著者
三木 一彦
出版者
文教大学
雑誌
教育学部紀要 = Annual Report of The Faculty of Education (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.7-24, 2017-12-20

本稿は,筆者が高校での模擬授業時に生徒たちに記入してもらった「自分にとっての原風景」を主題別に提示した上で,その背景や意味について,主に空間的な側面から考察を試みたものである.検討にあたり,高校生の原風景を,①家,②環境,③学校,④非日常・非風景,の大きく4つに分類した.自分が育った家や家族・親戚,あるいは自然環境を記述する回答は多く,それらが原風景の核としての役割を果たしていると推察される.一方で社会環境や学校などをえがく回答もあり,とりわけ学校を取り上げた回答に関しては,教育系の模擬授業受講者という回答者の志向も考慮する必要があろう.今日,高校においては,より早い段階から進路を意識させる指導を行なう傾向が強いが,現在の高校生活を充実させたり,過去の自分の原風景と対話したりするような方向性ももっと重視されてよいと考える.
著者
小倉 隆一郎
出版者
文教大学
雑誌
文教大学教育学部紀要 = Annual report of the Faculty of Education, Bunkyo University (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
no.48, pp.137-144, 2014

本学ではピアノの基礎技能養成と子どもの歌の弾き歌いの指導に,Music Laboratory システムを利用している.これらの授業を支援する目的で,ピアノの基礎技能については,受講する学生に2006年から模範演奏データを提供しており,改善を加えながら現在も継続している.一方,子どもの歌の弾き歌いについては2012年にビデオによる模範演奏データを提供する試みを行った.この試用によって,演奏のスピードが変えられない,著作権の問題,手元映像がやや不鮮明などの問題点が認められた.これらの問題点に対応するデータ提供方法を検討していたところ,この度,ヤマハ株式会社より「ヤマハミュージックレッスンオンライン」の試用の許諾が得られたため,本論ではこのサイト内の「ピアノ弾き歌い講座」の試用報告を中心に述べる.
著者
梶原 洋子 樽本 つぐみ
出版者
文教大学
雑誌
文教大学教育学部紀要 (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
no.32, pp.23-31, 1998-12

更年期をよりよい状態で生存するための方策として、日常の運動習慣が如何なる影響を及ぼしているのかを検討するために、ランニングを取り上げ、更年期に当たる女子ランナーの不定愁訴や気分の特徴などを、同年齢の一般女性と比較し、以下の結果を得た。 更年期にあるランナーは年齢に有意差のない健常な一般女性に比べて、更年期障害およびその中等度以上の有症状の発症頻度は有意に低値で、POMSからみた気分の状態もランナーの方が良好とされる典型的な氷山型のプロフィールを示し、メンタルヘルスも良好なことが窺われた。また、更年期の女性ランナーは低年齢の実業団選手に比べて「憂鬱」の尺度が有意に低値で、POMSのプロフィールもエリートランナーと同様に、良好なプロフィールとされる氷山型を示した。すなわち、現在のライフスタイルの中にランニングという身体活動を習慣化し、じょうずに構築している女性ランナーは心身ともに健康的で、ランニングがquality of life (QOL)の向上に好影響を及ぼしていることが明らかになった。
著者
石川 洋子 井上 清子 会沢 信彦
出版者
文教大学
雑誌
文教大学教育学部紀要 (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
no.39, pp.51-62, 2005

本研究では,保護者対応の基礎的なスキルとなるカウンセリングに対するニーズについて,子育て支援に関わる保育者達への調査と保育雑誌の保護者対応記事の分析を行い検討した.その結果,保育者達が,特に保護者対応に問題を感じ,対応に苦慮していることがわかった.また,保育者達のカウンセリングに対するニーズは高く,年齢や勤務年数,役職に関わりなくこれが求められていることもわかった.カウンセリングの研修会への参加については,研修会の情報や機会がなかったり,時間や参加費の問題等が指摘されていた.研修会に参加した者が,参加していない者よりも有意に外部の専門家や機関に相談することができていた.\n研修の機会を増やし,その情報を数多く提供することは,子育て支援にあたる保育者達の保護者対応をスムーズにし,また問題や困難を感じた時の相談や対応のネットワークを構築することにもなる.保育者間の関係構築のためにもカウンセリングが求められており,保育者支援にもつながると思われた.
著者
高井 和夫
出版者
文教大学
雑誌
文教大学教育学部紀要 (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
no.39, pp.43-50, 2005

