著者
邵 仁哲
出版者
京都第二赤十字病院
雑誌
京都第二赤十字病院医学雑誌 = Medical journal of Kyoto Second Red Cross Hospital (ISSN:03894908)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.2-7, 2017-12

男性更年期障害は、加齢、ストレス、男性ホルモン(アンドロゲン)低下などが原因で生じる。その内、加齢に伴う男性ホルモンの減少によって生じる病態は近年、加齢男性性腺機能低下症候群Late-onset hypogenadism(LOH症候群)と呼ばれており、当科では2004年3月より男性更年期外来を開設し、診療にあたっている。LOH症候群の本質はアンドロゲン低下に伴う多臓器機能障害である。男性において、アンドロゲンは多くの重要な生理的役割を担っており、筋・骨・中枢神経系・前立腺・骨髄・皮膚・性機能への影響がある。しかし、いわゆる「男性更年期障害」の症状は大きく精神症状・身体症状・性機能症状の3つに分類され、当科では男性ホルモン補充療法を中心に治療を行っている。ただし、その症状のほとんどが「うつ病」などの精神神経科疾患と重なる場合が多く、症状からだけでは、はたして本当に「男性ホルモンの低下=LOH症候群」が主要な原因であるのかどうかの鑑別は難しい。そのため患者の状態により適宜、精神神経科との連携を密に行うことが必須である。
著者
山本 康正
出版者
京都第二赤十字病院
雑誌
京都第二赤十字病院医学雑誌 = Medical journal of Kyoto Second Red Cross Hospital (ISSN:03894908)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.2-15, 2013-12-01

比較的大径の穿通枝が母動脈から分岐するその近傍に生じるアテロームプラークを基盤とした血栓により穿通枝全域に及ぶ梗塞は,branch atheromatous disease(BAD)という一病型として提起されている.放線冠を灌流するレンズ核線条体動脈外側枝,内包後脚を灌流する前脈絡叢動脈,橋底面を灌流する傍正中動脈に好発し,錐体路の傷害により急性期に進行性運動麻痺を示し,機能予後不良となる場合が多い.一方,線条体内包梗塞(striatocapsular infarction :SCI)はレンズ核線条体動脈領域ほぼ全域にわたる梗塞で,最大径20 mm 以上,研究者によれば30 mm 以上の大径の皮質下梗塞で,内包の症状のみならずしばしば皮質症状を呈する.心原性脳塞栓が多く,中大脳動脈アテローム血栓性梗塞でも生じうる.BAD に対してtPA 治療は,BAD が緩徐進行の経過をとることや,投与後の再増悪がみられることがあり最適といえない.アルガトロバン,シロスタゾール,クロピドグレル,エダラボンの,カクテル・強化抗血小板療法が有用である可能性がある.SCI にはtPA 適応となる場合が多い.
著者
原 陽子 仲村 美輝 角 典以子 石井 亘 飯塚 亮二
出版者
京都第二赤十字病院
雑誌
京都第二赤十字病院医学雑誌 = Medical journal of Kyoto Second Red Cross Hospital (ISSN:03894908)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.45-54, 2019-12

重症外傷では,迅速な初期診療を行うことが患者の予後を左右する.初療室での処置・治療だけでなく,外科的治療を要する場合は迅速および的確に行うことが求められる. 当院は併設型の救命救急センターで,手術室は10 室,手術症例数は年間約7,000 件である.初療室での手術治療は「人,物,場所」の確保が難しい環境のため,主に重症外傷手術は手術室で行っている.しかし,手術を要する重症外傷患者の初療室搬入から手術室入室までの所要時間は,2012 年までは平均で90 分以上かかっていた.2013 年より,重症外傷手術を短時間で開始するため,重症外傷手術に必要な物品・資機材が準備された部屋を夜間帯・休日に一室作成し運用した(ダメージコントロール手ルーム:DCS ルーム).運用後,初療室搬入から手術室入室までの所要時間は平均で約30 分に短縮した. DCS ルーム運用により,重症外傷患者を迅速に的確に安全に受け入れ,医師や手術室看護師が安全な治療を提供できる有用な取り組みであった.
著者
猪田 浩理
出版者
京都第二赤十字病院
雑誌
京都第二赤十字病院医学雑誌 = Medical journal of Kyoto Second Red Cross Hospital (ISSN:03894908)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.11-17, 2012-12

