著者
田畑 朋子
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.67-82, 2005

ロシアの人口は,1989年と2002年の国勢調査の間に,自然減少により大きく減少したが,その主要因は男性の早死と出生率の低下であった。本稿では,他国で例を見ないような男性の早死について,その原因を把握し,地域別特徴を明らかにするために,これまで利用できなかった1989〜2002年の14年間における地域別の年齢別死亡率のデータを用いて分析を行った。まず,男性およびそのうちの労働可能人口の死亡率が高い地域と低い地域がこの14年間においてほぼ固定されていることを確認した。男性について労働可能人口(16-59歳)の死亡率の悪化が際立っていることから,次に,労働可能人口の死亡率とその死亡要因の地域別データについて,続いて,25-44歳の年齢層における5歳ごとの年齢別死亡率と労働可能人口の死亡要因の地域別データについて,主成分分析とクラスター分析を利用した分析を行った。その結果,40-44歳の男性死亡率が高い地域,すなわち,欧露部中央と北西(モスクワ市とサンクトペテルブルグ市を除く)では循環器系の疾患による死亡が多く,25-34歳の男性死亡率が高い地域,すなわち,東シベリア南部とカリーニングラード州などでは事故・中毒による死亡が多いことが明らかにされた。この結果は,ロシア男性の早死の原因として,1992年以降の体制転換の影響とアルコールの影響がともに大きいこと,しかも,それらが地域によって異なる形の死亡数増加として現れていることを明らかにした。
著者
丸山 洋平 大江 守之
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.42, pp.1-19, 2008-05-31

戦後日本では非大都市圏から大都市圏へ膨大な人口が移動し,1960年代の高度経済成長期には転入超過が毎年おおむね40万人以上にのぼった。しかし,1970年代に入って急速に転入超過が縮小する人口移動転換を経験する。この現象を説明する仮説に,伊藤(1984)の提唱した潜在的他出者仮説がある。この仮説は人口転換によるきょうだい数の減少が人口移動転換を引き起こすことを指摘している点で,我が国の人口研究において重要な仮説となっているが,これまで,その有効性や限界に関して十分に検討されてはこなかった。本研究は,地域的差異とコーホート間差異に着目して同仮説を発展的に再検討するものである。1950年代前半から1960年代後半の4コーホートを対象に,残留人口規模を示す後継者理論値を作成し,それとコーホート人口との比である後継者充足率によって潜在的他出者を超えた人口流出がいつ,どこで,どの程度の規模で起きているかを明らかにする。分析の結果,潜在的他出者仮説が十分な説明力を持つのは1950年代前半コーホートのみであり,1950年代後半以降の3コーホートでは説明力が弱まっていること,非大都市圏内にも後継者充足率の地域的差異があることが明らかとなった。また,親の移動と死亡を考慮した結果,非大都市圏の後継者理論値の減少が確認され,親世代が大都市圏郊外部および周辺部に転出していることが示された。
著者
石川 義孝
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.37, pp.83-94, 2005-11-30
被引用文献数
1

The purpose of this paper is to elucidate possible reasons for the difference in the number of foreign residents in Japan in 2000, with respect to the two major population statistics: the population census and statistics on registered foreigners. Based on an examination of the ratios calculated from the numbers common to the two statistics, and interviews with the organizations concerned, the following findings have been obtained. Regarding the situation that the number from the statistics on registered foreigners is higher than that from the census, the following four specific reasons are conjectured. First, the times at the two sets of statistics differ by three months. Second, foreigners holding "temporary visitor" residence status are included in the registration statistics only. Third, registered foreigners may have left Japan with a re-entry permit at the time of the census. Fourth, a certain number of the registered foreign residents did not cooperate with the census due to their illegal hope to work. As for the situation that the number of residents in the census exceeds that of the registered foreigners, it is recognized that civilian foreigners with US nationality who work within the United States' military bases in Japan tend to consider it unnecessary to follow the registration procedure. Among the five reasons mentioned above, the attitude of non-cooperation with the census is conjectured to be the most important. In terms of nationality, Philippine citizens exhibit the greatest difference between the two statistics. Thus, the conclusion is that the number of foreign residents in Japan shown in the census reports tends to be under-representative; the number in the registered foreigner statistics is more reliable.
著者
西村 智
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.25-37, 2016

