著者
藤野 善久 久保 達彦 松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.177-183, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
32
被引用文献数
2 3

近年,健康格差が社会的課題として取り上げられている.2012年に発表された第2次健康日本21の素案の中で,健康格差への取り組みが優先的課題として提示された.このような背景を踏まえて,健康格差の是正に向けた産業保健のあり方について,公衆衛生および社会疫学的視点から考察を行った.はじめに,職域における健康格差について,レビューを行い,また,社会疫学やライフコースアプローチで得られた知見にもとづき,職域における健康格差の成立機序についてコンセプトモデルを提示した.さらに,産業保健において健康格差に取り組むための具体的ツールとして,健康影響評価の活用について解説する.
著者
樋口 慧 松田 晋哉 大嶽 浩司
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.353-361, 2015 (Released:2015-11-21)
参考文献数
24

病院あたり手術数の手術アウトカムへの影響(volume-outcome relationship(VOR))については,手術数が多い病院ほどアウトカムが良いという報告が多いものの,関連がないとの報告もあり,その真偽ははっきりしない.本研究では,日本の診療報酬に用いられるDPC(Diagnosis Procedure Combination)データベースを用いて,大腸癌切除術に関して病院あたり手術数と在院死亡率,術後在院日数との相関を検証した.2007年,2008年の7月から12月までに大腸癌切除術を施行した患者51,878人を,病院あたり手術数の少ない順にlow群 (L群),medium-low群 (M-l群),medium-high群 (M-h群),high群 (H群)の4群に分類した.各群の患者数はほぼ同数となるよう手術数のカットラインを設定した.性別,年齢,既往歴の患者要因,術式と病院あたり手術数に関してχ2検定・分散分析を実施し,ロジスティック回帰分析・Cox比例ハザードモデルを用いて病院あたり手術数の在院死亡,術後在院日数への影響を検証した.患者要因・術式を調整してVORを見ると,L群と比較した場合,手術が多くなる順に在院死亡のオッズ比は低くなった(M-l群,M-h群,H群の順にOdds Ratio (OR) 0.87,0.73,0.53).術後在院日数は,L群からH群の順に,26.7日,22.7日,20.8日,18.3日となり,L群と比較するといずれの群も有意差を認めた(p<0.001).DPCデータを用いた本研究では,大腸癌切除術において病院あたり手術数が多いほど,有意に低い在院死亡率,短い術後在院日数が認められた.このメカニズムに関して,実践による学習効果,選択的に治療成績のよい病院に患者が集まることなどが示唆されている.本研究では診療報酬データベースの特性から患者要因と術式要因を充分に調整しきれていない可能性があり,さらなる検討の余地が残る.
著者
ICU 機能評価委員会 今中 雄一 林田 賢史 村上 玄樹 松田 晋哉
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.227-232, 2010-04-01 (Released:2010-10-30)
参考文献数
8
被引用文献数
2 8

ICU入室患者の治療成績を向上させるには,患者の重症度評価と予後に関するデータ蓄積が必要不可欠である。そこで,全国のICUの実態・治療等に関する松田班調査が2006,2007,2008年度に行われた。各年度の10月の1ヵ月間にICUに入室した患者を対象に,Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II(APACHE II)スコアを用いた重症度評価と予後,各施設のICU運用状況等を調査した。今回は2007年度の調査結果を検討した。ベッド数は6床が最も多く,中央値は8床であった。午前10時に専任の医師がいない施設が21%あり,夜間にはさらに増加した。APACHE II スコアは11,12点が最も多く,実死亡率はAPACHE II スコアから予測される死亡率より低かった。今後は治療に関与する因子を特定し,わが国ICUの治療成績向上を目指す必要がある。そのためには,恒常的なデータ収集システムの構築が必須である。
著者
松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.67-72, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
3
被引用文献数
3 3