子どもの体力低下現象は先進諸国共通の問題であり,わが国においては中教審答申(平成14 年)に認められるように,昭和60 年ごろから子どもの体力低下傾向が現れ,現在その総合的な対策の必要性が求められている.本稿では,子どもの運動行動を支える要因について最近の研究成果を概観するとともに,その対策につながる代表的な介入研究を取り上げることで,わが国における今後の教育・研究および実践の方向性を展望する.また,幼少年期の運動との関わりへの理解を深めるため,子どもの体力の現状と推移,および体力テスト法についての動向をまとめている.先行研究の知見を踏まえると,児童期および青少年期の子どもの運動行動との関わりは,発達諸側面の急進期であるがゆえに成人期のそれ以上に複雑であるが,直面する体力低下への対策としては運動に関わる個人と環境の関連性を多層の次元から支援するアプローチが有効であると示唆される.
著者
齋藤 正人
出版者
文教大学
雑誌
文教大学教育学部紀要 (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
no.45, pp.131-146, 2011

社会的要請に応じた美術系ワークショップとは,学校教育支援,地域文化貢献,そして芸術環境の提供にある,との観点から考察を始めた.子どもを中心に据えて,それら3つに共通する重要事項を引き出して見ると,教育的要素を含む造形活動があげられる.そこで,教育的要素を含んだ美術系ワークショップの事例として,筆者らが金沢21世紀美術館で行った,「ねんどやきもの劇場」の実践報告をした.その事例を基に,ワークショップ参加体験から得られる子どもの成長と教育的効果について明確にすることを試みた.補強材料としたのは,事例から見られた子どもの行動(素材を通した遊びの行為とそのプロセス)である.そこから明らかになったことは,①共同制作を通し他者への意識が働くことで,協調性や自律性が養われ,社会性を身につけて行くこと.②造形活動の中で,言語表現を伴った独自の世界観が表出され,個性として育まれて行くこと.これらを踏まえ,子どもを主役にするためのワークショップの在り方を提案することが本稿の目的である.最終的に提案したこととは,子ども本来の遊びを考え出す能力が,充分に発揮できる活動環境の創出であった.言い換えれば,他者と遊びを共有しながら,自己表現できる態度を育んで行くための「素材,時間,場所」を整えると言ったことである.このようなことが,子どもを主役にするための活動環境であるとして,ワークショップ指導者へ向けての提案とした.本稿を通観すると,美術系ワークショップの本質は,子どもの発達段階に関わりながら,複合的な人間形成を支援することにある,と提示することができる.そして,子どもの人間形成を目的とした美術系ワークショップの実践は,社会の要請に応じた美術家の仕事であり,美術領域の取り組むべき責任であることを確認することになった.
著者
平田 澄子
出版者
文教大学
雑誌
文教大学教育学部紀要 (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
no.16, pp.p1-15, 1982-12
著者
太郎良 信
出版者
文教大学
雑誌
文教大学教育学部紀要 (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
no.40, pp.31-41, 2006

全国連合小学校教員会の機関誌『教育報国』は1935(昭和10)年11月に創刊された.その創刊企画は,1935年5月の第12回総会で協議されたものの決定には至らず,その決定は代表委員会に委ねられ,同年6月の第17回代表委員会において決定されたものであった.その間の経緯をみると,第12回総会では当初から予定された議題ではなく追加議題として提案されたものであること,第17回代表委員会では発行が既定のこととして提案されていることなど,組織的な協議が簡略化されたままに事態が進行していることがわかる.『教育報国』創刊の推進者は,全国連合小学校教員会の役員ではないままに上沼久之丞会長の下で庶務を担当していた中澤留であった.そして『教育報国』の編集部は,主幹が役員ではないままの中澤,委員は全国連合小学校教員会の理事3 名という変則的な構成であった.『教育報国』創刊から半年後の1936年5月には,中澤が全国連合小学校教員会の会長に就任するということとなる.中澤は,会長就任後も引き続き『教育報国』の主幹の座にあった.「教育報国」は,機関誌名であるとともに,戦時下における全国連合小学校教員会の活動の旗印となっていくこととなった.
著者
三木 一彦
出版者
文教大学
雑誌
教育学部紀要 = Annual Report of The Faculty of Education (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.63-77, 2005-12-01