本稿は,若者の恋愛離れの非経済的要因として,恋人探しを先送りする行動に着目した。行動経済学にもとづくアンケート調査と実験結果から,目先の気楽な独身生活を優先させて恋人探しを先送りしている未婚者が少なからずいることがわかった。また,恋愛を先送りしており,かつ,現在偏重型の者は,先送りしていることを自覚させられることにより恋愛においてより積極的になるという結果が得られた。これらの結果は,恋愛の先送り行動に関するさらなる研究の必要性を示唆している。
著者
廣嶋 清志
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.26, pp.1-20, 2000-06-01
被引用文献数
2

1970年代半ばからの合計出生率低下の人口学的要因について多くの研究が行われてきたが,一般的に,年齢別有配偶出生率を用いた要因分解の結果に基づき,夫婦出生率が低下に寄与していないと認識されている。本稿は,コーホートの初婚率,出生率を人口動態統計と国勢調査結果に基づきあらためてより厳密に計測し,これを用いて年次別出生率を再現するモデルによってシミュレーションを行うことにより,1970年代半ばからの合計出生率低下に対する結婚と結婚出生率の寄与の大きさを明らかにした。これに必要なコーホートの初婚率と出生率は年次別年齢別の初婚率と出生率から導かれたが,後者は,1947年から1998年まで52年間の人口動態統計による女子の年齢別初婚数と出生数に基づき,今回改めて計算しなおした。コーホートの初婚水準(生涯既婚率),初婚期(平均初婚年齢),既婚出生水準(生涯既婚出生率),既婚出生期(平均初婚出生間年数)の4変数について,それぞれ1933-34年コーホート以後,その値が一定かあるいは現実どおりに変化したかの2種を設定し,16通りのシミュレーションを行った。その結果,1970-2000年の全期間についてみると,合計出生率低下(2.138→1.386)0.748の過半56.7%はコーホートの初婚水準低下(非婚化)によるものであり,13.5%が初婚期の遅れ(晩婚化)による。また,24.5%は既婚出生率水準低下(生涯既婚出生率低下)により,5.3%が既婚出生期の遅れによるものである。したがって,結婚の要因と夫婦出生率の要因の寄与量の比率は7:3である。したがって,少子化対策においては,晩婚化・非婚化に対する対策だけでなく,夫婦の出生率に直接関わる条件についての政策の重要性が改めて明らかにされた。この結果は,Ryderの量指標とテンポ指標による結果ともよく合っており,また,コーホート出生率のテンポの遅れがもたらす年次別合計出生率の低下量についての定量的関係も確認された。
著者
野上 裕生
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.31, pp.62-65, 2002-11-30
著者
永瀬 伸子
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.50, pp.29-53, 2014-06-30

本稿は短時間オプションの義務化(3歳未満児のいる雇用者に1日原則6時間勤務の選択肢を提供すること)が,第1子出産,無子者の出産意欲,および第1子出産後の就業継続に与える効果を厚生労働省『21世紀成年者縦断調査』2002-2010を用いて計測した。法施行が101人以上企業に先行し義務化されたことを利用し,これ未満の企業勤務者との差の変化を測定したところ,政策実施企業において,法施行直後に,線形確率固定効果モデルを用いた推計において,第1子出産ハザードと出産意欲の上昇がそれぞれ有意に見出された。正社員の時間の自由度を拡大する政策は,大卒女性を中心に第1子出産確率を高め,無子者の出産意欲を高める効果を持つことが明らかとなった。他方,第1子出産後の就業継続のプロビット分析からは短時間オプションの有意な効果はみられなかったが,2007年以降就業継続確率の有意な上昇が見出された。2007年と2010年に育児休業給付が拡充されていることが背景にあるだろう。ただしこうした政策の対象となる正社員は,出産年齢にある無配偶女性の半数をしめるに過ぎない。非正規雇用者に対する保護の拡充がなされない限り保護の厚い正社員の女性の採用が削減されることが懸念される。さらに35-36歳の正社員女性や契約社員女性の無子割合は5割を超えているが,出産意欲は比較的高い。出産意欲が実現できる非正規雇用者を含めた雇用環境や保育環境の一層の整備が望まれる。
著者
是川 夕
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-17, 2009-05-31

