著者
娜荷芽
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.15-29, 2013-11-25

「満洲国」建国後,内モンゴルにおいてこれまでモンゴル人により行われてきた文化と教育活動は,「満州国」政府による対モンゴル人文化・教育政策の枠組みに統合されてゆくこととなった。本稿で扱う初等教育政策は同政府の対モンゴル人統合政策という側面をもちあわせているため,これまでモンゴル側の活動についてはあまり注意が払われて来なかった。そこで本稿は,内モンゴル東部における初等教育政策の成立とその展開を「満洲国」政府の国策という側面からのみ位置づけるのではなく,モンゴル側の活動を視野に入れながら,その実態を分析する。
著者
王 勝群
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.1-14, 2014-11-25

本稿は,1944年に書かれた張愛玲の短編「赤薔薇・白薔薇」を空間の視点から論じる。先行研究は,赤/白という色彩のコードに象徴される二分化したジェンダー構造を問題視するものが多い。それ対して,本稿は男主人公・振保に焦点を当て,まずテクストにおける公寓(アパート)や一戸建てという主要な空間を詳細に考察し,それぞれ赤薔薇・嬌蕊,白薔薇・煙〓などの女性登場人物との関係を検討する。さらに,作中のもう一つの重要な空間-鏡の空間を考察することで,振保の自己分裂の問題を提示したい。
著者
石井 弓
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.1-22, 2009-05-25

日中戦争の経験のない世代が多数を占めるにも拘らず,日中戦争の記憶は現在も両国社会に影を落とし続けている。本研究では,コミュニティーの環境によって保持されるとする,「集合的記憶」の観点から,中国における戦争記憶について論じる。戦後中国の映画制作において,日中戦争の記憶は輝かしい勝利として参照され続けてきた。このため人々の被害の記憶は,この主流言説に利用されつつ,共存し融合して生き延びるほかなかった。本研究では,山西省盂県の農村での聞き取りを元に,映画による共産党の政治宣伝としての戦争の視覚イメージと,戦争体験者の語りの相互作用が,戦後世代への記憶継承において果たした役割を明らかにした。
著者
田中 信行
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.1-15, 2015-06-25

2011年に広東省烏坎村で燃え上がった土地紛争は,同年末に広東省党委員会が村民の要求を基本的に受け入れるかたちで収束した。烏坎村の経験は貴重な紛争解決の成功事例ともてはやされ,「烏坎モデル」と呼ばれるようにもなった。ところが,それから3年経った現在でも,村は失われた土地の大半を取り戻せていない。そして,なぜ土地を取り戻せないのかという問題をたどっていくと,土地紛争の実態は多くのメディアが伝えていたようなものではなかったことが明らかとなってくる。本稿は,村に土地が返還されない原因を分析することを通じて,烏坎村における土地紛争の実態を解明しようと試みたものである。
著者
楊 暁文
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.1-13, 2012-02-25

中国における初めての『源氏物語』全訳は豊子〓のみによる訳業であったというのが今日の定説となっている。しかし,本稿の発見した新史実により,この定説が覆されようとしている。つまり,中国初の『源氏物語』全訳の成立にはこれまで知られてこなかったプロセスがあった。本稿は楼適夷及び文潔若の存在,特に新中国における豊子〓・銭稲孫・周作人の境遇及び全訳をめぐる三人のかかわりについて考察を加えた。その結果,全訳の成立過程で銭稲孫と周作人が深くかかわり,出版社の編集者として文潔若も尽力し,リーダーだった楼適夷が全訳者の人選において中心的役割を果していたことなどが本稿によって初めて明らかになったのである。
著者
浜口 允子
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 = Monthly journal of Chinese affairs (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.15-30, 2013-06

日中戦争期,時の華北政権にとって最大の課題は,この地を如何に維持し統治するか,拡がりつつある「解放区」に抗して,民心の掌握に努めつつ治安をどう保つか,であったと思われる。では,そのために政権は何をしたのか。日本はそこで如何なる役割をはたしたのか。その下で基層社会はどう変ったのか。本稿は,これまで用いられることの少なかった『中国農村慣行調査』公租公課関連資料を詳細に読むことにより,こうした時代の動向と,関連して動いた華北基層社会の変化の実相を明らかにし,更にそれがその後の歴史とどう関わるのか考察しようとするものである。