著者
中西 泰夫
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.31-38, 2019-03-15

政府による規制の緩和が,生産性の上昇をもたらすかどうかは,各国の市場において重要なテーマであり,定量的にテストされることが必要とされている。特に生産性の上昇を計測することが,まず重要である。この論文では生産関数を推定して,そこから生産性の上昇率をもとめている。その際に近年重要になっている内生性の取り扱いに,十分な配慮をして,最新の方法を含んだいくつかの手法で計算している。そして,規制の緩和が生産性の上昇にどれだけ貢献しているかを,パネルデータをつかって推定することによりもとめている。内生性の排除について適切な方法で処理しており,より正確な方法であると考えられる。分析の結果は,生産関数は内生性を考慮した方法により,有意なパラメータの推定結果を得た。したがって内生性の処理をされた生産関数の推定には成功している。規制緩和に関しては,規制緩和が生産性の上昇に有意に貢献しているという結果を得ているが,その際の規制緩和に関する推定方法については,まだ検討の余地が残されており,結論はつけられない。
著者
森 宏
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.197-213, 2019-12-16

人の身長は,動物蛋白(特に幼少期における)で決まるは,学界の通説である。1960年代から70年代にかけて,高3男子の平均で,日本のほうが韓国より3cm前後高かった。この差は「蛋白説」が妥当する。両国とも学童身長の増進は目覚しく,1990年代の初期には両国の差はほぼ解消した。韓国の児童はその後も着実に伸び続け,2000年代半ば(2005)には韓国のほうが3-4cm高くなった。韓国における動物性食品の増加は際立っていたが,2005年時点でも,1人当たり動物性食品の摂取量は,日本のほうが20%程度多かった。「もともと」朝鮮人のほうが日本人より(民族的に?)その程度高かったという説がある。一世紀前の1900-20年代,20歳の成年男子の比較で,朝鮮人のほうが日本人より2cm前後高かった。同じ頃,日本の統治下にあった台湾のほうが朝鮮の若者より3cm高かった。2005年前後,1人当たり食肉消費に関し,台湾は韓国を60%越えていた。台湾の児童は平均的に日本とほぼ同じ水準で,韓国より3-4cm低かった。「もともと」「民族的に」は,説得力を失う。FAOSTATによると,韓国は動物性食品の消費は少ないが,日本と台湾に比べ,1人当たり供給カロリーは,1970年代後半から200-300kcal/day程度多く,同じく1人当たり野菜の純供給は,200kg/yearを超え,それぞれ日本と台湾の2倍前後の水準を維持していた。台湾については分析結果を持たないが,日本において「若者の果物・野菜離れ」は,これまで繰り返し述べてきたように,度を外れている。
著者
山田 節夫
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 = Economic bulletin of the Senshu University (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.41-50, 2018-07

特許出願数は,研究開発の成果を意味する指標としてイノベーション研究に頻繁に用いられている。それは,研究開発費と特許出願数の間に安定的な正の関係が見いだされるからに他ならない。しかし,近年の日本において,研究開発費の増勢傾向に変化がないにも関わらず,特許出願数の持続的減少が観察されている。研究開発費と特許出願数の間には,様々な要因が作用していると考えられるが,もしその主要な要因が研究開発生産性の低下であるなら,こうした現象は深刻な事態を意味していることになる。ただし,1988年に導入された「改善多項制」の影響が大きいとも考えられる。そこで本稿では「改善多項制」の影響を十分に考慮した「特許出願関数」を設定し,1985年~2007年における日本の主要産業に属する東証一部上場企業312社のプーリング・データを作成し推計した。推計の結果,特許出願数の減少傾向は主として「改善多項制」の利用の普及にあることが明らかとなった。
著者
中島 巖
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 = Economic bulletin of the Senshu University (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.77-98, 2015-11

土星(Saturn)の第7衛星であるピペリオン(Hyperion)の予測不能な回転運動が天体力学におけるカオス運動の観測例であった。その後,最初に研究対象となったカオス運動発生可能なモデルの範疇は振動理論(theory of oscillations)からのものであった。その最初の一般的議論はロシア学派によって展開された。そこでは,理論に留まらず実験の過程をも含んだカオス運動発生モデルの実例がVan der Pol とVan der Mark によって提示されるに至った。1927年のことであった。現在マクロ経済学において重用されているHopf 分岐の議論は,上のVan der Pol の振動モデルから発想を得たものであった。Hopf 分岐は,非振動的運動からリミット・サイクル(limit cycle)運動が発生する可能性を説くものである。以下では,Van der Pol 方程式の例に拠りながらHopf 分岐が発生する過程を確認した後に,生産用役としての資本が利他的選好をもつ親世代から子世代へと遺贈されていく世代重複生産経済において,かかるHopf 分岐が発生するための条件を導く。若年者が賦存労働を自由に弾力的に供給し,生産を組織し,利他的選好をもつ老年者が自らの消費決定と次世代への遺贈水準の決定とを行っていく世代重複経済において,生産過程における労働・資本間の代替弾力性をパラメータとするとき,上の代替弾力性が経済の全所得のうちに資本所得が占める資本分配率を下回るとき,Hopf 分岐が発生し得ることが帰結される。
著者
永江 雅和
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.77-92, 2013-11-30 (Released:2013-12-23)

