著者
宮本 信也
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.333-339, 2020

教育や訓練・指導と関連して,子どもたちがトラウマ体験をしている状況がある.子どもたちがトラウマを感じるような教育上の対応には,教育虐待と教育ネグレクトがあるが,適切な教育を受ける子どもの権利の侵害という視点に立てば,両者を区別する必要はなく,併せて不適切な教育対応と呼んでもよいように思われる.不適切な教育対応は,特別支援教育において生じやすい可能性がある.保護者や教師の熱意と学習スキルの反復学習による見かけ上の学習成果が見えるからである.一方,教育の場における教える・教わる関係で子どもたちがトラウマを体験する状況としては,部活動における威圧的な指導に注意する必要があるであろう.子どもたちの心の問題に関し,神経発達症とトラウマの2つの視点から考えることが,子どもの心の臨床のみならず,教育分野に限らず,職業として子どもに関わるすべての職種に必要と思われる.
著者
中川 陽子 宮本 信也
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.15-24, 2020-02-29 (Released:2020-02-29)
参考文献数
22

目的:本研究は,母親の「イライラ感」に着目し,子どもが泣いたりぐずったりする負の感情表出に対する母親の不適切な対処行動に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした.方法:首都圏の郊外の幼稚園,都市部の幼稚園と保育所の計3施設に在籍する1~6歳の幼児をもつ母親を対象に,2017年4~7月に無記名の自記式質問紙による横断的調査を実施した.回答の得られた687名(回収率57.3%)から無効回答等を除外し,444名を分析対象とした.子どもの育てにくさ,母親の認知様式,特性被援助志向性,被害的認知,イライラ感を点数化し,重回帰分析を行った.結果:子どもの負の感情表出に対する母親の不適切な対処行動に直接的に影響を及ぼす要因は,母親のイライラ感(β=0.32, P<0.001)と子どもの年齢(β=0.18, P<0.001)であった.イライラ感に影響を及ぼす要因は,子どもの育てにくさ(β=0.24, P<0.001)と完璧主義(β=0.17, P=0.001)であった.中でも,被害的認知(β=0.19, P=0.024)と完璧主義(β=0.23, P=0.005)は,イライラ感を高めやすく不適切な対処行動につながりやすいことが明らかになった.結論:母親の認知的要因と不適切な対処行動との間にイライラ感が介在しており,被害的認知及び完璧主義な認知的特性によってイライラ感が高まると,不適切な対処行動につながりやすいことが示唆された.母親がイライラ感を統制できるよう,認知的特性を踏まえた介入方法を検討することが重要である.
著者
宮本 信也
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.333-339, 2020 (Released:2020-01-06)

教育や訓練・指導と関連して,子どもたちがトラウマ体験をしている状況がある.子どもたちがトラウマを感じるような教育上の対応には,教育虐待と教育ネグレクトがあるが,適切な教育を受ける子どもの権利の侵害という視点に立てば,両者を区別する必要はなく,併せて不適切な教育対応と呼んでもよいように思われる.不適切な教育対応は,特別支援教育において生じやすい可能性がある.保護者や教師の熱意と学習スキルの反復学習による見かけ上の学習成果が見えるからである.一方,教育の場における教える・教わる関係で子どもたちがトラウマを体験する状況としては,部活動における威圧的な指導に注意する必要があるであろう.子どもたちの心の問題に関し,神経発達症とトラウマの2つの視点から考えることが,子どもの心の臨床のみならず,教育分野に限らず,職業として子どもに関わるすべての職種に必要と思われる.
著者
成田 正明 宮本 信也
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

研究代表者は自閉症患者の血中に存在存在する神経栄養因子(BDNF,brain-derived neurotrophic factor脳由来神経栄養因子,NT-4 neurotrophin-4)の異常について報告し、初年度(平成19年度)は研究分担者とともにその異常値とサブタイプとの関連について臨床プロフィールから検討を重ねてきた。これら血中因子の異常は生下時からすでに認められることから、自閉症の発症は胎生期に起因すると考えられる。この考えに基づいて研究代表者は妊娠ラットを用いた実験で自閉症モデル動物を作成しその胎仔期からの異常、即ちセロトニン神経系の発生分化異常を明らかにしてきた。上記神経栄養因子はセロトニン神経の正常な発生分化に必須であることは分かっている。当該年度は自閉症モデル動物において、セロトニン神経の発生分化を司っている因子の異常について、検討した。胎生12日目の自閉症モデルラット胎仔では、セロトニンシグナルの上流に位置するソニックヘッジホッグ(shh)の発現が頭部で低下していることを、ホールマウントin situ hybridization法で明らかにした。またセロトニン発現関連の遺伝子をリアルタイムPCR法で調べたところ自閉症モデルラットで発現が低下していた。これらの異常は研究代表者が以前ES細胞を用いて行った実験結果と一致する。今後はES細胞で見られたshhによるレスキュー効果、即ち発生段階でのセロトニン神経細胞に対し、shh添加によるセロトニン神経の再生を見据え、自閉症治療法を模索したい。
著者
宮本 信也
巻号頁・発行日
2012