組織再生技術の発達はめざましく,歯科口腔外科領域においては骨再生療法に関る研究が注目を浴びている.骨欠損部を修復するためには,骨移植,人工材料の使用が一般的である.骨再生療法の発達はリコンビナント技術と細胞培養技術の発達によってもたらされた.細胞増殖因子は細胞増殖と分化を誘導することで創部治癒を促進する能力を有している.特に骨形成タンパク(BMP)の存在,3 次元細胞培養の技術は臨床の場における骨再生療法の将来的な向上に寄与すると考えられる.今回は最近の骨再生療法の動向について報告を行う.
著者
木村 拓 廣瀬 和紀 國松 勇介 谷 望未 佐藤 いずみ 小倉 由莉 瀬野 真文 竹田 隆之
出版者
京都第二赤十字病院
雑誌
京都第二赤十字病院医学雑誌 = Medical journal of Kyoto Second Red Cross Hospital (ISSN:03894908)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.90-97, 2020-12

症例は、76歳女性。咳嗽、労作時呼吸困難で近医受診、上気道炎として加療後、低酸素血症をきたし京都第二赤十字病院呼吸器内科へ紹介された。胸部CTで胸膜直下、気管支血管束周囲に広範なconsolidation、すりガラス影を認めた。筋症状を伴わず、特徴的な皮疹を認め、臨床的無筋症性皮膚筋炎に伴う急速進行性間質性肺炎と診断した。入院後ステロイド、シクロスポリンで加療したが改善なく、第8病日に抗MDA5抗体陽性が判明し、シクロフォスファミドパルス療法、第14病日から血漿交換療法を併用したが改善なく、第29病日に永眠された。本症例は入院時に重度の呼吸不全を認め、入院直後から集学的治療を行っても救命は困難と考えられた。しかし、呼吸不全が軽度で画像上の肺障害が少ない症例で集学的治療の有効性を示す報告もあり、本疾患が疑われる軽症例では抗MDA5抗体の結果を待たずに集学的治療の検討が必要と考えられた。
著者
岡田 遥平 飯塚 亮二 喜田 たろう 杉本 憲治 高原 美貴
出版者
京都第二赤十字病院
雑誌
京都第二赤十字病院医学雑誌 = Medical journal of Kyoto Second Red Cross Hospital (ISSN:03894908)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.26-31, 2018-12

2017 年9 月から開始された日本赤十字社のバングラデシュ南部避難民救援事業のEmergencyResponse Unit(ERU)のメンバーとして医療支援に従事する貴重な機会を得た.その活動の概要について報告し,医師として有意義であった経験や課題について考察する.筆者はERU 第2 班,第3 班で避難民キャンプ内の巡回診療に従事した.患者は不衛生な環境を反映し感染性の呼吸器疾患,消化器疾患,皮膚疾患が多数みられた.助産師の行う妊婦健診のサポートや栄養失調の幼児のスクリーニングなどを併せて行なった.国際赤十字・赤新月社の世界的な支援活動の一端を担うことができ貴重な経験となったが,その一方で医療の限界と先進国とのギャップに悩まされることもあった.こうした国際救援の経験は医師として視野を広げる成長の機会となりうると思われる.今後ともさらなる準備をし,支援に参加できるように修練につとめたい.
著者
清沢 伸幸 小林 奈歩 木村 学 東道 公人 藤井 法子 大前 禎毅 長村 敏生
出版者
京都第二赤十字病院
雑誌
京都第二赤十字病院医学雑誌 = Medical journal of Kyoto Second Red Cross Hospital (ISSN:03894908)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.2-11, 2014-12