在日外国人は,戦後の一時期を除けば継続的に増加しており,特に1980年代後半のバブル経済期に大幅に増加した。在日外国人は,特定地域への集住の観点から論じられてきた。その結果,日本における外国人研究は,おもに都市,地域社会学によって,東京の新宿,池袋,そして静岡県浜松市といった個々のエスニック・コミュニティに焦点を絞って行われてきた。それとは対照的に,外国人の特定地域への集住現象,とりわけ外国人の住み分けについて定量的な観点から行われた研究は非常に少ない。一方,最近では,外国人の定住化が進むとともに,一部の地域では,外国人住民と日本人住民との摩擦が見られ始めているといった状況を反映して,定量的な観点から外国人の住み分けについて分析することの必要性が高まっていると言えよう。本稿では,外国人と日本人の住み分けの程度を算出するため,全国の自治体から外国人比率の高い上位10%を抽出し,それぞれについて国勢調査小地域集計に基づき,非類似性指数を求めた。この結果に基づき,重回帰モデルを用いて,外国人の住み分けを促進・抑制する要因を明らかにした。このモデルは,自治体ごとに,国籍構成などの外国人口の属性,及び,自治体の人口規模や産業構造などを含む,都市生態理論に基づいたものである。その結果,日本における外国人の住み分けは,自治体ごとに大きくことなることが示され,各自治体の外国人の住み分けの実態を反映したものであることが明らかになった。さらに,重回帰分析による推定結果からは,日本における外国人の住み分けが,欧米における事例とは異なり,大都市インナーエリアではなく,地方の工業地帯において見られることが示された。また,国籍別ではブラジル国籍人口の増加が住み分けの促進に正の影響を,フィリピン国籍女性の増加が,住み分けを抑制する効果を持つことが明らかになった。ブラジル人の多くは日系人であることから「デカセギ」労働者として社宅などにまとまって居住する,「顔の見えない定住化」現象が現れたものといえるだろう。また,フィリピン国籍女性の増加が住み分けを抑制する効果を持つことは,フィリピン人女性の多くが日本人と結婚して在留しており,住み分けにつながりにくい構造を持っていることに起因すると思われる。以上のことから,在日外国人の住み分けについて,これまで定性的研究によって明らかにされて来たことが,定量的な観点から支持されたといえるだろう。また,このことは,日本が,移民受入れ国家として,外国人の社会統合について対処しなくてはならない歴史的段階に達していることを示唆するだろう。
著者
藤野(柿並) 敦子
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.38, pp.21-41, 2006-05-31

Becker(1965)らによる家計生産モデルによれば,男性の家計内での時間配分は,考慮されていない。このため,この理論モデルから得られる結論は女性の市場賃金率上昇による女性の労働供給増加は,育児時間の機会費用を増加させ,出生率を低下させるというものとなる。ところが,マクロレベルでの国別クロスセクションデータを用いてみたとき,昨今の女性の労働力率と出生率とは,正の相関関係にあることが確認できる。夫の家計内での時間投入を考慮すれば,夫の家計内での生産活動は,妻の育児時間の機会費用を低下させることになる。そこで,総効果としては,女性の所得増大効果と併せ,子ども数が増加する可能性が出てくるのである。わが国では,最近,男性の長時間労働を見直し,家事育児分担を増やすことが,出生力の回復に貢献すると考えられ,少子化対策の中でも強調されてきている。しかし,夫の家計内生産活動と出生力との関係が実証的に明らかにされることは非常に少なかったと思われる。そこで,本稿では,著者の行った社会調査(兵庫県「若い世代の生活意識と少子化についてのアンケート」2003)で得られた最新のミクロデータを用いて,従来のベッカー理論の変数をコントロールした上で,夫の家事育児分担が夫婦の追加予定子ども数を高めることができるのか,実証的に解明する。本稿の分析から,夫の家計内生産活動が夫婦の予定子ども数を高める重要なファクターであることが,明らかとなり,従来のベッカー理論に新たに夫の家庭内での時間配分を考慮すべきことが示唆された。また,妻が非正規就業で働く家計,専業主婦の家計において,夫の家事育児分担が進む場合,夫婦の出生力が高まるという結果が得られた。
著者
坂爪 聡子
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.38, pp.43-55, 2006-05-31
被引用文献数
1