フランスは日本と同様,産業医の資格と義務的配置を法律で定めている.フランスの産業医は専門医の一つであり,卒後4年間の研修の後,企業の産業保健サービス部門あるいは中小企業を対象とした企業間産業保健サービスで勤務する.日本と異なり,フランスでは事業所規模に関わらずすべての労働者が産業医による健康管理を受けることができる.フランスの産業医の職務は予防的な活動が中心であり,緊急時を除いて臨床行為を行うことはできない.その主な職務は健康診断の実施とその結果に基づく適正配置,そして職業病や労働災害防止のための職場環境改善である.かつては職務が予防的業務に限定されていたため十分な研修医が集まらない現状があったが,職域における健康管理の重要性が社会的に認知されるようになり,その専門医養成数及び志望者が増加している.また,職務内容もメンタルヘルスや生活習慣病を予防するための活動の重要性が大きくなっている.このように両国の産業保健の状況には多くの共通点があり,したがって今後比較制度研究が本学関係者を中心に行われることが期待される.
著者
劔 陽子 山本 美江子 大河内 二郎 松田 晋哉
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1117-1127, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
22

目的 アメリカにおける人工妊娠中絶に関する法律とその実際,10代の望まない妊娠対策などを調査することにより,わが国における10代の望まない妊娠対策の方向性を探る。方法 アメリカにおける中絶,家族計画などについて書かれた出版物,政府機関や主要 NGO 等が発行している文献・統計資料,ホームページから情報収集を行った。さらに,関係諸機関を訪問して現地調査を行った。成績 アメリカでは人工妊娠中絶の是非について,今だ中絶権擁護派と中絶反対派の間で議論が交わされており,社会的,政治的にも大きな問題となっている。こういった背景を受けて,中絶前後のカウンセリングや家族計画に関するカウンセリング,性教育などに重きがおかれていた。 10代の望まない妊娠対策の一環として,特に若者だけを集めるクリニックや,ヤングメンズクリニックなどの施設が設けられ,若者が性に関する情報や,安価もしくは無料の避妊具・避妊薬を入手しやすい状況にあった。結論 アメリカにおいては,中絶権擁護派と中絶反対派では人工妊娠中絶に対する考え方が異なっており,10代の望まない妊娠対策に対しても統一された方法はなく,さまざまな方法論がとられている。しかしアメリカにおける10代の妊娠率,人工妊娠中絶率は低下傾向にある。10代の性行動の活発化や人工妊娠中絶率の増加が危惧されるわが国において,今後10代の望まない対策を打ち立てていくとき,こういったアメリカで既に取り組まれている対策に学ぶべき点は多いと思われる。
著者
劔 陽子 山本 美江子 松田 晋哉
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.664-672, 2002-01-15 (Released:2009-02-17)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

Objectives: The purpose of this study was to clarify the actual sexual behavior and attitudes of high school students in Kitakyushu city, Fukuoka and then to develop effective sex education methods for high school students in this region.Methods: This study investigated the sexual behavior and attitudes of 1, 297 high school students in Kitakyushu by self-administered questionnaire. The differences in their answers by sex, prevalence of sexual intercourse and change in sexual behavior and attitude before and after the sex education lecture were examined.Result: 39.3% of the students had had sexual intercourse and 74.1% answered that they might have sex, if it were with a partner whom they loved. However, they did not have enough knowledge about contraception and sexually transmitted diseases. This result shows that they did not recognize the risks accompanying sexual intercourse.There are significant differences between male and female students in their sexual attitudes. Male students tend to permit premarital sexual intercourse, unfaithfulness, prostitution, hiring a prostitute and abortion. Male students tend to give more approval to the following opinions: both men and women should agree to sexual contact if the partner wants it; men should take the initiative in sexual contact; women should not talk about sex. Many female students answered that women should make their own decisions to have or not to have sex, however a considerable number of female students answered that for their first intercourse, they just agreed with their partner even though they really did not want to do so.After the sex education lecture, the students have more knowledge about contraception and STDs. However, there is no significant difference in their sexual attitudes before and after the lecture.Conclusion: In order to facilitate more desirable and safer sexual behavior among the younger generation, it is not enough to simply give them knowledge about contraception or STDs, etc. To organize more comprehensive sex education, it is also important to pay enough attention to gender problems and other social factors such as family background or regional background, etc.
著者
松田 晋哉 村松 圭司 藤本 賢治
出版者
日本ヘルスサポート学会
雑誌
日本ヘルスサポート学会年報 (ISSN:21882924)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.31-39, 2022 (Released:2023-03-25)
参考文献数
6

