著者
多門 裕貴 小枝 達也
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.79-85, 2022-04-01 (Released:2022-04-01)
参考文献数
14

【目的】社会的コミュニケーション症(SCD)は,言語的および非言語的なコミュニケーションの社会的使用に困難さを示すことから自閉スペクトラム症(ASD)との鑑別が重要となるが,参考となる補助検査所見が乏しい.本研究ではSCDとASDの鑑別に有用な補助検査について検討した.【方法】SCD群5 名,ASD群25名に対して対人応答性尺度(SRS-2),比喩皮肉文テストを実施・検討した.【結果】SRS-2の(1)社会的コミュニケーションと対人的相互交流(SCI)および(2)興味の限局と反復行動(RRB)のT得点は,ASD群ではいずれも臨床域,SCD群ではSCIは臨床域でRRBは臨床域未満であった.比喩皮肉文テストではSCD群では皮肉文の正答率が極めて不良であった.【考察】SRS-2と比喩皮肉文テストの組み合わせによりSCDとASDの臨床的な相違点が明らかになり,両者は臨床的に異なった疾患概念である可能性が示唆された.【結論】SRS-2と比喩皮肉文テストは,SCDとASDの鑑別に有用な補助検査になり得る.
著者
児玉 由布子 藤井 秀比古 川口 智子 中嶋 義記
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.385-392, 2020 (Released:2020-01-06)
参考文献数
14

半年前の溶連菌感染症の罹患後,急性の強迫行為と摂食制限を呈し,低血糖と脱水症状に至った6歳女児例を報告する.特に誘引なく,朝の着替え,朝食のやり直し行為が始まり,次第に強迫行為が長くなり,食事も摂れなくなったため当科へ紹介入院となった.低血糖および脱水所見を認め,A群溶血性レンサ球菌(GAS)抗原検査は陰性,頭部MRI,髄液検査にて明らかな異常を認めなかった.入院後,補液を開始し,低血糖と脱水症状の改善とともに,強迫行為と摂食の回復がみられ退院となった.その後症状なく経過していたが,約1年半後に同様の強迫行為が出現した.外来にて経過観察し1か月ほどで自然軽快した.経過中に施行したGAS抗原検査は陽性,咽頭培養にてSt. pyogenesを検出した.臨床経過から,溶連菌感染に関連した自己免疫性神経疾患である小児自己免疫性溶連菌関連性精神神経障害(Pediatric Autoimmune Neuropsychiatric Disorder Associated with Streptococcal infections;PANDAS)や,明らかな先行感染がなく急性発症するOCD症状を包括した疾患概念としての小児急性発症神経精神症候群(Pediatric Acute-onset Neuropsychiatric Syndrome;PANS)が疑われた.今後の類似症例の蓄積が望まれる.
著者
岡田 克己
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.38-49, 2020 (Released:2020-04-01)
参考文献数
6

横浜市は,2017年度より文部科学省の研究委託を受け,新たな通級指導教室「コラボ教室」を小学校に開設した.本教室は,発達障害等により学校生活への適応が困難である児童に対し,障害による学習上や生活上の困難の改善・克服を目標とする従来の自立活動の指導の視点に加え,子どもたちの強み(興味関心や認知的強み)を生かす教育という新たな視点に立つ.平成30年度は小学校3~6学年までの男女全18名.全児童のIQの値による知能評価の基準は,平均の上から平均より非常に高いまでの範囲にある.本教室では,「専門分野」「社会性」「自己理解」の3つを柱に指導内容を構成した.また,各児童に対し,「通級型指導」「専門分野の特別指導」「巡回型指導」「本人参加型会議」の4つの指導形態を併用し,指導を展開した.これらに取り組むことで,全体的に社会性・適応行動面に肯定的な変化がみられ,自己理解の深まりが得られた.
著者
深谷 雅博 中山 智博 中村 勇 岩﨑 信明
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.63-71, 2021 (Released:2021-04-01)
参考文献数
15

