- 著者
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佐藤 綾
- 出版者
- 日本土壌動物学会
- 雑誌
- Edaphologia (ISSN:03891445)
- 巻号頁・発行日
- vol.85, pp.53-58, 2009-08-31 (Released:2017-07-20)
- 参考文献数
- 34
潮間帯は,約12.4時間周期の干満(潮汐サイクル)の影響を受け,満潮になると冠水し,干潮になると地面が露出する.また,満潮時の水位は約2週間の周期で変化しており,大潮の時期に最高となり,小潮の時期に最低となる.陸生である地表性昆虫は,生息地が冠水する満潮時には活動できず,潮間帯に進出した種は満潮時の危険(溺死など)を回避するための戦略を進化させている.本稿では,潮間帯に生息する地表性昆虫の示す活動リズムとその体内時計について概説し,満潮時の冠水に対応した戦略について考えた.マングローブスズ(Apteronemobius asahinai)やオキナワシロヘリハンミョウ(Callytron yuasai okinawense)などのいくつかの地表性昆虫は,野外の潮汐サイクルに合わせた活動を示し,恒常条件下においても約12.4時間周期の活動リズム(概潮汐リズム)が継続する.つまり,これらの昆虫類は,潮汐に対応した体内時計を使って活動を干潮時に合わせていると考えられた.一方で,他の地表性昆虫では,潮汐に同調する体内時計の獲得とは異なる方法で満潮時の冠水に対応していた.例えば,オサムシ科のDicheirotrichus gustaviは,冠水の危険のない小潮の時期には夜間に活動するが,大潮の時期には活動パターンを変えて夜間の干潮時でも活動せず一日中地面下に潜んだままとなる.