【目的】人生の最終段階における療養生活の質向上を図るための医療介護提供体制の在り方を考えるために、国内5広域自治体の医療・介護レセプトを収集し、それを個人単位で連結したデータベースを用いて、死亡症例について、死亡前24か月間の医療介護サービスの利用状況を可視化することを試みた。【資料及び方法】分析に用いたのは国内5広域自治体の医療・介護レセプトである。レセプトデータを個人単位で連結し、このデータベースから65歳以上の死亡症例を抽出した。次に、死亡が発生した年月を起点(死亡月、経過月=0)としてその差を経過月として24か月前まで計算した(例えば、前月は-1)。上記で把握した死亡患者について、医科レセプトおよび介護レセプトを用いて経過月ごとに医療・介護サービスの利用状況及び傷病の状況を把握した。【結果および考察】本分析により以下のことが明らかとなった。まず、分析結果から死亡に至る傷病のパターンとして、心不全や腎不全といった循環器系の不全症状の進行と肺炎・誤嚥性肺炎の発生が重要な契機となっていることが明らかとなった。次に、人生の最終段階においては、気分障害の有病率が10%程度あり、メンタルヘルス面での対応の必要性が示唆された。第三に、死亡前24か月間の有病率を年齢階級別にみると年齢の高い群では心不全、認知症の有病率が増加する一方で、悪性腫瘍の有病率が低下していた。悪性腫瘍診療領域では我が国においてもホスピス等の長い経験があるため、人生の最終段階におけるケアの在り方に関する議論が他領域よりは進んでいる。他方、年齢の高い群ではがんが直接的な死因になるよりは、肺炎や心不全などの死因としての重要性が増大することが示された。また、年齢とともに認知症にり患している対象者が増加しており、今後ACPを実践していく上で、代理人の選定問題を生じうる。したがって、今後、ACPを含めて人生の最終段階における医療の在り方を考える上で重要な検討課題であると考えられた。【結語】本分析の結果、死亡に至る傷病のパターンとして、心不全や腎不全といった循環器系の不全症状の進行と肺炎・誤嚥性肺炎の発生が重要な契機となっていることが示された。このような状態の兆候が出始める前後の時期が、ACPに関連するプロセスを本人や家族を含めた関係者と始めるタイミングであると考えられる。また、こうした死亡に至る傷病のパターンについて広く国民に情報提供することが、国民が自らの人生の最終段階における生き方を決めることを可能にするために必要であると考えられる。
著者
松田 晋哉 福留 亮 村松 圭司 藤野 善久 久保 達彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.318-321, 2014-04-01

前回は論文の設計図であるアウトラインを作成しました.今回からこのアウトラインに従って実際の論文を書いていきます.前半はイントロダクションに相当する「目的」,論文の方法論を説明する「データおよび分析方法」,そして「結果」です.福留さんの書いた論文を松田,藤野,久保が中心となって批判的に読み,そして訂正していく過程を読者の皆さんにも追体験していただきます.
著者
松田 晋哉 村田 洋
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.151-164, 1996
被引用文献数
1 1

わが国の民間病院の経営状況を知る目的で, 社会福祉・医療事業団の資料をもとに, 同事業団が貸付を行った民間病院の財務分析を行った. その結果, わが国の民間病院の経営状況は, 成長性, 効率性は低いレベルでの定常状態にあるが, 経営状況は比較的安定していると考えられた. しかし、費用の効果性が伸び悩むとともに, 収益性が悪化しており, 特に資本の回転率が低い, すなわち投下資本に無駄が生じてきていることが明らかとなった. 損益分岐点分析でもこの点は明らかであり, 近年損益分岐点比率は上昇(すなわち, 経営安全率は減少)しており, 何らかの短期的変動要因で医業収益が5%低下すると平均値以下の民間病院は赤字転落するという厳しい経営状況の実態が明らかとなった.
著者
藤野 善久 久保 達彦 村松 圭司 渡瀬 真梨子 松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.291-297, 2013-12-01 (Released:2013-12-14)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

英国では,健康問題を抱える労働者の就業を支援する制度として,2010年からThe Statement of Fitness for Work(通称,Fit Note)と呼ばれる文書を医師が発行する仕組みが導入された.Fit Noteは,病気や外傷などの健康問題を抱える労働者が,就業に適しているか,もしくは就業配慮が必要かに関する意見を医師が記載したものである.通常,Fit Noteは,労働者が雇用主に提出し,就業配慮を求めるために利用されたり,もしくは就業できない場合には,休業補償(Statutory Sick Pay)の申請書類として用いられる.今回,英国におけるFit Note導入の背景と運用状況に関する調査を,General Practitioner,産業医,理学療法士のインタビューを通じて行ったので報告する.
著者
松田 晋哉 村松 圭司 藤本 賢治 峰 悠子 高木 邦彰 得津 慶 大谷 誠 藤野 善久
出版者
日本ヘルスサポート学会
雑誌
日本ヘルスサポート学会年報 (ISSN:21882924)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-14, 2021 (Released:2021-04-15)
参考文献数
11