当県の小学校通常学級に在籍する自閉症スペクトラム(ASD)特性を強く持つ児の概数とその特徴を調べることを計画した.対象は通常学級に在籍する児童300名であり,自閉症スペクトラム指数日本語版(AQ-J)児童用を用いて調査を実施した.ASD特性を強く持つ児童は11.4%認められた.ASD特性を強く持つ児童群では,合計,社会的スキル,注意の切り替え,コミュニケーション,想像力において,ASD特性を強く持つ児童群の得点が有意に高く,行動面や社会性に差がみられることが明らかとなった.また,因子分析を行ったところ,抽出された項目から第1因子を「メタ認知」と命名し,メタ認知が重要であることが明らかとなった.ASD児・者はメタ認知的な自己認識が脆弱であるといわれており,通常学級に在籍するASD特性を強く持つ児童においても同様の結果が示された.今後調査の規模を拡大していくとともに,児童の支援方法について検討し実践していく必要があると考えられる.
著者
嶺 輝子
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.41-51, 2019

このたび,ICD-11において複雑性PTSDが正式な診断基準として採択された.これにより,これまで正しい診断・治療を受けられなかった患者たちが適切な治療を受けられるような基盤が整ったわけだが,今後はその治療をどのように行っていくかが重要課題になるだろう.複雑性PTSDとは,傷を受けやすい幼年期の発達段階において,養育責任を担っている者の加害や放棄による重度のストレス要因に継続的あるいは長期間さらされた結果引き起こされる心的外傷であるが(Courtois et al., 2009),それは長期にわたるストレスだけでなく,単回のトラウマが,その後の不適切なケアや対応によって重症化するケースも含まれうる.小児の精神神経の専門家として,このような複雑性PTSDへの変調を防ぎ,トラウマから回復させるには何が必要なのかを論じたうえで,論者が考案したホログラフィートークという心理療法を子どものケアにどのように利用しうるのかを紹介してみたい.
著者
宮本 信也
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.333-339, 2020

教育や訓練・指導と関連して,子どもたちがトラウマ体験をしている状況がある.子どもたちがトラウマを感じるような教育上の対応には,教育虐待と教育ネグレクトがあるが,適切な教育を受ける子どもの権利の侵害という視点に立てば,両者を区別する必要はなく,併せて不適切な教育対応と呼んでもよいように思われる.不適切な教育対応は,特別支援教育において生じやすい可能性がある.保護者や教師の熱意と学習スキルの反復学習による見かけ上の学習成果が見えるからである.一方,教育の場における教える・教わる関係で子どもたちがトラウマを体験する状況としては,部活動における威圧的な指導に注意する必要があるであろう.子どもたちの心の問題に関し,神経発達症とトラウマの2つの視点から考えることが,子どもの心の臨床のみならず,教育分野に限らず,職業として子どもに関わるすべての職種に必要と思われる.
著者
藤田 一郎
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.321-322, 2011-12-30
参考文献数
1
著者
宮本 信也
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.333-339, 2020 (Released:2020-01-06)

教育や訓練・指導と関連して,子どもたちがトラウマ体験をしている状況がある.子どもたちがトラウマを感じるような教育上の対応には,教育虐待と教育ネグレクトがあるが,適切な教育を受ける子どもの権利の侵害という視点に立てば,両者を区別する必要はなく,併せて不適切な教育対応と呼んでもよいように思われる.不適切な教育対応は,特別支援教育において生じやすい可能性がある.保護者や教師の熱意と学習スキルの反復学習による見かけ上の学習成果が見えるからである.一方,教育の場における教える・教わる関係で子どもたちがトラウマを体験する状況としては,部活動における威圧的な指導に注意する必要があるであろう.子どもたちの心の問題に関し,神経発達症とトラウマの2つの視点から考えることが,子どもの心の臨床のみならず,教育分野に限らず,職業として子どもに関わるすべての職種に必要と思われる.
著者
嶺 輝子
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.41-51, 2019 (Released:2019-04-04)
参考文献数
9

このたび,ICD-11において複雑性PTSDが正式な診断基準として採択された.これにより,これまで正しい診断・治療を受けられなかった患者たちが適切な治療を受けられるような基盤が整ったわけだが,今後はその治療をどのように行っていくかが重要課題になるだろう.複雑性PTSDとは,傷を受けやすい幼年期の発達段階において,養育責任を担っている者の加害や放棄による重度のストレス要因に継続的あるいは長期間さらされた結果引き起こされる心的外傷であるが(Courtois et al., 2009),それは長期にわたるストレスだけでなく,単回のトラウマが,その後の不適切なケアや対応によって重症化するケースも含まれうる.小児の精神神経の専門家として,このような複雑性PTSDへの変調を防ぎ,トラウマから回復させるには何が必要なのかを論じたうえで,論者が考案したホログラフィートークという心理療法を子どものケアにどのように利用しうるのかを紹介してみたい.