著者
永瀬 伸子 LEE S.J.
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

韓国における経済的資源配分とそれに関わる意思決定のメカニズムからみられる夫妻関係を把握するツールとして妻のためにつかうお金に注目し、分析を行った。その際、妻の就業形態変化を軸として、妻と夫個々人のために経済的資源がどのように配分されるのかに注目し、夫妻間の生活水準の変化を追った。夫妻の生活水準、夫妻間の生活水準の格差を把握する指標としては、家計費のなかで個人に配分される「個人のために使うお金」を用いた。分析に用いるデータは、F-GENS韓国パネル調査データであり、分析対象は736世帯である。分析は、就業形態変化パターン別の個人別消費、個人別貯蓄を、1)時系列推移、2)世帯年収増減、妻年収増減との関係、3)夫妻間格差の変化の三つの分析軸に沿って検討した。分析結果は以下のとおりである。第1に、妻の無職化グループにおいては、妻費および妻貯蓄を減少させるとともに、妻と夫のためにつかうお金における夫妻間格差を拡大させることが確認された。第2に、妻の有職化グループにおいて妻費と夫費の関係をみると、働きはじめて2年目の時点での夫費と妻費の差は観察された期間のなかでもっとも差が少なく、夫を100とした夫妻比からも夫妻間の格差がもっとも少ない。つまり、妻の有職化によって、夫妻間格差が改善されたことが確認された。第3に、無職から有職になったときの就業形態に注目して、妻費と夫費、妻貯蓄と夫貯蓄の関係をみたところ、妻が専業主婦からフルタイムとして働き始めた直後は、妻費、妻貯蓄は増加、夫費、夫貯蓄は減少している。また、その増加率が描くカーブは妻年収の世帯年収に占める割合とも動きが同様である。つまり、無職からフルタイムになったグループにおいて、妻費には妻年収の増加の影響および、働いていることの両方が影響しているといえよう。
著者
永瀬 伸子 東井 愛佳 亀山 暖加 木下 聡実 志賀 向日葵 塩谷 奈菜 高橋 京子 世永 愛璃
出版者
お茶の水女子大学生活社会科学研究会
雑誌
生活社会科学研究
巻号頁・発行日
vol.24, pp.25-38, 2017-10-23

本稿は,大学生の年金知識と年金意識に関する調査の分析結果である.永瀬\研究室では2016年10月に首都圏23大学967人に調査を行った.大学生の年金満足\は年金知識や将来の仕事や家庭の見通しで異なるとの仮説をたてた.5 件法の\年金満足度に影響を与える要因をみると,世代間扶養を支持する規範と将来子\どもを持たないことが年金満足に正の影響を与えていた.他方奨学金返済予定\があることは年金満足を有意に低めた.また6 問の年金知識を出題したが,大\学生の年金知識は驚くほど低く,十分な教育が行われていない.しかし多変量\解析から年金知識を獲得している者ほど有意に年金満足が下がることから,現\在の年金制度の大学生の納得を得にくいという重大な課題が示唆される.大学\生の8 割が結婚や出産を期待し,女性の過半数は共働きを志向し,自分の収入\期待も高かった.これからの社会保障について,若者の視点を取り入れ,従来\とは違った形で子育てや奨学金の負担,共働き家族に配慮すべきと考えられる.This paper reports the results of a survey on University Students' Knowledge and Attitude\towards the Pension System, conducted in October 2016 with students at 23 universities in the\Tokyo metropolitan district. Between 30 to 60 students responded at each university, for a total\sample size of 967 students. The survey was designed and conducted by university students\participating in the laboratory of Nobuko Nagase at Ochanomizu University. We hypothesized\that students' satisfaction with the national pension system rises with increased knowledge of\the system, and also that satisfaction varies by one's plan for future, such as wishing to take care\of one's parents, or wishing to become or have a full-time housewife at home, or wishing to have\children. We found that university students' knowledge on the pension tax and basic pension\payment is extremely limited. However, when students have more knowledge, we found in the\ordinary least square analysis that their satisfaction with the national pension system statistically\significantly declines. This is an alarming result. In the econometric analysis, we also found that\when students have student loans, their satisfaction with the pension system statistically\significantly declines. Only when the students agreed with the concept of supporting the elderly,\or when they reported not planning to have children in the future, did their satisfaction with the\pension system increase. We found that 80 percent of students wished to form a family, while\more than half of university female students did not wish to become full-time housewives in the\future, and that they expect a much higher income than present Japanese females do earn. The\National pension system needs to conform with the changing views of youth about their future.
著者
永瀬 伸子
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.50, pp.29-53, 2014-06-30

本稿は短時間オプションの義務化(3歳未満児のいる雇用者に1日原則6時間勤務の選択肢を提供すること)が,第1子出産,無子者の出産意欲,および第1子出産後の就業継続に与える効果を厚生労働省『21世紀成年者縦断調査』2002-2010を用いて計測した。法施行が101人以上企業に先行し義務化されたことを利用し,これ未満の企業勤務者との差の変化を測定したところ,政策実施企業において,法施行直後に,線形確率固定効果モデルを用いた推計において,第1子出産ハザードと出産意欲の上昇がそれぞれ有意に見出された。正社員の時間の自由度を拡大する政策は,大卒女性を中心に第1子出産確率を高め,無子者の出産意欲を高める効果を持つことが明らかとなった。他方,第1子出産後の就業継続のプロビット分析からは短時間オプションの有意な効果はみられなかったが,2007年以降就業継続確率の有意な上昇が見出された。2007年と2010年に育児休業給付が拡充されていることが背景にあるだろう。ただしこうした政策の対象となる正社員は,出産年齢にある無配偶女性の半数をしめるに過ぎない。非正規雇用者に対する保護の拡充がなされない限り保護の厚い正社員の女性の採用が削減されることが懸念される。さらに35-36歳の正社員女性や契約社員女性の無子割合は5割を超えているが,出産意欲は比較的高い。出産意欲が実現できる非正規雇用者を含めた雇用環境や保育環境の一層の整備が望まれる。
著者
岩澤 美帆 別府 志海 玉置 えみ 釜野 さおり 金子 隆一 是川 夕 石井 太 余田 翔平 福田 節也 鎌田 健司 新谷 由里子 中村 真理子 西 文彦 工藤 豪 レイモ ジェームズ エカテリーナ ヘルトーグ 永瀬 伸子 加藤 彰彦 茂木 暁 佐藤 龍三郎 森田 理仁 茂木 良平
出版者
国立社会保障・人口問題研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

結婚の形成と解消の変化を理解するために、(1)変化・差異の記述、(2)説明モデルの構築と検証、(3)変化の帰結の把握に取り組んだ。横断調査、縦断調査データの分析のほか、地方自治体に対するヒアリング調査を行った。若い世代ほど結婚が起こりにくく、離婚が起こりやすい背景には近代社会を生きる上で必要な親密性基盤と経済基盤という両要件が揃わない事情が明らかになった。要因には地域の生活圏における男女人口のアンバランスや縁組み制度の衰退、強すぎる関係、男女非対称なシステムと今日の社会経済状況とのミスマッチが指摘できる。一方で都市部や高学歴層におけるカップル形成のアドバンテージの強化も確認された。