著者
金 スンオグ 金 スンオグ
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.30-44, 2011-01-25

本稿は2010年3月9日丁玲の娘蒋祖慧氏(元中央バレエ団副団長・『紅色娘子軍』創作メンバーの一人)のインタビュー記録である。主な内容は,幼少期を過ごした延安での集団生活,1949年春から翌年夏までの平壌崔承喜舞踊研究所留学(母の説得で朝鮮に行ったこと,留学生活の様子),1951年中央戯劇学院に開設した崔承喜舞踊研究班の回想および母との思い出で,御本人提供の写真を含む。丁玲の息子蒋祖林氏は著作もあり比較的知られているが,妹の氏については母娘の関わりも含め日本では殆ど紹介がない。近年再評価が進む崔承喜研究から見ても,従来注目されなかった中国舞踊界での崔の貢献について,愛弟子である氏の証言は貴重だろう。
著者
金 伯柱
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.1-14, 2010-05-25

本稿は,1961年7月に結ばれた中朝同盟条約の締結過程を中心として中朝同盟の形成動因について主に中国の公開外交文書を用いて考察する。中朝同盟の形成についての従来の研究は韓国での軍事クーデターをきっかけに触発された安保上の危機を原因として挙げ北朝鮮の積極的な働きかけを強調してきた。それに対し,本稿は同条約の締結に際し北朝鮮が朝鮮半島の安保状況を危機として認識していなかったことを説明する。また中朝同盟は中ソ対立のなかで周辺国家との関係安定化を目指した中国の対外戦略の一環として形成され,同盟国の北朝鮮をコントロールすることが主な動因であったと見る。
著者
楊 韜
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.13-25, 2009-09-25

本稿は,1920年代半ばから1940年代初めまでに生活書店が発行した『生活』,『新生』,『生活星期刊』,『抗戦』,『大衆生活(新1-30号)』各誌の投書欄の記事を分析したうえ,その読者・投書者・編集者相互のやり取りについて考察した。雑誌と読者,編集者と読者,読者と読者(その中には,目が不自由な「間接的」読者をも含む)など,関係者相互の積極的な交流と参加は,このような投書欄を活気づけた。投書欄は,読者・投稿者・編集者の間のコミュニケーションを通して,互いの活発な議論と共有する経験をつくり上げると共に,問題解決へ向かう深い友情を育もうとする表現媒体である。投書欄においては,年齢も職業もそれぞれ違う様々な人々が,掲載された投書を読み,記事を投稿するという行為によって,互いに情報を提供したり,議論したりする誌上の「コミュニティー」を生み出した。
著者
並木 頼寿
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.41-44, 1995-10-25
著者
Gabrakova Dennitza
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.19-32, 2007-03-25

魯迅における「野草」のイメージは,近代化を意味するプロメテウス的な火,そして裏切られた期待の中でも,その火を保とうとする「希望」と不可分に結びついている。魯迅の『野草』を軸に,「野草」,もしくは「雑草」をモチーフに持っている作品の間の関係性や,「野草」のイメージに含まれている「希望」の心理と,その心理の奥に潜む故郷と子供のイメージ,そして「野草」が作品そのものの捉え方に反映しているのを明らかにできる。魯迅の『野草』を中心に成り立つ解釈は,プロメテウスの火とパンドラの箱の底に残された希望の関係をめぐる神話を当てはめることによって,火と希望のモチーフに沿った魯迅論の可能性を秘めているのである。
著者
杉谷 幸太
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.18-34, 2011-11-25

80年代の中国文学・映画において,「知識青年」作家たちは革命中国の支配的叙述を脱構築するために「農村」の「ルーツ」に注目し始めた。だがレイ・チョウは,この「プリミティヴへの情熱」が,作者の意図とは逆に,共産党の支配的イデオロギーと共犯関係を持つことを批判している。この難問に直面した「知識青年」作家の李鋭は,『厚土』において知識青年の農村共同体からの疎外感を描くことで,意識的にこの共犯関係を回避しようとした。陳凱歌の『黄色い大地』との比較からは,『厚土』は事実上,革命中国の歴史叙述と,対抗的な「農村中国」の叙述が共通に持っている,農村に対する搾取性を指摘していることが明らかになる。