科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書:挑戦的萌芽研究2011
著者
四日市 章 河内 清彦 園山 繁樹 長崎 勤 中村 満紀男 岩崎 信明 宮本 信也 安藤 隆男 安藤 隆男 前川 久男 宮本 信也 竹田 一則 柿澤 敏文 藤田 晃之 結城 俊哉 野呂 文行 大六 一志 米田 宏樹 岡崎 慎治 東原 文子 坂尻 千恵
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

研究成果の概要 : インクルーシブ教育を理論的・実践的両側面から捉え、国内外の障害に関する理念・教育制度の展開等について歴史的に解明するとともに、特定地域の幼児・親・教師を対象として、障害のある子どもたちのスクリーニング評価の方法の開発とその後の支援について、長期的な研究による成果を得た。
著者
長崎 勤 宮本 信也 池田 由紀江
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では[研究I]の「心の理解」の発達機序についての解明と、[研究II]の「心の理解」の発達援助に大別して研究を行った。[研究I]では、0-1歳の取り上げ場面での、実験者による応答条件と非応答条件の比較検討を行った結果、「待つこと」は、15ヶ月以降、応答条件が非応答条件に比べ持続時間が長くなり、高次な手段に変換するようになり、1歳半ばから他者意図の想定が明確になることが示された。また、1-2歳児における誤提示条件への応答の分析から、1歳半頃から「他者意図の気づき」の反応がみられ、その後、相手の反応に応じ伝達手段の変更を行い、2歳前半では大人の関わり方に左右されず、伝達手段を修正できた。2、3歳児の母子場面の心的状態語の表出を分析した結果、2歳では自己欲求に関する発話が中心であり、3歳では自己叙述が増加し、他者叙述も増加することが示され、自己から他者へ、欲求から叙述へという発達過程が考えられた。高機能自閉症児の「心の理解」の発達と談話の発達の関係を分析した結果、誤信念課題等の「心の理論」課題の通過群では、自分の過去経験についての語りは他者や自己の心的状態に言及することが多かったが、未通過群ではそれらが少なく、また未通過群は出来事を時系列的に並べず並列させていた。[研究II]では「『心の理解』発達援助プログラム(MAP)」を開発し、発達障害児に対し発達援助を行った。広汎性発達障害児およびダウン症児に対し、「宝探しゲーム」やおやつ場面を用いて他者の欲求意図理解と信念理解の発達を援助し、「心の理解」発達の効果を認めた。また、自閉症児に対し相談機関と通園先の保育所において、小集団の模倣遊びと鬼ごっこルーティンを用いた指導を行った結果、指導場面で役割の自発的遂行が可能になった。
著者
長崎 勤 宮本 信也 小野里 美帆
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

第I部では会話・ナラティブ発達研究の意義と課題について検討した。第II部・会話の発達では、健常幼児の2、3歳児は、母親の明確化要求に応答することで会話を継続し、かつ子どもが自発的に明確化要求を使用することで会話に参加する様相が認められ、広汎性発達障害児では、自ら明確化要求を使用することで会話を継続していくことはみられなかった。ナラティブの発達では、直前の「ケーキ作り」経験についての母子会話場面を分析した結果、3歳では複数の出来事に言及したり,それらを関連付けることが少なく、4歳になると複数の節を「時間」関係で関連付け、5、6歳になると「因果」「比較」「逆」等の多様な関係において節を関連付けるという発達過程が示された。フィクショナル・ストーリーの語りにおける視覚的手がかりの有効性を検討した結果、6歳児において周辺要素手がかりが物語理解と物語産出を促進し、物語理解においては5・6歳の年齢段階で中心要素がすでに獲得されていた。第III部では、自閉症児を対象に工作とおやつ場面の共同行為ルーティンを用いて、話者の不明確な発話に対する明確化要求の使用を目的とした指導を行った結果、指導者の曖昧な指示に対して、事物を差し出して「これですか?」と自発的に聞き返すことが可能になっていった。広汎性発達障害児を対象とし、物語文法の各要素を示す連続絵を提示し、「吹き出し」への書き込みを指導手続きに導入した結果、絵に描かれていない情報を含むCUが産出され、「欲求」「感覚」などが「吹き出し」に書き込まれるようになった。第IV部においては、以上の研究を基盤にした第I段階(通常2〜3歳代)から第III段階(通常5〜6歳代)までの「会話を通したナラティブ発達支援・基礎プログラム試案(NAP)」を提案した。