【研究目的】高齢期において自立した生活を継続するためには、要介護度の悪化に関連する要因を把握し、それらへの対策が求められる。そこで本研究では、認定調査票データ、医科及び介護レセプトを用いて要介護度の悪化に関連する要因の明らかにすることを試みた。【資料及び方法】 東日本の一自治体における介護保険の認定調査データと介護レセプト、医科レセプトを個人単位で連結したデータベースを作成した。このデータベースから2014年度の要介護認定で要介護1と認定された在宅の対象者11,658人を抽出して、2017年まで追跡し、データベースで把握できる状態像や傷病に関する変数を用いて、要介護度の悪化に関連する要因をロジスティック回帰分析によって検討した。【結果】分析の結果、状態像としては寝返り、起き上がり、座位保持、両足および片足での立位、歩行、移乗、移動といった筋力の低下に関連する項目で自立していない者、そしてその結果として外出の頻度が少なく、買い物に関して他者に依存している者で要介護度が悪化していた。使用している医療介護サービスで福祉機器を利用している者が悪化していたが、この結果は「福祉機器を利用するような状態にある者」が高リスクであると解釈することができる。傷病に関しては下肢関節障害、脊椎障害のあるもので有意に悪化がみられた。利用している医療・介護サービスでは、医療保険および介護保険ともに訪問看護を利用している者で有意に悪化の割合が低かった。【考察及び結論】本研究の結果、要介護度の悪化予防には筋力低下の予防及び看護の視点からの継続的なケアが有効であることが示唆された。
著者
松田 晋哉 藤森 研司 伏見 清秀 石川 ベンジャミン 光一 池田 俊也
出版者
日本ヘルスサポート学会
雑誌
日本ヘルスサポート学会年報 (ISSN:21882924)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-10, 2018 (Released:2018-02-22)
参考文献数
10
被引用文献数
1

National Database( NDB)を用いて算出した標準化レセプト比SCR の在宅医療分をデータとして、在宅医療の推進に関連する要因の検討を行った。その結果、在宅医療(居宅)に関連する要因として、往診(.313)、訪問看護指示(.218)、緊急往診(.219)、在宅療養中患者_ 緊急入院受入(.049)、療養病棟入院基本料(-.078)、訪問薬剤指導の実施(.004)が在宅医療(居宅)のSCR に有意に関連していることが示された。この結果は、在宅医療(居宅)を進めるためには、訪問看護や訪問薬剤指導といった在宅のチーム医療提供体制に加えて、緊急往診や在宅療養中患者_ 緊急入院受入といった後方病院の役割が重要であることを示している。
著者
久保 達彦 藤野 善久 村松 圭司 松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.299-303, 2013-12-01 (Released:2013-12-14)
参考文献数
10
被引用文献数
2

英国では2010年からThe Statement of Fitness for Work(通称Fit Note)と呼ばれる就業支援を目的とした医療文書を地域医療を担うGeneral Practitioner(GP)が発行する仕組みが導入されている.今回,我々はFit Noteの導入影響に注目しつつ英国の産業医制度の現状について現地で2名の産業医に対してインタビュー調査を実施した.現地の産業医からは産業医が不足して国民全体,とりわけ中小企業や自営業者には産業保健サービスが行き渡っていないことへの強い課題認識が繰り返し聴取された.Fit NoteはGPの産業保健への参加を誘導するツールとして位置づけられ,地域医療の担い手であるGPは産業保健の新たなパートナーとして期待されていた.現地の産業医はFit NoteおよびGPの産業保健への参入を英国の産業衛生の着実な前進と評価していた.
著者
吉川 徹 北島 洋樹 橋爪 絢子 藤森 洋子 池崎 陽子 松田 晋哉
出版者
公益財団法人大原記念労働科学研究所
雑誌
労働科学 (ISSN:0022443X)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.77-88, 2013 (Released:2015-01-25)
参考文献数
29
被引用文献数
2