本稿の目的は,出産が女性の就業に与える影響を明示的に取り入れたモデルを用いて,少子化の進行要因を明らかにすることにある。従来の理論研究では,出産により就業状態や就業条件が変化することは考慮されていない。それに対して,本稿では,子供をもつ場合ともたない場合,あるいは子供数による女性の就業における違い-生涯所得格差や賃金格差-をモデルに取り入れている。なぜなら,日本では出産を機に退職する女性は依然多く,たとえ再就職してもその条件は悪いため,出産が生涯所得や賃金に与える影響はきわめて大きいからである。少子化の分析において,これらの影響を考慮することは不可欠である。本稿のモデルは,基本的にはベッカーなどに従うものの,上述の設定により子供のコストが従来のモデルとは異なる。このことは,予算制約の形に影響を与え,本稿のモデルでは子供をもたない選択をするケースが導出される。さらに,このケースが成立する可能性は,出産による損失所得や賃金低下の程度が大きくなるほど,高くなる。
著者
小林 淑恵
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.39, pp.1-18, 2006-11-30
被引用文献数
1

循環モデルのフレームワークに基づき,家族形成期の日本女性を調査した『消費生活に関するパネル調査2』を用いて,1)結婚意欲と結婚行動の関係の検証,2)働く重要度と結婚行動の関係の検証を行った。1)では結婚意欲が個人属性と母親属性によって決定され,学歴や大都市居住,賃金率の上昇によって高められるが,未婚状態を継続することにより適応効果が働き,「必ずしも結婚しなくてよい」「結婚したくない」と意欲を下げて行くことが明らかとなった。また結婚意欲が実際の結婚行動に与える選択効果も支持され,結婚行動に直接影響する変数と,意欲を介して影響する変数の存在が確認された。2)では働く重要度の違いが結婚行動へ与える影響は見られず,選択効果は棄却された。また就業変化などの直接的な経験による適応効果は見られるが,結婚や出産などによる影響は見られない。これらの分析結果からは,家族形成と就業はどちらかを選択することで他方の重要度を下げるような関係ではないと言えるが,ここで用いた変数が就業と家族形成の狭間における女性の心の揺らぎを十分に把握できていないという可能性は否めない。
著者
坂爪 聡子
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.41, pp.9-21, 2007-11-30
被引用文献数
3

本稿の目的は,男性の育児参加と子ども数の関係を理論的に説明することにある。従来の研究では,育児は女性だけが負担するものとされてきた。しかし,男性の育児参加も考慮すると,女性の賃金上昇により男性への育児の代替が行われ,女性の就業と男性の育児参加が促進され,同時に子どもの数が増加するケースが考えられる。本稿は,このケースが成立する条件を求めることにより,男性の育児参加促進が少子化対策として効果があるために何が必要か明らかにする。本稿のモデルは基本的にはBecker(1965)に従うが,子どもの生産に投入される育児時間について,男性と女性の時間をわける。そして,女性の賃金が,女性の労働時間と男性の育児時間と子どもの需要に与える影響について分析する。分析の結果,女性の賃金上昇の影響は,男女賃金格差に大きく依存していることがいえる。男女賃金格差の大きいときは,3変数が増加する可能性はほとんどない。女性の賃金が男性とほぼ対等であるとき,同時に男女の育児時間の代替可能性が高い場合,3変数がすべて増加する可能性が高い。
著者
大谷 憲司
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.15, pp.31-43, 1992-05-30

