておられる.
著者
M.O
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.30, no.11, pp.114-115, 1971-10-01

保険医総辞退に至るまでの経過 中医協の診療報酬体系の適正化に関する‘審議用メモ’に端を発し,7月1日から突入した日本医師会の保険医総辞退は,7月28日の佐藤総理,斎藤厚相,武見日木医師会長の三者会談でようやく収拾され,木年の2月18日以来審議を中止していた中央社会保険医療協議会が約半年ぶりの8月5日にようやく開かれ,軌道に乗ってきた. そこでこの間のおもな動きをあげてみた.
著者
福永 肇
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.833-837, 2006-10-01

今月は診療報酬債権を担保にして資金調達をするスキーム,病院の不動産証券化スキーム(REIT),不動産担保と将来の診療報酬を信託受益権にして借入をした徳洲会グループの病院全事業証券化,自治体病院の民間資金調達スキームである PFI の 4 つの概要を解説します. ■診療報酬債権を担保にするスキーム 1.診療報酬債権譲渡担保融資 9 月号では診療報酬債権を証券化方式またはファクタリング方式にて流動化するファイナンスを解説しました.診療報酬債権を活用する病院ファイナンスには,この “流動化” に加え,診療報酬債権を “譲渡担保” にして資金調達を行う方法もあります.譲渡担保では,債権を担保するために,売掛金である診療報酬の所有権を病院から金融機関に法律形式に従って移転登記します.そして被担保債権の弁済をもって,その権利を返還する形式の担保となります.譲渡担保は民法上の担保権ではなく,判例法上での担保権です.
著者
松田 晋哉 福留 亮 村松 圭司 藤野 善久 久保 達彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.318-321, 2014-04-01

前回は論文の設計図であるアウトラインを作成しました.今回からこのアウトラインに従って実際の論文を書いていきます.前半はイントロダクションに相当する「目的」,論文の方法論を説明する「データおよび分析方法」,そして「結果」です.福留さんの書いた論文を松田,藤野,久保が中心となって批判的に読み,そして訂正していく過程を読者の皆さんにも追体験していただきます.
著者
佐藤 暢
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.47, no.10, pp.864-868, 1988-10-01

はじめに 昨年12月22日と24日に国立嬉野病院(佐賀県)で起きた医療ガス配管ミスによる死亡事故について,その原因を巡って様々な報道がなされてから既に半年が経過して,警察の調査も終わり厚生省も漸く対応策をまとめたので,この際,問題点を振り返ってみた上で,このような悲惨な事故がなぜ繰り返されるのか,もう二度と起こさないための方策を探りたい. この事故は,手術室の天井裏にある換気用通気管の工事に伴って,邪魔になった医療ガス用の配管を移設した際,酸素と笑気の配管をつなぎ間違えた単純なミスによる(図1).しかし,2本の配管を逆に連結する工事ミスが起きて,しかも3日間も気づかなかったので,2人も患者が死亡した裏には複雑な背景がある.
著者
山田 あすか
出版者
医学書院
雑誌
病院 (ISSN:03852377)
巻号頁・発行日
vol.77, no.11, pp.838-843, 2018-11-01

葉山ハートセンターは,重度の心臓疾患の外科手術による治療を目的として,循環器外科とその後方病床に特化した心臓病の最先端治療センターとして開設された.開設当時は,それまでの病院建築の典型を払拭した敷地選定や建物形状,質の高いインテリアデザインや眺望との一体感など「病院らしくない病院」は話題を集め(図1),心臓手術を受ける患者に配慮した環境が高く評価され,グッドデザイン賞金賞(2000年),日本医療福祉建築賞(2001年)を受賞している1).
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.14, 1970-02-01

病院の機能を進め,管理の理念を実現させるために,病院建築の影響は大きい.吉武教授はわが国の病院管理と歩調をそろえて歩いてきたのであり,わが国の病院建築に大きい影響力をもっていることは,広く認められている. 診療圏を調べ,院内の動線を追跡し,すべて実証をもとにした構想は,病院関係者を納得させ,また誇らず,強制しない学究的な人がらが,新しい病院建築を次々に生み出してきたのである.
著者
鈴木 哲司
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.990-994, 2021-11-01

■救急救命士が活動する“場”の拡大病院前救急医療体制の充実を図る救急救命士制度 救急救命士制度は,1991(平成3)年に病院前救急医療体制のさらなる充実を図り,わが国の救命率の向上を目指すことを目的として整備された制度である.制度発足以前は,救急用自動車の中での救急隊員による医療行為が禁じられていたため,傷病者の搬送を主体とした業務であり,助かるはずの命が失われていたという悲しい歴史があった.それらをいち早く解消するために公的養成機関,専門学校,短大,大学において救急救命士の養成が行われ,量的充実が図られてきた. 改正前の救急救命士法第44条第2項によって「救急救命士は,救急用自動車その他の重度傷病者を搬送するためのものであって厚生労働省令で定めるもの(「救急用自動車等」という.)以外の場所においてその業務を行ってはならない.ただし,病院又は診療所への搬送のため重度傷病者を救急用自動車等に乗せるまでの間において救急救命処置を行うことが必要と認められる場合は,この限りではない.」と救急救命士が業務の行う場所の厳格な規定と制約がなされ,今日まで救急救命士の活躍する場は,消防機関が主たる職域であった.
著者
小黒 一正 川原 丈貴
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.805-810, 2020-11-01

人口構造の変化や高額薬剤の登場などが医療財政に大きな影響を与えると想定される.環境の変化に応じて規制や制度は修正すべきだが,守るべき価値のあるものを見誤ってはならない.経済学の視点から,今後の医療制度改革を探る.
著者
藤沢 烈
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.855-859, 2018-11-01

●少子高齢化,財源不足,ライフスタイルの変化が進む中で,自助を前提に真に困っている方を助ける医療を目指して,医師自身の働き方改革に注目が集まっている.●医師の働き方改革として「テクノロジーの活用」「女性の働き方改革」「多様なキャリア形成」の3つのポイントがある.●医師の働き方改革により,医師の役割はコミュニケーション重視となり,他業種と連携した医療業界への関わりなどが進むと考えられる.