本研究は新規開発された「止血弁つき安全装置つき静脈留置針(以下,留置針A)」の末梢静脈カテーテル留置手技における心理的負担軽減効果について,①留置針Aを利用している医療従事者536名への質問紙調査,②従来針と留置針Aの作業分析による比較により明らかにした。その結果,73.0%の使用者が留置針Aの使用は患者のケアと安全にとって効果的であり,82.3%が医療従事者の安全にとって効果的だと回答した。止血弁があることで従来針より末梢静脈ルート確保手技がしやすくなっていることが明らかとなった。作業分析から,留置針Aは従来針より非利き手の「押さえる」行為の平均動作時間が7秒短縮され,非利き手の「離す」,「持つ」の動作は2秒増加していた。止血弁により,非利き手の自由度を確保したことが,作業の余裕を生み,血液曝露による不安を軽減したものと考えられた。一方,止血弁の存在をうっかり忘れてしまうことによる止血弁解除後の血液漏れなどの事例も報告されており,従来針に新たな性能が付加された器材の導入には別の血液曝露リスクももたらされることも確認された。(図2,表5)
著者
松田 晋哉 村松 圭司 藤本 賢治 峰 悠子 高木 邦彰 得津 慶 大谷 誠 藤野 善久
出版者
日本ヘルスサポート学会
雑誌
日本ヘルスサポート学会年報 (ISSN:21882924)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.15-29, 2021 (Released:2021-04-15)
参考文献数
7

【目的】介護保険制度の目的は、高齢者が要介護状態になっても、できうる限り自立した生活を送ることが出来るよう支援することである。この目的には在宅介護の可能性を高めることが当然含まれる。そこで本研究においては、東日本の一自治体における介護保険の認定調査データおよび介護レセプトと医科レセプトとを用いて、在宅の中重度要介護高齢者の特別養護老人ホーム入所に関連する要因を分析し、在宅介護を進めるための条件について検討した。【資料及び方法】東日本の一自治体における介護保険の認定調査データと介護レセプト、医科レセプトを個人単位で連結したデータベースを作成した。このデータベースから2014年度の要介護認定で要介護3以上と認定された在宅の対象者6,540人を抽出し、2018年3月まで月単位で追跡し、その後の特養入所の有無を介護レセプトから把握した(特養入所のイベント発生を1)。そして、分析期間中の最初の認定審査時における傷病の状況及び医療・介護サービスの利用状況を医科レセプトと介護レセプトから把握し、特養入所に関連する要因についてCoxの比例ハザードモデルによって検討した。【結果】特養入所に関しては女性であること、年齢が高くなること、認知症があること、口腔清潔・洗顔・洗髪で介助が必要なこと、通所介護の利用者であることが有意にハザード比を高めていた。いずれも認知症との関連が深い項目である。他方、寝返りや起き上がり、座位保持、立位、移乗、移動といった筋力に関わる項目で自立度が低いことは特養入所のハザード比を有意に下げる結果となった。また、通所介護の利用を除くと、他の医療介護サービスの利用は、いずれも特養入所のハザード比を有意に下げていた。【考察及び結論】本分析の結果、中重度の在宅要介護高齢者が特別養護老人ホームに入所する要因としては高齢、認知症及びそれに関連した生活障害があること、女性が有意のものであることが示唆された。他方で、医療ニーズの高い高齢者は入所リスクが低くなっていた。こうした特性を持つ中重度要介護高齢者は特別養護老人ホームよりは医療系施設に入院している可能性が示唆された。
著者
松浦 志保 冨岡 慎一 松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.367-376, 2021-09-01 (Released:2021-09-06)
参考文献数
25