本稿は,現代日本における未婚者の性行動,結婚前の妊娠,女子の結婚確率,結婚後の避妊,ならびに最初の妊娠の確率といわゆるlocus of controlの関係を吟味している。1987年に厚生省人口問題研究所によって行われた第9次出産力調査のデータを用いて, logistic regressionおよびproportional hazards modelにより次のような予想が確認された。(1)18-22歳の未婚女子における外因帰属者(externals)は,内因帰属者(internals)よりも性交する可能性が高い。(2)内因帰属者である未婚女子の結婚確率は外因帰属者の結婚確率よりも高い。(3)最初の妊娠が生ずる前の避妊実行確率は内因帰属者である妻の方が外因帰属者よりも低い。(2)と(3)の結果は,内因帰属(internal locus of control)がより周到な計画的行動と密接に結びついているという一般的な期待と一見矛盾するように見えるが,それを説明する試みがなされた。また,われわれの期待とは反対に,既婚女子に関する限り彼女達が結婚前に妊娠をする確率はlocus of controlと何の関係も示さなかった。さらに,第1子妊娠確率についてもlocus of controlとの関係は見いだされなかった。これらの予想と結果のギャップを生みだした要因について考察がなされた。
著者
福田 節也
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.33, pp.41-60, 2003-11-30

未婚化傾向の進展とともに,若者が親と同居する期間が延長している。1990年代以降,未婚期の世帯構造が若者の自立や婚姻行動と深い繋がりをもつことが指摘されるようになり,青年層の居住形態が注目されるようになった。これに伴い,全国レベルの標本調査において離家に関する項目が設けられるようになり,若者がいつ,どのような理由で親元を離れ新たな世帯へと移行するのかについて知ることができるようになった。しかし,先行研究においてはデータや方法論上の制約により離家を規定する個人や世帯の属性についての考察が十分に行われてこなかった。そこで本稿では『全国家族調査(NFRT98)』の個票データを用いてイベントヒストリー分析を行い,若者の離家行動についての要因分析を行った。分析の対象は,1940年から70年に出生した男女4,378人である。モデルではライフコース変数,人口学的要因,親の社会経済的地位,そして出生コーホートを説明変数とし,対象者の最初の離家および進学,就職,そして結婚に分類した理由別離家の規定要因について検証した。分析の結果,先行研究において指摘されてきた晩婚化や若年者人口の都市部への集中といった要因に加え,出生順位や高等教育への進学が離家のタイミングを規定する重要な要因であることが明らかとなった。さらに,離家を規定する個人や世帯の属性が明らかとなり,1940年以降の出生コーホートにおける離家傾向を説明するいくつかの知見が得られた。
著者
福田 節也
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.33, pp.41-60, 2003-11-30

未婚化傾向の進展とともに,若者が親と同居する期間が延長している。1990年代以降,未婚期の世帯構造が若者の自立や婚姻行動と深い繋がりをもつことが指摘されるようになり,青年層の居住形態が注目されるようになった。これに伴い,全国レベルの標本調査において離家に関する項目が設けられるようになり,若者がいつ,どのような理由で親元を離れ新たな世帯へと移行するのかについて知ることができるようになった。しかし,先行研究においてはデータや方法論上の制約により離家を規定する個人や世帯の属性についての考察が十分に行われてこなかった。そこで本稿では『全国家族調査(NFRT98)』の個票データを用いてイベントヒストリー分析を行い,若者の離家行動についての要因分析を行った。分析の対象は,1940年から70年に出生した男女4,378人である。モデルではライフコース変数,人口学的要因,親の社会経済的地位,そして出生コーホートを説明変数とし,対象者の最初の離家および進学,就職,そして結婚に分類した理由別離家の規定要因について検証した。分析の結果,先行研究において指摘されてきた晩婚化や若年者人口の都市部への集中といった要因に加え,出生順位や高等教育への進学が離家のタイミングを規定する重要な要因であることが明らかとなった。さらに,離家を規定する個人や世帯の属性が明らかとなり,1940年以降の出生コーホートにおける離家傾向を説明するいくつかの知見が得られた。