著者
石山 裕慈
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.108, pp.9-17, 2012-10

本稿は、室町時代に書写された複数の『論語』古写本に着目し、それぞれの資料に記入された漢字音の清濁について考察したものである。 『論語』古写本においては、韻書全濁字への濁点加点例のような、清濁の原則に必ずしも忠実ではない場合が多々見られる。さらに、同じ漢字の清濁が資料によって食い違っている場合が存するほか、同じ資料の中でも両様の形が出現する例も散見される。また、「漢語」単位で分析した場合も、やはり清濁の揺れが少なくないことが分かる。 一連の考察から、それぞれの字の清濁とはある程度の流動性を帯びたものであって、韻学的知識などをもとに、絶えず「整備」される性質のものであったことが窺える。
著者
安田 寛 北原 かな子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.83, pp.77-85, 2000-03-31

学制発布後も遅々として進まなかった公立の唱歌教育に対し,キリスト教の宣教師達は,各地で日本人に讃美歌を教え続けた。したがって,日本人と洋楽受容の問題を考察する際,音楽取調掛と文部省が中心となった音楽教育のみではなく,日本各地で行われたキリスト宣教師達による讃美歌教育の影響を無視することはできないのである。筆者等は以上のような問題意識によって,早くからキリスト教布教が盛んに行われた津軽地方を対象として,洋楽受容に関する研究を重ねてきた。本稿は,津軽地方での讃美歌の受容,特に実際に歌った人々がどの様に受け止めたのか,という意識を窺わせる資料を紹介し,明治期の地方における洋楽受容の一端を明らかにしようとするものである。
著者
安田 寛 北原 かな子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.85, pp.91-98, 2001-03-30

明治40年前後になると,津軽の地方紙にも音楽会や唱歌教育の具体的な内容などが掲載されるようになり,津軽地方にも西洋音楽が根づいてきていた様子を知ることができる。本稿では,最初に明治40年前後の唱歌教育や音楽会の様子を明らかにし,次いでこうした洋楽普及の際に唱法に関して, トニックソルフア唱法によるドレミ唱法と数字譜によるヒフミ唱法の二種があったと思われる点について指摘する。最後に,これまで筆者等が行ってきた一連の明治期津軽地方における洋楽普及に関する研究の意義を明らかにするため,明治期の地方での洋楽受容研究について総括しつつ,近年の洋楽受容史研究に位置づける。
著者
宮本 利行 北原 かな子 肥田野 豊 北原 晴男
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.87, pp.89-98, 2002-03-28

明治初年,廃藩置県とそれに続く秩禄処分によって職を失った士族は,深刻な経済的危機に直面することになった。こうした士族救済のため,政府は士族授産事業を遂行し,青森県でも旧藩士族らによりそれぞれ様々な試みがなされた。本稿では,最初に明治初年の青森県内に展開した士族授産事業の様子を述べるとともに,特に旧弘前藩士族の動向を取り上げ,当時,東奥義塾に招碑されていた外国人教師が地域産業開発に関わったことや,弘前で行われていた藍の産業化-の試みについて明らかにするものである。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.107, pp.1-6, 2012-03

山形県酒田市立の光丘文庫に所蔵されている文献資料について調査を行い、特に近世期江戸時代に作成された往来物資料の所蔵状況について検討考察した。その結果、かなりの所蔵―総数 本―が確認でき、全容解明には時間を要することが判明した。本稿では、その所蔵状況について目的別の9種類に分類整理の上、報告し、加えて版本の出版地域に着目した調査結果を提示した。継続的に行ってきた、北東北地域-弘前市立図書館所蔵・八戸市立図書館・岩手県立図書館・秋田県立図書館-所蔵の往来物資料と比較すると、多数多種の資料を有することや特に関西文化圏―京都・大坂―からの文献資料の流入が明らかとなった。地域における資料の偏在状況と、資料の分類整理を通してみえてきた諸特徴についての一面を提示し、それぞれの地域における教育環境や文化的背景の共通点や相違性など、新たな視点からの研究の可能性を示唆したものである。
著者
石山 裕慈
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.107, pp.7-14, 2012-03