近年,医師の地域偏在対策として様々な取り組みがなされているが,その中で地域の教育水準が医師の地理的分布に与える影響に着目したものはない.本研究では,地域の教育水準と医師の地域偏在との関連を検証するために,政府等の公開データを用いて分析を行った.分析方法として多重線形回帰を用い,二次医療圏毎の人口10万人あたり医師数を被説明変数,偏差値60以上高等学校(以下 高校と省略)数,人口10万人あたり診療所数,人口10万人あたり病床数,高齢化率,外来受療率,人口密度,医学部の有無を説明変数とした.その結果,各二次医療圏において偏差値60以上の高校が1校でもあれば人口10万人あたりの医師数を有意に増加させ,さらに2校以上になると医師数はより増加することがわかった(P<0.05).加えて,私立高校を除き国公立高校のみを用いて分析した場合も,また二次医療圏における偏差値60以上の高校数ではなく,偏差値65以上の高校数を用いた場合も同様の結果が得られており,地域における入試偏差値の高い高校の存在が医師の分布に及ぼす影響は十分に確かであると考えられる.このことから,医師の地域偏在対策として,地域の教育環境を充実させることも検討すべきである.
著者
劔 陽子 山本 美江子 大河内 二郎 松田 晋哉
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1117-1127, 2002-10-15
参考文献数
22
被引用文献数
3

<b>目的</b> アメリカにおける人工妊娠中絶に関する法律とその実際,10代の望まない妊娠対策などを調査することにより,わが国における10代の望まない妊娠対策の方向性を探る。<br/><b>方法</b> アメリカにおける中絶,家族計画などについて書かれた出版物,政府機関や主要 NGO 等が発行している文献・統計資料,ホームページから情報収集を行った。さらに,関係諸機関を訪問して現地調査を行った。<br/><b>成績</b> アメリカでは人工妊娠中絶の是非について,今だ中絶権擁護派と中絶反対派の間で議論が交わされており,社会的,政治的にも大きな問題となっている。こういった背景を受けて,中絶前後のカウンセリングや家族計画に関するカウンセリング,性教育などに重きがおかれていた。<br/> 10代の望まない妊娠対策の一環として,特に若者だけを集めるクリニックや,ヤングメンズクリニックなどの施設が設けられ,若者が性に関する情報や,安価もしくは無料の避妊具・避妊薬を入手しやすい状況にあった。<br/><b>結論</b> アメリカにおいては,中絶権擁護派と中絶反対派では人工妊娠中絶に対する考え方が異なっており,10代の望まない妊娠対策に対しても統一された方法はなく,さまざまな方法論がとられている。しかしアメリカにおける10代の妊娠率,人工妊娠中絶率は低下傾向にある。10代の性行動の活発化や人工妊娠中絶率の増加が危惧されるわが国において,今後10代の望まない対策を打ち立てていくとき,こういったアメリカで既に取り組まれている対策に学ぶべき点は多いと思われる。
著者
藤野 善久 松田 晋哉
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.45-53, 2007 (Released:2007-04-11)
参考文献数
37
被引用文献数
3 3

「新しい自律的な労働時間制度」に関するHealth Impact Assessment:藤野善久ほか.産業医科大学公衆衛生学教室―本研究では現在,厚生労働省等で議論が進められている「新しい自律的な労働時間制度」いわゆるホワイトカラーエグゼンプション制度の導入に関して,Health Impact Assessment(HIA)を実施した.このHIAでは,the Merseyside modelに基づいてrapid HIAと呼ばれる方法で実施した.新制度の健康影響評価にあたっては,専門家の判断に基づいて,生じる可能性のある健康影響を,良い影響,悪い影響とともに抽出した.次に,インターネット又はPubMedを利用して文献等を収集し,抽出された健康影響に関するEvidenceの評価を行った.さらに利害関係者の意見を分析するため,インターネット上において,新しい自律的な労働時間制度に関する意見を公表している団体の検索を行い,6団体が抽出された.長時間労働は専門家および利害関係者らの間で最も懸案された健康影響であった.また,新しい自律的な労働時間制度によって,不規則な労働パターンが増えることが予想された.不規則な労働パターンによる健康影響として,睡眠障害,ストレス,心血管系疾患などのリスク増加が挙げられる.さらに,このような不規則勤務による家族機能や社会生活への影響も指摘された.一方,自律的な労働時間制度によって,裁量度の範囲が広がることで,ストレスが緩和されることが期待される.さらに,自律的な労働時間制度によって仕事と生活の調和が向上することや,またこれまで労働市場において雇用を得る機会が少なかった障害者や育児中の女性などに雇用機会が広がる可能性が示唆された.しかしながら,現行の裁量労働制やフレックスタイムなどよりもさらに効果があるかどうかは不明である.本研究では自律的な労働時間制度に関するHIAを実施し,包括的な健康影響を示した.これらのHIAが関係諸機関における制度の検討に資することを期待する. (産衛誌2007; 49: 45-53)