京都第二赤十字病院小児科に川崎病として1978年4月から2014年6月までに入院し、急性期の治療を行った1,109例(男児650例、女児459例)の治療成績に関する検討を行った。治療プロトコールから4期に分類した。第I期(1978.4~1984.3)は心エコー検査機器がなく病初期の冠動脈評価が出来なかった時期で164例。第II期(1984.4~1994.3)はアスピリン治療を主体とした時期で197例。第III期(1994.4~2003.12)はγグロブリン療法(γ-gl)を行うも、1日用量が統一されなかった時期で212例。第IV期(2004.1~2014.6)は初回投与量を2g/kgとして使用している時期で516例である。γグロブリン療法を行うようになった第III期以降は冠動脈障害を残す割合は著減し、1ヵ月を過ぎても拡大や瘤を残す症例の割合(表3)は第I期が4.3%、第II期が8.1%、第III期が0.9%、第IV期が1%であった。第I期の初回の評価が回復期を過ぎて行っている症例が含まれていることからその割合は第II期と変わらないと考えられる。第III期、第IV期の治療成績は川崎病全国調査成績(拡大1.75%、瘤0.72%、巨大瘤0.018%)からみても極めて優れているもので、巨大瘤はいない。現在、当院で行っている治療プロトコール(表2)は日本小児循環器学会のガイドラインや世界標準とは少し異なっている。γ-glの投与開始時期は少なくとも発症後第5病日まで待つべきである。次に、γ-glの投与時間は24時間以内ではなく、32-36時間かけることである。再投与は原則1回とし、第10病日以内に投与する。アスピリンはγ-gl投与中は併用しない。再投与でも効果がない場合は経過をみることである。結論的にいえば、γ-glの投与の仕方を工夫すれば、血漿交換療法、副腎皮質ホルモン剤、免疫抑制剤、抗TNFα剤の必要性はほとんどないと考える。また、γ-glとアスピリン剤の併用はすべきではない。
著者
前園 恵子 牧野 雅弘 蒔田 直輝 永金 義成 芦田 真士 友永 慶 山本 康正
出版者
京都第二赤十字病院
雑誌
京都第二赤十字病院医学雑誌 = Medical journal of Kyoto Second Red Cross Hospital (ISSN:03894908)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.81-86, 2013-12-01

症例は39歳の女性.頭部外傷の既往はない.某年2月5日、立ち仕事中に前頭部に非拍動性の痛みを自覚した.徐々に増悪し、嘔気も出現した.ロキソプロフェンやスマトリプタンは効果がなかった.経過中A型インフルエンザに罹患し、自宅で安静にしていた期間には、頭痛は消失していたが、回復後再び、起立時に増悪する激しい頭痛が出現した.頭部MRIで硬膜の肥厚および造影効果を認めた.脳槽シンチグラフィーでは早期のRI膀胱内集積とRIクリアランスの亢進が見られたが、脳脊髄液漏出像は確認できなかった.特発性低髄液圧症候群と診断し、安静臥床と大量輸液にて加療し、徐々に症状の改善を認め、退院した。硬膜の所見も遅れて回復した.特発性低髄液圧症候群では、多彩な臨床症候を伴うため、不定愁訴として扱われたり、診断に苦慮することがあるが、MRI所見は診断に有用である.
著者
蒔田 直輝 尾原 知行 永金 義成 村西 学 田邑 愛子 武澤 秀理 小泉 崇 山本 康正
出版者
京都第二赤十字病院
雑誌
京都第二赤十字病院医学雑誌 = Medical journal of Kyoto Second Red Cross Hospital (ISSN:03894908)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.113-117, 2011-12

症例は37歳の女性。突然左頸部から肩にかけて痛みが出現し、その数日後から喉頭の違和感、ものの飲み込みにくさが出現し声が嗄れるようになった。発声は鼻声、嗄声を認めた。発声の持続は5秒程度と障害されていた。左軟口蓋挙上不良、左咽頭感覚低下、咽頭反射低下、左声帯傍正中固定を認め、左舌咽神経および迷走神経の障害が考えられた。血液検査、髄液検査は正常、ヘルペスのウイルス抗体価は既感染パターンであった。頭部MRIガドリニウム造影で左舌咽・迷走神経の走行と一致する部位に造影効果を認めた。Bell麻痺で顔面神経の造影効果がみられる報告があり、類似のメカニズムで、何らかの炎症性ニューロパチーが考えられた。ステロイドパルスと後療法により、いずれの症状も完全に改善した。また頭部MRIで造影されていた左舌咽・迷走神経の造影効果も消失した。下部脳神経麻痺の鑑別に、造影MRIが有用である。