本稿は、高山寺に蔵される『荘子』古写本7巻(甲巻5巻、乙巻2巻)に記入された字音点を対象として、国語学的見地から考察したものである。先行研究ですでに気づかれているとおり、本資料に散見される反切・同音字注などは、基本的に『経典釈文』によっており、場合によっては原初形と思われる記述も見られる。また、直接引用していない場合であっても、声点や仮名音注などに『経典釈文』の内容が間接的に反映されていると考えられる場合も存する。特に反切注から理論的に導き出された「人為的漢音」も存することは、漢字音学習のあり方を考える上で、また『論語』との違いを考える上で見逃せない事柄である。このほか、仮名音注や字音声点の特徴も、同年代の漢籍訓読資料とおおよそ共通しており、大学寮での講読が行われなかった資料であるとはいえ、その位置づけは『論語』などと大差はなかったものと思われる。
著者
今井 民子
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.70, pp.95-105, 1993-07

本稿は,ラモーの和声理論の特質と後継者たちによるその後の和声理論の展開を検証したものである。まず,初期の画期的な理論書、「Traite de l'harmoie」以来,彼が生涯にわたり追求したその和声理論の基本的概念を概観した。ここでは,根音バスとその転回を中心に,和音の生成,オクターブの同一性,Suppositionなどをとりあげ,さらに根音バスの概念確立に彼が大きな示唆を得た通奏低音法の規則である「オクターブの法則」についても述べた。次に当時のドイツの通奏低音法とラモーの和声理論を比較し,両者の本質的相違を明らかにした。最後にラモーの後継者たちによる和声理論の展開として,キルンベルガーとマールプルクの理論を中心にとりあげた。彼らは,不協和音をより明確に理論づけ(本有的不協和音と偶有的不協和音),ラモーにおいて不十分であった高次のレヴェルからの和声分析を確立し,これはその後の和声分析のモデルとなった。
著者
今井 民子
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.65-71, 1997-10

イギリスの音楽史家,Cノヤーニーの『ヨーロッパ音楽紀行』は,主著である『音楽通史』執筆の資料収集を目的に企てた大陸旅行の見聞録である。本稿では,この旅行記に基づき,彼が見聞した教会,劇場,私的コンサートにおける音楽活動の実態と,その他,大道の音楽,楽器,楽譜について,主にイタリアを中心に検討する。まず,イタリアの教会音楽では,世俗化の著しい祝日の音楽と,平日の素朴で古風な聖歌との対照が指摘される。オペラ劇場では,貴族と一般市民からなる聴衆,音楽家の生活支援のための劇場コンサートが,また,私的コンサートでは,教養豊かなディレッタントによる良質のコンサート(アッカデーミア)の様子が言及される。バロックの教会,劇場,室内という音楽様式の3つの区分はあいまい化し,相互の融合,類似化が窺える。その他,野趣に富む大道の民謡,後年,『音楽通史』に結実する楽器や楽譜の資料収集に関する記述がある。

1 0 0 0 IR 彫刻の原理

著者
岡田 敬司
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.55-68, 1991-10

無限定の三次元空間に彫刻が存在する在り方の検討を通し,彫刻表現の原理的特性について論じた試論である。その内容は主として,彫刻存在の;I.状態に関わるものⅠⅠ.場所性に関わるものⅠⅠⅠ.時間性に関わるものⅠⅤ.空間性に関わるものV.物質性に関わるものⅤⅠ.その他である。就中,「没形象性」への注目と,同時にこれに捉われることによって生ずる「表現の不自由性」について論じられる。この小論の中で,彫刻表現における真の「自由」を獲得する為に,あらゆる主義や思潮を超えた地点に制作主体たる自己は立脚せねばならないと結論する。
著者
今井 民子
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.65-71, 2002-10