私立鉄道会社の経営にとって、出発時の用地買収は重要な課題である。1923年設立された小田原急行鉄道株式会社(現小田急電鉄株式会社)が沿線用地をどのように買収し、駅を設置してきたのか、沿線地域の史料をもとに検討した。第1に注目される点は創業者利光鶴松のネットワークである。政治家時代に自由党に入党し自由民間活動家や東京市政関係者と親交を結んだ利光は、これらのネットワークを活用して、沿線地域との交渉を行った。第2の論点は駅の設置場所を巡る交渉である。沿線地域のなかでも多摩川以西の神奈川県内陸部の自治体は、東海道線開通以後、県の動脈が沿岸に集中したことから、内陸部の鉄道敷設を渇望しており、少数の例外を除き同社の路線敷設に賛成であった。ただ用地買収条件については、個別の土地所有者の利害が存在し交渉は難航した。小田原急行側は、後発私鉄であるがゆえに、隠密の用地買収を行うことができず、地域有力者の調停が不十分な場合、駅設置の有無、設置場所を交渉カードとして用いた事例が確認された。駅用地についても従来は地元自治体が好意的に寄付を行う事例が多かったと述べられているが、実際には寄付は同社から要求されているケースが多く、駅の設置をめぐり、沿線自治体内外で紛争が生じる場合も存在したことを地域文献を元に明らかにしている。
著者
永江雅和
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 = Economic bulletin of the Senshu University (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.77-92, 2013-11

私立鉄道会社の経営にとって、出発時の用地買収は重要な課題である。1923年設立された小田原急行鉄道株式会社(現小田急電鉄株式会社)が沿線用地をどのように買収し、駅を設置してきたのか、沿線地域の史料をもとに検討した。第1に注目される点は創業者利光鶴松のネットワークである。政治家時代に自由党に入党し自由民間活動家や東京市政関係者と親交を結んだ利光は、これらのネットワークを活用して、沿線地域との交渉を行った。第2の論点は駅の設置場所を巡る交渉である。沿線地域のなかでも多摩川以西の神奈川県内陸部の自治体は、東海道線開通以後、県の動脈が沿岸に集中したことから、内陸部の鉄道敷設を渇望しており、少数の例外を除き同社の路線敷設に賛成であった。ただ用地買収条件については、個別の土地所有者の利害が存在し交渉は難航した。小田原急行側は、後発私鉄であるがゆえに、隠密の用地買収を行うことができず、地域有力者の調停が不十分な場合、駅設置の有無、設置場所を交渉カードとして用いた事例が確認された。駅用地についても従来は地元自治体が好意的に寄付を行う事例が多かったと述べられているが、実際には寄付は同社から要求されているケースが多く、駅の設置をめぐり、沿線自治体内外で紛争が生じる場合も存在したことを地域文献を元に明らかにしている。
著者
加藤 浩平
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 = Economic bulletin of the Senshu University (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.1-20, 2013-11

統一後の東ドイツ経済は、中核都市での伝統的製造業の復活、新興産業の一気の移植、サービス経済化の進展などにより発展が見られる一方で、これまでの復興政策の見直しが始まっている。依然解消されない西側ドイツとの経済格差は、ドイツ分断に由来する東ドイツに固有の成長障害に根差すというより、西側でも一般的に見られる構造不況地域の問題であるとの認識が広まり、投資を広く誘導する従来の政策からイノベーションを促進する政策へと重点が移行され、教育機関の整備、R&D活動の支援が模索されている。また従来の復興政策では、市町村を始め地方自治体が上位自治体から財政援助を受けて、インフラ整備、都市再開発、住宅建設などを推し進め東部復興の主要な担い手となってきたが、連邦の特別財政援助の打ち切りが決まった現在、財政基盤の脆弱な地方財政の健全化が迫られている。さらに出生率低下による人口動態上の変化は、東ドイツの今後の経済発展にとり大きな制約条件となるだろう。
著者
泉 留維 中里 裕美
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.1-16, 2013-03-15 (Released:2013-04-10)

1980年代頃から世界各地で地域通貨が導入されるようになり、日本では2000年前後から取り組みが本格化していった。現在、日本においても10年以上取り組まれている地域通貨が存在するようになっているが、そのような地域通貨は、主として地域経済の活性化を狙うのではなく、地域での人と人の新たな繋がりを重視している。すなわち、地域通貨による取引やそれに伴って発生したイベントなどを通じて、地域に絆や信頼、互酬性の規範など社会生活を円滑にする関係が育まれていくことを期待するものである。いわゆるソーシャル・キャピタルの醸成を念頭においているといえよう。地域通貨とソーシャル・キャピタルとの関連についての考察を行うため、1999年から千葉市で取り組まれている地域通貨ピーナッツを事例として取り上げ、二段階で分析を行った。まず,2000年2月から2010年6月までの間の地域通貨ピーナッツ会員の取引記録データを用いて、社会ネットワーク分析を行った。そして、取り組みの中心をなしているメンバーの聞き取りから、地域通貨ピーナッツの歴史を明示し、上記の取引ネットワークの構造的特徴についての解釈を行った。その結果として、次の諸点が指摘される。地域通貨ピーナッツでは、新しい取引関係が続々と生み出され新たなネットワークを形成しており、一定の取引量を維持している一方で相互取引が少なく、個人と個人の取引は少ないことなどそのネットワークは薄くて弱い。その薄くて弱いネットワークが構築されていく中で、ピーナッツの中心的なメンバーが主体となった様々なイベントが間断なく生まれており、地域通貨の取引が地域社会に地縁や血縁などとは異なる新たな繋がりをもたらしていると言えよう。