江戸時代には寺社参詣を目的とする代参講が各地で盛んに結成された.本稿では,そうした代参講による参詣地の一つであった三峰山(武蔵国秩父郡)への信仰について,その関東平野への展開を,とくに武蔵国東部に焦点をあてながら検討した.武蔵国東部では,江戸時代に新田開発の進展がみられ,村落部の三峰信仰は農業に関わる願意をもっていた.しかし,時期が下るにつれて,むしろ火防・盗賊除けといった都市的な願意が表面に出てくるようになった.この理由として,街道沿いの宿場町などが三峰信仰の拠点となり,そこから都市的な信仰が村落部へも浸透していったことがあげられる.また,三峰講の組織形態を他講と比較すると,当該の村や町の地縁との関わりの密接度において中間的な性格を示していた.このように,三峰信仰は都市・村落両面の性格をあわせもちながら,武蔵国東部など関東平野へ展開していった.
著者
成田 奈緒子 渡辺 ひろの
出版者
文教大学
雑誌
文教大学教育学部紀要 = Annual report of the Faculty of Education, Bunkyo University (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
no.49, pp.209-221, 2015

大学生における睡眠を含めた生活習慣が睡眠の質と量,自己肯定感に及ぼす影響を,睡眠時脳波測定を用いて検討した.大学生48 名から得られたデータでは,朝型であるほど自己肯定感が高く,また睡眠の質が良いほど自己肯定感が高いという有意な相関関係が得られた.また,朝型であるほど睡眠の質も良いという相関関係も観察された.さらに,8 名における睡眠時脳波解析をしたところ,REM睡眠含有量が相対的に高い被験者は,睡眠時間も長く,入眠までの時間も短く,大脳皮質覚醒の回数も少なく,全体として睡眠効率が高い傾向が見られ,自己肯定感も高かった.睡眠が不良である被験者ではアルバイトなどで生活習慣が不規則であったことより,大学生においては自律的に生活習慣を改善する努力をすることが睡眠の質と自己肯定感の上昇に必要であることが考察された.
著者
島崎 篤子
出版者
文教大学
雑誌
教育学部紀要 = Annual Report of The Faculty of Education (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.77-95, 2017-12-20

大正期には,音楽文化の面でカチューシャの歌や浅草オペラの流行などによって,それまでとは違う新しい音楽が巷間に広まった.また子どものための文化運動である童謡運動が展開された時代でもある.一方,教育界では欧米の自由教育思想や芸術教育思想が広がる中で,明治以来,ひたすら唱歌教育が行われてきた唱歌科の内容に,初めて創作・鑑賞・器楽という新しい学習活動を加えようとする動きが見られた.本稿は,一部の先導的な教員や研究者によって大正期に始められた創作に着目したものである.大正期および昭和初期の文化状況や教育状況を振り返り,創作教育の黎明期における創作教育の推進者の理論や実践について検討する.
著者
小野里 美帆 川本 拓海
出版者
文教大学
雑誌
教育学部紀要 = Annual Report of The Faculty of Education (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.189-199, 2017-12-20

怒りの感情調整が困難な7歳のADHD児に対し,通常学級において,行動調整及び怒りの感情調整に関わる支援を実施した.支援においては,行動及び感情の自覚化を目的とし,怒りのイメージの図式化・言語化を促した.また,対象児と決めた1日の目標の遂行結果を振り返ることや,感情が暴発した際に,状況の振り返りを行うことを通して,自発的な感情調整を試みるようになった.大人の援助による行動及び感情の自覚化の重要性と支援可能性が示唆された.