本稿は近代音楽史学の礎となったJ.ホ-キンズとC. バーニーの『音楽通史』に関して,特に18世紀の各国の音楽に対する両者の見解を比較検討するものである。その結果,明らかとなったのは,ホ-キンズの保守的音楽観とバーニーの進歩的音楽観の相違である。すなわち,バーニーは大陸音楽紀行の成果をふまえ,18世紀の新しい潮流を視野に入れて各国の音楽をとらえているのに対し,ホ-キンズは斬新な音楽よりも,コレツリやジェミニア-ニに代表される古典様式の音楽に音楽発展の完成をみていた。ホ-キンズが『通史』で示した古楽復興-の強い関心は,彼の保守的姿勢のあらわれであり,彼はその中に,音楽のアマチュアリズムの確立と,古典的趣味の育成を求めていたといえよう。
著者
安野 眞幸
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.41-52, 2003-03

本稿は、家督を継いだばかりの信長が、知多郡・篠島の商人を保護し、彼らに対し往来の自由を認めた折紙の分析である。本稿での私の目的は、当文書発給の歴史的な場面を復元することにあるOここで私は、先学が暖味にしてきた「当所守山」を、当時の信長の勢力圏「那吉野・守山間」とし、宛名の「大森平右衛門尉」を守山・大森にあった宿・関と関わった人物で、この折紙により、知多郡・篠島の商人の商人司に任命されたとの考えを提出した。当時交通の自由を妨げていたものは、通説では経済関とされているが、この文書の分析によって明らかになったことは、質取りや喧嘩などで人身の自由が脅かされていたことが大きかったとなろう。
著者
菅野 幸宏
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.147-157, 2003-03

集団によるふり遊び・ごっこ遊びの社会的発達面における意義を検討するため,家庭において観察した4歳児3名の遊びを分析した。観察された遊びは一見して再現的模倣的であったが,実は創造的即興的な性格も十分盛り込まれたものであった。これまで,遊びの創造的即興的側面は見逃されてきており,したがってその発達的意義の検討も乏しい。そのため,創造的即興的遊びの社会的発達に関わる意義としては,会話における即興技能の促進が考えられるものの,その詳細は今後を待たなければならない。

1 0 0 0 IR 加納楽市令

著者
安野 眞幸
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.1-18, 2005-10

加納の楽市場は御園町にあったとするのが現在の通説である。しかし私はここで楽市場は円徳寺にあり、織田氏と斎藤氏の対立の中で中立を保ってきた円徳寺の勢力を信長側に組織することを目的とした密約に、この楽市令は基づいているとした。
著者
山本 逸郎 古川 由美子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.96, pp.27-40, 2006-09
被引用文献数
1

高校物理において等加速度直線運動を調べる実験の一つとして,斜面を転がる球の加速度を導出する実験が設定されている。また,斜面を転がる球の運動を利用した実験は,小学校および中学校における≡哩科実験にも現れる。本研究では,アルミレールとプラスチックレール,鉄球とプラスチック球を組み合わせて,料面を転がる球の加速度の角度依存性を測定した。球は始めすべらずに転がるが,ある角度を境に転がりながらすべりだす。得られた実験結果を詳しく解析し,斜面を転がる球の運動を考察した。
著者
安野 眞幸
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.1-18, 2004-10

本稿は永禄七年に尾張国「二の宮」に宛てて出された定書に関する考察である。この文書の発給者は信長ではなく、彼と対立していた従兄弟の織田信清であろう。この文書の特色は第二条にあり、第二条の分析が大切なのである。ここで云う「借銭・借米」とは、未進年貢を中心とした領主貸付米・銭のことで、この文書の背景には二の宮の住民側と信清との交渉があり、住民側は反銭・棟別銭の納入を約束する見返りに「新儀諸役・家並」の免除や「借銭・借米」の破棄を認めさせたのである。